労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛媛県労委平成31(不)第1号・令和元年(不)第3号
松山大学不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年2月10日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、(1)専門業務型裁量労働制の下で、休日・深夜勤務の許可制等を根拠に、①勤務許可に関し注意書などを組合員や組合に交付したこと、②休日及び深夜に守衛に研究室を巡回させて利用目的を確認したこと、③制度導入後の割増賃金を支給しないこと、(2)組合員のSNSへの投稿記事について、④常務理事がハラスメント申立てを行ったこと、⑤法人ハラスメント防止委員会がその一部をハラスメント認定したこと、(3)団体交渉に関し、⑥理事長の出席要求に応じなかったこと、⑦専門業務型裁量労働制に係る労使協定締結に当たり、過半数代表者の選出について組合との団体交渉を経なかったこと、⑧専門業務型裁量労働制の在り方、休日・深夜勤務の把握方法及び就業規則変更について説明や資料提供の要求を拒むなどの対応をしたこと、(4)⑨他組合には貸与している事務所や掲示板の貸与を拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛媛県労働委員会は、⑥、及び⑧の一部について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、組合に対し、本命令書写しの交付の日から7日以内に、次の文書を手交しなければならない。(注:用紙の大きさはA4版、文字フォントは明朝体、文字サイズは12ポイント以上とし、年月日は手交の日を記載すること。)

 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1 様

Y法人       
理事長 B1 印
 当法人が行った下記の行為は、愛媛県労働委員会において、不当労働行為と認定されましたので、今後はこのような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)平成30年12月25日、平成31年3月12日、同年4月26日、令和元年7月12日、同年9月5日、同年11月14日、同年12月19日、令和2年2月25日開催の団体交渉において、理事長の出席要求に全く応じず、専ら総務担当の常務理事らに対応させたこと。
(2)令和元年11月14日、同年12月19日、令和2年2月25日開催の団体交渉において、同年4月1日施行の就業規則変更について、資料開示を拒むなどの対応をしたこと。

2 組合のその余の申立ては、これを棄却する。 
判断の要旨  1 法人が、教授A2の平成30年12月5日、同月9日、同月11日、同月13 日、同月14日、同月16日、同月17日及び同月18日の休日及び深夜勤務を許可せず、割増賃金を支給しないことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点1)

(1)専門業務型裁量労働制の有効性

 組合の主張は平成30年労使協定の無効を前提としているが、所管庁である松山労働基準監督署が無効と判断していない以上、法人が同協定を根拠に休日・深夜勤務を不許可とし割増賃金を支給しなかったことは、一応の合理性が認められ、組合活動に対する牽制の意図や嫌悪の表れとまでは認められない。

(2)その他の不当労働行為意思の存在を基礎付ける事実

 教授A2に対する平成30年12月5日ほかの休日・深夜勤務の不許可及び割増賃金の不支給は、①法人がA2ら3名が組合に加入し、又は加入しようとしたことを知った前後を通じて変化はなく、②組合員・非組合員の区別なく適用される事前許可制の結果であって、不当労働行為意思を基礎付ける事実も認められないから、労働基準法上の当否はともかく、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いには該当しない。

2-1 法人が、休日・深夜勤務の許可制を理由に、組合加入以降、教授A3に休日及び深夜勤務に係る割増賃金を支給しないことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点6)
2-2 法人が、休日・深夜勤務の許可制及び管理監督者に該当するという理由で、組合加入以降、教授A4に休日及び深夜勤務に係る割増賃金を支給しないことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点7)

 これら法人の行為は、①組合加入を認識する以前からの取扱いであり、②組合員・非組合員の区別なく適用される事前許可制の結果であることなどから、労働基準法上の当否はともかく、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いには該当しない。

3 法人が、休日及び深夜勤務に関し、教授A2に「12月20日付け注意書」及び「1月30日付け通知書」を交付し、組合に1月30日付け「12月25日開催の団体交渉について」を交付したことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点2)

 これら法人の行為は、①就業規則遵守の注意喚起にとどまるもので、組合員に不利益を課すものではなく、②就業規則を根拠とする合理的な理由に基づくもので、不当労働行為意思を基礎付ける事実も認められないから、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いには該当しない。

4 法人が、休日及び深夜の研究室利用を原則として禁止し、教授A3及び教授A4の研究室に守衛を巡回させるなどして利用目的を確認したことは、研究・教育活動に支障を生じさせたものとして、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点5)

 これら法人の行為は、①教授A2ら3名が組合に加入し、又は加入しようとしたことを法人が認識する前から行われていたもので、②研究・教育活動に支障を生じさせる程度には至らないことなどから、組合員に不利益を課す態様のものではなく、③室内照明がついている研究室を中心に巡回していたに過ぎず、組合員・非組合員の区別なく運用しており、不当労働行為意思を基礎付ける事実も認められないから、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いには該当しない。

