労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委令和4年(不)第1号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年7月24日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合との団体交渉について、組合の分会長A2の就業時間内に実施して団体交渉時間分の賃金支給を拒んだこと及び会社内での団体交渉の実施を拒んだこと、②団体交渉の時間を30分程度に設定したこと、③団体交渉において、他の従業員の暴行によるA2の労働災害(「本件労働災害」)に係る協議を拒否したこと、④団体交渉において虚偽の発言を行ったこと、⑤組合に対し組合掲示板を貸与しないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛知県労働委員会は、①について労働組合法第7条第1号及び第3号、②について同条第2号及び第3号、③及び④について同条第2号、⑤について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)団体交渉を就業時間内に行う場合における、組合員として出席する従業員に対する賃金の支給、(ⅱ)団体交渉の時間を、一方的に30分程度に設定してはならないこと、(ⅲ)本件労働災害に係る協議についての誠実応諾、(ⅳ)団体交渉において、申立外C組合に対する取扱いの実態を説明するに当たり、事実と異なる発言を行ってはならないこと、(ⅴ)組合掲示板の貸与、(ⅵ)文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合との団体交渉を就業時間内に行う場合には、組合の組合員として出席する従業員に対し、団体交渉のため職場を離れた時間分の賃金を支給しなければならない。

2 会社は、組合との団体交渉の時間を、一方的に30分程度に設定してはならない。

3 会社は、令和3年5月28日、同年7月29日、同年9月13日、同年10月14日、同年11月29日及び令和4年3月7日の団体交渉で組合が求めていた、会社の従業員であるDの暴行による組合T分会の分会長であるA2の労働災害に係る協議について、誠実に応じなければならない。

4 会社は、組合との団体交渉において、申立外C組合に対する取扱いの実態を説明するに当たり、事実と異なる発言を行ってはならない。

5 会社は、組合に対し、組合掲示板を貸与しなければならない。なお、当該組合掲示板の設置場所、大きさ等の具体的条件については、組合との協議の上、決定しなければならない。

6 会社は、組合に対し、下記内容の文書を本命令書交付の日から7日以内に交付しなければならない。
 当社が、令和3年5月28日、同年7月29日、同年9月13日、同年10月14日、同年11月29日及び令和4年3月7日の団体交渉(以下「団交」という。)について、貴組合T分会の分会長であるA2の就業時間内に実施し、A2に対して団交時間分の賃金を支給することを拒んだことは、労働組合法第7条第1号及び第3号に、上記各団交について、団交時間を30分程度に設定したことは、同条第2号及び第3号に、令和3年5月28日、同年7月29日、同年9月13日及び同年10月14日の団交において、当社の従業員であるDの暴行による分会長A2の労働災害に係る協議を拒否したこと並びに令和3年5月28日、同年7月29日及び同年10月14日の団交において、貴組合に対し、事実と異なる発言を行ったことは、同条第2号に、貴組合に対し、組合掲示板を貸与しないことは、同条第3号に、それぞれ該当する不当労働行為であると愛知県労働委員会によって認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社       
代表取締役 B1
7 その余の申立ては棄却する。 
判断の要旨  1 令和3年5月28日、同年7月29日、同年9月13日、同年10月14日、同年11月29日及び令和4年3月7日の団体交渉(以下、それぞれ「5.28団交」、「7.29団交」、「9.13団交」、「10.14団交」、「11.29団交」、「3.7団交」。また、これらを合わせて「本件6団交」)に係る、会社の以下の対応は、労組法第7条第1号、第2号及び第3号の不当労働行為に該当するか。
①分会長A2の就業時間内に実施し、同分会長に対して団交時間分の賃金を支給するのを拒んだこと(争点1の①)
②会社内で実施するのを拒んだこと(争点1の②)

(1)本件6団交は、いずれも分会長A2の当時の就業時間の間に実施され、会社がA2に対し団交時間分の賃金支給を拒んだことや、会社内での実施を拒んだことには争いがない。
 他方、会社は、申立外C組合との団交については、C組合側交渉委員の就業時間内での団交出席を認めて出勤として取り扱い、移動の時間や、交渉委員同士で行う団交前の打合せの時間も含め、団交のため職場を離れた時間分の賃金を支給している。また、従来、会社の本社会議室で開催されることが一般的であり、本件6団交が開催された時期においては、会社の本社会議室以外の場所で開催されることはまれであった。

