概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和2年(不)第53号
キャピタルモータース不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y1会社・Y2会社(会社ら) |
命令年月日 |
令和5年5月23日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、Y1会社及びY2会社(「会社ら」)が、平成31年2月27日付など2回の団体交渉申入れに係る9項目( ①賃金改定、②有給休暇、③釣銭準備、④組合掲示板、⑤改定前の新賃金適用、⑥組合ニュース、⑦貸付制度、⑧弁護士特約及び ⑨複合機)の議題に関する団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、③、⑥及び⑧の議題に係る対応について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社らに対し、(ⅰ)これら議題に係る団体交渉応諾、(ⅱ)文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 Y1会社及びY2会社は、組合が平成3 1年2月27日付けで申し入れた団体交渉の議題のうち、「乗務員への釣銭を準備すること(釣銭準備)」 「組合ニュース」及び「弁護士特約」に係る団体交渉に応じなければならない。
2 Y1会社及びY2会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
記
年 月 日
X組合
中央執行委員長 A1殿
Y1会社
代表取締役 B1
Y2会社
代表取締役 B2
当社が、貴組合から平成31年2月27日付けで申入れのあった団体交渉の議題のうち、「乗務員への釣銭を準備すること(釣銭準備)」 「組合ニュース」及び「弁護士特約」に係る団体交渉に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
3 Y1会社及びY2会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 本件の争点は、「平成31年2月27日付団体交渉申入れ(以下「H31.2.27団交申入れ」)及び同年11月26日付団体交渉申入れ(以下「H31.11.26団交申入れ」)に係る9項目(①賃金改定、②有給休暇、③釣銭準備、④組合掲示板、⑤改定前の新賃金適用、⑥組合ニュース、⑦貸付制度、⑧弁護士特約及び⑨複合機)の議題に関する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か」である。
この9項目のうち、④組合掲示板は、本件の争点ではあるが、H31.2.27団交申入れ及びH31.11.26団交申入れの議題になっていないから、判断を要しない。
2 上記1の9項目のうち、⑥組合ニュースは、H31.2.27団交申入れの議題である。また、⑨複合機は、H31.2.27団交申入れ及びH31.11.26団交申入れにおける直接の議題ではない。そして、会社は、⑥及び⑨について、これらの議題に係る交渉を拒否したというよりも、これらに係る組合の対応を理由として、令和元年 6月11日及び12月9日付「回答書」(以下それぞれ「R1.6.11回答書」、「R1.12.9回答書」)により、団体交渉に応じない旨組合に回答した(以下それぞれ「R1.6.11団交拒否回答」、「R1.12.9団交拒否回答」)ものである。
そこで、まず、会社が、⑥組合ニュース及び⑨複合機を理由として、H31.2.27団交申入れ及びH31.11.26団交申入れに対し、団体交渉を拒否したことに正当な理由があったか否かについて判断する。
(1)⑥組合ニュース
会社の組合ニュース04〔の第4回団体交渉の交渉内容に係る記載〕に関する抗議に対し、組合は、訂正記事等で対応すると回答したものの、それを行わないままH31.2.27団交申入れとH31.11.26団交申入れを行った。そして、会社は、それらの申入れに対し、R1.6.11回答書とR1.12.9回答書を組合に交付している。
しかし、組合は、当該会社の抗議に対し、同様の行為を繰り返さない姿勢を示しており、関係正常化に向けた交渉の余地はあったというべきであるから、会社が、組合ニュース04に係る組合の対応を理由として、H31.2.27団交申入れ及びH31.11.26団交申入れについていずれも団体交渉を拒否したことは、それぞれ相当でないといわざるを得ない。
(2)⑨複合機
組合が会社との協議を経ずに複合機を搬入したのに対し、会社は、R1.6.11回答書において、組合が会社との話合いを尊重しない態度で団体交渉に臨んでいるとの認識を示し、組合との話合いを継続する意味に疑念を表明したこと、及びR1.12.9回答書において、組合は自らを一切顧みない態度を固持しており、組合が態度を改めない限り関係正常化が全く期待できない等と記載したことが認められる。
しかし、許可を得ないままに組合事務室の入口を加工して複合機を搬入した組合の対応に問題はあるとしても、組合が会社との話合いを尊重しない態度であったと断ずることは相当とはいえず、会社に団体交渉を拒否する正当な理由があったとまで認めることは困難である。
