労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成30年(不)第41号
サイマル・インターナショナル不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合・同X2支部(組合ら) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年2月1日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、事業譲渡に伴う法人語学研修事業部門(「CTD部門」)の閉鎖を、組合らが抗議するまで、組合らに通知しなかったこと、②団体交渉における会社の対応、③予定されていた組合員A2の業務を非組合員の教員に交代し、組合員A3及びA4の授業をキャンセルしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、組合らに対する文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合らに交付しなければならない。
 年 月 日
 X1組合
 執行委員長 A1殿
 X1組合X2支部
 執行委員長 A2殿
Y会社        
代表取締役 B1

1 当社が、CTD部門を平成30年3月31日に閉鎖することを、29年12月4日に貴組合らが抗議するまで、貴組合らに通知しなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
2 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、CTD部門を平成30年3月31日に閉鎖することを、29年12月4日に組合らが抗議するまで、組合らに通知しなかったことについて

(1) 労働協約第2条では、「会社は、・・・営業譲渡・・・を決定した場合、速やかに、組合へ通知し、説明する。」と定められている。
 この点について、会社は、本件労働協約を会社と締結したのはC組合及び同D支部であるが、同支部とX2支部との同一性は認められないことから、本件労働協約はX2支部に承継されず、会社と組合らとの間には同協約の効力が及ばない、会社の対応は殊更本件労働協約の趣旨や過去の労使慣行、組合らの存在を軽視するなどの意図があってなされたものではない旨主張する。
 確かに、組合組織再編の経緯は明らかとなっていない点もあるため、C組合D支部とX2支部との同一性が認められるかは判然としない。
 しかしながら、X2支部はC組合D支部の組合員がC組合を脱退して結成されたもので、結成当時のX2支部の組合員はC組合D支部の組合員と同一であり、組合組織再編の前後で労使関係に変更があったとはうかがわれない。
 また、組合らは、22年4月26日に組合組織再編を会社に通知したが、会社はそれに対して特段意見を述べなかった上、29年1月6日に組合らが組合掲示板の掲示物が会社の従業員より剥がされたと会社に抗議した際には、B2〔総務部門〕が、掲示物を剥がした従業員に対して、「労働協約の存在とその内容について会社から改めて知らせるようにいたします。」と記載したメールを組合らに送信していることなどからすれば、会社としても、組合組織再編後も本件労働協約がX2支部との間で効力を有しているという前提で組合らとやり取りしていたと認められる。
 以上のような組合組織再編後の労使間の経緯からすると、本件労働協約が組合支部に承継されたか否かはさておき、会社は本件労働協約の趣旨を十分に尊重した対応を執るべきであったといえ、本件事業譲渡が組合員らの契約の存続という労働条件に重大な影響を及ぼすものであったことを鑑みれば、会社は、本件事業譲渡について、従業員である組合員に通知する前又は同時期に組合に通知することが労使関係上求められていたといえる。

(2) 会社は、本件事業譲渡について、従業員である組合員に通知する前又は同時期に組合に通知することが労使関係上求められる状況にあったが、本件事業譲渡を従業員らに通知しながら組合らには抗議を受けるまで通知しなかったのであるから、会社の対応は、組合らの存在を軽視したものであったといわざるを得ない。
 したがって、会社が、CTD部門を平成30年3月31日に閉鎖することを、29年12月4日に組合らが抗議するまで、組合らに通知しなかったことは、組合らの運営に対する支配介入に当たる。

2 本件団体交渉について

 本件団体交渉において、会社は、本件事業譲渡の経緯を説明し、組合らの提案を受けて検討した結果を具体的に説明し、組合らの理解を得ようと努め、自らも提案して話合いによる解決を目指して一定の努力をしていたということができ、会社が、本件団体交渉の会場を社外の貸会議室にしたことや、会社代理人らを出席させたことにより、団体交渉の進行に著しい支障が生じたり、交渉の円滑な進行を妨げられたりしたとは認められない。このほか、組合らが不誠実であると主張する会社の各対応について、いずれも、組合らの主張を採用することはできない。
 本件事業譲渡に端を発した組合員の処遇の問題について労使で合意できなかったのは、無期雇用を前提に会社での雇用の継続を求める組合らと、〔譲渡先である〕E会社に転籍しないのであれば退職を前提とした解決を模索する会社との間に大きな見解の隔たりがあったからであり、団体交渉における会社の対応が不誠実であったとまでは認められない。
 よって、本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉ないし組合の運営に対する支配介入に当たらない。

3 会社が、30年3月5日と同月7日に予定されていたA2のレベルチェック業務を非組合員の教員に交代したこと、同月15日に予定されていたA3の授業をキャンセルしたこと及び同月16日以降に予定されていたA4の授業をキャンセルしたことについて

 組合らは、ストライキの対象でない授業についてまで、非組合員の講師に交代させる必要はなく、明らかに組合員であるストライキ参加者への差別的な取扱いであり、支配介入に当たると主張する。
 しかし、組合によるストライキが実施された時の状況をみてみると、組合らのストライキ通告のほとんどが授業開始の30分ないし40分前に突如として行われ、3月1日の授業等については中止を余儀なくされているなどの状況から、ストライキが実施されれば、会社が代替講師を準備できずに授業等を開始直前になって中止にする事態が続くことも容易に想像でき、また、当時はいつストライキ通告があるか予測が付かない状況にあったことなどからすれば、A2及びA3の業務ないし授業について他の講師に交代した会社の対応は、組合らによる予測が困難なストライキを受けて会社の操業を継続するために許容される程度のやむを得ないものであったといえる。
 また、A4の授業を中止にした会社の対応は、顧客が授業をキャンセルしたためであり、同人のストライキを理由にしたものであったとまで認めることはできない。
 したがって、会社の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たらない。 
掲載文献   

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