労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委平成30年(不)第10号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y1会社(会社)・Y2法人(法人) 
命令年月日  令和5年3月7日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、Y1会社が、①申立外E1組合の分会らの組合員が組合活動に従事するために休業することを容認し、かつ通常どおりの賃金を支払っているにもかかわらず、組合の分会に対してそのような取扱いをしていないこと、②E1組合の分会らとの間では団体交渉を就業時間中に当該組合の施設で行っているにもかかわらず、組合の分会との間では終業時刻以降に会社の本社内の会議室などで行っていること、③E1組合の分会ら及び申立外F組合に対して会社社屋の一部を組合事務所として供与しているにもかかわらず、組合の分会には供与していないこと、並びに、Y2法人が、④本船荷役業務を行う会社からの派遣労働者について、E1組合の分会らの組合員を優遇する手配を行っていること、⑤組合らが団交を求めたところ、組合の分会所属の組合員は会社からの派遣労働者であることを理由として団交に応じなかったことがそれぞれ不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛知県労働委員会は、Y1会社に関し、①のうち組合役員に係るもの及び③について労働組合法第7条第3号、Y2法人に関し⑤について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合の就業時間内における組合活動に係る賃金不控除について、組合D分会とE1組合の分会らとを差別してはならないこと、(ⅱ)組合への事務所の貸与、(ⅲ)文書交付を、法人に対し(ⅳ)文書交付をそれぞれ命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 Y1会社は、組合の就業時間内における組合活動に係る賃金不控除について、組合D分会とE1組合E2支部E2-2分会及びE1組合E3支部E3-2分会とを差別してはならない。なお、差別の是正方法については、組合との協議の上、決定しなければならない。

2 Y1会社は、組合に対し、組合事務所を供与しなければならない。なお、当該組合事務所の場所、面積等の具体的条件については、組合との協議の上、決定しなければならない。

3 Y1会社は、組合に対し、下記内容の文書を本命令書交付の日から7日以内に交付しなければならない。
 当社が、E1組合E2支部E2-2分会の分会長、副分会長及び書記長並びにE1組合E3支部E3-2分会の分会長、書記長及び財務部長に対して毎月15日労働すれば賃金を控除しない取扱いを行い、貴組合D分会の分会長、副分会長及び書記長に対して行わなかったことは、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると愛知県労働委員会によって認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
 年 月 日
X組合
運営委員長 A1様
Y1会社      
代表取締役 B1

4 Y2法人は、組合及び組合D分会が平成30年4月30日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。

5 Y2法人は、組合に対し、下記内容の文書を本命令書交付の日から7日以内に交付しなければならない。
 当法人が、貴組合及び貴組合D分会からの平成30年47月30日付けの団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると愛知県労働委員会によって認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
 年 月 日
X組合
運営委員長 A1 様
Y2法人       
代表理事会長 B2

6 その余の申立ては棄却する。 
判断の要旨  1 会社は、毎月15日労働すれば賃金を控除しない取扱いをE1組合支部分会らの組合員全般に対して行い、組合C分会(以下「組合分会」)の組合員全般に対して行わなかったか。会社の当該行為は、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。(争点1(1))

 平成28年11月19日に会社とE1組合E2支部及びE4支部が作成した「覚書」と題する書面は、E2支部E3分会の分会長、副分会長及び書記長並びにE4支部E5分会の分会長、書記長及び財務部長(以下「E1組合支部分会らの役員」)について毎月15日労働すれば賃金を控除しない取扱い(以下「本件不控除」)に係る同年6月4日の口頭合意を書面化したものと認められ、この合意の後、少なくともこれら役員に対して本件不控除が行われていた。
 しかし、会社が、本件不控除をE3分会及びE5分会(以下「E1組合支部分会ら」)の組合員全般に対して行ったとは認められないことから、不当労働行為該当性について判断するまでもない。

2 会社が本件不控除をE1組合支部分会らの組合員全般に対して行ったと認められない場合、会社が本件不控除をE1組合支部分会らの役員に対して行い、組合分会の分会長、副分会長及び書記長(以下「組合分会の役員」という。)に対して行わなかったことは、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。(争点1(2))

(1)会社が、E1組合支部分会らの役員に対して本件不控除を行いながら、組合分会の役員に対してはこれを行わないという取扱いの差異を設けていることは中立保持義務に違反するものであって、E1組合支部分会らを優遇しその組織を強化させることにより、その結果、組合の活動力を相対的に低下させ弱体化を招くおそれのある不当な行為であり、組合の運営に対する支配介入に当たることから、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(2)ところで、会社がE1組合支部分会らに対して行っている本件不控除は、その対象を役員に限定しているとはいえ、毎月有給休暇1日を含め15日労働すれば、それ以外の日を休んでも賃金控除しないというものであって、これは労組法第7条第3号に照らして過大な経費援助となりうるところ、労働委員会が、会社に対して、組合に対しても本件不控除を行うよう命じることは、組合に対して過大な経費援助を行うことを積極的に是認する結果を招くことともなり得るから適切でない。
 しかし、一方で、本件不控除は、E1組合支部分会らを優遇しその組織を強化させ、その結果、組合の活動力を相対的に低下させ弱体化を招くおそれのある不当な行為であるから、組合間での取扱いの差を放置することは妥当ではない。よって、主文第1項のとおりの救済命令を発するものである。

