労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  長野県労委令和元年(不)第1号
セブン-イレブン・ジャパン不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年1月12日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①コンビニエンスストアチェーンを運営する会社が、組合(社員、フランチャイズ店舗オーナー、同従業員などが加入)と開催に合意していた団体交渉に関して、当日に延期と通知したこと、②組合申入れ以外の場所で行うとしたこと、③組合副執行委員長A2(店舗オーナー)の出席を控えるよう要請したこと、④臨時休業してストライキに参加予定であったA2に警告文書を発出したこと、⑤組合執行委員長A1に対し、令和元年6月12日に降格減給の懲戒処分を行ったこと、⑥A1の取材への回答等に関し、コメントが真実である根拠の提出を指示したこと、⑦情宣活動でのA1の発言に関し、業務指示書を発出するなどしたこと、⑧A1が組合ビラを社内送付用レターケースに投入したことに関し、懲戒を含む必要な措置を検討中である旨通知するなどしたこと、⑨ストライキに近い時期に、懲戒処分の有無、程度を検討するに当っての「弁明の機会」を設けるとしてA1を本社に呼び出したこと、⑩A1に対し、令和2年4月8日に降格減給の懲戒処分を行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 長野県労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号、⑩について同条第1号に該当する不当労働行為であると判断し、(ⅰ)主文において①が不当労働行為であることを確認するとともに、(ⅱ)⑩の降格処分の取消し及びバックペイを命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 令和元年6月10日に組合から申入れがあり、同年7月5日に開催することで組合と合意していた団体交渉を、会社が団体交渉予定日当日に延期を通知したことが労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であることを確認する。

2 会社は、申立人執行委員長A1に対し、令和2年4月8日に行った降格処分を取り消し、同日から降格を取り消すまでの間、同人が降格されていなければ得られたであろう給与相当額を支払わなければならない。

3 組合のその余の申立てをいずれも棄却する。 
判断の要旨  1 組合は労組法上の労働組合といえるか(争点1)

(1)労組法上の労働組合について

ア 本件の組合にはコンビニエンスストアのフランチャイズ店舗(以下「店舗」又は「加盟店」)のオーナー(以下「オーナー」)と店舗の労働者の双方が加入し、労組法上の労働組合といえるかが問題となっているので、この点について検討する。

イ 労組法第2条について、使用者はしばしば労働組合に「利益代表者」が加入しているとして、不当労働行為の申立てを行った労働組合の労組法上の労働組合としての適格性を争ってきた。この種の事件においては、特定の者が加入していることによって、使用者と対等な立場に立つべき労働組合の自主性が損なわれるかどうかの観点から、個別具体的に判断すべきであるとされている(日本アイ・ビー・エム事件東京地判平成15年10月1日など)。
 したがって、本件においても労組法上の労働組合といえるかどうかは、実質的に労働組合の自主性が阻害されているか否かという観点から判断する必要がある。なぜなら同条ただし書1号の趣旨は、自主性阻害の危険の特に大きい一定の使用者側人員の参加を組合自治の犠牲においても否定することであって、使用者の利益を擁護しあるいはその便宜を図ることではないからである(柄谷工務店事件神戸地裁尼崎支判昭和59年6月15日)。

ウ 労働組合の自主性の判定に当たっては厳格な要求をしすぎることは組合資格を制限しすぎることになるばかりか、かえって労働組合の自主性を損なうことになりかねないことから、労働者が自ら組織し、使用者の支配から独立した組織といえるか、また労働者が自ら決定して活動しているかという点に着目して検討する。その上で、自主性が阻害されていることがうかがわれるような事情があるか確認することとする。

(2)組合は組織的に会社から独立しているか、また、組合の活動の自主性は阻害されているか

ア 組合は、組織的には、その結成の経過や組合員の構成から見ても会社から独立しており、その活動についても、自主性が阻害されていることをうかがわせるような事情はなく、会社に批判的な活動を行うなどしている。これらから、組合は使用者から独立した自主性を有する労働組合であり、労組法上の労働組合であると認められる。
 なお、東京地判(令和4年6月6日)〔注中労委26不再21号事件に係る命令取消請求事件〕ではオーナーが労組法上の労働者に当たらないとの判断がされているが、組合にはオーナー以外の労働者も加入しており、事案を異にする。

イ また、会社は、オーナーが、その店舗の従業員との関係でみると同条ただし書1号の「役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」であり、そのような者と当該店舗の労働者双方の加盟を許す組合は労組法上の労働組合ではないと主張しているが、オーナーは会社の利益代表者とはいえず、会社との関係においてオーナーとその店舗の従業員の双方が加入していても組合活動の自主性は阻害されていないと判断できる。

2 令和元年6月10日に組合から申入れがあり、同年7月5日に開催することで合意していた団交に関する会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点2)

(1)合意していた団交を団交当日に延期と通知したこと(争点2(1))

ア 会社が(団交を)延期したのは、24時間営業義務に関する事項は会社の経営事項であるとの理解に基づくもので、組合が当該義務の議題を撤回しない限り、すべての団交についてこれを受けないというものであった。
 しかし、経営に関する事項であっても労働条件に関連する場合があることから、24時間営業義務が義務的団交事項といえるかについては、個別具体的に内容を検討し、判断する必要がある。

イ これについて、会社は、加盟店の営業時間は会社従業員の労働時間に影響を及ぼさないから義務的団交事項ではないと主張する。しかし、およそ加盟店の24時間営業義務が会社従業員の労働時間に全く影響を与えないとは考え難く、当該義務に関する事項が義務的団交事項となりうる可能性は否定できない。そうすると、今回の延期に合理的な理由はなく、延期は拒否に当たると考えられるように思われる。

