労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和3年(不)第19号
パーソルテンプスタッフ等不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和4年9月16日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①組合が、組合員A2(Y1会社に雇用され、派遣先であるY2会社にて業務に従事)の労働問題に関する団体交渉を申し入れたところ、Y1会社及びY2会社が誠実に団体交渉に応じなかったこと、②Y1会社が、A2に契約等に関する書類を送付したこと及び雇用契約の更新をしなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Y1会社が、令和3年4月15日付けで、組合に連絡送付せずに3.4.15文書をA2に送付したことは、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為に当たるか否か(争点①)

(1) 組合は、組合加入通知書がY1会社に到達し、A2の組合加入が公然化した直後に、労働者派遣契約及び雇用契約の終了を伝える令和3年4月15日付け文書(以下「3.4.15文書」)を送付したと主張する。
 しかしながら、Y1会社は、組合加入通知書が同社に到達した令和3年4月14日の午後9時15分より前の同日午前11時51分に、A2宛ての 3.4.15文書を外部業者に発送指示し、同社は、同月15日以降組合加入通知書を認識したことが認められるため、組合の主張は採用できない。
 したがって、Y1会社がA2に対して、3.4.15文書を送付したことは、不当労働行為には当たらない。

(2) なお、組合は、Y1会社がA2に3.4.15文書を送付したことによって、組合と同人の信頼関係を揺るがした旨主張するが、同社は、同人に対して、組合加入が公然化された令和3年4月15日より前の同年3月23日に契約終了を告げていた。また、A2は、失業保険の給付資格を得ることを目的として、同社に対し、雇用期間が通算して6か月以上となるよう調整を申し出ており、当然、同人は自らの契約が同年5月7日以降更新されないという状況を想定していたといえ、なおかつ同人の雇用期間調整の希望が叶えられているから、3.4.15文書が送付されたことによって、組合と組合員の信頼関係が揺らぐ等の事情は認められず、組合の主張は採用できない。

2 Y1会社が、令和3年4月1日にA2に対して他の派遣先を探している旨のメールを送信したにもかかわらず、組合が同人の組合加入通知書を送付して以降、派遣先が見つからないとして、雇用契約を不更新とする対応をしたことは、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為に当たるか否か(争点②)

(1) Y1会社は、令和3年4月8日、A2に対し、派遣先としてC会社での仕事を紹介したが、同人から同月14日の組合加入前後に、これに応答したとする事実は証拠上認められない。その後は、令和3年5日21日の本件団交が物別れに終わり、組合はそのわずか7日後、本件申立てに及んでいる。
 令和3年4月8日に紹介した派遣先に対するA2からの応答もない中で、Y1会社が、同月14日の組合加入から翌月 28日の本件申立てまでに、同人に対して、あえて新しい派遣先を紹介しなかったとする事実は証拠上認められない。

(2) また、登録型派遣の形式をとっていたA2の労働者派遣契約は、令和3年5日7日に終了しており、Y1会社が、同人の労働者派遣契約の終了後、新しい派遣先が見つからず雇用契約を更新しなかったことは自然なことといえる。

(3) 以上のことから、Y1会社がA2に対して、令和3年4月1日に他の派遣先を探している旨のメールを送信したにもかかわらず、組合が同人の組合加入通知書を送付して以降、派遣先が見つからないとして、雇用契約を不更新とする対応をしたことは、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為には当たらない。

3 Y1会社が、本件団交において、労働者派遣契約書の提出を拒否したことは、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為に当たるか否か(争点③)

(1) 令和3年5月21日にA2の契約不更新問題を主な交渉議題として開催され組合、Y1会社及びY2会社による団体交渉(以下「本件団交」)で、組合が労働者派遣契約書を求めたのに対して、Y1会社は、開示の必要性について確認した。
 組合は、労働者派遣契約書の開示を求める理由について、①産休育休の代替派遣なのかどうかと、②労働者派遣契約が途中契約解除になったのかどうかを確認するために開示を求めている旨説明したと主張するが、そのような事情から具体的になぜ労働者派遣契約書の開示が必要になるのかは、本件団交において説明しておらず、労働者派遣契約書を開示しないY1会社を専ら一方的に非難するにとどまっている。

(2) 団体交渉においては、合意を求める労働組合の努力の有無・程度、要求の具体性や追及の程度に応じ、使用者は誠実に対応をする義務があるが、労働者派遣契約書の開示を求める理由が具体的に明らかでなく、組合から一方的に非難を受けたY1会社がこれを拒否したからといって、誠実に対応する義務に反したとまではいえない。
 加えて、会社側は、組合に対して、団体交渉終了後とはいえ、労働者派遣契約書の閲覧を提案している。

(3) 以上のことからすれば、Y1会社が本件団交において、労働者派遣契約書の提出を拒否したことは不当労働行為には当たらない。

4 Y1会社が、本件団交において、具体的な解決案を提案しなかったことは、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為に当たるか否か(争点④)

 原則として、使用者に課される誠実交渉義務には、組合に対し、解決案を示すことまで含まれてはいない。加えて、本件団交の中で組合からA2の労働契約不更新問題について、具体的な要求がなく、十分な交渉が行われていない中で、Y1会社から労使紛争を解決する具体的な解決案が提案されなかったことが、同社の責任によるものとは認められない。
 したがって、Y1会社が、本件団交において具体的な解決案を提案しなかったことは、不当労働行為には当たらない。

5 Y2会社は、A2とY1会社との労働契約不更新問題について、労組法第7条第2号の「使用者」に当たるか否か(争点⑤)
 「使用者」に当たる場合、本件団体交渉におけるY2会社の対応が、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為に当たるか否か(争点⑥)

(1) 組合は、Y2会社が、A2の採用と契約終了に関与していることを理由として、同社が、Y1会社と同人の雇用関係について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあり、労組法第7条の「使用者」に当たると主張することから、以下検討する。

(2) A2は、Y1会社に雇用され、同社からY2会社に派遣され就労していたのであり、同人とY2会社の間には直接の契約関係はないことから、Y2会社は、同人の労働契約上の雇用主には当たらない。
 しかしながら、団体交渉の当事者である労組法第7条の「使用者」には、労働契約上の「使用者」のみならず、当該団体交渉事項に関する限り、雇用主と部分的とはいえ、同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある者も含むと解すべきである。

(3) 本件についてみると、組合は、Y2会社に対し、3.4.22団交申入書で団体交渉を申し入れた。同文書で組合が求めた交渉事項は不明確であるものの、要旨は、A2の労働契約不更新問題であると認められる。しかし、雇用契約はA2とY1会社の間で締結される契約であって、以下に述べるように、Y2会社は、本件団交の交渉事項に関する限り影響力を有しておらず、雇用主と部分的とはいえ、同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある者とは認められない。

(4) 令和2年10月9日には、一般的に労働者派遣契約で行われる職場の紹介がなされたのみであって、組合が主張するようにA2の採用について面接が行われたとは認められない。加えて、A2に対し、雇用契約の終了を伝えたのはY1会社であり、組合は、Y2会社がその決定に関与したとされる具体的事実を明らかにしておらず、組合の主張は採用できない。

(5) 以上のことからすれば、Y2会社は、組合の要求した労働契約不更新問題という本件団交の交渉事項との関係で、労組法第7条第2号の「使用者」には当たらない。
 したがって、Y2会社が労組法第7条第2号の「使用者」であることを前提とした争点⑥については、これを判断するまでもなく組合の主張は認められない。

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