労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第62号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年3月24日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、労働基準法上の労働者の過半数代表者の選出に関し、①Y会社と合併する前のY0会社(以下「会社」)の人事課課長代理が、自分が務める旨告げた組合員Aに対し、労働者の過半数で支持を得た者を選出するよう求める旨の電子メールを送信したこと、②管理職に当たる所長が、会社従業員に対し、選挙で選出することの可否を問う電子メールを送信したこと、③同所長が、会社従業員を参考送付の宛先に入れて、Aと電子メールのやり取りを行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合は、会社が、会社内における唯一の労働組合員であるAが過半数代表者になり、会社の人事施策に意見を言われたり、労使協定への押印を拒否されたりすることを恐れ、以下の争点①から③の過半数代表者就任への妨害行為を行ったのであり、これらが組合に対する支配介入に該当する旨主張する。
 そこで、これら行為が、Aの組合活動を妨げ、それにより、組合の組織、運営に影響を及ぼすような使用者の行為に当たるといえるか、それぞれの行為の内容、態様、目的、手続等について以下検討する。

2 令和3年8月4日午後5時15分、課長代理B1が組合員Aに対し、労働者の過半数代表者については、会社従業員の過半数で支持を得た者を選出するよう求める旨の電子メールを送信したことは、会社による労働組合に対する支配介入に当たるか(争点①)

(1)令和3年8月4日午後5時15分、B1はAに対し、過半数代表者は労働者の過半数の支持が明確になるような手続を踏む必要があるため、会社従業員で過半数の支持を得た者を選出してもらいたい旨、現在の過半数代表者は全員による直接選挙で選出されていると聞いているので、再度選挙をして、過半数代表者を選出することになると思う旨等を記載したメール(以下「B1メール」)を送信したことが認められる。

(2)このことについて、組合は、①各グループ〔注部署ごとに分かれた3つのグループ〕の意見集約担当が話合いで決めるという最初のルールに従った方法でAが過半数代表者になった旨、グループ2の意見集約担当であるC氏は了承し、(グループ3担当の)D氏からも特に反対意見は出なかったので、Aは賛同を得ているものとして取り扱った旨、②B1はB1メールで「再度選挙をして代表者を選出することになる」と言い出したが、本来人事課は過半数代表者の選出方法についても従業員自らが選択した3グループに分けての互選という方法を尊重すべきで、口を挟むべきではなく、Aが前回の過半数代表者選出の過程を説明してもAの過半数代表者選出に異議を唱えて、選挙にこだわるのは、A外しの意図を持っていたものと思われる旨主張する。

(3)B1メールに至る経緯についてみると、Aは、意見集約担当の3名の中でD氏が退職し、C氏は「休職出向者」のグループの意見集約担当なので適当ではないことを、自らが過半数代表者になる根拠として挙げているものといえる。この点、Aが誰の意見も聞かずに自身一人で考えた方法により自らが過半数代表者になると述べていることに対し、B1がB1メールで、過半数代表者の選出には事業場の全ての労働者の過半数がその人を支持していることが明確になるような手続を要するという原則を述べ、また、その手続については選挙になろうかと思う旨述べることは、不自然ではないといえ、ことさらにAの組合活動を妨害する行為であるとみることはできない。
 以上のとおり、B1メールに、Aを過半数代表者就任から排除する意図がうかがえない以上、当該電子メールの送信を会社による支配介入に当たるということはできない。

(4)なお、組合は、Aはグループ2及び3の意見集約担当であるC氏及びD氏と話合いをしており、前年の手続を踏襲した旨も主張する。この点、過半数代表者選出の過程で、本当に3名で話合いを行ったと解釈できるか否かや、その行為をもって会社従業員の過半数の支持を得たとみなせるか否かはさておくとしても、令和3年8月4日のB1メールの前には、そのことをB1に伝えていないのであるから、当該事項は、上記判断に何らの影響を与えるものでもない。

(5)これらのことから、B1がAに対し、B1メールを送信したことが組合に対する支配介入に当たるとする組合の主張は採用できない。

3 令和3年8月11日午後2時53分、所長B2が会社従業員全員に対して、労働者の過半数代表者の選出方法についての賛否を問う電子メールを送信したことは、会社による労働組合に対する支配介入に当たるか(争点②)

(1)令和3年8月6日、組合員Aは会社従業員に対し、3名の意見集約担当の協議の結果、Aが、(前任の)D氏から過半数代表者の役割を引き継いだ旨等を記載したメール(以下「Aメール」)を送信したこと、②令和3年8月11日午後2時53分、ITサービスデスクのデスク長(以下「所長」)B2は会社従業員全員に対し、今期の過半数代表者の決まり方について一方的な感があることから、前回同様に直接選挙でやり直すべきであると思う旨、会社従業員の意見を確認するため、直接選挙に「賛成」か「反対」かの回答を同月13日までに求める旨を記載したメール(以下「B2メール」)を送信し、及びアンケートを行ったこと、が認められる。