3 会社が、E1組合支部分会らとの団交は就業時間中にE1組合E2支部の会館で行い、組合分会との団交は終業時刻以降に会社の本社内の会議室、〔会社外〕N1施設又はN2施設で行ったことは、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。(争点2(1))

(1)E1組合支部分会らが会社と行う団交は、1回当たりの就業時間中の団交時間は、およそ1時間30分に限定されていた。これに対し、組合らと会社との間では、夕方から翌日早朝まで長時間にわたり、警察が呼ばれる状況に至った平成27年12月22日団交が行われたところ、組合は、「大詰めの場」以外の団交においては、基本的に2時間以上の団交時間を求める立場であったと認められる。
 そうすると、同団交の経緯に鑑みて、会社が、団交時間が2時間に制限されるN2施設等で開催したことはやむを得ないといえる。

(2)また、団交の出席人数についても、E1組合支部分会らは多いときでも6人の役員が出席し、職場を離れて団交に出席する人数は限定されていた。これに対し、組合が要求していた団交条件は、組合分会の組合員全員が団交に参加するというものであり、組合は参加人数を絞ることを同意していない。
 かかる組合の条件に基づき団交を就業時間中に行うものとした場合、開催により会社及び派遣先である法人に与える影響は、E1組合支部分会らのそれと比較して大きなものとなる可能性がある。
 これらの点から、会社が、組合との団交を就業時間中に開催することを許容し難い旨判断したとしてもやむを得ないといえる。

(3)E1組合支部分会らとの団交を同支部の会館で実施している点について、当該会館は会社の本社の近隣にあり、会社にとって大きな負担となるものではない。
 また、そもそも、組合が、組合の事務所での団交開催を求めた事実があったとは認められないうえ、平成28年12月3日の団交の際、組合員A2が、会社側出席者に対して、どう喝と評価されてもやむを得ない内容の非常に厳しい発言をした事実が認められることから、会社が、組合の事務所において団交を実施していないことについては、一応の合理性が認められる。

(4)これらのことから、会社の対応には合理的理由があると認められ、中立保持義務違反があったとは認められないことから、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当しない。

4 会社が、E1組合支部分会ら及びF組合に対して組合事務所を供与し、組合分会に対してはこれを供与しなかったことは、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。(争点2(2))

 組合分会とE1組合E2支部分会及びF組合との間には組合事務所供与の取扱いに明確な差が認められ、会社には、現状において社屋内にスペースがないとするだけでなく、各組合に中立的な態度を保持すべく、組合事務所として利用できるスペースの有無を適切に調査し、組合分会に対し組合事務所を供与するためにスペースの捻出や確保に努力するなどの具体的な対応が求められるところ、会社は適切に調査したとはいえず、また、スペースを捻出するために、E1組合E2支部分会及びF組合に組合事務所の一部返還を提案する等も行っていないことから、組合分会に対して組合事務所供与のための必要な措置を取らなかったものと認められる。
 このように合理的な理由なく一方の労働組合に対して組合事務所の供与を拒否することは、当該労働組合の活動に支障を来すものであり、ひいては当該労働組合の活動力を低下させその弱体化を図ろうとする意図を推認させるものとして、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

5 法人は、会社からの派遣労働者であって組合分会の組合員であり、法人作成の「手配表」において「現場従事者」、「日々手配」又は「日々手配在籍者」欄に記載された者の労組法第7条第3号の定める使用者に当たるか。(争点3(1))

(1)労働者派遣における派遣先事業主の使用者性について

 労働者派遣法の原則的な枠組みにおいては、派遣労働者の労働条件は、基本的には、雇用関係のある派遣元と派遣労働者の間で決定されるものであって、派遣先は、原則として、労組法第7条の使用者には当たらない。
 しかし、雇用主である派遣元が決定すべき就業場所、就業時間などの派遣労働者の基本的労働条件について、派遣先が雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定している場合には、当該決定されている労働条件等に限り、労組法第7条の使用者に該当するというべきである。

(2)法人の労組法第7条の使用者性について

〔注〕法人は、〔会社からの〕派遣労働者に対して、本船荷役業務、コンテナターミナル業務等の業務を指定して従事させている。本船荷役業務以外の業務に配置された者は、就業場所は固定され、就業時間も派遣労働契約に基づく派遣労働者の所定労働時間と同じ時間に固定されているが、本船荷役業務に従事する者は「日々手配在籍者」等と呼ばれ、法人の手配師により日々手配が行われる。

