労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和3年(不)7号
橘学苑不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年10月28日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①組合員A2及び組合員A3に対する停職処分を行ったこと、②A2及びA3に対する諭旨退職処分を行い、その後、懲戒解雇処分を行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、②について労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(i)組合員A2及びA3に対する諭旨退職処分及び懲戒解雇処分がなかったものとしての扱い、(ⅱ)文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1  法人は、組合員A2及び同A3に対する令和3年3月24日付け諭旨退職処分及び同月31日付け懲戒解雇処分をなかったものとして扱わなければならない。

2 法人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。
 当法人が、貴組合員A2及び同A3に対して行った令和3年3月24日付け諭旨退職処分及び同月31日付け懲戒解雇処分は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
令和年 月 日
 X組合
  執行委員長 A1殿
Y法人    
理事長 B

3 その余の申立てを棄却する。
判断の要旨  1 組合員A2に対する令和3年1月8日付け停職処分及びA3に対する同月14日付け停職処分は、同人らに対する労組法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)

(1)法人は、A2及び組合員A3が本件取材〔注1〕を受けたことが組合活動であると認識しておらず、また、本件記事には組合の意見表明である旨の記載もないため、A2及びA3が本件取材を受けたことは、労組法第7条第1号の「正当な組合活動」に当たらないと主張する。
 この点について、組合は、①プレスリリース(組合が記者会見を行うという通知)を見た記者から、A2及びA3に連絡があり、同人らは組合員として本件取材に応じた、②本件取材を受け、意見表明したことは正当な組合活動であるところ、本件停職処分は、組合員の行った正当な意見表明に対する報復であり、不利益取扱いに当たると主張する。

〔注1〕令和2年5月22日付けで、A2及びA3を含む教員5名と保護者23名が、法人、法人事務局長及び学苑長を被告として、横浜地方裁判所に提起した損害賠償等請求訴訟に関する新聞社の取材。

(2)しかしながら、記者が組合のプレスリリースを見たうえでA2及びA3に連絡をしたか否かは、証拠上明らかではなく、また、組合は同訴訟の原告ではないことから、本件取材を受けたことは、組合の活動としてではなく、A2及びA3個人としての行為と考えざるを得ず、同人らに対する本件停職処分は、組合活動への報復であるとは認められない。
 以上より、労組法第7条第1号の不利益取扱いは成立しない。また、同条第3号の組合の運営に対する支配介入について、その他の主張も立証もなく、これも成立しない。

2 A2及びA3に対する令和3年3月24日付け諭旨退職処分及び同月31日付け懲戒解雇処分は、同人らに対する労組法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)

 法人は、本件諭旨退職処分及び本件懲戒解雇処分の理由について、A2及びA3が法人に対して本件損害賠償等訴訟を提起し継続していること並びに令和2年9月5日ストライキ、同年10月27日ストライキ及び同年11月16日ストライキ〔注2〕においてビラ③ないし⑧〔注3〕を配布したことを挙げているため、2つの処分理由について、不当労働行為が成立するか、以下検討する。

〔注2〕それぞれ、組合及び申立外C組合(法人の従業員を構成員、A3を執行委員長とする組合。以下「法人内組合」)がT駅付近で街頭宣伝を行い、ビラを法人の生徒を含む通行人に対して配付したこと。

〔注3〕ビラ③ないし⑧の記載事項は、それぞれ、③杜撰な施設管理・維持、生徒や教育活動に還元されない施設工事の実施、器物修理における保護者への高額請求、学苑長兼校長の無責任な言動等、④法人の負債が約17億円で、うち人件費が8億円にのぼること、E施設やF施設からの収益の外部への流出など、⑤法人は、教員のみならず、生徒や保護者に対しても一方通行的な主張ばかりで、何年間もの間、多くの教員が辞め、心を病んだ者もいることなど、⑥非正規雇用教員の大量退職、労働基準監督署からの是正勧告、保護者からの提訴、法人幹部による学校の私物化、校長からのパワーハラスメントなど、⑦社会科教諭の経歴詐称など、⑧「今の経営陣では学苑はもう沈没する」、「学苑は悪に染まりきろうとしている・・・立ち上がるのはもう今しかない」などであった〔丸数字はビラ番号に対応〕。
 また、ビラ③、⑤、⑦及び⑧には法人内組合、④には「Y法人正常化委員会」、⑥には法人内組合及び組合の私学教員支部であるC組合の名称がそれぞれ記載されていた。

ア 本件損害賠償等訴訟を提起し継続していることについて

 本件損害賠償等訴訟が不当訴訟かどうかはさておき、組合は、本件損害賠償等訴訟の原告になっておらず、また、組合が訴訟の提起に組織的に関与した事実は証拠上認められないから、そのかぎりにおいて、法人はA2及びA3を労働組合の行為をしたことを理由として処分したとはいえない。したがって、そのかぎりにおいて、当該行為の正当性を問うまでもなく、本件処分は労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当しない。

イ ビラを配布したことについて

(ア)ビラ③ないし⑧の内容は、確かにいずれも法人の社会的評価を低下させる懸念がないとはいえないが、特定の個人名を挙げて攻撃するものや、著しく過激な表現等は見当たらず、全体としては労働環境や経営方針に関する組合らの意見を一般に知らしめるためになされたものといえる。
 一方、法人は、生徒にビラを配布することは、正当な組合活動であるとはいえないと主張する。確かに、学校内部における使用者と教員との対立にかかわる事項を生徒の目に触れさせるべきではないという教育的配慮は一般的見地として首肯できないわけではない。しかし、当該ビラの内容は組合らの意見を一般に知らしめるためのものであるし、また、それらビラの配布は、法人の敷地外において、生徒のみならず一般人も配布の対象として手渡すという穏当な方法でなされたものに過ぎない。これらのことから、本件において教育的配慮を強調して組合活動の正当性を否定することは妥当ではない。

(イ)法人が、(令和元年11月11日の)職員会議で組合の行為に対する懸念を教職員に知らしめたこと、組合と法人の対立状況は厳しい状況であり、法人は組合のビラ配布に対して強く反発していたことなどの事実からすれば、法人は組合の活動が活発化することを警戒し、組合を疎ましく思っていたことが推認される。

(ウ)組合による法人に対する一連のストライキ通知書の内容から、A2及びA3が組合の活動の中心であることが推認でき、法人は、同人らを追い出せば法人内における組合の影響力を減殺できることを認識していたといえる。そして、令和2年9月5日に行われたビラ配布に同人ら以外の教員も参加していたことについて法人は問題視しておらず、事情聴取や懲戒処分などは行われていないこと、これらとA2及びA3について、ことさら異なった取扱いをする事情が見当たらないことからすれば、A2及びA3を諭旨退職処分及び懲戒解雇処分としたのは、組合を嫌悪してのことといえる。
 したがって、法人がA2及びA3を本件諭旨退職処分及び本件懲戒解雇処分としたことは、組合の組合員であることを理由として行った処分であり、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当するといわざるを得ない。

(エ)そして、A2及びA3が法人の労働者たる地位を失い組合の組合員が法人内部にいなくなったことにより、組合が法人内部で組合活動をすることができなくなったことから、同条第3号の支配介入にも該当する。 

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