労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  茨城県労委令和2年(不)第2号
カンプロ(株)不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(組合)・個人X2(併せて「組合ら」) 
被申立人  Y会社 
命令年月日  令和4年10月20日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、組合員であるX2が、LINEを使用して、会社従業員である友人に組合への加入を勧誘する内容のメッセージ(以下「本件メッセージ」)を送信したことが会社に対する信用・信頼を失墜させたとして、同人に対し減給の懲戒処分をしたこと(以下「本件処分」)、②組合との団体交渉における組合員に係る人事評価や配置転換に関する継続協議の申入れ及び文書による回答の求めに応じなかったこと、③会社取締役の会議での発言、代表取締役による文書配付及び取締役によるメール送信が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 茨城県労働委員会は、①について労働組合法第7条第1号及び第3号、③について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)減給処分の取消し及びバックペイ、(ⅱ)組合への加入勧誘行為に干渉することにより、組合の結成・運営に支配介入してはならないこと、(ⅲ)組合所属に関する調査、組合脱退工作、組合員に対する無視、退職勧奨等不利益を課すことにより、組合の存立・運営に支配介入してはならないこと、(ⅳ)文書の交付及び掲示等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、申立人X2に対する令和2年7月31日付け減給処分(以下「本件処分」という。)を取り消すとともに、同人に対し、本件処分による減額分3,500円を支払わなければならない。

2 会社は、組合の組合員による会社の従業員に対する組合への加入勧誘行為に干渉することにより、組合の結成・運営に支配介入してはならない。

3 会社は、組合所属に関する調査、組合脱退工作、申立人組合組合員に対する無視、退職勧奨等不利益を課すことにより、組合の存立・運営に支配介入してはならない。

4 会社は、本命令書受領の日から7日以内に、別紙1の文書を会社らに交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に記載し、会社本社及び各営業所の正面玄関付近の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。

5 会社は、第1項及び前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

6 その余の申立てを棄却する。

別紙1
年 月 日
X1組合 執行委員長 A殿
X2 殿
Y会社       
代表取締役 B
 当社が行った下記行為は、茨城県労働委員会において、労働組合法第7条第1号及び同条第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 つきましては、今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
1 X2に対し、令和2年7月31日付け懲戒処分(減給)をしたこと。
2 組合員による従業員に対する組合への加入勧誘行為に干渉し、組合の結成・運営に支配介入したこと。
3 組合所属に関する調査、組合脱退工作、組合員に対する無視、退職勧奨等不利益を課すことにより組合の存立・運営に支配介入したこと。 
判断の要旨  1 本件処分が、X2に対する労組法第7条第1号の不利益取扱いに当たるか(争点1-ア)

(1)本件メッセージの内容・性格について

〔注1〕本件処分
 会社が、本件メッゼージを送信したことが会社に対する信用・信頼を失墜させたとして、令和2年7月31日付けでX2に対し減給の懲戒処分を行ったこと。

〔注2〕本件メッセージ
 X2が、LINEを使用して、会社従業員であり友人であるLINEメンバーに対して送信した、組合への加入を勧誘する内容のメッセージ。

 会社が懲戒事由として主張する組合員A1に係る部分を含む本件メッセージは、全体として、組合員であるX2が、当該LINEメンバーに対し、組合への加入勧誘を行う目的で送信した行為であると判断するのが相当である。

(2)懲戒処分としての有効性について

 会社は、①本件メッセージのうち、懲戒事由として主張する組合員A1に係る部分の記載のみを本件処分の対象としていること、②本件メッセージの内容が真実でないこと、③本件メッセージの内容はX2がSNSで発信した虚偽、憶測を含む情報であり、就業規則第70条第2項においてSNSでの発信が禁止される「(5)会社に対する誹謗中傷、虚偽、憶測の内容を含む情報」に該当し、懲戒事由に該当することを主張する。

