労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第37号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年1月30日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①業務中に負傷し休業補償給付申請期間中であった組合員A2について、会社で就労したことが詐欺行為である等として解雇したこと、②組合員A3及びA4に対し始業時間を指示したこと、③組合員A3、A4、A5及びA6に対し土曜日の勤務を命じなかったこと、④A3及びA4の主任の任を解いたこと、⑤会社役員及び従業員らが、組合員らに対し、組合からの脱退を勧奨し、別組合に勧誘したこと、⑥会社主導で別組合を結成したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①、③及び④について労働組合法第7条第1号、⑤の一部について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A3ら4名に対する土曜日の就労により得られたであろう賃金相当額の支払い、(ⅱ)A3ら2名に対する主任の解任がなかったものとしての取扱い及び役付手当相当額の支払い、(ⅲ)文書手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、申立人組合員A3、同A4、同A5及び同A6に対し、令和2年4月以降、再度土曜日の就労を命じられるまでの間、土曜日の就労により得られたであろう賃金相当額を支払わなければならない。

2 被申立人は、申立人組合員A3及び同A4に対し、令和2年5月1日付けで主任の任を解いたことがなかったものとして取り扱い、同人らに対し、主住の任を解かなければ同人らが得られたであろう役付手当相当額を支払わなければならない。

3 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
 X組合
 執行委員長 A1様
Y会社      
代表取締役 B1
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)令和2年2月17日付けで、貴組合員A2氏を解雇したこと。(1号該当)
(2)貴組合員A3氏、同A4氏、同A5氏及び同A6氏に対し、令和2 年4月以降、土曜日勤務を命じないことで、同人らに就労時間の減少に伴う収入 減額が生じたこと。(1号該当)
(3)令和2年5月1日付けで、貴組合員A3氏及び同A4氏の主任の任を解いたこと。(1号該当)
(4)令和2年5月18日の面談において、元当社従業員1名に対し、反組合的な言動をしたこと。(3号該当)

4 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、令和2年2月17日付けで、組合員A2を解雇したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか(争点1)

(1)会社は遅くとも令和2年1月16日団体交渉以降、A2が組合員であることを知っており、また、同年2月17日付けA2の解雇(以下「本件懲戒解雇」)に係る通知以前における労使関係の状況は、相当程度先鋭化し過熱していたといえる。
 加えて、従業員Eとの同年5月18日面談における会長B2の発言から、B2に組合嫌悪意思が推認される〔後出9参照〕。

(2)会社は、組合員A2の懲戒解雇理由として、①就業規則の懲戒解雇事由に該当する労災保険に対する休業補償給付申請(以下「本件給付申請」)に関する詐欺行為の問題、②同じく、無断副業の問題、③管理職会議後の宴会の席での恐喝行為の問題を主張することから、以下、各解雇理由について具体的に検討する。

ア 解雇理由①(「本件給付申請に関する詐欺行為の問題」)について

(ア)組合員A2は、令和元年12月21日、業務中に左肘を負傷したこと、同月23日、病院で受診したこと、その後、会社に架電し、労災として休業する旨述べたところ、会社は、就業規則の規定に基づき、怪我が治癒するまでの休業を許可したこと、同月25日から31日までの日曜日を除く6日間、A2は会社で就労し、日当の支払を受けた。

(イ)これについて会社は、組合員A2は本件給付申請をするということでタイムカードに打刻をせず就労し、その後本件給付申請を行っていることは事実であり、これは少なくとも詐欺未遂に当たる行為である旨などを主張する。
 しかしながら、会社がかかる主張をするのであれば、同組合員が本件給付申請を行ったことを立証すべきであったところ、これについての具体的な疎明はない。

(ウ)また、組合員A2が同月25日から31日までの6日間就労することに関して、取締役B3が事前に少なくとも承知していたことについては当事者間に争いがない。したがって、仮にA2が上記就労前後に本件給付申請を行っていたとしても、就労については会社が承知していたと認められる余地があり、そうであるとすれば、A2の就労の事実をもって懲戒解雇することは、重きに失するといわざるを得ない。

(エ)しかも、令和2年2月17日の組合員A2との面談(以下「2.2.17面談」)において会長B2は、A2が労働基準監督署から尋ねられたら自ら事実を説明する旨、組合と相談する旨述べたことも考慮せず、A2が本件給付申請をしながら就労したことは明確な詐欺罪に当たる旨、これは忠告ではなく、解雇通告するための事情聴取である旨を一方的に述べ、同日、同組合員に対し解雇通知書(以下「2.2.17解雇通知書」)を発しており、会社主張の事実やA2と取締役B3とのやり取り等について詳細な調査を行った事実は認められない。

