労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第110号
JR東日本不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合・X2地方本部(地本) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年4月4日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①駅の更衣室で、居合わせた新入社員に組合紹介パンフレットを手渡した組合員A3及びA4に対し、厳重注意を行ったこと(以下「本件厳重注意」)、②C支社管内各事業場の掲示板に、一部職場における許可なき組合活動など就業規則に抵触する行為の発生、職場規律の厳正を阻害する行為への厳正な対処、このような事象に気づいた場合の速やかな管理者等への相談などを記載した「社員の皆さんへ」と題する文書を掲示したこと(以下「本件掲示」)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、①について労働組合法第7条第1号及び第3号、②について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)本件厳重注意がなかったものとしての扱い、(ⅱ)文書の交付及び掲示等を命じた。 
命令主文  1 会社は、X1組合及び同X2地方本部の組合員A3及び同A4に対する令和2年 7月28日付厳重注意をなかったものとして取り扱わなければならない。

2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合らに交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル× 80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、会社C1支社管内の各事業場の従業員の見やすい場所に、1 0日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X1組合
執行委員長 A1殿
同X2地方本部
執行委員長 A2殿
Y会社       
代表取締役 B1
 当社が、①貴組合らの組合員A3氏及びA4氏に対して令和2年7月28日付厳重注意を行ったこと、並びに②同年8月27日に、C1支社管内各事業場の掲示板に、「社員の皆さん」と題する文書を掲示したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 会社は、前各項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 本件厳重注意について

(1)令和2年5月18日、21日、22日にC2駅更衣室において、始業前の組合員A3又は同A4が、始業前のZ1、Z2、Z3(いずれも着任直後の新入社員で、更衣室に居合わせた者)に対し、それぞれ、組合を紹介するパンフレット(以下「本件パンフレット」)を見せ、受領しているか確認し、受領していないとのことであったため、よかったら読んでみてと伝え、本件パンフレットを手渡した(以下「本件パンフレット配布」。なお、Z3には、また今度時間のあるときに話を聞いてほしいとも伝えている)。

(2)会社の就業規則第23条は、「社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に、又は会社施設内において、組合活動を行ってはならない。」と規定している。会社は、国鉄の破綻の一因が、当時の無秩序な組合活動によって規律が乱れたことにもあることを踏まえて規定したとする。
 A3及びA4は、会社の許可なく更衣室で組合のパンフレットを配布するという組合活動を行っており、これは形式的には同条の文言に違反する行為であるといえる。
 しかし、同条の目的は組合活動による職場の規律の乱れを防止することにあると解されるところ、本件パンフレット配布は、形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、その目的、内容、配布の態様等に照らして、会社内の職場秩序を乱すおそれがないと認められるときは、実質的には同条違反にはならないものである。
 そこで、以下、本件パンフレット配布について、同条の目的に照らし、職場秩序を乱すおそれがあるか否か、また、その目的、内容、態様等に照らして正当な組合活動と評価されるものであるか否かを検討する。

(3)本件パンフレットは、組合の目的や取組、方針、活動内容などを紹介して、C駅に着任直後の新入社員に対する組合への勧誘という労働組合にとって重要な活動を行うためのものといえる。
 もっとも、本件パンフレットには、会社の経営政策や労務管理のあり方に対する批判も記載されているが、内容を全体としてみると、新入社員の勧誘を主眼に置くものであるといえる。また、組合の立場からの主張や批判、訴えにとどまり、これらの表現が行き過ぎたり、誤った事実を指摘して会社の名誉や信用を毀損したりするものとはいえない。
 そして、これらの記載は、組合として労使関係上問題視し、会社に申入れをするなどしている事項でもある。

(4)本件パンフレット配布の態様は、A3又はA4が1名で、更衣室に居合わせた新入社員に対してひとこと声を掛けて配布する短時間のものであり、複数人で囲んだり、パンフレットの受領を強制したりするものではなく、極めて平穏な方法で行われた。
 そして、配布は、配布者及び受領者ともに、始業時刻から少なくとも20分以上前に行われており、勤務時間外であった。また、配布の場所は、社員が制服に着替えるための更衣室であり、駅構内にあるものの、乗客が通行、入室することはできない場所である。