ア 懲戒事由として主張する組合員A1に係る部分の記載について

 組合員A1に係る部分には、「総務部全員、取締役B2と面談を行った。その際にB2の考えに賛成できない部分があり、その部分を意見してからずっと、B2から一方的な無視や評価の面で明らかにパワハラとされる扱いを受けていた。そのことで労基署に駆け込み、労基署は会社に対して通告を行ったが、会社はパワハラではないと判断し詳細な返答もなく結論づけた。その後も何度か労基署に相談したが会社は認めないの一点張りで、後にA1はパワハラについて労基署に伝えたことで評価を下げられ、部署異動を言い渡された。」旨が記載されている(なお、X2は、「労基署」は「労働局」の間違いであったと述べる)。
 しかし、①A1からパワーハラスメントの相談を受けた労基署ないし労働局から、会社に対して通告がなされた事実は認められず、よって、②会社がパワハラではないと判断し詳細な返答もなく結論づけたという事実、③A1がパワーハラスメントについて労基署ないし労働局に伝えたことを理由に評価を下げられ、異動を言い渡された事実などはいずれも認められず、本件メッセージの内容は事実に反していると言わざるを得ない。

イ 懲戒事由の該当性について

 組合員A1に係る部分の記載は、会社内及び会社外の者が閲覧した場合に、会社の社会的評価、信用を低下させるおそれのある、との会社の認識を否定することはできない。
 しかし、X2は、組合員A1やA2から直接聞いた話をもとに本件メッセージを作成し、LINEメンバー内へ送信したものであって、同人に注意不足があったことは否めないものの、殊更、虚偽の事実を送信したとの認識がなく、また、会社の信用・信頼を失墜させることについて、あえて意図したことをうかがえる証拠もない。加えて、本件メッセージは、その受信者がメンバーのみにとどまり、さらなる拡散の事実は認められない。

ウ 本件処分の相当性について

(ア)上記に加え、会社が行った懲戒処分の事例は、平成27年4月以降、飲酒運転による摘発や横領行為を事由とするものを除けば、厳重注意のみであり、減給以上のものはなく、また、会社が、X2が取締役B2に対して一度謝罪したことをもって、処分を見送ることを検討していたことがうかがえる。
 他方、本件処分に至る過程においては、X2に対して本件メッセージの送信ゆえに事情聴取がなされていることが会社内に伝わったことが推測され、その状況のもと、令和2年8月3日、会社は、会社従業員に向けて、被処分者の氏名は明記しないものの、「懲戒処分の公表について」で、同年7月に減給の懲戒処分を行ったことを公表し、X2に対し、事実上の制裁として加重した面もある。
 本件においては、懲戒処分をしない方向の検討があったにもかかわらず、結果として、懲戒処分としての「厳重注意」を越え、「減給」の処分に至ったこと、それに加え、さらに社内公表がなされていることを踏まえ検討するならば、本件処分は、懲戒処分として重すぎるものと評価せざるを得ない。

(イ)会社は、組合及び支部が、本件メッセージの送信に係る事情聴取についてパワーハラスメントであるとして抗議して以降、X2が取締役B2とのコミュニケーションを拒否するようになったとして、反省の態度が見られないために懲戒処分を科すこととした旨主張する。しかし、当該抗議後、X2がB2とのコミュニケーションを拒否するようになった事実はうかがえず、かえって、組合の抗議に対する反発から、本件処分を決めたとも推認しうる。

(ウ)以上のとおり、会社の主張する懲戒事由を前提としても、本件処分は、懲戒処分としては重すぎるものと判断せざるを得ず、懲戒処分としての相当性を欠くものと言わざるを得ない。

(3)不当労働行為意思の有無について

 本件メッセージは、組合の組合員であるX2が組合への加入勧誘と支部結成を目的として作成・送信したものであり、組合員A1に係る部分は、組合への加入勧誘の契機とする事例として記載されたと解される。その一部をとらえ、懲戒処分として本件処分を行うことは、組合への加入勧誘行為をした組合員であるX2に対し、制裁を加えることにほかならない。
 加えて、労使間の状況の存在、本件メッセージに関する内部通報があった当時、会社が本件メッセージの存在を認識せず、記載内容が会社内に流布していたなどといった状況はうかがえないこと、本件処分が懲戒処分としては重すぎると判断されることなどを合わせ検討するならば、不当労働行為意思の存在を否定することはできない。

