労働委員会命令データベース

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第80号の一部
ヨギー不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年3月28日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、組合員であり、会社と業務委託契約を締結としているヨガ等の講師4名の担当クラスを削減してゼロにしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、Cヨガのクラスに係るものを除き、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)うち3名に対するレギュラークラス〔注月ごとにスケジュールに沿って定期開催されるもの〕の割当て、(ⅱ)上記4名に対する、令和2年6月1日以降、レギュラークラスを割り当てたものとしての取扱い及び(ⅰ)の割当てまでの間の報酬相当額の支払い、(ⅲ)文書の交付及び掲示等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合の組合員A1に対して週1クラス、同A2に対して週5クラス、同A3に対して週2クラスのレギュラークラスを割り当てなければならない。

2 会社は、A1に対して令和2年6月1日以降週1クラス、A3に対して同日以降週2クラス、A2に対しては、同日以降週6クラス、令和3年1月1日以降週5クラスのレギュラークラスを割り当てたものとして取り扱い、同人らに前項のレギュラークラスを割り当てるまでの間、同人らが得たであろう報酬相当額を支払わなければならない。

3 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に槽書で明瞭に墨書して、会社の全14店舗内の講師の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
執行委員長 A1 殿
Y会社       
代表取締役 B1
 当社が貴組合の組合員A1氏、同A2氏及び同A3氏の担当するCヨガ以外のクラスを削減したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

4 会社は、前各項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

5 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合の組合員である業務委託契約講師は、労働組合法(以下「労組法」という。)上の労働者に当たるか否か(争点1)

 会社の店舗のスタジオDにおいて講師を務める組合員4名は、会社との間で業務委託契約を締結している。
 しかし、労組法第1条の趣旨からすれば、同法が適用される「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(同法第3条)に当たるか否かは、契約の名称等の形式にのみとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要がある。
 そして、その該当性の判断は、労組法の趣旨に照らし、業務委託契約講師(以下「委託講師」)の業務実態に即して、①事業組織の組入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下での労務提供、一定の時間的場所的拘束、⑥顕著な事業者性の有無などの諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。
 以上を前提に、組合員4名を含む委託講師が労組法上の「労働者」に当たるかを、上記の判断要素ごとに検討する。

(1)事業組織への組入れ

 会社の主たる事業であるスタジオ事業について、講師の大半は委託講師が占めており、会社は、委託講師の長期にわたる労働力を見込んで開講クラスの担当を割り振り、研修実施やマニュアルの配布によりクラスの質を担保するとともに、報酬の増減に影響する講師の考課を行うことによって講師を管理し、委託講師にクラス実施についての責任を負わせることで、その運営を成立させていた。
 したがって、委託講師の労働力は、会社のスタジオ事業の遂行に、量的・質的な面で不可欠な労働力として位置づけられており、会社は、その労働力の恒常的な維持、確保のために、講師を会社の組織に組み入れていた。

(2)契約内容の一方的・定型的決定

 業務委託契約には定型的な契約書式が用いられ、委託講師の側で、契約締結や更新の際に、労働条件等の契約内容に変更を加える余地はなく、労働条件の中核である報酬についても、報酬基準や増減は、会社が考課に基づいて決定している。
 したがって、会社は、委託講師の契約の内容を一方的・定型的に決定している。

(3)報酬の労務対価性

 委託講師の業務報酬は、1クラス当たりの基本単位報酬額という形で規定されており、講師の拘束時間を考慮した基本単位報酬額の割増や待機報酬の支払があるなど、業務量や時間に基づいて算出されている。また、講師が提供する各クラスは、会社のマニュアルによって統一した形で実施され、講師ごとに独自の要素を盛り込む余地は制限されており、労務の提供の性質が強い。
 したがって、委託講師に対する業務報酬は、講師の労務提供に対する対価としての性質を有する。

(4)業務の依頼に応ずべき関係

 委託講師が、会社からのクラス担当の打診等に応ずべき関係にあったとまではいうことができないが、場面によっては、実際の運用や委託講師の認識として、会社からのクラス担当の打診やクラス実施の依頼を拒否しづらい状況があったこともうかがわれる。

(5)広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束

 委託講師は、労務提供について会社から詳細な指示が与えられており、会社からの評価が報酬の増減に直結しているためこれを遵守する必要があり、労務を提供する日時、場所、内容等について、クラス前後の対応時間やスタジオ間の移動時間も含めて行動が拘束されている。
 したがって、委託講師は、広い意味での会社の指揮監督下で労務提供をしており、また、会社から一定の時間的場所的拘束を受けていた。

(6)顕著な事業者性の有無

 委託講師に自己の才覚で利得する機会は乏しく、業務における損益の負担は課せられておらず、他人労働力の利用の実態もなく、業務に要する設備や交通費等は会社が負担しており、他の主たる事業の有無も明らかでない。したがって、委託講師に顕著な事業者性は認められない。

(7)以上の事情を総合的に勘案すれば、組合員4名を含む委託講師は、会社との関係において、労組法上の「労働者」に当たると解するのが相当である。

2 業務委託契約講師が労組法上の労働者に当たる場合、会社が、組合員4名の担当クラスを削減してゼロにしたことは、同人らが組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益な取扱いに当たるか否か(争点2)

