労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成29年(不)第30号その2
慈生会不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和5年3月28日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①組合が要求する「組合員A2を生活相談員へ戻すこと」に係る計8回の団体交渉における法人の態度、②法人が、その後、組合が要求する団体交渉に応じなかったこと、③A2に対する法人事務長B2の発言が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、①及び②について労働組合法第7条第2号、③について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)A2の生活相談員への配置転換を議題とする団体交渉に係る誠実応諾、(ⅱ)A2の賃上げに関する団体交渉、及び組合が令和3年10月16日付「団交開催の要求」で申し入れた団体交渉に係る誠実応諾、(ⅲ)組合に対する抗議の内容を、組合員個人に対し、業務上の指導として直接発言することにより、組合の組織運営に支配介入してはならないこと、(ⅳ)文書の交付及び掲示等を命じた。 
命令主文  1 法人は、組合が申し入れた組合員A2の生活相談員への配置転換を議題とする団体交渉に誠実に応じなければならない。

2 法人は、組合の組合員A2の賃上げに関する団体交渉、及び組合が令和3年10月16日付「団交開催の要求」で申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。

3 法人は、組合に対する抗議の内容を、組合員個人に対し、業務上の指導として直接発言することにより、組合の組織運営に支配介入してはならない。

4 法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、同ー内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書槽書で明瞭に墨書して、法人本部及びCホームの職員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
委員長 A1殿
Y法人
理事長 B1
 (1)貴組合の要求する「組合員A2氏を生活相談員へ戻すこと」についての団体交渉(平成28年8月23日から29年3月28日までの4回の団体交渉及び30年2月26日から6月26日までの4回の団体交渉)における当法人の対応、(2)当法人が、貴組合が要求する①「組合員A2氏を生活相談員に配置転換すること」(令和3年9月27日及び10月11日の申入れ)、②組合員A2氏の賃上げ(平成29年4月28日、5月10日、18日及び31日の申入れ)、③令和3年10月16日付「団交開催の要求」で求めた議題について、団体交渉を拒否したこと、(3)当法人のB2事務長が、平成28年4月22日に、貴組合の組合員A2氏に対して行った発言は、いずれも東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

5 法人は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 法人は、組合が要求する「組合員A2を生活相談員へ戻す〔注〕こと」について、組合との団体交渉に誠実に応じたか(平成28年8月23日から29年3月28日までの4回の団体交渉及び30年2月26日から6月26日までの4回の団体交渉)(争点1)

〔注〕A2は平成23年10月に生活相談員から指導員に配置転換され、さらに24年6月に普通解雇されたが、26年10月14日東京高裁判決にて、配置転換については有効、解雇については無効であることが確定している。

 これら団体交渉における法人の対応が不誠実な団体交渉に当たるか否かを検討する。

(1)団体交渉の開催に至るまでに時間を要したこと

 使用者の業務上などの都合によって組合の申し入れた日時に団体交渉に応じられない場合には、代替となる日程を示したり、先の見通しを明らかにしたりするなど、団体交渉の実現に向けた努力を誠実に行うことが求められると解されるところ、法人は、その都度異なる理由を述べて先の予定や具体的な日時を提示することなく開催を延期する一方、担当者が課長B3に交代になった以降は、組合の申し入れた団体交渉の議題が義務的団体交渉事項ではないといったそれまでと異なる見解を述べている。
 (28年4月25日の)最初の申入れから団体交渉が開催されるまでに約4か月間を要していること、8月23日に行われた団体交渉には、従前出席していた理事長B4(当時)や理事B5が欠席していること、その間、団体交渉の開催見通しについて組合に知らせなかったことなどを併せ考えると、法人の業務上の都合により開催が遅れたという側面があるとしても、法人が、団体交渉の実現のために十分に意を払ったということはできず、法人の対応に誠実さが欠けていた。

(2)生活相談員になるための評価基準の説明

法人は、28年8月23日から29年3月28日までの4回の団体交渉においては、「異動については法人の裁量である」などと述べ、生活相談員になるための評価基準等を説明しようとはしなかった。しかし、生活相談員と支援員とでは賃金に差異があり、支援員から生活相談員の異動は職員の重要な労働条件であるから、組合が団体交渉で要求している以上、法人は、異動については法人の裁量であるとしても、その判断基準等について、可能な限り組合に説明する必要があったというべきであり、法人の対応は、誠実な団体交渉態度とは認め難い。
 また、法人は、本件申立て後、30年2月26日から6月26日までの4回の再開団交において、法人が評価基準5項目を示し、A2の配転について議論が行われたが、当該項目に照らしたA2の評価について、十分な説明を行ったとはいい難い。

