労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第27号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年2月24日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合員A2に対するハラスメント等についての3度の団体交渉に応じたものの、その後の団体交渉の申入れに応じなかったこと、②A2について、組合加入以降、年次有給休暇の削減等の不利益取扱いを行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①の一部について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)団体交渉の場で当事者から直接謝罪させることの是非に関する団体交渉応諾、(ⅱ)文書手交を命じ,その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合からの令和3年4月30日付け団体交渉申入れの項目のうち、団体交渉の場で当該部長に直接謝罪させることの是非に関する団体交渉に応じなければならない。

2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
 X組合
 執行委員長 A1 様
Y会社       
代表取締役 B1
 当社が、貴組合からの令和3年4月30日付け団体交渉申入れの項目のうち、団体交渉の場で当該部長に直接謝罪させることの是非に関する団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

3 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社の組合員A2に対する以下の行為は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか(争点1)

(1)令和3年1月分の給与明細書において19日と記載されていた有給休暇の残日数を、同年2月分の給与明細書において4日と記載したことについて(争点1-2)

ア 令和2年5月期から同3年1月期まで給与や有給休暇の計算業務を行っていたのは組合員A2であり、A2は令和3年2月2日に早退して以降出勤していないのであるから、同年2月期から有給休暇等の計算業務を別の従業員が行うようになり、令和3年1月分の給与明細書に記載されていた「有休残日数」が間違っていると認識したため、この時期に修正することとなったとの会社の主張は、不自然であるとはいえない。

イ 次に、有給休暇の残日数の扱いについてみるに、会社は、令和2年3月19日に労働条件通知書を提示しているが、A2は、その翌日の同月20日に退職届を会社に提出し、同年4月20日まで出勤しておらず、同年3月21日から4月20日までのA2と会社との契約関係については判然としない。
 また、組合と会社との間で当該期間の契約関係について認識の相違があることから〔注〕、有給休暇の残日数の扱いについても主張が対立し、複数回のやり取りを行った後、会社は、令和3年4月23日の書面により、有給休暇の残日数についてはA2の主張どおり「15日」とすると回答している。このことから、むしろ会社は組合の意向を踏まえ、譲歩の姿勢を示しているといえる。

〔注〕組合は「A2は、令和2年3月20日付けでパートタイマーの「退職届」を提出していたが、前日に正社員の雇用契約が成立しているので無意味になっている」旨主張。

(2)令和3年3月に、組合員A2に不払残業代を支払わなかったことについて(争点1-2)

 会社が、3月には組合員A2に不払残業代の全額は支払わなかったことは、A2の組合加入通知以降のことであるものの、A2が同年2月12日までに申請を行っていなかったからとみるのが相当である。

(3)令和3年3月分の給与明細を同年4月14日に組合員A2に送付したことについて(争点1-3)

 組合員A2は、令和3年2月2日に早退して以降出勤していないのであるから、同年3月に支払う賃金がないため、同年3月末時点で給与明細書を交付しなかったとする会社の主張は不自然であるとはいえない。
 また、会社は、同年4月12日の組合の書面による要求に応じ、2日後に組合員A2に対して3月期の給与明細書を郵送し、組合の要求に対して迅速に対応している。

(4)組合員A2の令和3年2月21日から同年3月20日分の傷病手当金の手続を同年4月14日まで行わなかったことについて(争点1-4)

 組合が主張するように会社が傷病手当金と労働災害の申請を重複申請できることを認識していながら傷病手当金の申請手続を放置していたとの具体的な事実の疎明はない。
 また、会社は、令和3年4月12日に組合から書面の提出を受けた2日後には傷病手当金に関する書類をA2に送付するという速やかな対応を行っていることを踏まえると、会社が傷病手当金の手続に関して、A2が組合に加入した旨を通知したことにより嫌がらせを行ったということはできない。

(5)令和3年度の勤務カレンダーを令和3年5月14日に組合員A2に送付したことについて(争点1-5)

 会社は従業員に勤務カレンダーを送付した後、組合から令和3年5月10日に組合員A2に勤務カレンダーを送付するよう文書で要求を受け、数日内にこの要求に対応しており、A2が同年2月2日に早退して以降出勤していない事情も踏まえると、これらのことが、A2の組合加入後に行われた行為であるとしても、会社の行為が不自然とまではいえない。

(6)令和3年4月21日付けで改定された会社の就業規則を同年5月14日に組合員A2に送付したことについて(争点1-6)

 会社が、新就業規則を組合員A2以外の従業員や長期間欠勤をしている他の従業員に対しては個別に配付していたとの事実の疎明はなく、この時期、A2が出勤していなかったとの事情を踏まえると、会社がA2に新就業規則を個別に送付するなどの対応を行わなかったことは不自然とはいえない。
 また、会社は、令和3年5月10日に新就業規則をA2に送付するよう組合から文書で要求を受け、数日内にこの要求に対応している。

(7)これらのことから、上記(1)から(6)までに係る会社の行為は、組合員であるが故の不利益取扱いであるとはいえず、これらの点に係る組合の申立ては棄却する。

2 会社において、以下のような行為が行われたといえるか。いえるとすれば、当該行為は、会社による組合員A2が組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか(争点2)

(1)令和3年3月8日頃、部長B2が、組合員A2が使用していたパソコンを覗き見し、ログインパスワードを変更し、LANを切った行為及びA2の机の中のものを撤去した行為について(争点2-1)