(5)以上のとおり、本件パンフレットは、新入社員の組合への勧誘を目的に組合を紹介するものであり、その内容が会社や他の労働組合を誹謗・中傷して職場秩序を乱すおそれはないものである。また、本件パンフレット配布は、勤務時間外に短時間、乗客の目に触れない場所で極めて平穏に行われたものであり、これらの点に照らし、その行為態様が業務に支障や混乱を生じさせて職場秩序を乱すおそれのあるものであるとはいい難い。したがって、その目的、内容、態様等に照らして、組合活動として正当性を有するものであり、これを理由に不利益処分をすることは許されない。

(6)会社の主張について

ア 会社は、国鉄以来の歴史的沿革に照らせば、会社が職場秩序の維持、確立のため強い態度で臨むことには、経営上の必要性、合理性が認められると主張する。しかし、現在の会社においても国鉄時代と同様の職場秩序の乱れが生ずるおそれがあるとの疎明はない。また、それら沿革を考慮するとしても、職場秩序を乱すおそれがあるとはいい難い正当な組合活動までを一律に制限する理由にはならない。

イ 会社は、会社には労働組合が乱立し、対立関係にある状況下で、職場内での労働組合への勧誘活動を会社が静観すると、職場内であらゆる労働組合による勧誘活動が野放図に繰り返され、職場秩序が阻害されると主張する。
 確かに、平成30年2月の申立外E労組による争議行為予告とその解除以降の経緯からすれば、会社が、組合とE労組とが対立関係にあると認識し、組合員の勧誘行為を含め組合活動が活発化することに伴い職場秩序が維持されなくなることを懸念するのも理解できなくはない。しかし、本件パンフレットは、他の労働組合に言及すらしておらず、まして他の労働組合を誹謗・中傷するものでもない。
 また、本件のような平穏なパンフレット配布を会社が静観することにより、直ちに職場内で各労働組合による勧誘活動が繰り返されて職場秩序が乱されるおそれがあったとはいい難い。

ウ 会社は、①散在する多数の現状施設全てにおいて職場秩序の維持、確立を図る上で、厳格な基準のもとに厳正に服務に関する規定を解釈、適用することの必要性や、②極めて公共性が高い旅客鉄道輸送における、職場秩序の厳格な維持確保の必要性を主張する。
 このことに関連し、会社は、会社の許可を得ない会社施設における組合活動はその行為態様を問わず全て就業規則第23条に抵触するなどの基本方針をとっている。しかし、会社施設内における無許可の組合活動であっても、職場秩序を乱すおそれがないと認められるときは、実質的には同条に違反せず、その目的、内容、態様等に照らして正当な組合活動と認められるものについては、これを理由として組合員に不利益処分をすることは許されないというべきであり、このことは、当該不利益処分が就業規則上の懲戒や訓告に至らない厳重注意であっても変わりがない。

エ 会社は、①組合は、本件パンフレット配布により、新型コロナウイルス感染拡大による不安もある中で、新入社員に精神的負担を負わせ、業務に向けた集中を阻害した、②パンフレットの内容は、現場教育を十分行わないまま多くの施策を実施して顧客に多々迷惑を掛けているとか、新型コロナウイルスのまん延に対して会社が給与補償や感染対策等を何も示していない旨記載するなど事実に反し、会社の信用を毀損し得るものであり、これを見た新入社員の不安をあおる内容となっている、③そして、反省の念を示さないA3及びA4の態度等に照らせば、同様の組合活動が繰り返し再発する可能性が否定できない、とする。
 しかし、本件パンフレットの内容は、会社や他の労働組合を誹謗・中傷して職場秩序を乱すおそれはなく、その配布は、勤務時間外に短時間、乗客の目に触れない場所で極めて平穏に行われたものであり、その行為態様も業務に支障や混乱を生じさせて職場秩序を乱すおそれのあるものとはいい難い。

オ 会社は、本件パンフレット配布により、新入社員に精神的負担を負わせ、業務に向けた集中を阻害したと主張する。
 しかし、本件パンフレット配布は、短時間のものであり、複数人で囲んだり、パンフレットの受領を強制したりするものではなかった。そして、本件パンフレット配布により配布を受けた新入社員に精神的負担を負わせ、業務に向けた集中を阻害したとか、その他当該新入社員の職務遂行に支障を生じさせたとの客観的な疎明はない。

