労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  長崎県労委令和2年(不)第1号
佐世保市不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  佐世保市(市) 
命令年月日  令和5年4月18日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が市に対し、①子育て支援センター(市立保育所)の3か所から2か所への見直しに関する団体交渉及び②環境部の2つの課の組織改編に係る清掃指導員の減員に関する団体交渉を申し入れたところ、市が管理運営事項であることを理由として拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 長崎県労働委委員会は、いずれの事項についても、それ自体は管理運営事項であって、団体交渉の対象ではないが、職員の労働条件等に関連する事項に影響を及ぼす限りにおいて団体交渉事項となるなどとした上で、市の対応について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、市に対し文書交付を命じ、さらにその余の申立てを棄却するとした。 
命令主文  1 市は、組合に対し、本命令書受領の日から2週間以内に、下記の文書を交付しなければならない。
令和 年 月 日
X組合
執行委員長A1様

佐世保市   
市長 B1
 貴組合が当市に対して令和2年3月16日付けで申し入れた「佐世保市子育て支援センター(佐世保市立保育所)の3か所から2か所への見直し」及び「環境部(廃棄物指導課・廃棄物減量推進課)の組織改編にかかる清掃指導員の減員」についての団体交渉に当市がそれぞれ管理運営事項に当たるとして応じなかったことが、長崎県労働委員会から不当労働行為に該当すると認定されました。
 今後は、このような行為を繰り返さないようにいたします。

2 組合のその余の請求を棄却する。
判断の要旨  1 本件の争点

①「市子育て支援センター(市立保育所)の3か所から2か所への見直し」に関する令和2年3月16日付けの団体交渉申入れに対する市の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点1)

②「環境部(廃棄物指導課・廃棄物減量推進課)の組織改編にかかる清掃指導員の減員」に関する令和2年3月16日付けの団体交渉申入れに対する市の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点2)

2 用務調理員及び清掃指導員に対する労組法の適用について

 C保育所に勤務する用務調理員及び環境部に勤務する清掃指導員は、いずれも地方公務員法(以下「地公法」)第57条の「単純な労務に雇用される者」に該当するものとして、地方公営企業労働関係法(以下「地公労法」)附則第5項の「……労働関係その他身分取扱いについては……この法律……の規定を準用する。」旨の規定の適用を受ける。そして、地公労法第7条但書により「地方公営企業等の管理及び運営に関する事項は、団体交渉の対象とすることができない。」とされている。

3 地方公共団体の管理運営事項について

(1)地公法第55条第1項及び第3項の規定に関し、職員団体から、地方公共団体の管理運営事項に係る事務と密接に関連する職員の勤務条件に関する事項について団体交渉の申入れがあった場合における、地方公共団体の当局の対応が問題となる(なお、本件は直接には地公労法第7条但書の問題であるが、同規定は地公法第55条第3項と同旨である)。
 この点に関し、例えば橋本勇著「新版逐条地方公務員法(第5次改訂版)」の974頁以下には、「交渉の意義」について「労使間の意思疎通にはさまざまな方法があ……るが、交渉はその意思疎通のためのもっとも有力な方法である。……交渉が持つこのような積極的な意義を理解するならば、地方公共団体の当局は交渉を通じて職員の理解と協力を求めるよう努力すべきものであり、そのような態度を基本とすることによって、職員の労働基本権の尊重と人事管理の民主化とが実現されることになるのである。」と、また、「交渉の対象とすることができない事項」について「地方公共団体の管理運営事項は、法令に基づき、地方公共団体の機関が自らの責任で処理するよう定められているものであり、これを職員団体と交渉して決めるようなことは法治主義に基づく行政の本質に反するといわなければならない。」と、さらに、「管理運営事項と勤務条件とが密接な関連を有する場合」について「……要するに、管理運営事項の処理の結果、影響を受けることがある勤務条件については、それが勤務条件である以上、交渉の対象となるものであり、また、勤務条件に関する交渉の結果、管理運営事項について措置をする場合もあり得るのである。職員団体は、勤務条件について交渉を行えば必要かつ十分であって、それと関連があるからといって管理運営事項に介入することはできず(東京高裁平20.2.27判決)、その処理はもっぱら地方公共団体の責任において処理しなければならない。」と解説されている。
 これは、一方で、管理運営事項と勤務条件とが密接な関連を有する場合であって、管理運営事項の処理により影響を受けることがある勤務条件については交渉の対象となるとし、他方で、勤務条件について交渉を行えば必要かつ十分である(管理運営事項に介入することはできない)として、労使の利害の均衡を図りながら、人事管理の民主化を実現するのに資する解釈であり、地公法第55条の法理についての至当な解釈と解される。