 法人の日々手配在籍者に対する日々手配は、就業場所、就業開始時刻、就業時間、業務内容といった派遣労働者の基本的労働条件の指定に他ならず、法人は、日々手配により、毎日、派遣労働者の就業場所を指定し、かつ労働者派遣個別契約書や〔平成28年5月頃交付された〕就業条件明示書に記載された所定労働時間の開始時刻と異なる就業開始時刻及びこれに伴う残業時間の有無、長短などを決定し、指示しているのであるから、法人は、派遣労働者の基本的労働条件について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定しているといえる。
 よって、法人は、会社からの派遣労働者であって組合分会の組合員であり、法人作成の手配表において記載された〔本船荷役業務〕者に係る手配について、それらの者の労組法第7条第3号の定める使用者に当たるというべきである。

6 法人が労組法第7条第3号の定める使用者に当たる場合、法人は、各従業員に対する業務の手配において、組合分会の組合員であるA3、A4及びA5とE1組合支部分会らの組合員とを差別したか。法人の当該行為は、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。(争点3(2))

(1)法人の手配師による日々手配は日々手配在籍者のみが対象とされているのであるから、その日々手配において、差別があるか否か、ひいては不当労働行為該当行為の有無を検討すべきこととなる。

(2)そこで検討するに、法人の日々手配において、組合員A3、A4及びA5と、E1組合支部分会らの組合員であるD1、D2、D3との間では、前者には応援業務が手配され、後者にはそれが手配されないという事実が認められ、組合間で異なる取扱いがなされている。
 そして、本船荷役業務では、所定労働時間中の待機時間が発生し、待機時間中は業務から離れていても賃金が支払われること、及び拘束時間が長くなり残業代が発生するという点において、応援業務との間で労働条件の相違が生じていることが認められる。

(3)しかし、拘束時間が長くなることで残業代が発生することが、必ずしも労働者にとって有利となるとはいえないうえ、作業環境の面では、屋根があるところでの作業があるコンテナターミナル業務よりも、屋根がないところでの作業がある本船荷役業務の方が、労働負荷が大きいともいえる。また、労働実態において、本船荷役業務と応援業務のどちらが有利であるとは一概にいうことはできない。
 また、組合が法人や会社に対して、日々手配在籍者の組合員らについて日々手配において応援業務を手配しないよう申し入れたとの主張はされていない。

(4)これらから、日々手配において、法人が、組合分会よりもE1組合支部分会らを優遇する手配を行ったとはいえず、よって、差別したということはできない。
 そうすると、組合間で取扱いを異にする合理的理由の存否を検討するまでもなく、その取扱いの差について労組法第7条第3号の不当労働行為には該当しないと解するのが相当である。

7 法人は、組合らとの関係において労組法第7条第2号の定める使用者に当たるか。(争点4(1))

 平成30年4月30日付けでなされた団交申入れにおける団交事項は、日々手配在籍者についての日々手配における差別であるところ、当該団交事項については、法人が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定している。
 なお、同年6月23日に開催された団交において、会社の役員は、法人による日々手配の決定権限は法人にあり、雇用主である会社には決定権限がないため会社は交渉できないと述べ、手配差別の問題は法人との懇談会で話し合うよう求めているのであるから、組合は法人による手配の問題を会社との間で交渉し解決することができないことは明らかである。
 したがって、法人は、日々手配にかかる団交事項との関係で、労組法第7条第2号の定める使用者に当たるというべきである。

8 法人が労組法第7条第2号の定める使用者に当たる場合、法人は、組合らからの平成30年4月30日付けの団交の申入れを拒否したか。法人の当該行為は、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。(争点4(2))

 組合らは、法人に対し、平成30年4月30日付けで、日々手配在籍者である組合員A3、A4およびA5が(E1組合支部分会らの組合員)D1らと比べて日々手配において差別されていることを議題とした団交を申し入れたところ、法人は、団交ではなく派遣元を交えた懇談会の形で実施することを提案し、同年7月10日に懇談会という形での話合いがなされた。
 団交は、労組法上の使用者は誠実に団交に応じる義務を負い、これを拒否した場合には救済命令の名宛人となるなど、任意の懇談会とはその法的性質が異なるものである。組合は、とりあえずは懇談会でも話合いの場を持つことが望ましいとの判断で懇談会の開催を受け入れた旨を主張しているところ、組合としてそのような考え方のもと、法人から懇談会の形で実施する旨を提案された時点で特に異論を述べず、別途団交を求めなかったからといって、組合が団交の申入れを撤回したということはできない。
 これらのことから、法人は、組合からの団交申入れを拒否したものといわざるを得ず、本件団交事項との関係で、労組法上の使用者と認められる法人が、組合らからの団交の申入れを拒否したことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 
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