労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  北海道労委平成30(不)12号・令和2(不)6号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年6月24日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①賃上げ、賞与及び燃料手当を交渉事項とする団体交渉に最高経営責任者を出席させなかったこと、②春闘賃上げ要求に係る団体交渉において誠実に対応しなかったこと、③組合が要求していたパート職員の賃上げを実施していながら組合に一切説明しなかったこと、④燃料手当の支給に当たって、組合に何らの説明をすることなく、一方的に減額したこと、⑤同手当を交渉事項とする団体交渉において誠実に対応しなかったこと、⑥組合と協議することなく、賞与支給要項の事前交付を取りやめたこと、⑦冬季賞与を交渉事項とする団体交渉において誠実に対応しなかったこと、⑧介護職員処遇改善加算等を交渉事項とする団体交渉において誠実に対応しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 北海道労働委員会は、①(実質的な交渉権限を付与されていない職員に出席・対応させたこと)、⑤及び⑦について労働組合法第7条第2号、②及び⑧について同条第2号及び第3号、③、④及び⑥について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(i)実質的な交渉権限を有する者の団体交渉への出席、(ⅱ)賃上げ、賞与及び燃料手当を交渉事項とする団体交渉において、自らの主張に固執することなく、要求事項に対して自らの見解の内容や根拠を具体的かつ明確に示して組合の納得を得るよう努力して、誠実に団体交渉を行わなければならないこと、(ⅲ)介護職員処遇改善加算等を用いた職員の賃金決定に関する団体交渉に応じるとともに、上記(ⅱ)と同様に、誠実に団体交渉を行わなければならないこと、(ⅳ)上記(ⅱ)及び(ⅲ)に係る団体交渉において不誠実な対応により組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅴ)組合に事前説明することなく、賞与支給要項の交付を取りやめること及び燃料手当の支給額を減額することと並びにパート職員の賃上げの実施について組合に説明しないことなどにより組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅵ)文書掲示を命じた。 
命令主文  1 法人は、院主や常勤理事など、組合の要求事項に関する実質的な交渉権限を有する者を団体交渉に出席させなければならない。
2 法人は、組合が申し入れた賃上げ、賞与及び燃料手当を交渉事項とする団体交渉において、自らの主張に固執することなく、要求事項に対して自らの見解の内容や根拠を具体的かつ明確に示して組合の納得を得るよう努力して、誠実に団体交渉を行わなければならない。
3 法人は、組合が申し入れた介護職員処遇改善加算及び介護職員等特定処遇改善加算を用いた職員の賃金決定に関する団体交渉に応じるとともに、自らの見解の内容や根拠を具体的かつ明確に示して組合の納得を得るよう努力して、誠実に団体交渉を行わなければならない。
4 法人は、上記2及び3に係る団体交渉において不誠実な対応することにより組合の運営に支配介入してはならない。
5 法人は、組合に事前説明することなく、賞与支給要領の交付を取りやめること及び燃料手当の支給額を減額すること並びに組合が要求していたパート職員の賃上げの実施について組合に実施しないことをなどにより組合の運営に支配介入してはならない。
6 法人は、次の内容の文書を縦1.5 メートル、横1メートルの白紙に楷書で明瞭かつ紙面いっぱいに記載し、法人が経営するC1病院及びC2老人保健施設のそれぞれ正面玄関の見やすい場所に、本命令書写し交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示板を継続しなければならない。
 当法人が、貴組合に対して行った次の行為は、北海道労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにします。
1 賃上げ、賞与及び燃料手当を交渉事項とする団体交渉に、院主や常勤理事など、実質的な交渉権利を有する者を出席させなかったこと。
2 平成29年度の春闘賃上げ要求、燃料手当及び冬季賞与を交渉議題とする団体交渉において、自らの主張に固執し、また、その根拠となる資料を提示しないなど誠実に対応しなかったこと。
3 令和2年度の介護職員処遇改善加算(Ⅰ)を取得するためのキャリアパス要件Ⅲを満たす方法及び介護職員等特定処遇改善加算の配分方法を交渉事項とする団体交渉拒否し、また、誠実に対応しなかったこと。
4 上記2及び3に係る団体交渉で不誠実な対応等をしたことにより貴組合の運営に支配介入したこと。
5 貴組合に事前説明することなく、賞与支給要領の交付を取りやめたこと及び燃料手当の支給額を減額したこと並びに貴組合が要求していたパート職員の賃上げの実施について貴組合に説明しなかったことなどにより貴組合の運営に支配介入したこと。
 年 月 日(掲示する日を記入すること)
 X組合
  執行委員長 A様
Y法人     
理事長 B1 
判断の要旨  1 院主B2が団交に出席しなかったことについて(争点1)

