労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委令和4年(不)第3号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和5年6月5日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、Y1会社及びY2会社(Y1会社に運送業務、積込作業、取卸作業等を委託)が、組合員A(申立外C会社に雇用され、Y2会社の倉庫に商品を運送する業務(以下「本件業務」)に従事)とY1会社の社員との間で生じた第三者行為災害に係る労働災害事故(以下「本件事故」)に関し、Y1会社がAに損害賠償を支払うことを協議事項とする組合からの団体交渉の申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛知県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Y1会社及びY2会社(以下「会社ら」)の双方又は一方は、組合からの令和4年2月10日の団交申入れ(以下「本件団交申入れ」という。)について、組合の組合員Aとの関係において労組法第7条の使用者に当たるか。(争点1)

(1)一般に、労組法第7条にいう使用者とは、労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、当該事業主は同条の使用者に当たるものと解するのが相当である。

(2)上記観点から、会社らの使用者性について検討する。

ア 本件事故当時、組合員Aは、C会社に雇用され、同社からの指示を受け、D会社の商品を〔Y2会社の〕M倉庫に運送する本件業務に従事していたものであり、Aと会社らとの間に労働契約関係はなく、会社らがAの雇用主ではないことに争いはない。

イ 次に、Aの本件業務における荷卸作業については、C会社作成の安全作業標準書があり、Y1会社のフォークリフトを操縦する従業員(以下「リフトマン」)が、M倉庫において、Aに荷卸しをする場所について指示をしていたことや、Y2会社K物流センターの所長Bが、以前、トラブルになっていたAとリフトマンとの間に入って話をしたことが認められるものの、それ以外に、会社らは、Aに対して、日常的に具体的な業務内容や勤務内容について指示、管理をしていなかったことが認められる。
 また、会社らは、Aの給料、待遇、勤務時間等について、指示、決定をしたことはない。さらに、M倉庫の倉庫管理主任者であった所長Bは、同主任者として運送会社のドライバーに直接業務を指示することがなかったほか、運送会社のドライバーであるAの勤務状況を把握しておらず、その給料、勤務時間等の労働条件について、雇っているC会社と協議をしたこともなく、Aの労働条件の決定に関わることはなかったことが認められる。

 これらのことからすると、会社らはいずれも、Aの基本的な労働条件等について、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったと認めることはできない。

(3)
ア これに対し、組合は、Y2会社の使用者性を肯定する理由として、労働安全衛生法第30条の2第1項を根拠として、Y2会社には元方事業者類似の安全衛生管理の責任が発生し、C会社の労働者とY1会社の労働者の作業間の安全を確保するために連絡及び調整の責任を負っている旨を主張する。
 しかし、Y2会社はM倉庫で倉庫業を営んでいるものであって、製造業等の元方事業者に当たらず、本件事故は、製造業等において元方事業者の労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われたことによって発生したものとはいえないから、同項の適用場面ではない。

イ また、組合は、労働安全衛生規則第151条の7第1項の「事業者は、車両系荷役運搬機械等を用いて作業を行うときは、運転中の車両系荷役運搬機械等又はその荷に接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのある箇所に労働者を立ち入らせてはならない。ただし、誘導者を配置し、その者に当該車両系荷役運搬機械等を誘導させるときは、この限りでない。」との規定を根拠として、本件事故では、会社らを団交の相手としなければ労働者は基礎的な労働条件に関する団交権を失ってしまう旨、並びに倉庫業法第11条及び倉庫業法施行規則第9条の2等に基づき、Y2会社は、倉庫内の労働災害防止に法令上の責務を負っているところ、本件事故に関し、労働者の安全衛生という最も基本的な労働条件部分について、現実的具体的に決定を行い責任を負い得る者は、会社らをおいてほかにいない旨を主張する。
 しかし、労働安全衛生規則及び倉庫業法の関係法規等に基づき、事業者に対して一定の公法上の義務が課されることがあるからといって、このことから直ちに、当該事業者が当該義務に関係する労働者に対し、集団的労使関係を規律する労組法上の使用者と評価されるべきことにはならない。集団的労使関係の一方当事者たる労組法上の使用者といえるためには、単に、労働安全衛生規則及び倉庫業法の関係法規等に基づき一定の公法上の義務が課されることのみでは足りないところ、本件においては、会社らがAの基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとはいえない。

ウ また、組合は、Y1会社のリフトマンはY2会社と雇用関係がないにもかかわらず、Y2会社は指揮命令を行っていることを認めている旨を主張するが、そのことから直ちにY2会社がC会社の従業員であるAに指揮命令を行っていたということはできない。

エ したがって、これらの組合の主張は採用できない。

(4)以上から、会社らの双方又は一方は、本件団交申入れについて、Aとの関係において労組法第7条の使用者に当たるとはいえない。

2 会社らの双方又は一方が、本件団交申入れについて、組合員Aとの関係において労組法第7条の使用者に当たる場合、当該使用者が本件団交申入れに応じなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点2)

 1で判断したとおり、会社らは、組合員Aの労組法第7条の使用者に当たるとはいえないから、会社らが本件団交申入れに応じなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。 
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