 令和2年4月11日の(コロナ感染拡大による)全店舗休業開始時点において、組合員4名は、1名がCヨガでないクラス、3名がCヨガを含むクラスを、それぞれ3ないし4クラス担当していたところ、同年6月1日の営業再開に際してのクラス再編の結果、組合員4名は、全員、担当クラス数がゼロとなった。
 これら組合員4名の担当クラスの削減について、会社は、クラス再編における担当講師の決定方針に基づいて行った適切な対応であり、組合員4名と同様に担当クラス数が減少した講師は多数存在するなどと主張するので、以下、判断する。

(1)Cヨガの担当クラスの削減について

ア 会社は、Cヨガに分類されるクラスについて、必要な資格を更新する意思のない組合員4名にクラスを担当させる余地はなく、クラス削減は同人らの組合活動とは関係ないと主張する。
 会社がCインスティテュート認定資格〔当初は全てのヨガ講師が申請等の手続を要さずに取得者となるが、有効期間は1年間。以下「本件認定資格」〕の更新を(Cヨガクラスを担当する場合の)必須の条件とする決定方針を周知したのは組合結成前であり、会社が営業再開のタイミングで行ったのは当初の決定方針どおりの対応である。
 また、使用者は、団体交渉において、譲歩して労働組合と合意することまでを義務付けられているわけではない。
そうすると、Cヨガに分類されるクラスについて、営業再開に際してのクラス再編で、会社が、組合員4名の休業前に担当していたクラスを削減し、割り当てなかったことは、会社の当初の決定方針どおりの対応であり、組合員でなくても、本件認定資格の更新の意思がないヨガ講師に対しても、同様の対応をしていたのであるから、組合活動を理由とする組合員に対する狙い撃ちであるということはできず、組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益な取扱いには当たらない。

イ したがって、会社が組合員4名のCヨガのクラス(A1の週3クラス、A3の週4クラス及びA4の週1クラス)を削減したことは、不当労働行為には当たらない。
 そして、全店舗休業開始時点でCヨガ以外のクラスを担当していなかったA3は、Cヨガのクラスの削減により担当クラス数がゼロとなったが、Cヨガ以外のクラスを担当するために必要とされている資格を取得する意思も有していなかったため、会社としては、同人との間で、Cヨガ以外の内容でのレギュラークラスの継続を調整する余地がなかったといえる。このため、会社が、クラス再編において、A3のCヨガの4クラスを削減するとともにCヨガ以外のレギュラークラスの担当を調整せず、同人の担当クラス数をゼロとしたことについては、組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益な取扱いに当たるということはできない。

(2)会社が、A1、A2及びA4の組合員3名のCヨガ以外の担当クラス(A1の週1クラス、A2の週8クラス及びA4の週3クラス)を削減し、同人らの担当クラス数をゼロとしたことについて

 会社の主張する、①クラス再編における担当講師の決定方針(再編後のクラスの担当可能性や受講者等からのクレーム、受講者等への対応を考慮の上、主に休業前の集客率〔注クラスの募集人員に対する実際の参加数〕の高さを重視して行っている旨)、②組合員4名に対するクレームの存在、③担当クラスを有する他の組合員の存在(集客率の総計が高かった2名は、営業再開後も担当クラスを有している旨)、④組合員3名の担当クラス削減の程度(同程度のクラス削減を受けている講師は多数存在する旨)について検討する。
 会社は、営業再開におけるクラス再編において、集客率の総計という、従来の評価方法とは異なる、必ずしも適切であるとはいえない評価基準に基づいて組合員3名の担当クラスを削減し、当該クラスを、クラス別の集客率では必ずしも組合員3名が劣っているとはいえない他の講師に割り振るなどの不自然な対応をしている。
 また、会社は、組合員3名について、特に事情がないにもかかわらず担当クラス数を大幅に削減してゼロとし、以後、本件結審時まで担当クラスを割り当てておらず、これは、他の講師との比較においても、会社の方針に照らしても、異例の対応である。
 そして、当時の対立的な労使関係や、団体交渉と組合員の担当クラス削減の時期的近接性等を考慮すると、会社の組合員3名に対する異例な対応は、本件認定資格の適用拡大をめぐって対立的な状況にあった中で、組合の中心的人物である組合員3名に対し、担当クラスを削減してゼロにするという不利益を与えることにより、組合活動の抑制を図ることにあったといわざるを得ない。

(3)以上のとおりであるから、会社が組合員4名のCヨガのクラスを削減したこと、及びA4に対して同人の担当クラス数をゼロとしたことは、組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益な取扱いには当たらない。
 一方、会社が、A1、A2及びA3のCヨガ以外の担当クラスを削減し、同人らの担当クラス数をゼロとしたことは、同人らが組合員であることや組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いに該当する。

3 救済方法について

 組合は、本件の請求する救済の内容として、クラス削減前と同程度の労働条件でクラス削減前の担当クラス数を担当させること及び2年6月1日から就労日までの間の賃金相当額の支払等を求めている。
 しかし、会社は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、開講クラス数を減少させた形で営業を再開しており、再開後も、開講クラス数が完全に休業前の水準に戻っているわけではない。そして開講クラス数の減少に伴い、組合員以外の講師についても、担当クラス数が一定程度減少している状況にあった。
 そうすると、組合員のCヨガ以外の担当クラス数も、全体の開講クラス数の減少割合に比例する形で、2年中は8割程度まで、3年以降は6割程度まで減少することはやむを得なかったものといえる。
 したがって、本件の救済としては、主文第1項ないし第2項のとおりとすることが相当である。 
掲載文献   

[先頭に戻る]