(3)したがって、会社が、H31.2.27団交申入れ及びH31.11.26団交申入れのいずれにおいても「⑥組合ニュース」及び「⑨複合機」を団体交渉拒否の理由としたことは相当でないといわざるを得ない。
3 平成31年2月27日付団交申入れについて
H31.2.27団交申入れには、議題として、「組合ニュース」、「会社の制度上の問題についての要求(貸付制度、釣銭準備、事故審議会、弁護士特約、寮規定、洗車の件)」及び「賃金引下け(手当の引下げ、中退金の脱退、有給休暇、カード手数料の乗務員負担の廃止)」の記載があった。
また、平成31年2月27日付けで組合が提出した「説明要求書」には、改定前に新賃金規定が適用されていた者について、労働者に不利益が生じていないとする会社の主張について説明を求める旨の記載があった。
その後の複合機の搬入や第7回団体交渉などを経て、令和元年6月11日、会社は、既に十分な議論を尽くしたことや組合の団体交渉における話合いを尊重しない態度に照らすと団体交渉を継続する意味がないなどとして、今後の団体交渉を拒否し、6月17日の団体交渉は実施しないなどと記載した「回答書」を交付した。
そこで、本件の争点9項目の議題のうち、〔④組合掲示板、⑥組合ニュース、⑨複合機以外の〕①賃金改定(賃金引下げ)、②有給休暇、⑤改定前の新賃金適用、③釣銭準備、⑦貸付制度及び⑧弁護士特約について、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たるかを判断する。
(1)①賃金改定
H31.2.27団交申入れについてみると、組合は、(平成28年11月施行の)新賃金規定では旧規定下で存在した手当がなくなったことなどを理由に不利益変更であると主張したのに対し、会社は、新旧では成果給の導入などで異なる制度になったと説明し、新旧賃金対比表や組合員2名の新旧給与支給比較表を作成して説明したり、組合に対しても議論を具体化するよう繰り返し求めたが、組合は具体的な質問やそのための資料も提出しなかったことから、31年2月13日、団体交渉が円滑に実施できていないとして2週間以内に書面で回答するよう求めたことが認められる。これに対し、組合は、H31.2.27団交申入れを行ったが、新賃金体系について議論が深まっていないとして協議を求めたにとどまり、具体的な質問事項を記載していなかったことなどから、それまでの団体交渉でのやり取りを超える具体性や新たな点を含む申入れとみることは困難であるといわざるを得ず、組合が交渉を続けるための対応をしたとまではいえない。
さらに、第7回団体交渉においても、賃金改定については議論もされなかったことからすると、その後のR1.6.11団交拒否回答の時点において、会社が、賃金改定について議論が尽くされたと認識したとしても不自然であったとはいえない。
これらのことから、賃金改定に係る議題についての会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。
(2)②有給休暇
新規定における有給休暇手当の計算方法について、その適用条文及び解釈について労使いずれの見解が正しいかはさておき、この議題について、組合が資料や具体的な見解等を示さない以上は交渉が進展する余地のない状態になっていたといわざるを得ないし、会社は、従業員が有給休暇を取得した場合の通常の賃金の計算方法に関し、第4回団体交渉において、新規定における具体的な労働条件について相応の説明をしたと評価することができる。そして、会社は、その後も、11月7日付「ご連絡」や第5回団体交渉において繰り返し説明を行っているが、組合は、資料や具体的な見解等を示していない。
したがって、有給休暇についての会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。
(3)⑤改定前の新賃金適用
改定前の新賃金適用〔賃金規定の改定前に新賃金規定と同内容の労働契約を締結した労働者が存在すること〕については、双方の見解の応酬が繰り返され対立している状態であったが、会社が、組合員2名の新旧給与支給比較表等の資料も示して、相当程度具体的な説明を行っているのに対して、組合は、それ以上具体的な質問等を行っておらず、同じ主張を繰り返していることから、組合が、会社の見解に対して具体的な質問や反論等を示した上で、団体交渉の申入れをしていない以上、交渉の余地がない行き詰まりの状態になっていたといわざるを得ない。
したがって、改定前の新賃金適用の議題についての会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。
(4)③釣銭準備
〔タクシー乗務員の〕釣銭準備ができない理由についての会社の回答の内容〔業界内でほとんど聞かない、会社のお金を現金で持つことのリスクなど〕は理解できなくもない。しかし、会社は、第7回団体交渉で釣銭準備に係る回答を考えると表明しながら、団体交渉の場で何らその回答や説明を組合にすることなく、R1.6.11回答書において団体交渉を一方的に打ち切ったと評価せざるを得ないから、釣銭準備の議題についての会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるというべきである。
(5)⑦貸付制度
貸付制度は、第5回団体交渉における釣銭準備の議論の中で、釣銭のない運転手に会社が貸付をする場合があるとの話が出た後、(平成31年2月5日の)第6回団体交渉では特に議題とならず、本件2月2 7日団体交渉申入れで組合が議題に挙げた。
