労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委令和3年(不)第6号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年5月8日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要    本件は、①会社の職員B1が組合分会長Aに組合を侮辱する発言をしたとして、組合が会社に対してB1及び会社の謝罪を求めたところ、取締役部長B2がAに対して謝罪を拒否する旨電話で回答したこと(以下「3.2.9回答」)」②組合が文書により、団体交渉における組合の要求事項等に係る事前の文書回答及び団交の日時・場所に係る文書回答を求めたことに対し、会社が口頭回答のみを行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛知県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 却下を求める会社の主張について

 会社は、令和3年5月24日の申立てで組合が問題にしているのは、①乗客トラブルに係る会社のA1分会長への指導など、②職員B2が令和元年11月27日に行ったA1分会長への発言(以下「1.11.27B2発言」)、③本件運賃トラブルに係るB2のA1への説明の3点だと思われるとし、申立時に既に1年を経過している行為を問題にするもので、却下されるべきである旨主張する。
 しかし、当該申立てにおいて組合が主張するのは、令和3年2月9日に部長B3が「回答済み」「処理済み案件」だとして謝罪を拒否する旨回答したこと(以下「3.2.9B3回答」)であるため、会社の主張は採用できない。

2 令和3年2月9日、組合が同月2日に申し入れた、1.11.27B2発言に係る職員B2及び会社の謝罪という事項についての3.2.9B3回答は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点1)

 3.2.9B3回答は、その日の分会長A1と部長B3とのやり取り(以下「3.2.9やり取り」)の中でなされたものであるところ、①令和3年2月2日付け「職員B2の組合侮辱発言を謝罪せよ!」と題する文書(以下「3.2.2組合文書」)には、団交を申し入れる旨の記載はなく、専ら1.11.27B2発言に係る謝罪を要求する内容であることなどから、団交の申入れに当たらず、また、②3.2.9やり取りは、3.2.2組合文書に対する会社の回答であり、団交の申入れに基づくものではないことなどから団交に該当しないと解するのが相当である。
 これを踏まえると、3.2.9やり取りの中でなされた3.2.9B3回答について、不誠実団交の問題は生じず、また、②3.2.2組合文書は団交の申入れではないから、3.2.9B3回答は団交拒否に該当しない。
 したがって、3.2.2組合文書の内容が義務的団交事項に該当するかを判断するまでもなく、3.2.9B3回答は労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。

3 3.2.9B3回答は、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するか。(争点2)

(1)労組法第7条第3号の支配介入とは、労働組合が使用者との対等な交渉主体であるために必要な自主性、独立性、団結力、組織力を損なうおそれのある使用者の行為をいうと解すべきであり、ある行為が支配介入に該当するか否かについては、組合員である労働者を威嚇又は懐柔し、労働組合の組織・運営に干渉・妨害を行い、労働組合を弱体化させる行為と評価できるかによって判断すべきである。

(2)3.2.9やり取りにおける部長B3の「回答済みということで判断しています」「処理済み案件だと思っています」等の発言が、具体的に組合員である労働者を威嚇又は懐柔し、労働組合の組織・運営に干渉・妨害を行ったと評価できる事情は見当たらない。会社に謝罪要求がされたのは、1.11.27B2発言から1年2か月以上経過した時点であったことに鑑みると、謝罪の有無が、組合方針の変更につながる重大な事由であったとは評価し得ない。また、3.2.9B3回答後も組合は団交を開催し、1.11.27B2発言に係る謝罪について協議できており、組合活動が妨害された事実は認められない。

(3)以上のことから、3.2.9B3回答は、組合を弱体化させる行為と評価できず、組合が会社との対等な交渉主体であるために必要な自主性、独立性、団結力、組織力を損なうおそれのある使用者の行為とはいえないから、支配介入に該当せず、したがって、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当しない。

4 組合が、令和3年5月25日春闘要求書(以下「3.5.25春闘要求書」)で要求事項等に対する回答及び団交の日時・場所に係る回答を文書で行うよう求めたこと並びに同年7月27日組合文書(以下「3.7.27組合文書」)で要求事項等に対する回答を文書で行うよう求めたことに対し、令和3年7月1日の団交(以下「3.7.1団交」という。)等の機会において、会社が「口頭での回答で十分理解を頂けると思っている」「団体交渉のこの場で、次の新しい話をその場で言われても、当日その場で答えられないですから」等述べて、文書で回答を行わなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点3)

(1)一般に、使用者は、要求事項等に対して文書回答を行う法的義務を負わないが、労組法第7条第2号により、必要に応じてその主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示するなどして、誠実に団交に応ずべき義務(以下「誠実交渉義務」という。)を負うところ、使用者の行為が、合意達成に向けた労働組合の努力に反して、団交の進展を妨げるものである場合には、当該行為は誠実交渉義務違反として、不当労働行為に該当すると判断するのが相当である。
 文書回答を行わなかったことが誠実交渉義務に違反するか否かの検討に当たっては、誠実交渉義務が団交の他方当事者である労働組合の合意達成に向けた努力の程度に応じて内容が画される相対的な義務であることから、文書回答が必要な理由や根拠を具体的に説明したか等、文書回答を求めた際の組合の態度についても考慮するのが相当である。

(2)会社が3.5.25春闘要求書及び3.7.27組合文書の要求事項等に対する文書回答を行わなかったことについては、以下の点を総合的に考慮すると、団交の進展を妨げる行為であったとはいえず、誠実交渉義務違反に該当しない。

ア ①会社の回答はその場で正確に理解することが困難な内容ではなく、②相手方の発言につき必要なメモを取り、見解や反論を形成するのは、それが過度な負担に及ぶ場合は別として、当然の負担であり、③実際に齟齬が生じた事実は認められないことなどから、いずれも会社の行為が団交の進展を妨げるものであったとは評価できないこと。

イ 組合の態度について、3.5.25春闘要求書及び3.7.27組合文書に照らし、組合が会社に対し、要求事項等に対する文書回答が必要な理由や根拠を具体的に説明していたとはいい難いこと。

ウ 3.7.1団交での部長B3の発言について、会社が文書回答を行う必要があったとはいい難いことに加え、上記の組合の態度を考慮すると、直ちに不誠実であったとまではいえないこと。

(3)次に、会社が3.5.25春闘要求書で組合が求めた団交の日時・場所に係る文書回答を行わなかったことについては、以下のことを総合的に考慮すると、令和元年8月19日あっせん合意(以下「本件あっせん合意」)及び労使間の慣行に反する行為ではあったものの、団交の進展を妨げる行為であったとはいえず、誠実交渉義務違反に該当するとまではいえない。

ア 会社は、団交の日時・場所に係る文書回答を行わなかった理由について、団交等に係る担当役員が交代した際、本件あっせん合意に関する引継ぎが十分行われなかったためである旨主張する。そして、会社は、口頭ではあったにせよ団交の日時に係る回答を行っており、また、令和3年9月21日の団交で組合から指摘を受けた後、会社は、団交の日時・場所に係る文書回答を再開し、団交の場で組合に謝罪している事情を踏まえると、会社が団交の日時・場所に係る文書回答を行わなかったのは、団交の進展を妨げることを企図したものであったとまで評価することはできないこと。

イ 会社が口頭で回答した日時に基づき、結果として、3.7.1団交は開催されており、団交の進展が妨げられたという事実は認められないこと。

(4)したがって、3.7.1団交等の機会において、会社が文書で回答を行わなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。 
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