カ 会社は、過去の事例に照らしても処分量定として相当性を有すると主張する。
 しかし、そもそも、本件パンフレット配布を理由に不利益処分をすることは許されないのであるから、過去の事例の処分量定との比較は結論を左右しない。
 念のため判断すると、本件は、更衣室という勤務時間外の利用が通常想定される場所であって、会社施設内の廊下や会議室等に比して業務への影響はより小さい可能性もあるにもかかわらず、人事記録上の履歴として残る本件厳重注意を行っていることなどから会社の主張は採用することができない。

キ 会社は、組合は、会社施設等一時使用許可を得た上で、会議室で勧誘活動としてパンフレット配布を行うことによってもその目的を十分に達成することができたと主張する。
 しかし、そもそも、本件パンフレット配布は、組合活動として正当性を有し、実質的に就業規則第23条に違反するものではないところ、このことは、組合が本件パンフレットを配布する他の手段の存否によって変わるものではない。
 なお、会議室の利用は、新入社員を会議室に案内するとの面で必ずしも実効性のあるものとはいえない。また、貸与された組合掲示板や、組合ホームページ、勤務時間外かつ会社施設外でのビラ配布等により会議室において説明会を開催する旨周知する方法も、新入社員に対する周知方法としては不確実といわざるを得ない。

(7)本件厳重注意は、就業規則に規定される懲戒処分又は訓告ではなく、業務上の注意指導であり、給与、賞与等の減額を生じさせるものではないが、人事記録には残るものであり、社員にとっては不利益な取扱いに当たる。
 本件厳重注意は、A3及びA4が、新入社員に対し、組合を紹介する本件パンフレットを配布するという正当な組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとともに、組合活動を不当に制限するものであり、組合の運営に対する支配介入にも当たる。

2 本件掲示について

(1)令和2年8月27日、会社は、最近も一部の職場において、勤務時間中又は会社施設内で会社の許可なく労働組合の活動を行うなど、就業規則第23条(勤務時間中等の組合活動)に抵触する行為が発生しており、今後とも、職場規律の厳正を阻害する行為に対しては、就業規則に則して厳正に対処していく、このような事象に気づいた場合や気になることがあった際には、必ず、速やかに現場長や管理者に相談してほしいなどと記載した本件掲示を行った。

(2)会社は、従来から職場環境を維持確保することの重要性について周知してきたものの、本件パンフレット配布以外にも就業規則第23条に違反する事象が発生したことから、一般予防の観点から本件掲示を行ったものであり、特定の組合や組合活動を問題とするものや正当な組合活動を制限するものではないと主張する。
 確かに、会社は、平成30年4月23日及び令和元年8月1日に、C1支社は、平成30年7月3日及び11月28日に、それぞれ、職場規律の厳正の確保に向けて就業規則に則して厳正に対処する旨社員に周知する掲示を行っている。このように、社員に対し、就業規則の遵守を呼び掛けることは、会社が職場秩序を維持するための方策としては、首肯できるところである。
 しかし、その後、会社は、一年以上、同様の掲示を行わなかったにもかかわらず、本件パンフレット配布、本件厳重注意、C2駅分会による抗議、A3及びA4による苦情処理申告、X2地本による申入れを経て、団体交渉が行われたが、協議がまとまらず、その翌日である令和2年8月27日に本件掲示を行った経緯をみると、本件掲示での記載は、本件パンフレット配布も念頭に置いたものであることは明らかである。
 そうすると、本件パンフレット配布は正当な組合活動であることから、今後も同様の行為について、就業規則に則して厳正に対処していく、このような事象に気づいた場合には、必ず、速やかに現場長や管理者に相談してほしい旨記載した本件掲示は、組合活動を不当に制限し、委縮させるものであり、組合の運営に対する支配介入に当たる。

3 以上の次第であるから、会社が、A3及びA4に対し、本件厳重注意を行ったことは、労働組合法第7条第1号及び第3号に、本件掲示を行ったことは、同法同条第3号に該当する。 
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