労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成31年(不)第16号
図書館スタッフ不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和5年2月7日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①Y2会社が、組合が平成28年7月14日付けなど3回にわたり申し入れた組合員Aの労働条件等に係る団体交渉に応じなかったこと、②平成30年9月21日など2回の団体交渉におけるY1会社(Y2会社の子会社)の対応が、それぞれ不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、②について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、Y1会社に対し文書交付等を命じるとともに、Y2会社に対する申立ての一部について申立期間を徒過したものとして却下し、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 Y1会社は、X組合が臨時従業員就業規則の変更と無期労働契約転換に伴う転勤及び組合員A2の人事考課と賃金引上げに係る議題について団体交渉を申し入れたときは、必要な資料を提示するなどして、誠実に応じなければならない。

2 Y1会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
年 月 日 
X組合
執行委員長 A1殿
Y1会社       
代表取締役 B1

 貴組合との平成30年9月21日の第13回団体交渉及び12月7日の第14回団体交渉における当社の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 Y1会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

4 Y2会社に対する平成28年7月14日付及び29年8月4日付団体交渉申入れに係る申立てを却下する。

5 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 申立期間に係る主張について(争点2のうち、組合がY2会社に対して平成28年7月14日付け及び29年8月4日付けで行った団体交渉申入れに係る部分)

 組合は、Y2会社に対する計3回の団体交渉申入れに同社が応じなかったことは、同じ意図の下に行われた「継続する行為」であると主張する。
 しかしながら、組合の平成28年7月14日付など3回の申入れに対するそれぞれ書面による拒否回答は、いずれも、その都度完結している1回ごとの行為とみるのが相当であり、しかも、各行為の時期には、それぞれ1年を超える間隔があることから、これらを継続する行為とみることは困難である。
 そして、Y2会社による上記3回の回答のうち、平成28年7月22日付及び29年8月22日付書面による拒否回答については、いずれも、本件申立日には、行為の日から1年を経過していることから、申立期間を徒過したものとして、却下せざるを得ない。

2 Y2会社は、本件において、労組法上の使用者に該当するか否か(争点1)、及びY2会社が、組合が平成30年11月22日付けで申し入れた団体交渉に応じなかったことが正当な理由のない団体交渉拒否に該当するか否か(争点2)

(1)組合が、Y2会社に対して平成30年11月22日付けで申し入れた団体交渉事項について
 上記1により、組合の平成30年11月22日付団体交渉申入れに対するY2会社の同年12月6日付書面による回答のみが本件の争点1及び争点2における判断の対象となるところ、組合が団体交渉を申し入れた事項は、要旨以下①ないし④のとおりである。

① Y2会社の労組法上の使用者責任
② Y1会社における就業規則の変更、当該組合員の労契法第18条による無期転換を含めた労働条件の変更、維持改善、人事考課に関する資料提示による協議
③ 集団的労使関係のルール構築に関する協議
④ Y1会社の事業場閉鎖、倒産、再編に伴う当該組合員の雇用の維持、継続に関する協議
 これらのうち、組合員の労働条件その他の待遇に係る交渉事項は、②及び④である。

(2)Y2会社が組合との関係で労組法上の使用者である旨の労使合意及びこれを根拠とするY2会社の使用者性について

ア 組合は、第1回団体交渉で、Y2会社が団体交渉の当事者であるなどの労使間の合意が成立し、現在もこの労使合意が継続している旨を主張する。
 確かに、平成24年から25年頃までは、Y2会社が、完全子会社であるY1会社の従業員の人事に一定の権限を有していて、組合との関係で使用者に該当する立場に立って団体交渉などに対応していた事情がうかがわれ、そのことから、Y2会社が実質的な使用者であることが労使間の共通認識になっていたとみることもできるものの、そのような同社の対応について、何らかの労使合意が成立していたことまではうかがわれない。

イ 労使合意の成立にかかる組合の主張を前提としても、当該合意の存続期間について具体的な取り決めがなされた事情は一切うかがわれないところ、第4回団体交渉のあった平成25年6月頃から組合による30年11月22日付けY2会社への団体交渉申入れまでの間に、Y1会社及びY2会社は、組合に対し、Y2会社の労組法上の使用者性を否定する旨の見解を伝えていたといえるとともに、こうした見解に沿う形で、Y1会社の従業員の人事に関する権限がY2会社からY1会社に移譲され、B1社長が当該人事及びこれに伴う労働条件その他の処遇についての最終決定権限を有するようになったことがうかがわれる。

ウ 以上によれば、組合が平成30年11月22日付けで団体交渉を申し入れた時点において、Y2会社が組合との関係で労組法上の使用者に当たるとする労使合意が両者間で存在しているとは認められない。

(3)Y1会社の親会社としてのY2会社の地位及びこれを根拠とするY2会社の使用者性について

 以前にはY2会社が、完全子会社であるY1会社の従業員の人事に一定の権限を有していた事情があるとしても、Y2会社が、組合が平成30年11月22日付けで団体交渉を申し入れた組合員の労働条件その他の待遇に係る事項について、その時点で、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に、現実的かつ具体的に支配又は決定することができる地位にあったものとは認め難く、Y2会社が労組法上の使用者に当たるとする組合の主張は、採用することができない。

(4)Y2会社が組合による平成30年11月22日付団体交渉申入れに応じなかったことについて

 その余の事情を判断するまでもなく、Y2会社は、組合が平成30年11月22日付けで申し入れた団体交渉について労組法上の使用者に当たらないというべきであるから、Y2会社が同申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。

3 平成30年9月21日及び12月7日に開催された第13回及び第14回団体交渉におけるY1会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点3)

(1)臨時従業員就業規則の変更、無期転換に伴う転勤に関することについて

 臨時従業員就業規則の変更及び無期転換に伴う転勤に関する議題に係るY1会社の対応は、従業員個人と話をする姿勢を繰り返して示し、組合と協議することには否定的であり、組合の要求する資料の提示についても十分な検討をしないなど、交渉により組合との合意形成を図る姿勢に欠けていたものであり、不誠実な団体交渉態度であるといわざるを得ない。

(2)A2の人事考課、賃金引上げに関することについて

 A2の人事考課及び賃金引上げに関する議題に係るY1会社の対応は、従業員個人と話をする姿勢を示して個人との面談にこだわる一方で、組合と協議することには否定的であり、組合の要求する資料についても十分な検討をしないなど、交渉により組合との合意形成を図る姿勢に欠けていたものであり、不誠実な交渉態度であるといわざるを得ない。

4 以上の次第であるから、

①平成30年9月21日の第13回団体交渉及び12月7日の第14回団体交渉における、臨時従業員就業規則の変更と無期労働契約転換に伴う転勤及び組合員A2の人事考課と賃金引上げに関する議題に係るY1会社の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する。

②組合が平成30年11月22日付けで申し入れた団体交渉にY2会社が応じなかったことは、同法同条に該当しない。

③組合が平成28年7月14日付け及び29年8月4日付けで申し入れた団体交渉にY2会社が応じなかったことに係る申立ては、労働組合法第27条第2項及び労働委員会規則第33条第1項第3号に該当する。〔却下〕 
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約827KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。