(3)生活相談員3名の枠に変動が生じる可能性について組合に伝えていなかった点

 法人は、団体交渉で、生活相談員3名の枠が埋まっていることをA2を配転できない理由の一つとして挙げており、この枠に空席が生じる可能性があった点については、A2を生活相談員に配転することに関して重要な位置を占めるといえる。
 しかし、職員〔生活相談員3名のうち2名〕が〔(28年9月と29年1月にそれぞれ〕退職の意向を示したとはいえ、この時点で確定していたとまではいい切れず、それに伴う後任者の選定はいまだ法人の検討段階であったこと、また、労使間で、生活相談員の枠が空いたときに組合にその旨を伝える旨の取り決めや慣行があったとの疎明はないことなども考慮すると、団体交渉で組合に説明しなかったとしても、必ずしも不誠実な対応であるとまではいい切れない。

(4)交渉がデッドロックに至ったとして交渉を打ち切るとした点

ア (28年3月17日から29年3月28日までの団体交渉の後)29年4月4日、法人は、組合の申入れに対し交渉が行き詰まりに達したため、これ以上応じる義務はないとして団体交渉を拒否した。
 しかし、評価項目を開示するなどして生活相談員の配転の判断基準を組合に説明することは可能であったとみられるにもかかわらず、何ら説明しなかった法人の対応は不誠実な交渉態度に当たるというべきであり、団体交渉を打ち切ったことは一方的な対応であるから、正当な理由は認められない。

イ 30年2月26日以降、再開団交が4回行われたが、同年7月10日、法人は、交渉がデッドロックに陥ったとして以降の団体交渉を拒否した。
 再開団交では評価基準5項目などについて協議が行われたものの、当該項目に照らしたA2の評価について十分な説明を行ったとはいい難い状況であり、団体交渉が行き詰まっていたとはいえず、法人が団体交渉を拒否したことに正当な理由は認められない。

(5)以上のとおり、①法人が生活相談員3名の枠に変動が生じる可能性について団体交渉で組合に伝えていなかったことは、不誠実な対応とまではいえないものの、②28年8月23日の団体交渉開催までに4か月近い時間を要したこと、③8月23日から29年3月28日までの4回の団体交渉において法人が生活相談員になるための評価基準等を説明しようとしなかったこと、④再開団交において評価基準5項目に照らしたA2の評価について法人が十分な説明を行っていないことなど、⑤組合が要求する「組合員A2を生活相談員へ戻すこと」についての法人の対応は、不誠実な団体交渉に当たり、また、⑥29年4月4日及び30年7月10日に法人が団体交渉を拒否したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

2 法人が、①組合が要求する「組合員A2を生活相談員に配置転換すること」(令和3年9月27日及び10月11日の申入れ)、②組合員A2及び他の従業員の賃上げ(平成29年4月28日、5月10日、18日及び31日の申入れ)、並びに③令和3年10月16日付「団交開催の要求」で求めた議題について、団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点2)

(1)組合員A2を生活相談員に配置転換すること(令和3年9月27日及び10月11日の申入れ)

 法人は、令和3年3月25日の東京都労働委員会の命令(以下「分離命令」)において、A2を生活相談員に配転しなかったことは不当労働行為に当たらないと判断されていること、平成26年10月14日東京高等裁判所判決(以下「本件判決」)においても23年配転の有効性が認められていることを挙げて、組合の申入れが、分離命令及び本件判決の蒸し返しであり、応じられないと固答した。
 しかし、たとえ、過去に、本件判決や分離命令が出されていたとしても、それ以降にA2が配転を希望することが阻害されるということはなく、新たに希望を出すことは可能であるから、本件判決や分離命令から相当の期間が経過し、その間、A2が支援員としての経験を積んできた状況においで行われた上記団体交渉申入れについて、蒸し返しとして拒否することは適切でなく、法人は、団体交渉に応じた上で、その時点での評価基準5項目に照らしてのA2の評価等について説明する必要があった。

(2)A2及び他の従業員の賃上げ(平成29年4月28日、5月10日、18日及び31日の申入れ)

 法人は、法人にはA2以外の組合員がおらず、非組合員の賃上げに関することは義務的団体交渉事項には当たらないと主張する。
 しかし、組合が、法人の職員全体の賃上げも交渉事項としているなどと述べたのは、A2を支援員から生活相談員に配転することによる賃上げではなく、べースアップや定期昇給等の法人職員全体の賃上げにより組合員である同人の賃上げを求めているとして、同人の配転とは異なる交渉議題であることを示す趣旨であったと解するのが相当である。
 よって、組合が議題として挙げた賃上げは、組合員の労働条件に関するものであり、義務的団体交渉事項に当たるということができ、また、A2の配転に起因するもので、同人の配転を問題にするための口実であるなどとする法人の主張は当たらない。
 したがって、組合が申し入れた、A2の賃上げ関する団体交渉に法人が応じなかったことに正当な理由は認められない。