(1)法人においては、理事会がどのように開催されているか明らかではなく、総務担当など特定のセクションを担当する理事がいないことに鑑みると、最終的な決裁権を有する院主B2が団体交渉に出席することが望ましいが、院主B2が出席しないとしても、実質的な交渉権限を付与された者、例えば、実質的に法人の意思決定に関わっている常勤理事や、法人の見解や実情を具体的に十分に説明できる能力を有している職責の者が団体交渉に出席しなければならない。

(2)本件においては、理事や総務部長の退任等により、平成29年3月15日以降、令和元年12月20日の団体交渉に理事B3が出席するまで、法人の理事や総務部長等は団体交渉に出席していなかった。
 これについて、法人は、当該団体交渉には、次長B4、課長B5ら4名を出席させ、それ以降の団体交渉においては、次長B4と課長代理B6は団体交渉に毎回出席して、法人から団体交渉の全権を付与されていると組合に説明した。
 しかしながら、実際のB4、B6両名の団体交渉における対応は、持ち帰り検討する旨を述べても、その後、検討結果を具体的に説明しない、その場で臨機応変に実態に即して説明しない、あらかじめ決められた回答を繰り返すなど、事前に打ち合わせていた法人の意向を伝えるだけの使者としての対応とみるほかなく、両名は実質的な交渉を行う能力や権限を有していたとは認められない。
 そして、法人では、交渉担当者に対し、事前に打ち合わせていた事項以外にその場で状況に応じて説明させたり、組合と交渉し妥結点を見いだすような実質的な交渉権限を与えていたものとはいえない。

(3)これらのことから、法人が、賃上げ、賞与及び燃料手当に係る一連の団体交渉に、実質的な交渉権限を付与されていない次長B4や課長代理B6らの職員を交渉担当者として出席させて対応させたことは不誠実な交渉態度であり、法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

2 賃上げ(春闘)に関する法人の交渉態度について(争点2)

(1)法人は、平成29年3月15日等の団体交渉において、組合が求める平成29年春闘の賃上げ要求に応じられないことについて、累積赤字、診療報酬・介護報酬の動向、他施設の状況が理由であると説明し、その後も交渉が重ねられたが、法人は、賃上げを拒絶する具体的理由について明確な回答ができずに終わっている。法人の交渉担当者が交渉権限の全てを委任されて団体交渉に臨んでいると説明する以上は、少なくとも一度持ち帰った後には答えられてしかるべきものであった。

(2)また、組合は、同月30日の団体交渉で、累積赤字の詳細な内容の説明を求め、その説明の裏付けとして、病院及び老人保健施設の大規模改修工事費用とその会計処理方法が分かる財務諸表と勘定科目ごとに記載した経年的な資料の提出を求めた。
 法人は、同年8月に平成24年度から28年度までの5期分の貸借対照表、損益計算書及びその推移表を提出したが、それらは、大規模改修工事費用とその会計処理方法までを確認できるものではなかった。また、法人は、適切な資料を提示しながら具体的な数字を示して法人の経営見通しなどを説明することもなかった。
 この点、法人は、情報の機密性などを理由に説明を拒んでいるが、賃上げを拒否する理由の一つである累積赤字が大規模改修工事費用を原因とするものであると説明しているのであれば、その根拠を具体的に示すための努力をすべきであり、工事費用の金額やその費用の会計処理の方法などに関する適切な説明資料を別途作成して、これを提示しながら説明すべきものと考えられる。