5-1 法人常務理事B1が、平成30年12月20日付けほかの教授A2のSNS投稿記事は自らに対するハラスメントであるとして、平成31年3月4日付けでハラスメント申立てをしたことは、法人に帰責されるものとして、教授A2に対する労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点3)
5-2 同行為は、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するか(争点11)

 常務理事B1〔注命令時においては法人理事長〕によるハラスメント申立ては、SNS投稿の組合活動性を完全には否定できないにしても、①一般に自らの権利利益の回復を目的として、所定の制度を用いて解決を図ること自体は、正当な権利行使の方法であり、②教授A2との確執を背景に、SNS投稿による侵害回復を目的に個人的立場において所定の手続を取ったもので、不当労働行為意思を基礎付ける事実も認められないから、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いには該当しない。また、同条第3号の支配介入にも該当しない。

6-1 法人ハラスメント防止委員会が、常務理事B1のハラスメント申立てについて調査・審議し、このうち平成31年2月20日付けSNS投稿記事を令和2年6月8日付けでハラスメント認定したことは、法人の、あるいは法人に帰責されるものとして、教授A2に対する労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点4)
6-2 同行為は、法人の、あるいは法人に帰責されるものとして、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するか(争点12)

 法人は、第三者委員会などによる外部機関を設置し、透明性のある手続を進めれば公平性に対する疑念が生じなかったものと思われるが、法人が、組合員を被申立人とするハラスメント申立てについて、非組合員の場合と同様に手続を進めたことが直ちに不当労働行為に該当するものではない。
 ハラスメント防止委員会によるハラスメント認定は、委員会の構成、調査・審議状況からして、組合員であるが故に不利に取り扱うなどの不当労働行為意思は認められないから、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いには該当しない。また、組合弱体化を図ろうとして行われたものではなく、支配介入意思も認められないから、同条第3号の支配介入にも該当しない。

7 平成30年12月25日(第1回)から令和2年2月25日(第8回)までの団体交渉において、法人が、過半数代表者との平成31年労使協定締結に当たり、過半数代表者の選出について組合との団体交渉を経なかったことは、労働組合法第7条第2号の不誠実団体交渉に該当するか(争点9)

(1)教職員会の労働組合性に関し、同会は、①労働組合とは一線を画して、人員構成、財政的基盤ともに使用者・労働者が一体となって設立された団体というべきであり、②法人における過半数組合又は過半数代表者との間で取るべき労働関係諸法令所定の手続において一定の役割を担っているが、労働組合として位置付けられたものとは認められないことから、労働組合には該当しない。

(2)誠実交渉義務に関し、①法人が、過半数代表者の選出手続について、進んで団体交渉において説明しなかった点にやや配慮に欠けるところは否定できないが、法人に団体交渉を申し入れるべき義務があるとはいえず、②専門業務型裁量労働制に関する協定(以下「平成31年労使協定」)締結に係る過半数代表者の選出手続について交渉事項として明確に申し入れられたのが(平成31年3月27日の)労使協定締結後〔の第3回団体交渉(平成31年4月26日開催)において〕であることを併せ考えると、法人が一方的に第2回団体交渉(同年3月12日開催)の開催日を遅延させて組合の関与を排除したとは認められず、誠実交渉義務違反が生じるとまではいえない。

(3)中立保持義務に関し、①労働組合には該当しない教職員会との間では中立保持義務は生じず、②仮に当該義務を問題にするにしても法人の対応・手続には一応の合理性がある(教職員会に、教職員会推薦委員と選挙管理委員会の立上げを協議するよう依頼しているに過ぎず、団体交渉を申し入れたものではない)から、同義務違反とはいえない。

(4)よって、法人の行為は、誠実交渉義務や中立保持義務に抵触するものではないから、労働組合法第7条第2号の不誠実団体交渉には該当しない。

8 法人が、①休日・深夜勤務の把握方法及び裁量労働制の在り方について(第4回団体交渉)、②常務理事B1からのハラスメント申立てについて(第5回団体交渉及び第8回団体交渉)、③令和2年4月1日施行の就業規則変更について(第6回団体交渉から第8回団体交渉まで)、組合が述べた意見に応答せず、説明や資料開示を拒むなどの対応をしたことは、労働組合法第7条第2号の不誠実団体交渉に該当するか(争点10)

(1)使用者は、単に労働組合の要求を聴くだけでなく、その要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に示し、必要な資料を提示するなどし、最終的に労働組合の要求に対し譲歩できないにしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき誠実交渉義務を負う。
 使用者が誠実交渉義務を尽くしたかどうかは、他方当事者である労働組合の合意に向けた努力、要求の具体性や追及の程度・有無、これに応じた使用者側の回答又は反論の提示、具体的根拠についての説明及び必要な資料の提示の有無・程度等を考慮して、使用者が合意達成の可能性を模索したかどうかにより判断される。

(2)休日・深夜勤務の把握方法及び裁量労働制の在り方についての交渉(第4回団体交渉)