(4)したがって、本件処分は、労組法第7条第1号の不利益取扱いに当たるものと言わざるを得ない。

2 本件処分が、組合に対する労組法第7条第3号の支配介入に当たるか(争点1-イ)

 本件メッセージは、組合への加入勧誘を内容とするものであり、労働組合への加入勧誘行為は労働組合の団結活動そのものであるところ、本件処分に至る過程においては、X2に対して本件メッセージの送信ゆえに事情聴取がなされていることが会社内に伝わったことが推測される状況のもと、会社は、会社従業員に向けて、減給の懲戒処分を行ったことを公表している。
 組合への加入勧誘を内容とする本件メッセージを送信したことに対し、送信者である組合員のX2が本件処分を科されることは、組合員はもちろん、会社従業員において、組合への加入や何らかの関与を行った場合には、会社において、事情聴取等の何らかの対応、あるいは本件処分のような懲戒処分がなされるおそれを抱かせ、ひいては、会社従業員が組合へ加入しない、組合の組合員が組合から脱退するなどの組合の活動・運営を阻害するおそれがあると解される。
 よって、本件処分は、組合の組合員による会社従業員に対する組合への加入勧誘行為に干渉するものであり、組合に対する労組法第7条第3号の支配介入に当たる。

3 会社の団体交渉における組合員3名に対する評価についての対応が、労組法第7条第2号の不誠実団交に当たるか(争点2-ア)

(1)組合は、会社に対し、マイナス評価の理由について、第1回団体交渉直後から書面での回答を求めていたにもかかわらず、会社が、それに応じず、第3回団体交渉当日になって人事評価表のみを交付したにとどまり、かつ、それに基づく説明を行わなかったことなどが不誠実団交である旨主張する。
 確かに、会社がマイナス評価の理由に係る書面での回答それに応じなかった事実はある。しかし、会社は、第2回団体交渉において、組合員A2、A1、A3の評価に係る理由、組合員A3に対する7月16日付け配置転換、退職勧奨の件、新評価制度を導入した理由について説明しており、組合側から一定の質疑がなされている。
 会社側からは、口頭での説明が行われ、かつ、事前の文書の提出がなかったため、組合側において質疑の準備に難があったことは否定しないが、上記の説明は、各組合の組合員の個々の具体的事実のため、理解は困難なものとまでは言えない。
 そして、会社は、文書回答の要求には応じていないものの、組合及び支部に対し、口頭での説明を前提に、受け入れられない点及びその理由を具体的に示すよう求める対応をしていることからも、会社の対応を不誠実団交と言うことはできない。

(2)また、会社が、当日、人事評価表のみを交付し、それに基づく説明が行われなかった事実は認められる。しかし、従前までの経過と同様、マイナス評価の理由についての文書での回答について組合と会社の対立があり、やり取りの終了時点において、当事者双方において、マイナス評価に関する件については、今後も協議が継続することの確認がなされたと言うべきである。したがって、会社の対応をもって、不誠実団交と言うことはできない。

4 会社の団体交渉における7月16日付け配置転換についての対応が、労組法第7条第2号の不誠実団交に当たるか(争点2-イ)

(1)組合らは、①第2回団体交渉において、令和元年7月16日付け配置転換の業務上の必要性や、手当の減額による減収について、事実に反する説明をしたこと、これらの説明を口頭によってのみ行ったこと、②第2回団体交渉における説明が不正確であり、かつ、文書による回答がなかったため、組合が継続協議を申し入れるとともに、再度、文書による回答を求めたにもかかわらず、会社がいずれにも応じなかったことが、不誠実団交である旨主張する。