(3)加えて、累積赤字に関してはその後の団体交渉において継続的に協議の対象となっていたところ、令和元年12月20日の団体交渉での説明に鑑みると、実際は、平成27年度以降黒字経営になって、財政上の危機を脱出したとの認識を有していたことは明らかであり、それでもなお累積赤字を賃上げ拒否の一つと主張し続け、その事実を平成29年春闘要求に係る一連の団体交渉において説明しなかった法人の対応は、不誠実な対応といわざるを得ない。

(4)これらのことから、平成29年度の春闘の賃上げ要求に係る一連の団体交渉における法人の対応は、不誠実な交渉態度であり、法第7条第2号の不当労働行為に該当するとともに、組合の存在を軽視し、組合を弱体化させるものであるから、法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

3 パート職員の賃上げを説明しなかったことについて(争点3)

(1)平成29年10月の一部のパート職員の賃上げについては、組合がパート職員の賃上げを要求し、団体交渉において継続して協議されている最中に行われたものであるのだから、実施した際には、実施後速やかに組合に対して、賃上げをした職員の範囲と賃上げの理由などを報告・説明すべきであった。それにもかかわらず、当時の法人の交渉担当者であった課長代理B6は、賃上げ実施後の団体交渉においても、組合の説明要求がなされるまで、法人から報告することもしなかった。

(2)団体交渉において法人が賃上げをできない理由として主張する累積赤字についての協議が継続している最中に、法人が一部のパート職員への賃上げを実施し、組合には、どの範囲のパート職員の賃金をどういう理由で上げたのかを何ら説明しないことは、パート職員である組合員及び組合に混乱を生じさせ、もって組合員の組合に対する信頼を揺るがすものであって、組合の存在を軽視し、組合の弱体化に結び付くものである。したがって、法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

4 燃料手当を一方的に減額したことについて(争点4)

(1)燃料手当に関する労使慣行が成立していたか否かはともかく、燃料手当については、職員区分・世帯主区分によって定められた一定の金額が少なくとも10年以上にわたって継続的に支給されていたのであるから、職員も組合も当然に従前どおりの金額が支給されると考えており、団体交渉においても、組合は、従前どおりの金額で燃料手当が支給されることを前提に賃上げの要求を行い、法人もこれを認識していたことは明らかである。

(2)そのような状況に鑑みると、法人が燃料手当に関して新たな算定方式を導入し、当該方式によって支給金額が減額となる場合には、法人は、組合に対し、少なくとも職員区分・世帯主区分によって定められた一定金額の支給から灯油の単価を市場価額と連動させる算定による支給に変更することの合理性や必要性について、具体的な算定方法及び各職員への支給額がどのように変動するのかを試算した検証の資料(以下「検証資料」)などを提示して説明する義務があると認められる。
 それにもかかわらず、事前に組合に何ら説明することなく、平成29年度よりも低い価格であった平成27年度の灯油の市場価格を基に支給額を算定し、一方的に組合に燃料手当の減額を通知した法人の対応は組合の存在を無視したものであると認めざるを得ない。

(3)これらのことから、法人の行為は、組合の存在を軽視したものであって、組合の弱体化を招く行為であるから、法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

5 燃料手当に関する法人の交渉態度について(争点5)

 法人が従前の燃料手当の金額を変更するに当たっては、組合に対して、職員区分・世帯主区分によって定められた一定金額の支給から灯油の単価を市場価額と連動させる算定による支給に変更することの合理性や必要性について、具体的な算定方法及び検証資料などを提示して十分に説明すべきであったと認められるが、法人はその説明義務を果たしていない。
 したがって、平成29年度燃料手当を交渉事項とする一連の団体交渉における法人の対応は、不誠実な交渉態度であり、法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

6 賞与支給要項の交付を取りやめたことについて(争点6)