(2)分会長A2の就業時間内に実施し、同分会長に対して団交時間分の賃金を支給するのを拒んだことについて

ア 労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するか
(ア)会社は、C組合については結成段階から会社が支援し、協調して歩んできた歴史があり、その中で極めて強固な信頼関係が醸成されてきた一方、組合は自主的に組織を拡大し、闘争的な組合活動を展開しているから、そもそも会社との関係性が全く異なる旨主張する。確かに、一方の労働組合が、多年にわたる闘争、協力、互譲といった経過の中で、使用者との間に信頼関係を醸成し、その結果として便宜供与を獲得してきたとみるべき場合など、使用者との関係性の違いによって、併存する労働組合間の取扱いの差異が是認される場合があることは否定し得ないが、会社がC組合に対し、その結成段階から支援を行い、結成から間もなく本件労働協約を締結して、団交に出席する交渉委員の賃金を控除せず支給する取扱いを行っていることからすれば、本件はそのような場合には当たらない。
 他方、組合が本件6団交において繰り返し要求しているにもかかわらず、当該便宜供与が拒否されることは、賃金支給の有無という重要なものであることに鑑みても組合に与える影響は大きい。A2が会社における唯一の組合員であり、分会長という立場にあることや、従業員Dの暴行によるA2の労災に関する事項が組合と会社との団交の議題の中心を占めていたことを考慮すると、組合がA2を団交に出席させる必要性は高い。

(イ)また、会社は、組合の分会は「A2」1名のための分会であり、組合との団交の議題はA2個人の問題に関する事項であるから、多数いる組合員全員のために活動するC組合の交渉委員とA2とを同様に取り扱うことはできない旨主張する。しかし、組合員数の相違を考慮しうる場合があるとしても、それによって直ちに中立保持義務を免れるものではない。組合側がA2の終業後に団交を行うことを提案したり、欠勤控除しない方法などC組合と均衡を図る方向で検討して回答することを要請したことに対して、会社は、それらを拒否している。かかる会社の態度は、A2の就業時間内に団交を行い、団交時間分の賃金支給をしないことに固執するものであり、中立を保持しようとする態度を欠くものである。

(ウ)したがって、組合とC組合との間で取扱いを異にする合理的な理由は認められず、会社が、組合との団交について、出席するA2に対して団交時間分の賃金を支給することを拒んだことは、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

イ 労組法第7条第1号の不当労働行為に該当するか
 会社における従業員の一般的な認識に照らして、不利益なものと受け止められるのが通常と考えられるから、会社が、A2に対して団交時間分の賃金を支給することを拒んだことは、労組法第7条第1号にいう不利益な取扱いに当たる。
また、会社が組合とC組合との間で取扱いを異にすることに合理的な理由が認められないことからすると、かかる不利益取扱いは、A2が組合の組合員であることの故をもってしたものとみることができ、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

ウ 労組法第第2号の不当労働行為に該当するか
 組合は、会社がA2に対して団交時間分の賃金を支給することを拒んだことは、団交を会社内で実施することを拒んだ行為及び団交時間を30分程度に設定した行為と一体の差別的取扱いであり、結果として不誠実団交が生じている旨主張する。
 しかし、これらの行為は、それぞれ独立のものとして別個に不当労働行為該当性を判断するのが相当である。そして、会社がA2に対して団交時間分の賃金を支給するか否かによって、団交の進展が直ちに左右されるとは考え難い。したがって、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。

(3)会社内で実施するのを拒んだことについて

ア 労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するか
 組合とC組合との間で取扱いを異にする理由について、会社は、会社における組合の組合員は「A2」1名であり、そのほかの組合側交渉委員が社外者であること等を主張する。使用者が、機密保持や施設管理の観点から、社外の者が事業所に進入することに細心の注意を払うことは一般的であるから、会社の主張は首肯できる。また、会社が組合の要求を拒否しても、本件団交場所とN支店は同じ地内に存し、距離は徒歩で10分程度であること、会社が本件団交場所の予約手続を行い、室料の全額を負担していることに鑑みれば、組合に与える影響は小さいといえる。
 したがって、取扱いを異にする合理的な理由が認められるから、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当しない。

イ 労組法第7条第1号及び第2号の不当労働行為に該当するか
 本件団交場所で団交を行うことにより、A2に特段の不利益があったとはいえず、また、協議が妨げられたという事情は認められない。したがって、会社が、会社内での団交の実施を拒んだことは、労組法第7条第1号及び第2号の不当労働行為に該当しない。
2 本件6団交について、会社が団交時間を30分程度に設定したことは、労組法第7条第1号、第2号及び第3号の不当労働行為に該当するか。(争点2)

(1)労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか
 各団交につき30分という時間設定の下では、1議題当たり5分程度の協議しか行えず、会社が誠実に交渉を尽くすのに十分な時間設定であったとはいえない。
 また、団交に係るルールは、原則として労使双方が合意して決定すべきものであるから、組合が繰り返し異議を述べていたにもかかわらず、会社が一方的に団交時間を30分とし続けたことは、非難されるべきである。
 これらを総合的に考慮すると、会社が、組合との団交時間を30分程度に設定したことは、誠実交渉義務違反に該当し、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

(2)労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するか
 会社が、C組合との団交を1時間程度に設定する一方、組合との団交を30分程度に設定したことには合理的な理由が認められず、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(3)労組法第7条第1号の不当労働行為に該当するか
 会社が、組合との団交時間を30分程度に設定することは、組合に対する不利益的取扱いであるにせよ、労働者が労働組合の組合員であることの故をもって、その労働者に対してなされた不利益な取扱いとみることはできないから、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。