 部長B2が、組合員A2の使用していたパソコンのLANケーブルの一時切断を行ったことが認められるものの、それ以外の行為については、事実の疎明がないことなどから、行われたとみることはできない。
 B2がパソコンのLANケーブルを一時切断したこと行為について、そもそも、A2は同年2月2日に早退して以降出勤しておらず、同年3月8日当時は、当該パソコンを使用していなかったのであるから、当該行為によって不利益が生じたとは考えにくい。
 また、B2が会社所有のパソコンについてLANケーブルを一時切断したことは業務上必要な範囲の行為であった旨の会社の主張は不合理ではなく、当該行為をB2が行ったことのみをもって、A2が甚大な精神的不利益を受けたとの組合の主張には無理がある。

(2)令和3年4月8日頃、管理部長B3が会社の従業員に対し、「組合員A2に連絡の取り合いは禁止」だと指示した行為について(争点2-2)
 令和3年4月8日頃に管理部長B3による当該行為が行われたと認めるに足る事実の疎明はなく、組合の主張も伝聞に過ぎないことから、令和3年4月8日に当該行為が行われたということはできない。

(3)これらのことから、組合が主張する上記(1)及び(2)の会社の行為が行われたということができない、又は、組合員であるが故の不利益取扱いであるとはいえず、この点に係る組合の申立ては棄却する。

3 本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか(争点3)

(1)組合員A2に関する要求事項について、令和3年3月4日、同年4月1日及び同月15日の3回の団交(以下それぞれ「3.3.4団交」、「3.4.1団交」、「3.4.15団交」)が行われたことが認められるが、その後、令和3年4月30日に組合が行った団交申入れ(以下「本件団交申入れ」)に係る団交が、本件申立て時点において、開催されていないことについては争いがない。

(2)まず、本件団交申入れにおける要求事項が義務的団交事項に当たるかについてみる。
 3回の団交後も残っている組合の要求事項が、①ハラスメントの事実確認のために団交に部長B2を出席させること、②B2を懲戒解雇処分にすること、③団交の場でB2からA2に直接謝罪すること、であることについては、当事者間で争いはない。
 そして、要求事項①、②及び③は、ハラスメントの事実を確認することやB2の処分及びA2への謝罪を含め、A2の復帰後の職場環境について協議することを求めるものであり、A2の「労働条件その他の待遇」と密接に関係するものであるといえ、また、使用者にとって処分可能であるから、義務的団交事項に当たるといえる。

(3)そこで、要求事項①、②及び③について会社が団交に応じないことに正当な理由があるかについて、要求事項ごとに検討する。

ア 要求事項①について

 ハラスメントの事実確認のために部長B2を団交に出席させるようくり返し求める組合に対し、会社は、3.3.4団交及び3.4.1団交においては、団交は交渉の場であり、事実確認の場ではない旨、必要な部分は会社で調査する旨等を述べてB2が団交に出席しない理由を説明し、3.4.15団交においては、必要があることは言ってもらえれば本人の回答を聞いて答えている旨などを述べており、部長B2を団交に出席させない理由を、会社は一定説明している。
 加えて、会社は、当該団交が行われていた期間において、従業員からの聴取りやアンケートを行い、3.3.4団交において組合が提示した資料で記載のあった項目について、令和3年3月18日の書面により回答するなど、部長B2によるハラスメントの事実確認について、一定対応している。
 これらのことから、要求事項①に関して、組合と会社との主張は対立し、平行線をたどっており、これ以上の進展は見込めなかったといわざるを得ない。したがって、会社が団交に応じなかったことにつき、正当な理由があるといえる。

イ 要求事項②について

 3.3.4団交において、組合が、B2の懲戒解雇を求めたことに対し、会社は、令和3年3月18日の書面において、B2のハラスメント行為を一部認めた上で、就業規則に基づき出勤停止処分を検討している旨回答し、また、3.4.1団交において、B2の処分については出勤停止3日を予定している旨回答している。さらに、組合が、令和3年4月4日の書面において、出勤停止3日は軽すぎる旨主張し、3.4.15団交においても、B2の懲戒解雇を求めたところ、会社は、就業規則上の処分項目を挙げ、今までの会社の処分の状況を説明した上で出勤停止3日と決めた旨述べている。これらのやり取りから、会社は当該処分を行った理由について一定説明しているといえる。
 また、会社は、同年4月23日の書面において、同種の件に関する最高裁判所判例等に照らし、会社が認めたB2によるハラスメントの内容では同人を懲戒解雇にすることはできない旨回答するなど、団交での説明に加えて一定の対応を行っている一方で、組合は、一貫してB2の懲戒解雇を求めているといえる。
 以上のとおり、要求事項②に関して、組合と会社との主張は対立し、平行線をたどっており、これ以上の進展は見込めなかったといわざるを得ない。したがって、会社が団交に応じなかったことにつき、正当な理由があるといえる。

ウ 要求事項③について

(ア)組合が、会社に対し、B2から組合員A2に直接謝罪することを求めたのは、3.4.15団交であるところ、その場では、会社は、まずは書面で回答する旨述べたのみで、以降組合と会社との間で団交は開催されていないことから、当該要求事項について、会社は、団交において回答や説明を一切行っていないといえ、それ以上の進展は全く見込めない状況に至っていたとはいえず、団交に応じない正当な理由とはならない。
 会社からの代替案〔B2からの謝罪について、第三者を加えた紛争解決の場で行いたい旨〕やB2を団交の場で謝罪させることができない理由等については、本件団交申入れを受けて開催される団交において説明をすべきことであり、これらの書面のやり取りのみをもって、団交に応じない正当な理由にはなり得ない。
 なお、会社は、組合の一番の要求事項である要求事項①と切り離しB2による謝罪は不可能とみられた旨も主張するが、会社がそのように考えたことをもって団交に応じなくてよいことにはならない。

(4)これらのことから、本件団交申入れのうち、要求事項③にかかる会社の対応は正当な理由のない団交拒否であって、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 
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