労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  北海道労委令和3年(不)第6号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年11月28日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合からの団体交渉の申入れに対し、組合の執行委員長は会社を定年退職したことにより組合員資格及びその地位を失っており、同人を代表者とする団体交渉申入書では組合の意思に基づいたものであるか確認できないとして応じなかったこと、②Cとの間で36協定等を締結したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 北海道労働委員会は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合の規約を独自に解釈して、組合執行委員長の組合員資格及びその地位に疑義があるとの理由で団体交渉を拒否してはならないこと、(ⅱ)組合の承認を得ずに組合副執行委員長を名乗る者が行った団体交渉の申入れを応諾し、36協定を締結するなど組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅲ)文書掲示を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合からの団体交渉の申入れに対し、組合の規約を独自に解釈して、組合執行委員長の組合員資格及び執行委員長としての地位に疑義があるとの理由で団体交渉を拒否してはならない。

2 会社は、組合執行委員長の組合員資格及び執行委員長としての地位に疑義があるとの理由で組合が申し入れた団体交渉を拒否する一方、組合の承認を得ずに組合副執行委員長を名乗る者が行った団体交渉の申入れを応諾し、時間外及び休日労働に関する協定を締結するなど組合の運営に支配介入してはならない。

3 会社は、次の内容の文書を縦1.5メートル、横1メートルの白紙に楷書で明瞭に記載し、会社本社の正面玄関の見やすい場所に、本命令書写し交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。
 当社は、組合から申し入れられた、時間外及び休日労働に関する協定等に関する団体交渉等について、貴組合の執行委員長であるA1氏の組合員資格及び執行委員長としての地位に疑義があるとの理由で団体交渉に応じませんでした。
 また、貴組合執行委員長A1氏の組合員資格及び執行委員長としての地位に疑義があるとの理由で貴組合が申し入れた団体交渉を拒否する一方、組合から副執行委員長としての権限を一時的に停止されていたC氏からの団体交渉の申入れに対しては、組合からの副執行委員長の権限停止中であるとの通告を受けながらも、あえてこれを無視して、C氏による団体交渉の申入れを応諾して、時間外及び休日労働に関する協定の締結をし、貴組合の運営に支配介入しました。
 当社の上記行為は、北海道労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されましたので、今後、このような行為を繰り返さないようにします。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社      
代表取締役B1 
判断の要旨  1 会社が、本件団交申入れについて、A1の組合員資格及び執行委員長としての地位に疑義があることを理由に団体交渉に応じなかったことは、法第7条第2号の不当労働行為に当たるか (争点1)

 会社は、本件団交申入れに対して、A1が組合代表者として登記されていないこと、また、組合の規約上A1の組合員資格及び執行委員長としての地位について疑義があることを理由に、A1が組合の代表者であることの証明を組合に求め、この証明がなされれば団体交渉に応じるとの趣旨の回答を繰り返し行い、団体交渉に応じていない。
 会社は、団体交渉を拒否しているわけではないと主張するが、A1の定年退職日以降、団体交渉は一度も行われていない。したがって、会社のこのような態度は、正当な理由が認められない限り、法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
 そこで、組合の代表者の登記、規約上のA1の組合員資格及び執行委員長としての地位に関する会社の主張に正当な理由が認められるか、以下検討する。

ア 組合の代表者の登記について

 労働組合法(以下「法」)第11条第3項は、「労働組合に関して登記すべき事項は、登記した後でなければ第三者に対抗することができない。」と規定している。
 会社は、同項は団体交渉にも適用されるべきであり、組合の代表者の登記について、平成24年10月22日にA2の代表者就任の登記がなされてから変更の登記が行われておらず、登記上、A1が組合の代表者であることを確認できないことから、その資格や権限についての証明がなされない限り、執行委員長A1名義での団体交渉の申入れに応じないことには正当な理由があると主張する。
 しかし、法第11条第3項が、法人である労働組合について登記すべき事項を第三者への対抗要件と定めているのは、労働組合と取引関係に入った者との法律関係の安定等を考慮したものであるところ、団体交渉の申入れは、労働組合が使用者に対し交渉を求める行為であって、同条項が予定する取引行為ではない。
 したがって、労働組合の代表者の交代があった場合、その旨の変更登記がなされていないことを理由として、使用者が団体交渉を拒否することは許されない。よって、組合の代表者の登記がA1に変更されていないことは、団体交渉を拒否する正当な理由には当たらない。