(2)これを本件の争点1の案件についていえば、3か所ある市子育て支援センターを2か所に減ずること自体は管理運営事項であって、団体交渉の対象ではないが、職員の労働条件の変更と密接不可分の関係にあると認められるから、その処理の結果が職員の労働条件等に関連する事項に影響を及ぼす限りにおいて団体交渉事項となり、それに関して団体交渉を拒めば、団体交渉義務違反の問題が生じ得るのであり、したがって、争点1は管理運営事項の処理の結果と労働条件の変更との兼ね合いにおいて判断されなければならない。
 争点2の環境部(廃棄物指導課・廃棄物減量推進課)の組織改編についても、同様である。

4 争点1について

(1)市が平成30年11月28日に組合にした提案(3か所ある市子育て支援センターを2か所に減じ、C保育所を委託化又は民営化することなど)の処理により、少なくともC保育所勤務の用務調理員の配置換えが確実視され、それに伴って労働条件が変わる可能性は大きく、また、存続する2保育所の保育士及び用務調理員の完全週休2日制実施も確実視されたから、その範囲で団体交渉事項が存すると認められる。したがって、この案件が提案とともに団体交渉案件とされ、即日団体交渉が開始されたことは、相当であった。

(2)団体交渉は、平成30年11月28日から平成31年2月18日までの間に9回実施されたが、そこで行われた協議は、全体を通じて、提案が「市公立保育所の新たなあり方検討委員会」(以下「ありかた検討委員会」)の提言を踏まえた適切なものであるか否かにあり、団体交渉事項たる労働条件変更等の事項にまで至ることはなかった。したがって、継続案件とされたことはやむを得ないことであり、その後の団体交渉による目的の達成が期待された。

(3)しかし、その後令和元年12月6日付け「C保育所見直しに係る資料」をもって変更されるまで、提案にも、それに纏わる労働条件等にも変更はなく、団体交渉事項が存していたのに、団体交渉は行われなかった。その原因は、自ら再開しようとせず、組合の申入れにも応じようともしない市当局側の姿勢にあることは明らかで、当局側の団体交渉拒否と解する外ない。

(4)市は、上記(3)の資料をもって、平成30年11月28日の提案を変更したが、その重要な相違点は、①実施時期を令和3年4月1日としたこと、②「用務調理員の完全週休2日制の実施」の記載がなかったことの2点であった。
 ①は純粋に管理運営事項に属し、②は職員の労働条件に関する事項すなわち団体交渉事項であったが、②をこの段階で削除する理由はなく、時間のかかる団体交渉をこの時点において回避するなどの意図のもとに考え出されたと解される。
 結局、団体交渉事項が存在する状況に変わりはなく、この間に団体交渉が開催されなかったことについても当局側の団体交渉拒否と解する外ない。

(5)本件救済申立ての時点における団体交渉事項は、①用務調理員の配置転換に伴って変更する可能性のある労働条件と②完全週休2日制の実施に伴って変更される労働時間であったところ、①については、令和3年4月1日に提案が実施されたことによって、提案に纏わる労働条件等が明らかとなり、②については、同年2月24日の団体交渉によって妥結したことから、団体交渉事項の存在は解消し、団体交渉を行う必要はなくなった。

