労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第74号
スワロートラック不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年9月30日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が組合員Aを解雇したこと、②当該解雇に係る団体交渉における会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社による本件解雇は、Aが組合の組合員であるが故の不利益取扱い又は組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)

(1)会社と組合又は組合員との労使関係について

 組合は、会社が、組合員であるAを排除する不当労働行為意思を持っていたことが推測されると主張するところ、組合が挙げた諸事実〔①未払賃金請求等訴訟関連、 ②27不4号事件申立て関連、③念書提出(誓約)拒否の情宣活動、④営業所への情宣活動〕については全て区切りがついていたと認められ、その後に組合と会社との紛争が拡大又は継続した事情はうかがわれないことに加え、会社において唯一の組合員であるAのことについて、組合と会社との団体交渉が平成28年の和解以降本件解雇までの間に行われていないこと及び、元年8月けん責処分について、本件解雇までの間に、組合が会社に対する抗議や団体交渉申入れを行っていないことを併せ考えると、本件解雇当時、組合と会社との間が対立的な労使関係であったということはできず、また、会社が、組合員としてのAの存在やその活動を敵視していたといえるほどの状況にあったということもできない。

(2)荷物崩し及び足蹴等行為について

 組合は、荷物崩し及び足蹴等行為〔注 令和2年5月30日、Aが会社の倉庫内に積んであった荷物を故意に押し倒して崩し、蹴り、投げるなどした行為〕は、解雇に相当するような「相当に悪質な行為」ではないとして、それを理由とする本件解雇は、組合員を狙い撃ちにしたものである旨も主張する。
 しかしながら、会社が、Aの荷物崩し及び足蹴等行為を問題視して本件解雇の判断をしたことには、それ相応の理由があり、同行為が解雇に相当するようなものではないとする組合の主張は、いずれも採用することは困難であって、少なくとも、本件解雇について、Aが組合員であることを理由として、会社が同人の行為を不当に評価したと認めるに足りるような事情をうかがうことはできない。

(3)これらのことから、会社による本件解雇は、同人が組合の組合員であるが故の不利益取扱いには該当しないし、組合の運営に対する支配介入にも該当しない。

2 本件解雇に係る第2回から第5回までの4回の団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点2)

(1)組合は、第2回から第5回団体交渉まで一貫して、会社の対応が、既に通知した内容について答えない、事実と違う説明をする、回答や訂正を行わないなど、不誠実なものであると主張するので、以下、組合の主張する会社の対応について検討する。

(2)元年8月けん責処分に関わる過去の注意指導関係

 組合は、けん責処分通知書に記載のある「過去も同様な事案」について、会社が、第2回団体交渉と、2年10月5日付回答書と、第3回団体交渉とで異なる回答をした旨主張する。
 確かに、会社の各回答は異なっているが会社は、過去の注意指導について、調査、整理しつつ説明し、最終的に第3回団体交渉で確定させたとみることもできる。この時点で、少なくとも、会社が意図的に異なる説明をしたという事情はうかがわれないし、上記各回答が異なっていたことによって本件解雇に係る交渉自体に何らかの支障が生じたような事情もうかがわれず、会社の回答が異なっていたことをもって、不誠実な対応であるとまでいうことはできない。

(3)「事実と異なる内容問題」

 組合は、(会社が2年10月27日付回答書にAの発言として記載した)「事実と異なる内容」について、会社が、第2回団体交渉で「検討する。」、「もう1回。」と回答した後、1か月以上経った第3回団体交渉でも同様に「もう1回。」と回答して次回送りとし、第4回団体交渉では、2年10月5日付回答書での回答を繰り返すのみで、平行線であったと主張する。
 交渉経緯からすると、第4回団体交渉で「事実と異なる内容問題」の交渉が平行線となったのは、Aの発言は「事実と異なる内容」ではないとして、その部分を元年8月けん責処分の理由から除外するよう求める組合と、発言内容を一部分に限定せず、発言全体を総合的に判断すべきだとする会社との間の考え方の違いによるものであるというべきであり、会社の対応が不誠実であったために、交渉が平行線になったということはできない。

(4)荷物崩し及び足蹴等行為に起因する損害や厳重注意関係

 〔Aの行為について、配送先C会社から注意を受けたとの〕会社の説明が事実ではなかったことは確かであり、団体交渉で当該説明を行った会社の対応には、問題があったといわざるを得ないなどとしても、実際に商品に破損があり、損害額が発生し、返品伝票を作成したという大筋の事実は変わらないし、会社に対して注意を行ったのがC会社ではなくD会社であったとしても〔注 C会社が店舗への商品輸送をD会社に委託し、会社はD会社から再委託を受けて輸送業務を行う関係〕、会社が、荷物崩し及び足蹴等行為に起因する商品破損について注意を受けた事実は変わらない。そうすると、第5回団体交渉において、会社は、説明の一部が事実と違うものであったとしても、返品伝票作成や厳重注意の経緯について、ある程度の説明を行っていたということができる。
 当該団体交渉で、執行役Bが事実と違う説明を行ったものの、それは、その場で何らかの回答をしなければならないと考えた同執行役が、誤認した回答をしてしまったものであり、また、会社は、説明が事実と違っていても、当時の同執行役の認識に基づいてある程度の説明を行っていたということができ、同執行役の回答については、確認して後日正確な回答をすることを予定していて、実際に、調査を行った上で団体交渉における説明を訂正し、改めて事実関係を説明していることも考慮すれば、本件では、会社が、単に事実と違う説明をし、それ以上の回答をしない、訂正もしないというような対応であったとはいえず、団体交渉における会社の対応が不誠実であったということはできない。

(5)その他の事項

ア 組合は、会社が、第4回団体交渉で、27年8月7日分指導記録書を訂正する予定であると説明したが、訂正がされていない旨を主張するが、会社は指導記録書そのものを訂正すると約したわけではないので、組合の主張は、採用することができない。

イ 組合は、第5回団体交渉で、28年の和解の評価につき、過去のことはもう触れない前提であるとの組合の主張に対し、会社は黙ったままであったと主張する。
 しかし、第5回団体交渉では、会社は、一応の認識を述べて、28年の和解に係るやり取りをしているということができ、上記組合の主張は、採用することができない。

(6)第2回から第5回までの4回の団体交渉の概況

 本件解雇に係る第2回から第5回までの4回の団体交渉においては、本件解雇の直接の理由である荷物崩し及び足蹴等行為だけでなく、元年8月けん責処分やそれ以前の各指導記録書などについても詳細なやり取りがなされ、会社は、組合からの要求や質問について、その場で回答できなかったことは、次回団体交渉の前に書面で回答したり、資料を提示したりするなど、相応の対応をしており、会社の対応は不誠実な団体交渉には該当しない。

3 以上の次第であるから、会社がAに対して本件解雇を行ったこと及び本件解雇に係る第2回から第5回までの4回の団体交渉における会社の対応は、いずれも労働組合法第7条に該当しない。 

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