イ 規約上のA1の組合員資格及び執行委員長の地位について

 会社は、A1が、令和3年4月29日に定年退職したことによって、規約上、組合員ではなくなり、その結果、組合員としての地位を前提とする組合執行委員長の地位も失うと考えられ、A1に組合を代表する権限があるかどうか疑義が認められるから、その資格や権限についての証明がなされない限り、執行委員長A1名義での団体交渉の申入れに応じないことには正当な理由がある旨を主張する。
 この点、A1は、組合内部の正規の手続を経て組合の執行委員長に選任され、会社も過去複数回にわたってA1を執行委員長とする組合からの団体交渉に応じてきた経緯があるところ、上記の会社の主張は、規約を独自に解釈し、かかる立場にあったA1の資格・権限が失われたというものであるが、組合員資格や代表権限の有無は、組合内部の組織・運営に関わる事項であり、これらを定める規約の解釈・運用について、会社が干渉することは本来許されない。
 したがって、規約の解釈に会社が立ち入り、それを理由にA1の組合員資格及び執行委員長としての地位に疑義を述べて、A1を組合代表者とする団体交渉を拒むことには正当な理由は認められない。

ウ 以上から、組合の代表者登記、規約上のA1の組合員資格及び執行委員長としての地位に関する会社の主張は、団体交渉を拒否する理由になり得ず、会社が団体交渉に応じないことは、法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

2 本件36協定締結は、法第7条第3号の不当労働行為に当たるか(争点2)

(1)会社は、組合からの「執行委員長 A1」名義による団体交渉の申入れに対しては、A1の組合員資格及び執行委員長としての地位について疑義を呈して応じない一方で、執行委員長代理を名乗るCからの団体交渉の申入れに対しては応じた上、時間外及び休日労働に関する協定(以下「36協定」)等を締結した。このような対応をとった理由について、会社は、A1の組合員資格及び執行委員長としての地位を有することの証明に組合が応じないのに対し、Cは会社に対し資料を提示の上、自身に執行委員長代理権があると申し出、その資料と規約を検討した結果、副執行委員長であるCに執行委員長の代理権があると証明されたからであり、やむを得ないものであると主張する。

(2)法第7条第3号の支配介入とは、労働組合の自主的な運営・活動に対して使用者が干渉・妨害するなどして労働組合を弱体化する行為を指すものと解される。

(3)会社は、規約の解釈に基づいてA1の組合員資格及び執行委員長としての地位に疑義を呈してA1を代表者とする団体交渉を拒絶する一方で、独自の規約の解釈に基づいてこれとは逆に積極的にCの組合代表権限を認め、同人が申し入れた団体交渉に応じ、その結果、36協定等の締結にまで至っている。かかる会社の対応は、本来、組合の自主的判断に委ねられている規約の解釈を会社独自に行って、一方を排除し他方を受け入れるというものであり、組合の自主的判断に対する干渉といわざるを得ない。
 しかも、定期大会の開催日直前の令和4年1月26日における、常務取締役B2による代議員として同大会に出席予定のCらに対する発言は、A1の組合員資格及び執行委員長としての地位に疑義を呈するだけではなく、A1が招集した大会の成立阻止の意思を表明するものであり、会社が、この大会においてA1の組合員資格及び執行委員長としての地位が明確に認められることになる事態を阻止したい意思を有していたものと認められる。
 また、B2は、Cらに対し、同大会でCらが行う質問内容について協力を申し出、それを受けて、CらはB2の発言に沿った意見を述べていることからすると、会社は以前から、組合からA1を排除するために、Cらを利用してきたこともうかがわれるといわざるを得ない。
 以上からすると、会社は、あえてCからの36協定締結に関する団体交渉に応じ、Cとの間で協定を締結することにより組合の弱体化を図ったものと考えられ、本件36協定締結は組合の組織・運営に対する干渉であり、法第7条第3号の不当労働行為に該当する。 
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