組合が、第7回団体交渉で、貸付制度について制度化するとともに広く周知をすべきであると申入れを行ったところ、会社は税法上の問題があることを指摘して公表の予定はないと回答したが、それを受けて、組合は、制度の趣旨は分かったので、制度化を求めるのか適正運用を求めるのか検討すると述べ、その後、組合は具体的な要求を行っていない。
そうすると、組合が具体的な要求を行っていない以上、会社がこの議題を交渉事項に取り上げないのも無理からぬことであるから、貸付制度の議題についての会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。
(6)⑧弁護士特約
R1.6.11回答書において会社は、周知の必要性の有無について会社の結論を回答したにすぎず、第7回団体交渉で自ら表明した会社の契約する〔交通事故の際の保険の〕弁護士特約の内容を確認する件について回答していないし、団体交渉において、会社の回答に係る説明や組合との交渉を行っていないのであるから、会社は交渉の途中で団体交渉を一方的に打ち切ったといわざるを得ない。
これらのことから、弁護士特約の議題についての会社の対応は正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
(7)以上のとおり、H31.2.27団交申入れの議題のうち、③釣銭準備、⑥組合ニュース及び⑧弁護士特約についての会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
4 平成31年11月26日付団交申入れについて
(1)H31.11.26団交申入れで、組合は、本件の争点である「①賃金改定」について会社の団体交渉拒否は不当労働行為に当たり、しかるべき措置を執ると表明したほか、新たな議題として、財形貯蓄、残業代の未払分の請求、新会社設立に関する進捗、年次有給休暇五日の消化、会社の制度上の問題(セクハラ・パワハラ対策の強化ほか)及び義務的団交事項問題についての団体交渉を求めた。
これに対し、会社は、R1.12.9回答書で、組合による団体交渉申入れが、①実質的には既に行われた団体交渉の蒸し返しであること、②会社と組合との関係正常化に向けた対応が何ら示されていないことから、組合との団体交渉を継続することは不適切であると判断し、組合との団体交渉を拒否すると回答した。
(2)当該団交申入れの交渉議題のうち、本件の争点9項目の議題に当たるのは「①賃金改定」のみであるから、それ以外の議題に関する会社の対応については判断を要しない。
そこで、「①賃金改定」の議題について、会社が団体交渉を拒否したことに正当な理由があったかについて以下判断する。
(3)組合のH31.2.27団交申入れに対して、会社は、R1.6.11団交拒否回答を行ったが、この対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たらないことは、前記判断したとおりである。
令和元年6月29日、組合は、会社に「抗議文」を交付し、組合からの疑問や反論の提示及び証拠提出のための本人確認が遅れているなど十分に対応できていないことは認めるが、議論はまだ途中であり、これ以上議論しても意味がないとの主張は納得できないなどと述べ、団体交渉に誠実に応じるよう申し入れた。
しかし、その後、H31.11.26団交申入れまでの間に賃金改定について労使間でのやり取りはなく、組合は、会社が提示した新旧賃金対比表や組合員2名の新旧給与支給比較表等に対する具体的な質問や、提出すると述べていた就業規則の問題点などの資料を提出していないし、会社が、第6回団体交渉における組合の要望に応え、R1.6.11団交拒否回答において、手当の各性質を新賃金規定の評価給のポイントに反映していることを示す資料を添付して回答したことに対しても、具体的な質問やさらなる資料要求もしていない。
そうすると、賃金改定に係る議題について、組合は、6月29日付「抗議文」では、議論は途中であるなどとして、会社に団体交渉に誠実に応じるよう求めてはいるものの、その後、組合が具体的な提案や申入れなどの対応を行ったとの事情が認められない以上、会社が、H31.11.26団交申入れに対し、R1.12.9団交拒否回答をしたことに理由がないとはいえないから、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。
5 救済の方法について
会社が、H31.2.27団交申入れ及びH31.11.26団交申入れに対し、組合ニュースと複合機についての組合の対応を理由に団体交渉を拒否したことは、いずれも正当な理由があるとは認められない。
しかし、本件の争点は組合ニュースと複合機を含む九つの議題に絞られているところ、H31.2.27団交申入れでは組合ニュースが議題とされている一方複合機は議題となっておらず、H31.11.26団交申入れでは組合ニュースと複合機のいずれも議題となっていないことから、本件の救済としては、主文のとおり命ずることとする。
第4 結論
以上の次第であるから、会社が、H31.2.27団交申入れのうち、「釣銭準備」、「組合ニュース」及び「弁護士特約」の議題について団体交渉に応じなかったことは労働組合法第7条第2号に該当するが、その余の事実は同法同条に該当しない。 |
掲載文献 |
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