 ①休日・深夜勤務の把握方法については、法人だけが一般論のみで議題の内容につき実質的検討に入ろうとしない交渉態度を取ったとはいえないこと、②裁量労働制の在り方について、過半数代表者を通じて意見を提出できるとの総務部次長B2の回答は、原案作成後も組合との協議を一切行わないという表明とは認められないことなどから、法人が、自らの見解に固執し、誠実交渉義務を怠ったとはいえない。

(3)常務理事B1からのハラスメント申立てについての交渉(第5回団体交渉及び第8回団体交渉)

 団体交渉での説明を拒否し続けたという組合の主張は、ハラスメント調査・審議手続に代えて団体交渉を要求しているというべきである。そして、苦情処理手続は手続的な公正の見地から行われるもので、ハラスメント申立てについてはプライバシーに一定の配慮が必要であることから、進行中の同手続と同様の説明を団体交渉において行わなかったとしても不誠実な交渉態度になるものではない。
 これらのことから、常務理事B1からのハラスメント申立てについて、法人が組合からの団体交渉での説明要求を受け入れなかったことを不誠実な交渉態度ということはできない。

(4)令和2年4月1日施行の就業規則変更についての交渉(第6回団体交渉から第8回団体交渉まで)

ア 組合側が要求している資料は既に教職員として提供しているという理由で資料提供を拒むのは、相手方の理解と納得が得られるような交渉態度という点で欠けるところがあるといわざるを得ず、法人は、組合が要求する資料提供や説明に誠実に応じているとは認められない。

イ なお、法人は、令和2年3月5日の第9回団体交渉に先立ち、教職員説明会で配布済の資料を組合にも提供しており、これとは別に教育職員の労働時間の実態状況、振替休日や年休の取得状況の資料を作成して、団体交渉当日に提供して説明していることが認められるが、翌6日付けで、改正後の就業規則等を4月1日から施行すると通知していることから、適切な時期に資料提供したとはいえず、不誠実な交渉態度が解消したとは認められない。

ウ 中立保持義務については、教職員会が労働組合に該当しないことは前記のとおりであるが、仮に当該義務を問題にするにしても、就業規則変更について、法人が教職員会に団体交渉を申し入れていない以上、組合に団体交渉を申し入れないことが中立保持義務に抵触するものではない。

(5)よって、法人の交渉態度は、令和2年4月1日施行の就業規則変更については、中立保持義務には抵触しないにしても、誠実とはいえないから、労働組合法第7条第2号の不誠実団体交渉に該当する。

9 平成30年12月25日(第1回)から令和2年2月25日(第8回)までの団体交渉において、理事長の出席要求に応じず、総務担当の常務理事らに対応させたことは、労働組合法第7条第2号の不誠実団体交渉に該当するか(争点8)

 代表者以外の者が団体交渉に当たる場合は、組織内の管理・決定権限の配分に応じた実質的な交渉権限が付与されていなければ、誠実な交渉態度とは認められない。単に使用者の意向を組合に伝え、あるいは組合の意向を使用者に伝えるだけに終始し、回答や説明を十分に行っていない場合は、実質的交渉権限は認められないというべきである。
 本件についてみると、法人は、第2回団体交渉の交渉事項の提示前に、理事長は欠席することを通知し、通知後に交渉事項が追加されても改めて出席者を再検討していないなど、交渉事項や進捗状況にかかわりなく、理事長の出席要求に応じる意思がなかったと認められる。加えて、理事長の出席要求に関する限り、法人の意向を組合に伝え、あるいは組合の意向を法人に伝えるだけに終始し、説明を十分に行っていないといわざるを得ず、交渉担当者(総務担当の常務理事ら)に実質的交渉権限があったとは認められない。
 よって、法人の行為は、労働組合法第7条第2号の不誠実団体交渉に該当する。

10 法人が、教職員会に事務所及び掲示板を貸与し、組合には貸与を拒否していることは、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するか(争点13)

 使用者施設の一部を事務所や掲示板として利用するには労使間の合意が必要であるが、使用者は、組合事務所等を組合に貸与するか否か、貸与の条件をどのように定めるかについては、大幅な自由を有する。したがって、互助団体である教職員会と組合とに対する便宜供与に差があっても、著しく不合理な理由など特段の事情がない限り、性格の異なる団体間の取扱いの差であり、直ちに組合の弱体化を図った支配介入であるとまではいえない。
 本件について、法人は、組合と労働組合ではない教職員会とは同様に扱えないとした上で、①組合事務所について、空いている部屋があっても教育研究関係の要望を優先にしていると回答するなどし、②掲示板について、組合以外の労働組合など外部組織の取扱いもあり提供できないと説明するなどしているが、これらの理由には一応の合理性が認められる。
 また、仮に中立保持義務を問題にするとしても、団体の性格、活動内容、構成員数に照らし、教職員会と分会との取扱いの違いには一応の合理性が認められるから、当該義務に反するとはいえない。
 よって、法人の行為は、労働組合法第7条第3号の支配介入には該当しない。 
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