3 5.28団交、7.29団交、9.13団交及び10.14団交において、会社は、従業員Dの暴行による分会長A2の労災に係る協議を拒否したか。このことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点3)
(1)5.28団交など4回の団交における経緯から、会社が、Dの暴行によるA2の労災に係る協議を拒否したことが認められる。

(2)組合が会社に求めていた内容は義務的団交事項に該当するところ、会社は、5.28団交などにおいて、別件訴訟が係属していることを、協議に応じられない理由として挙げていた。
 しかし、裁判は法律の適用によって権利義務関係を確定することを目的とし、機能するものであるのに対し、団交は当事者の交渉により将来の関係も視野に入れて紛争の解決を目指すものであるから、団交によって紛争の解決を図ることは労使関係にとって望ましいことであって、前者を選択したほかに、後者による解決方法をも採る意味は十分に存在する。これらのことから、別件訴訟が係属していたことは、会社が協議を拒否したことの正当な理由には当たらない。

(3)したがって、5.28団交、7.29団交、9.13団交及び10.14団交において、会社は、従業員Dの暴行によるA2の労災に係る協議を拒否したものであり、このことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

4 5.28団交、7.29団交、9.13団交及び10.14団交において、会社は、組合に対し、事実と異なる発言を行ったか。このことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点4)

(1)組合は、これら団交において会社が述べた5点の発言は事実と異なるものである旨主張するので、以下検討する。

ア 5.28団交で次長B2が「組合に関する時間というのは会社の時間、有給とするのは難しいです」と述べたことについて(発言①)、D組合側交渉委員が団交に出席する場合における会社の扱いなどから、故意になされた事実と異なる発言であったというべきである。

イ 5.28団交でB2が「会社としては組合員が複数いて、複数いる組合員の情報提供の場として組合掲示板を許可していますので」などと述べたことについて(発言②)、C組合との本件労働協約における許可の基準に関する会社の見解を説明したものといえることなどから、事実と異なる発言であったとまでは評価することはできない。

ウ 7.29団交で担当部長B3が「組合活動は自己の時間ということでなってますので、勤務時間の組合活動は認めていないと、(本件労働協約第9条)ただし書で会社から招集する場合がありますよと」と述べたことについて(発言③)、当該発言は、事実と異なる発言であったといえる。

エ 9.13団交でB3が「多数組合に対する情報共有という考えも変わっておりません。だから、一人でいるもののために情報提供が必要不可欠とは思われませんので、設置許可をするようなものではないというのは変わりません」と述べたことについて(発言④)、会社としての見解を述べたものといえるから、内容の当不当は別として、事実と異なる発言であったと評価することはできない。

オ 10.14団交で部長B4が「会社が招集する会議に限り、必要な時間を労働にして有給することがあります」と述べ、組合側が、会社が招集した団交についてのみ賃金が支給され、C組合から申し入れた団交については賃金が支給されないのか確認したのに対し、「考え方はそれでいい」と述べたことについて(発言⑤)、当該発言は、事実と異なる発言であったというべきである。

(2)以上のとおり、発言①、発言③及び発言⑤は事実と異なることが認められるから、5.28団交、7.29団交及び10.14団交において、会社が組合に対し、事実と異なる発言を行ったことが認められる。
 会社が上記発言をしたことは、あえて事実と異なる発言をして、組合が求めるA2への団交時間分の賃金支給について、合意の達成を妨げようとしたものと考えるのが相当であるから、誠実交渉義務違反に該当する。したがって、これらは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

5 会社が、組合に対し、組合掲示板を貸与しないことは、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当するか。(争点5)

(1)労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するか

ア 同一企業内に複数の労働組合が併存する場合、一方の労働組合に組合掲示板の貸与等の便宜供与を行いながら、他方に対してそれを拒むことは、取扱いを異にする合理的な理由が存在しない限り、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

イ 会社は、会社における組合の組合員は「A2」1名であり、組合が組合掲示板を連絡方法として確保する必要性が認められない旨主張する。しかし、そもそも組合掲示板は、その機能として、当該労働組合の組合員以外に対する宣伝活動に利用されることも当然であるから、構成員が一人の分会であっても組合掲示板を確保する必要性は否定できない。
 また、会社は、C組合に比し、組合と会社との間に十分な信頼関係が醸成されているとはいえない旨主張する。しかし、会社がC組合に対し、その結成段階から支援を行い、結成から間もなく、組合掲示板を貸与していることからすれば、本件は、使用者との関係性の違いによって、併存する労働組合間の取扱いの差異が是認される場合には当たらない。

ウ これらのことから、組合とC組合との間で取扱いを異にする合理的な理由は認められず、組合掲示板を貸与しないことは、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(3)労組法第7条第1号の不当労働行為に該当するか
 組合は、組合掲示板がないことで、A2に、別件訴訟への傍聴等の呼び掛け、自身が出席した団交の内容に係る会社従業員への問い掛け等ができないといった不利益が生じている旨主張する。しかし、組合掲示板の不貸与は、組合に対する不利益的取扱いであるにせよ、労働者が組合員であることの故をもってなされた不利益な取扱いとみることはできないから、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。 
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約832KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。