(2)そこで、B2メールのきっかけとなったAメールについてみると、同メールには、D氏が不在となり、3グループの意見集約担当の中で話合いを行い、協議の結果、過半数の支持を得てAが過半数代表者となった旨の記載があったことが認められる。そして、同メールの内容を見れば、意見集約担当3名で話し合ったというだけで、何の根拠もなく、「過半数の支持を得て」と主張されており、しかも、話し合ったとされるうちの1名は不在となるD氏で、同氏は同年7月15日を最終出社日として、当時既に出社していなかったことが認められる。そうした中で、Aメールを読んだB2が、同僚である会社従業員に対し電子メールで意見を求めることを考え、B2メールを送信したことは、不自然でも不合理でもない対応であるといえ、そこに組合活動を妨害しようとする意図を読み取ることはできない。
 これらのことから、会社がB2をしてB2メールにより組合員であるAの過半数代表者就任を恐れて妨害したとする組合の主張は採用できない。

4 令和3年8月16日の午前9時21分から午後2時32分にかけて、所長B2が会社所属従業員全員をCCの宛先として、組合員Aと労働者の過半数代表者選出に係る電子メールのやり取りを行ったことは、会社による労働組合に対する支配介入に当たるか(争点③)

(1)令和3年8月16日、所長B2は組合員Aに対し、会社従業員全員をCCの宛先に入れた状態で、①同月11日のアンケートの結果から、過半数を超える労働者が今回の決め方に疑念を持ち、再選挙を望んでいる旨、②労働者の過半数が選挙を求めている状況は無視できない旨、③かかる状況は、今回の代表選出プロセスで決まったAを過半数代表者と認めていないことと同じであり、Aが選挙で決まれば誰も文句は言わない旨等をそれぞれ記載したメール〔注計5件〕を送信したことが認められる。

(2)この点、B2は会社従業員全員に対しアンケートを行ったことからすれば、B2が、令和3年8月16日午前9時21分に、Aに対して同アンケートの結果を送信するのと同時に、同アンケートに協力を求めた会社従業員にも結果を知らせるためにB2メールを送信したことは、不合理な行動ではなかったといえる。
 また、その後のB2メール〔注午前10時9分、11時26分、午後0時3分、2時32分〕についてみれば、Aから同じく会社従業員全員をCCの宛先に入れた状態で、反論が返信されたことへの対応として送信されているのであるから、自然な流れでCCに入れ続けたものであったといえ、それ以外の意図はうかがえない。
 以上のことからすれば、B2メールが会社従業員全員をCCの宛先に入れた状態で送信されたことについて、過半数代表者をA以外の者にする意図によるものとみることはできない。

(3)次に、組合が問題であると主張する、令和3年8月16日午後0時3分に送信されたB2メールをめぐるやり取りについてみれば、①Aが同日午前11時48分に、Aが3グループの意見集約担当の支持を得たことは、すなわち過半数の支持を得たことであり、過半数代表者になることは会社従業員の総意で決まったことになる旨主張する電子メールを送信したこと、②これに対し、所長B2が反論として、「私も労働者の意見を募った労働者の一人として労働者過半数が選挙を求めている状況は今回の代表選出プロセスで決めたAさんを労働者代表と認めていない事と同じだと思います。」などと記載された電子メールを同日午後0時3分に送信していることが認められる。
 これらのことからすれば、B2は、自らの主張が正しいとして一切譲歩しようとせずに自分が過半数代表者であると主張するAに対し、アンケートの結果に基づく主張をしているだけであるといえ、Aが過半数代表者に立候補することを妨げることを意図していたとみることはできないし、B2の主張に特段の不自然、不合理な点は見受けられず、組合の主張は採用できない。

5 そもそも、組合と会社は、組合員Aに関する事項について同組合員の組合加入後から本件申立てまでの間、計6回の団交が開催されていることが認められるが、同時に、組合が同組合員の過半数代表者選出に関して団交を申し入れたことはないことも認められる。また、Aが課長代理B1らに対し、D氏を引き継ぎ、過半数代表者に就任する旨を主張する中で、そのことと組合活動との関係に言及したことは認められない。そのうえ、Aが過半数代表者に選出されなかったことによる、組合活動に対する影響についてなんらの具体的な主張もなく、会社が、Aが唯一の組合員であることを嫌ってその過半数代表者就任を妨害したとの主張のみが行われ、そう判断すべき具体的な根拠についての主張はない。

6 以上のことから、会社は、争点における①から③の行為により、組合員Aの組合活動を妨害したとはいえず、組合の組織、運営に影響を及ぼしたものともいえない。
 よって、争点における①から③の行為は、会社による組合に対する支配介入に当たるとはいえず、本件申立ては棄却する。 
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