労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  埼玉県労委令和元年(不)第2号
丸八ホールディングス不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年3月30日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、組合(会社の孫会社である申立外C会社と委託販売契約を締結した者が結成した労働組合(以下「支部」)の上部団体)が申し入れた団体交渉を拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 埼玉県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 労組法第7条の「使用者」について

(1)雇用主以外の者であっても、当該労働者の基本的な労働条件等に対して、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していると言える者は、その限りにおいて労組法7条にいう「使用者」に当たると解するのが相当である。
 親会社と子会社の労働者・労働組合との関係及びこれに類するもの(以下「親子会社類型」)においても、子会社の労働者の基本的な労働条件等につき、現実的かつ具体的に支配・決定できる地位にある場合には、その限りにおいて、子会社のみならず親会社も、同条にいう「使用者」に該当するものというべきである。
 そして、上記の地位にあると言えるためには、親会社が子会社を完全子会社にするなど、親会社が子会社に対し、強い経済的支配力を有していることが必要である。

(2)子会社に企業としての実体がなく、独立した存在であると認められないならば、上記(1)の支配力を判断することは不要であり、親会社と子会社従業員との間に直接の指揮命令関係や使用従属関係、親会社の組織への組入れがあるか否か等を判断すれば足りる。
 一方、子会社に企業としての実体があり、独立性が認められる場合において、親会社の労組法第7条の使用者性を認めるためには、その理論的前提として、まず、子会社につき同条の使用者性が認められることが必要である。

(3)それが認められる場合において、親会社にも同条の使用者性が認められるためには、親会社が上に述べた強い経済的支配力を背景に、子会社の経営に対して支配できる地位にあり、子会社の労働者の基本的な労働条件等につき、現実的かつ具体的に支配・決定できる地位にあることが必要となる。
 その判断に当たっては、様々な事実を総合的に考慮することとなるが、親会社が子会社の労働者の基本的な労働条件等につき、実際に自ら決定していたか、少なくとも明示又は黙示の承認の下に、その決定を子会社に委ねていたかどうかが重要な要素として考慮されなければならない。

(4)最後に、上記の労働条件等が団体交渉事項となり、親会社に対し、団体交渉が求められていることが必要である。

(5)以上の要件が満たされている場合に、団体交渉事項について親会社につき子会社とともに労組法第7条の使用者性が認められるというべきである。

2 本件についての検討

(1)上記に見た親子会社類型が、本件についても妥当するかについて、以下検討する。

(2)まず、C会社が、〔中間統括会社〕D会社の完全子会社であること及びD会社が会社の完全子会社であることから、会社が、D会社を通して、C会社に対し、強い経済的支配力を有していたことが認められる。
 次に、C会社が、本店及び支店を設け、独自に営業活動を行っていること、並びに組合及び支部とC会社が約20回にわたって団体交渉を行っていることから、C会社は、企業としての実体があり、親会社から独立した存在であるものと認められる。
 また、支部組合員が、C会社との関係において、労組法上の労働者であることについて、両当事者に争いはない。

(3)以上から、会社は、その有する強い経済的支配力を背景に、C会社の経営に対して、少なくとも支配しうる地位にあったことが、認められる。
 よって、会社が、組合から申し入れられた団体交渉の議題について、強い経済的支配力を背景に、自ら支部組合員の労働条件等を決定していたか、少なくとも明示又は黙示の承認の下にその決定をC会社に委ねていたかについて、以下検討する。

3 本件団交事項について

(1)本件の団体交渉事項は、平成30 年12 月25 日付け団体交渉申入書等に記載された以下の議題のとおりである(以下「本件団交事項」)。
ア 支部の組合員への偽装請負をやめ、労働者としての権利を保障すること。
イ 事務手数料など経費を控除しないこと。
ウ これまで会社が不当に得た経費を組合員に支払うこと。
 そして、組合は、上記アに係る具体的な議題は、①保証金の全額返還、②テリトリー制(エリア制)、③上納金と賞金カッ卜の三点であると主張する。

(2)本件団交事項アは、正に〔平成28年9月29日の第1回団体交渉申入れ等における要求事項である〕「93社員〔注 C会社と委託販売契約を締結した者の呼称〕を正社員化すること」そのものであると言える。また、上記①、②及び③は、団体交渉を実際に行った場合に交渉内容となり得るものを示しているにすぎないものと解される。そして、本件団交事項イ及びウは、正社員であれば負担する必要のない経費に関する事項であって、本件団交事項アである「93社員を正社員化すること」に付随したものであり、本件団交事項アと分離し得ない関係にある。
 これらから、本件団交事項アが本件団交事項の主たるものであり、本件団交事項は、形式的には三項目であるが、結局、「93社員を正社員化すること」に集約される。
 組合は、本件の団体交渉によって、「93社員を正社員化すること」につき、その実現を求める具体的な相手方はC会社であるべきところ、会社がC会社に対して有する強い経済的支配力から、会社による解決を求めたものであると解される。

4 本件団交事項における会社の使用者性について

 次に、会社が、本件団交事項につき、使用者と言えるかにつき、検討する。
 この場合、上記3(2)から、本件団交事項の趣旨は、93社員の正社員化であり、本件団交事項アに集約される(本件団交事項イ及びロを独立した団体交渉事項として解したとしても、組合はこれらに関して会社の使用者性について主張立証していない)。

(1)本件団交事項における会社の使用者性について

 C会社が労組法第7条の使用者に当たることについては、当事者間に争いはない。そうすると、93社員の正社員化という点につき、会社が、支部組合員に対し、実際に自ら労働条件等を決定していたか、少なくとも明示又は黙示の承認の下にその決定をC会社に委ねていたかどうかが問題となる。
 この点につき、組合は、①保証金の全額返還、②テリトリー制(エリア制)、③上納金(経営指導料)と賞金カッ卜について、会社が決定し、また、会社のみが解決できることなどを主張するが、会社は、①、②、③のいずれについても、支部組合員に対し、実際に自ら労働条件等を決定していたか、少なくとも明示又は黙示の承認の下に、その決定をC会社に委ねていたとは認められない。
 したがって、93社員の正社員化という本件団交事項における会社の使用者性については、これを認めることはできない。

(2)その他組合が本件団交事項との関連を主張する事項

 組合は、このほか、iPadや訪問販売管理規程等による支部組合員への会社の業務管理及び指示などについても、本件団交事項に関連する事項であると主張するが、(1)と同様の理由により、本件団交事項における会社の使用者性を認めることはできない。

5 よって、本件団交事項のいずれについても、会社は、労組法上の使用者に当たると言えず、組合が申し入れた本件団体交渉に対し、会社が応じなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。 
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