5 争点2について

(1)市が令和元年12月6日の事務折衝において組合に交付した「環境部見直しに係る資料」に関し、清掃指導員1名減は管理運営事項であるとしても、その執行により、減員となる職員が負担していた業務は他の職員の負担に移行する可能性があり、その限りで団体交渉事項が存すると認められる。

(2)上記(1)の事務折衝から翌2年3月末日〔注この案件の実施の前日〕まで、環境部の組織改編が管理運営事項であり、これ自体及びこれに関連する事項については団体交渉に応じないとする市当局の姿勢は強固であり、市が団体交渉に応ずることはなかった。
 その間、組合が質問や団体交渉申入れの文書を提出し、市が文書ないし事務折衝で回答したが、その折衝は団体交渉ではなく、それによって団体交渉事項が解消することはなかった。

(3)令和2年4月1日に本案件が実施されたが、従前の廃棄物減量推進課指導啓発係不法投棄班(の清掃指導員)4名のうち、指導啓発係に配された1名は、前任者の業務を引き継いだに過ぎず、業務の変動はなく、団体交渉の必要性は解消した。
 また、新設の不適正処理事案対策室に配された3名については、従前の業務の範囲内の軽微な追加に過ぎないと解され、また、組合が立証をしないことが確定したことにより、労働条件の変更といえるほどの勤務時間の増加はないということで決着した。
 したがって、団体交渉事項が存在するという状況は、遅くともその時点では解消していたと解するのが相当である。

6 団体交渉正常化の道筋について

 4及び5で検討したとおり、団体交渉の必要性は、争点1、争点2いずれの案件についてもすでに解消したと認められるが、管理運営事項とこれに密接な関連性を有する勤務・労働条件に関する団体交渉の必要性については、労使の考え方が妥協の余地のない程度に厳しく対立したままであり、これを放置するにおいては、同様ないし類似の事案において本件と同様の争いが蒸し返される可能性が大きいと危惧される。
 そこで、当委員会は、本件を解決し団体交渉正常化の道筋を立てるべく、市に対し、組合の団体交渉申入れに対して市が執った対応が不当労働行為に該当することを明記した文書を組合に交付することを命ずるのを相当と判断する。

7 当事者の主張について

(1)市当局の主張について

ア 市は、団体交渉の状況について、管理運営事項についての話のみに終始し、組合から職員の勤務・労働条件について説明を求められたことはなかった旨を主張する。
 確かに、実施された団体交渉において、労働条件についての協議が行われていないのは事実であるが、①提案と「あり方検討委員会」の提言との整合自体は管理運営事項であるとしても、その協議は最重要事項であったこと、②当局側出席者に提案に携わった関係者がおらず、説明に多くの時間が費やされたことに主たる原因があること、③団体交渉での協議自体における組合の姿勢に問題は認められないこと、④組合が労働条件についての協議を殊更に回避していたとは認められないことなどの諸事情が認められ、市の主張には理由がない。

イ 継続案件となった後に市が採用した「見直し協議」の見直しの考え〔注〕は、地公法第55条第3項と第1項との関係等について、上述した法理(上記3)の理解を欠くものであって、管理運営事項と職員の勤務・労働条件とが密接な関連を有する場合に通用するものではない。

〔注〕管理運営事項については、職員組合との協議を経ることなく市当局の責任の下実施し、必要に応じ、文書により説明する(「見直し協議」は行わない)旨

(2)組合の主張について

 組合は、市が従前行っていた管理運営事項に関する団体交渉を「『見直し協議』の見直し」の考え方に基いて拒否するようになったことを労使慣行違反とするが、市の団体交渉拒否は、市に労使慣行違反が認められるか否かに関わりなく認められるのであるから、組合の当該主張について検討する必要はない。
 また、組合は、用務調理員の配置転換を必要的団体交渉事項としているが、配置転換そのものは管理運営事項と解されるから、組合の当該主張は採用できない。 
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