(2)会社は、第2回団体交渉において、口頭で、①保安の強化のために、技術力があり、前年度の評価が高かった組合員A3が適切であると判断して配置転換を行ったこと、②配置転換に伴い業務主任手当がなくなったこと、③手当がなくなったことについて説明する機会を設けようとしたが、A3が拒否したため、説明をすることができなかったことについて説明しており、組合側から一定の質疑がなされている。また、会社の回答内容は、口頭での説明であっても、理解は困難なものとまでは言えない。
 そして、会社は、第2回団体交渉における口頭での説明・回答で足りるとして、文書での回答には応じていないものの、その後の組合の要求に対し、会社が行った口頭での説明を前提に、受け入れられない点及びその理由を具体的に示すよう求める対応をしている。
 また、第3回団体交渉以降の団体交渉において、組合は、7月16日付け配置転換に関する質問をすることもなく、また、要求書等に対する会社からの各回答書において、要求を維持するならば受け入れられない点及びその理由を具体的に示すようなどと求められていることに対し、書面で回答した事実もうかがわれない。
 以上からすれば、会社の対応が、不誠実団交と言うことはできない。

5 本件営業本部会議において、取締役B2が、「労働組合は悪質だ」、「組合をやめるか、会社をやめるか」などと発言した事実があったか否か。あった場合、労組法第7条第3号の支配介入に当たるか。また、同会議に出席できなかった会社従業員に、同会議のビデオを視聴させたことが、同号の支配介入に当たるか(争点3・4)

 本件営業本部会議における取締役B2の発言は、おおよそ、「会社の方針、会社の処遇に不満、納得のいかない方は会社を去っていただいて結構です。会社の方針とか処遇に対して賛同して一緒に働いて頂ける人たちとより良い会社を作って頂きたい」旨の内容であったと推認することはできるものの、同会議において、B2が「労働組合は悪質だ」、「組合をやめるか、会社をやめるか」などと明確に発言したとの事実までを認定することはできない。
 したがって、組合らの当該主張を認容することはできず、また、組合らの本件営業本部会議に出席できなかった会社従業員に対して同会議のビデオを視聴させた事実が支配介入に当たる旨の主張を認容することはできない。

6 代表取締役B1が会社従業員に対し1月6日文書を配付したこと、取締役B2が代表取締役B1、役員及び管理職ら合計21名に対し1月12日メールを送信したこと並びに取締役B2が代表取締役B1、役員、管理職を含む従業員ら合計28名に対し1月27日メールを送信したことが、労組法第7条第3号の支配介入にそれぞれ当たるか(争点5-ア、イ、ウ)

(1)代表取締役B1が会社従業員に対し令和3年1月6日に「社員の皆さまへ」と題する文書(以下「1月6日文書」)文書を配付したこと、取締役B2が代表取締役B1、役員及び管理職ら合計21名に対し同月12日に「ユニオンに対する現状認識について」と題するメール(以下「1月12日メール」)を送信したこと並びに取締役B2が代表取締役B1、役員、管理職を含む従業員ら合計28名に対し、同月27日にA4組合員に関し「ユニオンの問題児でした」と題するメール(以下「1月27日メール」を送信したことについては、当事者間に争いがなく、当該各行為が支配介入に当たることは会社も認めるところ、
①1月6日文書には「会社の方針や処遇に不満及び納得のいかない方は会社を去って頂いて結構です」などと記載されているが、組合及び支部にとっては、会社と考えが異なる者を排除することを表明しているものとも言え、当該発言は自身らに向けられたものと受け止めたことは想像に難くなく、組合及び支部の運営活動を妨害し、ひいては、これを弱体化させるおそれの高い行為であると評価することができる。
②1月12日メールは、組合の弱体化に向け、組合所属に関する調査、組合脱退工作と思われる対処方法の確認、組合組合員に対する無視について、依頼ないし指示を内容としているものと言わざるを得ない。
③1月27日メールには、組合員A4の退職を勧めるべく、組合の組合員の会社からの退職による排除を意図していることがうかがえる記載がなされていると言わざるを得ない。

(2)したがって、①代表取締役B1が会社従業員に対し1月6日文書を配付したこと、②取締役B2が代表取締役B1、役員及び管理職ら合計21名に対し1月12日メールを送信したこと並びに③取締役B2が代表取締役B1、役員、管理職を含む従業員ら合計28名に対し1月27日メールを送信したことは、いずれも不当労働行為である。 

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