(1)「賞与を与えることがある。」などとのみ定める給与規則しか持たない法人において、賞与支給要項を事前に組合に交付し、職員に回覧することにより、賞与の算定方法を組合及び職員が把握していたのであるから、賞与支給要項は、賞与規定を実質的に補完する役割を果たしていたと認めることができる。また、賞与支給要項は、賞与支給後に、職員個人の査定結果を認識することができるという役割も果たしていた。
 そのような重要な役割を担っていた賞与支給要項を法人が一方的に交付しない扱いとすることによる組合及び職員の被る不利益の程度は極めて大きい。

(2)それにもかかわらず、法人は、平成29年12月7日付けで抗議した組合に対し、交付の取りやめの理由について何ら説明をせず、同月25日付け回答書や平成30年2月27日の団体交渉において、臨時的に支給する賞与は、賃金の絶対的な明示事項ではないので支給率等の詳細を開示する義務はないことなどを述べた。
 そして、取扱いを変更する理由について、不当労働行為救済申立後の同年11月16日の団体交渉において、課長代理B6は、賞与支給要項には職区分や職種によって賃金格差が明確に記載されているなどとして、〔公開しないことが〕あたかも職員に配慮した取扱いであるかのように説明しているが、それらの説明は賞与支給要項の交付を取りやめる合理的な理由とは認められない。

(3)法人による賞与支給要項の交付の取りやめは、組合が2017年秋闘要求書において、全ての職員に給与の3.5か月分を支給することを求め、冬期賞与支給についての協議が継続している最中になされたものであり、前述の賞与支給要項の果たす役割やそれが交付されない場合の組合の不利益などに照らすと、取扱いの一方的な変更は、組合の存在を著しく軽視した行為といわざるを得ず、組合員及び組合に混乱を生じさせ、もって組合員の組合に対する信頼を揺るがすものであって、法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

7 賞与に関する法人の交渉態度について(争点7)

 法人は、事前の賞与支給要項の交付を行わなかったことに対する組合の抗議や賞与支給要項の提出要求に対し、「支給率等の詳細を開示する義務はなく」などと回答するのみで、これまでの取扱いを変更する合理的な理由を何ら説明していない。
 賞与の支給額の算定方法は労働条件そのものであり、当該方法等に関する協議は義務的団交事項に該当するのであって、団体交渉での協議が継続している中で、法人が従前の取扱いを変更し、賞与の算定方法を開示しないことにするのであれば、開示しない理由や賞与の算定に係る考え方について、組合の理解を得るよう誠意をもって交渉を行うべきであるところ、法人はその後の団体交渉においてもかかる対応を行っていない。
 したがって、平成29年度冬期賞与を交渉事項とする一連の団体交渉における法人の対応は、不誠実な交渉態度であり、法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

8 処遇改善加算等に関する法人の交渉態度について(争点8)

(1)処遇改善加算等は、介護職員の処遇改善を目的とした制度であり、法人が加算を取得するためには一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みや加算金の配分方法を決めなければならないところ、本制度を所管する厚生労働省は、本制度の運用に当たっては、労使での話し合いを行うようにとの見解を示している。
 したがって、本制度の運用に係る昇給制度や配分方法等については、労働条件その他の待遇に関する事項というべきであり、また、法人に処分可能なものであるから、義務的団交事項に該当する。

(2)処遇改善加算等について、法人が、①令和元年12月20日の団体交渉等において、法人の裁量で決定するものであり協議することはできないとの考えを示した上で、②令和2年4月13日に、一方的に令和2年度の特定加算の運用内容を職員用ホワイトボードに張り出したことは、処遇改善加算等を交渉事項とする一連の団体交渉を実質的に拒否したものと評価することができ、法第7条第2号の不当労働行為に該当するとともに、組合の存在を軽視し、組合を弱体化させるものであるから、法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(3)この点、法人は、令和2年3月18日の団体交渉で交渉議題として持ち越しになっていたところ、同年7月1日に予定していた団体交渉を組合が一方的に欠席したと主張するが、法人はその裁量で全て決定するものであるとの認識の下、内容について組合と協議する意思は有していないのであって、単に組合の考えを述べさせる場を持つという意味にとどまる。
 また、仮に組合が事前連絡をせずに団体交渉を欠席したことに非があったとしても、その組合の行為が、それ以前の法人の対応に係る評価に影響を与えるものではない。 

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