労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和3年(不)第30号
山本解体工業等不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  個人Y1・Y2会社・Y3会社 
命令年月日  令和5年4月21日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、組合員Aの労働条件及び労災問題等を議題とする団体交渉を申し入れたところ、①自営業者Y1(屋号はB解体工業)が誠実に団体交渉を行わなかったこと、②Aに直接連絡をしたこと、③Y2会社及びY3会社が申入れを拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である(本件建物解体工事につき、受注者であるY3会社はY2会社と、Y2会社はY1とそれぞれ請負契約を締結)。
 その後、組合は、④Y3会社が、右申立てに係る調査期日において「乱暴な不当労働行為救済の申し立て」等の主張が記載された準備書面を提出したことに係る追加申立てを行った。
 神奈川県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 令和2年7月24日に発生した組合員Aの労災問題等を議題とする令和3年9月13日団体交渉において、Y1が組合に対し、請負契約書といった関係資料を提出しなかったこと及び労働保険番号を教えなかったことは、不誠実な団体交渉に当たるか否か。(争点1)

 組合は、Y1に対して、令和3年9月13日団体交渉(以下「本件団体交渉」)において、団体交渉は一度しか行わない旨を述べ、組合が求めた資料を開示しないのならば団体交渉を継続する意味がないと発言し、自ら団体交渉を打ち切った。それに加え、組合が主張するY1による不誠実団体交渉とは、本件団体交渉の席上で、即座にY1が組合の要求する資料を開示しなかったことと解するほかないので、このことを踏まえた上で、以下検討する。

(1)請負契約書の開示をしなかったことについて

ア 組合は、〔令和3年7月12日付けY1及び申立外C会社あて要求書(以下「3.7.12要求書」)で〕Y1とC会社との間の請負契約書を開示するよう要求したが、Y1は、C会社が本件解体工事〔注請負契約に係る小田原市内の建物の解体工事〕に関与していない旨を〔令和3年7月21日及び9月10日の〕二度にわたり文書で回答した。
 また、Y1は、団体交渉を開始した時点において、組合がどのような理由で、どの事業者とY1との間の請負契約書の開示を求めているのか明らかとなっていなかった。

イ また、本件団体交渉において、Y1と請負契約を締結した事業者との請負契約書の開示を要求する旨及びその理由を組合が初めて明らかにしたことからすれば、Y1が本件団体交渉当日に請負契約書を用意できなかったのは無理からぬことであるし、後日開示する旨を組合に伝えていたことからすれば、本件団体交渉の席上でY1が請負契約書の開示を拒否しているとはいえず、組合の理解を得ようとする姿勢がなかったとは認められない。

(2)労災上乗せ保険の契約書の開示をしなかったことについて

 組合は、Y1に対し、3.7.12要求書から本件団体交渉開始に至るまで、労災上乗せ保険の契約書に関する議題を挙げたことはない。また、証拠上は、本件団体交渉の席上において、組合が、同保険の契約書を要求したことまでは認められない。

(3)賃金台帳の開示をしなかったことについて

 組合は、3.7.12要求書から本件団体交渉の開始に至るまで賃金台帳の開示を求めていないから、本件団体交渉の席上でY1が賃金台帳を開示できなかったとしても、Y1が同文書の開示を拒否しているとはいえず、組合の理解を得ようとする姿勢がなかったとは認められない。

(4)労働保険番号の開示をしなかったことについて

 本件解体工事の元請事業者の労働保険番号は、3.7.12要求書から本件団体交渉開始に至るまで組合から一切の言及がなく、本件団体交渉の席上で初めて開示を要求された。これらのことから、本件団体交渉の席上でY1が同労働保険番号を開示できなかったとしても、Y1が開示を拒否しているとはいえず、組合の理解を得ようとする姿勢がなかったとは認められない。

(5)まとめ

 以上のことからすると、Y1が本件団体交渉の席上において、組合の要求する資料を開示しなかったこと及び労働保険番号を教えなかったことをもって、Y1の対応が不誠実な交渉態度であるとはいえない。

2 令和3年9月21日から同月28日までに、Y1がAに対し、令和2年7月24日に発生したAの労災について、療養補償給付手続の書面を送付したこと及び同書面に必要事項を記入して送り返すようにと電話で連絡したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点2)

(1)Y1は、組合から、Aが組合に加入したため、同人と労災問題について直接交渉をしないよう求められていたが、組合に事前に連絡することなく同人に対して令和3年9月23日付け連絡文を送付し、電話した。
 しかし、本件事故に関する労災保険給付の申請は、組合が要求してきたものであり、Y1が組合の要求に応じて当該給付の手続を早めるための書類をAに送付したとしても、組合の関与を排除して交渉しようとしたものとは言い難い。したがって、組合の弱体化をもたらしうるものではないから、組合の運営に対する支配介入に当たらない。

(2)組合は、Y1が依頼した社労士BがAに直接連絡をしたことによって、Aが困惑し不安を感じて、組合とAとの間で不安や不信が生まれたと主張する。
 しかしながら、BがAに連絡した内容は、組合から求められた書類の送付と返送についての連絡に過ぎず、Y1の立場からすれば、本件団体交渉が決裂したのち、急ぎできる範囲のことを行ったものである。一方で、Aは、連絡を受けたその場での対応を求められたものではなく、実際に、組合に連絡をし、対応を相談したことなどが認められる。
 以上のことからすれば、Bが、Aに連絡したことによって、組合との間で不安や不信が生まれたとの組合の主張は採用できない。

3 組合からの、Aの労災問題等を議題とする令和3年10月7日付け団体交渉申入れに対し、Y2会社が同月13日付け書面を送付したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点3)

 組合は、Y2会社が団体交渉に応じる意思があるのか明らかにせず、また3か月以上先まで予定が組めない理由を説明せず、徒に引き延ばしを行ったことが正当な理由のない団体交渉拒否にあたると主張する。
 しかし、令和3年10月13日付け書面には、組合が提示した団体交渉の候補日では都合がつかず、日程調整をしてほしい旨が記載されており、団体交渉に応じることが前提となる記載があるから、3か月以上先といういささか長いともいえる期間をY2会社が提示したとしても、Y2会社が団体交渉を拒否したとはいえない。
 したがって、Y2会社の対応は正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。

4 組合からの、Aの労災問題等を議題とする令和3年10月7日付け団体交渉申入れに対し、Y3会社が同月13日付け書面を送付したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点4)

 上記3においてY2会社に関し述べたところと同様の理由により、Y3会社の対応は正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。

5 Y3会社が、令和4年4月26日の第3回調査期日において、当委員会に対して「乱暴な不当労働行為救済の申し立て」、「直ちに労災認定をすることが出来ない何らかの疑義が存在する」と記載された準備書面を提出したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点5)

 準備書面に記載された内容は、審査手続において、申立人である組合の主張に対して、被申立人であるY3会社が、自己の主張を展開したものであって、組合の運営に対する支配介入とはいえない。

6 不当労働行為の成否

  前記1乃至5でみたとおり、いずれの争点についても不当労働行為に該当しないと判断する。 
掲載文献   

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