(3)令和3年10月16日付「団交開催の要求」で求めた議題

 組合が申し入れた議題は、9月27日に申し入れた議題から、①A2の配転に関するものを除いた各議題であり、②人事異動の基準と運用、③賃金規則の内容と運用基準と実際、④人事考課制度の作成など7項目である。
 これに対し、法人は、10月22日付回答書において、組合がA2の配転に関する団体交渉に応じさせるための口実だとの理由で拒否したが、組合の申し入れた上記各議題は、文言上、明らかにA2の配転とは異なる内容であり、法人は、口実だとする根拠を何ら示していない。法人は、議題の趣旨や内容について組合に問い合わせたりすることもなく、文言的には明らかにA2の配転と異なる内容の議題について、口実だと一方的に決め付けて団体交渉を拒否しており、このような法人の対応に合理的な理由は認められない。

(4)以上の次第であるから、法人が、上記(1)から(3)までの議題について団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

3 法人の事務長B2が、平成28年4月22日に行った組合員A2に対する発言は、組合に対する支配介入に当たるか否か。(争点3 )

(1)A2が本件面談に行かなかった点

 28年3月17日、組合及び法人は、A2と理事長(当時)B4との面談(以下「本件面談」)を行うことを確認し、調整した結果、4月22日に本件面談を行うこととなったが、開始時刻の調整がつかないまま、当日、A2は法人本部に現れなかった。
 これについて、組合が本件面談の開催時間に合意せず、一方的な実施に反対している以上、組合員であるA2が、当日本部に現れなかったのは無理からぬことである。そもそも結論が曖昧なままであった事務長B2と副委員長A3との日程調整に問題があったのであるから、B2はA3との間で確認や調整を図るべきであった。ところが、B2は、組合員であるA2個人に対して、「Y法人の職員としての自覚はありますか。」と繰り返し尋ね、「指導」に言及しながら、本部に行かなかったことを非難する発言を行っている。
 これは、組合と日程調整を行ってきた経緯を無視し、組合と法人との間の問題について組合員個人の責任を追及することにより、A2の組合活動を萎縮させて組合の弱体化を図るものであるといわざるを得ない。
(2)28年3月17日の団体交渉における組合員A2の態度

 団体交渉で、A2以外の組合員が、施設長B5に対し、「施設長が研修してないじゃないですか。」、「何も言えない、そんなこと、失礼なこと言うんじゃねえ。」などと発言した際、同席していたA2は、特に発言をしなかった。事務長B2は、このことについて、施設長B5が組合員から罵倒されているのに、A2が「一切、止めなかった」、「黙って聞いていた。」、「とんでもない」などと述べて、A2を非難した。
 団体交渉における組合側出席者の対応について問題があると考えるのであれば、本来、抗議非難を行うべき相手方は組合であるところ、B2は、組合員であるA2個人に対して、就業時間内に、「指導」に言及しながら、団体交渉における組合側出席者の行動について、上司としての立場で部下である組合員個人に対して非難しており、これは、A2の組合員としての行動に圧力を加え、ひいては団体交渉における言動を萎縮させる効果を有することになる。
 また、団体交渉に組合側出席者として参加していたA2に対し、他の組合員の発言を止めなかったり、法人側出席者を擁護しなかったことを非難することは、A2の組合員としての行動に圧力を加え、同人を通じ組合の行為や交渉方針等に制約を生じさせるものであり、組合の弱体化を図るものである。

(3)組合がホームページに掲載した文書

 事務長B2は、組合のホームページ上に記載された文書について、A2に対し、「(A2が、)あること、ないこと。Y法人に対して、悪意のある文書を書いてる。」、「組合員としては、立派な組合員なんでしよう。」、「Y法人の職員としては最低ですよ。」、などと述べ、非難している。
 しかしながら、組合のホームページ上の記載に問題があると考えるのであれば、抗議したり非難すべき相手方は組合であり、就業時間内に「指導」として組合員であるA2個人を非難することは、A2の組合員としての行動に圧力を加え、ひいてはその組合活動を萎縮させる効果を有することになるから、妥当とはいえない。

(4)不当労働行為の成否

 以上のとおり、事務長B2の発言は、いずれも、本来組合に対して抗議すべき内容について、組合員であるA2個人に対し、就業時間内に、「指導」として、同人を非難する内容の発言をしたものであり、同人の組合員としての行動に圧力を加え、組合活動を委縮させ、組合の弱体化を図るものである。
 そして、法人本部に勤務する人事労務担当の管理職であるB2が、就業時間中に、職場内の面会室において、所属上長である施設長B6同席の下で「指導」を行ったことは、法人の意を体して行ったものというべきであり、B2の発言は、法人の行為であると捉えることができる。
 したがって、B2が、平成28年4月22日に行ったA2に対する各発言は、組合の組織運営に対する支配介入に当たる。 
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