(オ)これらを併せ考えると、会社が、本件給付申請の経緯が刑法犯罪行為である詐欺に当たると客観的な根拠に基づき判断したとみることは困難である。にもかかわらず、本件給付申請の経緯が詐欺行為に当たると即断し、はじめてA2にこの件について面談を行った2.2.17面談において解雇する旨述べ、同日付けで懲戒解雇とした会社の行為はあまりに拙速であり、解雇理由①は本件懲戒解雇の正当な理由としては認められない。

イ 解雇理由②(無断副業の問題)について

 組合員A2は会社入社以前から、大阪市内の飲食店において、土曜日及び祝日の会社業務終了後と休日である日曜日の全日、アルバイトに従事しており、部長B4はこの副業を認めていた。上司のB4が認めていた以上、会社に無断で他の職業に就いたとはいえず、解雇理由②は本件懲戒解雇の正当な理由としては認められない。

ウ 解雇理由③(管理職会議後の宴会の席での恐喝行為の問題)について

 会社は、管理職会議後の宴会の席での恐喝行為についても解雇理由の一つである旨主張する。しかし、会社は、2.2.17面談において、組合員A2に対し、当該恐喝行為が解雇理由であると伝えていないこと、2.2.17解雇通知書には、当該恐喝行為が解雇理由として記載されていないこと、当該恐喝行為の発生時期は令和元年12月7日で、本件懲戒解雇に係る2.2.17面談及び2.2.17解雇通知書交付日の2か月以上前であることに照らし、本件懲戒解雇時点において、会社が解雇理由③を解雇理由の一つであるとみなしていたとみるのは困難である。よって、本件懲戒解雇の正当な理由としては認められない。

(3)次に、本件懲戒解雇の手続についてみる。
 一般に、従業員に対して懲戒解雇を行う場合、処分の対象者に対して、処分の根拠となる事実について、事実確認のための事情聴取を行い、弁明の機会を与えることが、使用者としての通常の対応であるところ、会長B2は2.2.17面談において、同面談が解雇のための事情聴取である旨述べたことが認められる。
 そして、会社は、組合員A2の解雇理由として、上記①から③までの問題を主張するところ、2.2.17面談においては、A2が令和元年12月末に会社で就労していたことについての経緯及び本件給付申請に関するやり取りに終始し、A2の副業や管理職会議後の宴会の席での恐喝行為に関するやり取りは一切なかった。また、2.2.17面談以前に同組合員に対し本件給付申請についての事実確認をするための事情聴取を行うことなく、面談の同日に2.2.17解雇通知書を交付しているのであるから、会社はA2に対し、弁明の機会を与えたとみることはできない。
 よって、本件懲戒解雇を行うに当たり、その手続が適切に行われたとみることはできない。

(4)以上を総合的に判断すると、本件懲戒解雇は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

2 会社が、令和2年3月24日以降、組合員A3及び組合員A4に始業時間を指示したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか(争点2-1)

(1)①会社の配車係である課長B5は、組合員A4に対し計12回、組合員A3に対し計13回、次回出勤日、出勤時刻等を記載したメールを送信したこと、②同年5月8日付け組合要求書には、組合員のみ出勤時間を変動させる取扱いは不利益取扱いであり直ちに停止するよう求める旨等が記載されていたことが認められる。

(2)組合は、組合結成前から現在において、組合員以外で始業時間を遅くする具体的な指示を受けた者はおらず、幹部組合員を狙った差別的取扱いであるなどと主張する。
 しかしながら、そもそも会社が従業員に対し、始業時間を指示することは当然あり得ることである。また、送信したメールの内容そのものは連絡に留まる程度のものであって、勤務日の前営業日に送信したことが、業務上必要な範囲を超え組合員に不利益を与えたとまでいうことはできない。
 よって、会社の行為は、組合員A3及びA4に対する不利益取扱いであるということはできない。

3 会社が、令和2年4月以降、組合員A3、組合員A4、組合員A5及び組合員A6に土曜日勤務を命じないことで、同人らに就労時間の減少に伴う収入減額が生じたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか(争点2-2)

 会社においては土曜日勤務による残業が恒常的に行われ、労働者においてもこれによる賃金を経済的利益として期待していたことが認められることから、組合員A3、A4、A5及びA6に対し、土曜日勤務が命じられなくなった結果、残業手当が減額されたことは不利益な取扱いといえる。
 会社は、組合からの週40時間以上は働かないという要求に従って、土曜日勤務を命じない取扱いをした旨主張するが、いつ、どのような場で、組合から要求があったのかについて、会社から具体的な事実の疎明はない。また、組合は、令和2年5月8日付け組合要求書において、土曜日出勤に関して組合員に対する不利益取扱いを直ちに停止するよう求めたことが認められる。
 したがって、組合員には土曜日に就労する意思があったにもかかわらず、会社は、組合員であるという以外の理由なくして土曜日の勤務を命じない取扱いをし、これにより、組合員の収入が減額したものであるから、会社の行為は、組合員であるが故をもってなされた不利益取扱いであったといえ、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

4 会社が、令和2年5月1日付けで、組合員A3及び組合員A4の主任の任を解いたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか(争点3)

(1)組合員A3及び組合員A4が組合員であり、A3が分会結成当初分会長であったことなどが認められる。

(2)会社は組合員A3及び組合員A4の主任の任を解いた理由について、同人らは主任としての業務をすることがないなど、他の一般のドライバーに対する模範となる行為を取っておらず、特にA3は遅刻が多く、一般のドライバーとしても問題のある行動をとっていたから主任の任を解いたものであって、組合員であるが故のものではないなどと主張する。
 しかし、①これらは、会社が令和2年7月15日団体交渉において述べた降格理由とは異なること、②A3は継続して皆勤手当を支給されており、遅刻が多かったとする会社の主張は信用できないこと、③会社が①の団体交渉で述べた降格理由について事実の疎明がないことなどからすると、会社は、具体的な行為を特定し、客観的な根拠に基づいて両組合員の主任の任を解いたとは到底いえない。

(3)以上を総合的に判断すると、会社の行為は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

5 令和2年1月中旬に部長B4及び課長B6が非組合員を含む従業員に対して行った言動は、会社による組合に対する支配介入に当たるか(争点4-1)

 ①令和2年1月中旬、部長B4及び課長B6が、複数の従業員に対し、組合加入の有無及び組合員であるかについて確認したこと、②B4は令和2年2月7日団体交渉において、従業員に対し組合員であるか否かを聞いたことはある旨、この行為が不当労働行為に当たることは知らなかった旨、そうであれば謝罪し、以後はないようにする旨、B6も同じである旨述べたこと、が認められる。
 しかし、B4及びB6の行為について、組合の運営を支配若しくは介入するために会社から何らかの指示等があったとの具体的な事実の疎明はなく、上記の事実のみでは、かかる指示があったとする組合主張を採用することはできない。よって、組合に対する支配介入であったとまではいえない。

6 令和2年1月29日に係長B7が組合員A7に対して行った行動は、会社による組合に対する支配介入に当たるか(争点4-2)

 令和2年1月29日、係長B7は、組合員A7に対し、組合員であるかを尋ねたことが認められる。
 しかしながら、B7の言動を会社に帰責させるには、会社の指示、会社との通謀等の事実が必要であるところ、そのような事実を認めるに足る疎明はなく、また、B7は別組合の委員長であったことが認められるが、同じ職場の従業員や組合員に対し、委員長が自分の組合に加入するよう勧誘活動することは通常の組合活動であるといえる。よってB7の行動は、会社による組合に対する支配介入には当たらない。

7 令和2年1月30日に従業員Cが行った組合に関する言動は、会社による組合に対する支配介入に当たるか(争点4-3)

 令和2年1月30日、非組合員である従業員Cは、組合員A7〔から同人〕に関する話を聞いたことが認められるが、CとA7が実際どのようなやりとりをしたのか、具体的な事実の疎明がなく判然とせず、上記の事実のみでは、Cの行動が労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為ということはできない。

8 令和2年4月下旬、従業員Dほか1名は、組合員A6に対して組合に関する言動を行ったか。行ったとすれば、当該行為は会社による組合に対する支配介入に当たるか(争点4-4)

 令和2年4月下旬に、A6とDが組合活動について何らかのやりとりをしたとの事実を認めるに足る疎明はないことから、組合の主張は採用できない。

9 令和2年5月18日に会長B2が非組合員に対して行った言動は、会社による組合に対する支配介入に当たるか(争点4-5)

 従業員Eとの令和2年5月18日面談における会長B2による非組合員である従業員Eへの発言は、組合員A3に親しいと思われる従業員に対し、組合への加入や組合活動は会長の意向に背く行為であるという認識を持たせ、組合に反対の立場を取らなければ何らかの不利益取扱いがあることを示唆するものであり、また、実際に会社は、面談後、Eの主任の任を解いたのであるから、当該B2の発言と、その後の行動は、B2の組合嫌悪意思を推認させ、非組合員である従業員に組合への関与を躊躇させ、引いては組合組織の弱体化をもたらすものであるといえる。
 したがって、B2の言動は、組合に対する支配介入であり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

10 会社は、別組合の結成を主導したといえるか。いえるとすれば、当該行為は会社による組合に対する支配介入に当たるか(争点5)

 別組合については、どのような経緯でいつ結成されたのか明らかではなく、さらに、別組合の結成を会社が主導したと認めるに足る具体的な事実の疎明はないことから、組合員A3宛てに短期間に計11通の組合脱退届が提出されたことや、従業員Eとの令和2年5月18日面談における会長B2の発言のみをもって、組合の脱退と別組合加入の働きかけが会社ぐるみの組織的なものであったとまでみることはできない。これらのことから、会社は、別組合の結成を主導したとはいえない。 
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