ウ そして、「貴組合ご自身の行動等により会社が確認できるまで」との条件を付けた延期の通知からすると、少なくとも24時間営業義務に関しては、結果として組合に団交事項の撤回を強制していることになる。
 加えて、時間的に余裕があったにもかかわらず、議題について何らの折衝をすることもなく、当日にメールでいきなり延期を通告したことなどを併せ考慮すると、会社の一連の行為は組合の団体交渉権をないがしろにしたものと言わざるを得ない。24時間営業義務について主張に相違があるのであれば、会社としては団交に応じた上で、根拠を示し、主張・説得すべきであったし、そのような対応も可能であった。

エ そうすると会社がA1の処分について当日の団交事項となっていることを認識しながら、24時間営業が経営事項であり、義務的団交事項とはならないという自らの主張にこだわり、団交を一方的に延期したことは、正当な理由のない団交拒否に当たり、不当労働行為に該当する。

(2)会社が選定した団交の開催場所の合理性(争点2(2))

 会社選定の貸会議室は、会社からも近く、全国から組合員が集まりやすい場所にあるなど、どうしても本社で交渉を行うべき理由も見当たらない。そうすると当該会議室で団交を行うことには合理性がある。

(3)A2の出席を控えるように要請したこと(争点2(3))

 ①使用者は、自己の従業員以外の者が組合の委任を受けて交渉担当者として出席する団交を拒否することはできず、また、②誰が団交に出席するかは組合の自由であり、単にA1の懲戒処分などの機密情報が外部の者に漏れるという理由で出席そのものを拒否することは認められない。
 一方で、会社が、断定的に(オーナーである)A2の出席を認めない、あるいはA2が出席するなら団交に応じないなどとした事実はない。申立外C組合との交渉〔注会社は組合の結成前にA1らが加入するC組合と交渉を行っており、組合は、それら交渉を継承したとしている〕においても会社従業員以外の組合員が出席していたことからすると、会社の主張にはやや疑問が残るところはあるものの、会社の文書は、A2の不参加を要請したにすぎず、団交拒否とは言えない。

3 令和元年7月11日に予定していたストライキに、臨時休業し参加予定であったA2に対し、営業時間短縮は契約違反であるとする警告文書を発出したことは、支配介入に該当するか(争点3)。

 加盟店基本契約によると、会社の許諾を受けるなどしない限り、時短営業は契約違反となり、契約解除理由となりうる。会社が警告文書を発出したことは、当該契約に基づく相当な行為であって、不当労働行為意思に基づくものとは評価できず、支配介入には該当しない。

4 A1に対する第1回及び第2回懲戒処分は、それぞれ不利益取扱いに該当するか(争点4(1))。

(1)不利益取扱いと不当労働行為意思について

 第1回処分は、令和元年6月12日にA1に通知されたものであるが、この時期は組合活動が活発化しており、また、第2回処分までの間、会社と組合は、継続的に緊張した状態にあった。

(2)第1回処分について

 会社は、令和元年6月12日付けでA1に対して第1回処分を行い、リーダー職2級から同1級に降格しているが、処分の対象となった3件の行為〔平成31年3月20日の社員への発言、同年4月2日の社員への体当たり行為、同月4日の社員への発言〕に関し、会社が、就業規則上、諭旨解雇又は懲戒解雇の対象となり得るものと判断したことには合理性がある。また、過去の事例と照らしても、組合執行委員長であることを理由に不当に重くしたものとは認められない。したがって、不利益取扱いには該当しない。

(3)第2回処分について

 会社は、令和2年4月8日付けでA1に対して第2回処分を行い、リーダー職1級から担当職2級に降格しているが、処分の理由についてみるに、理由①〔平成30年10月26日の社員への発言〕及び②〔同31年4月1日の社員への体当たり行為〕について第1回処分以前の行為を処分の対象とし手続的にもその正当性に疑いを抱かざるを得ない部分もあるなど、第2回処分については、十分な理由があったと言うには疑問がある。なお、理由③乃至⑦の行為〔③令和元年6月11日配信のニュースサイトでのインタビューにおける発言、④同年5月発行の雑誌への寄稿、⑤同年7月8日に事務所内の社内送付用レターケースを用いてビラの送付手配をしようとしたこと、⑥同月11日の社員への発言、⑦同年11月発行の雑誌への寄稿〕が処分理由となり得るとしても、降格処分とするのは、行為の実態からすると重きに失すると思われる。
 そうすると、会社はA1を降格処分とするために、あえて前(不当労働行為)事件の和解〔平成30年12月21日成立〕以前の行為である理由①や、第1回処分対象の行為と近接する理由②を持ち出したものとも考えられ、これは組合ないしA1の活動を抑え込み弱体化を意図したものと認められる。特に理由②の行為については、そもそも第1回処分の対象となった行為と発生日時が近接しているのみならず、動機、結果、行為の態様について類似しており、関連性も強く、むしろ全体を一連の行為として評価し、処分出来るところ、あえて切り離し、相当期間経過後に処分対象としている。
 処分当時も会社と組合の緊張関係は続いており、降格するに十分な理由があったか疑わしく、この不自然な経過ともあいまって不当労働行為意思が推認できる。
 よって、会社によるA1に対する第2回処分は、A1の組合活動故に不利益に取り扱ったものと認められ、不当労働行為に該当する。

5 支配介入について(争点4(2)乃至(5))

(1)ニュースサイトの取材への回答及び雑誌に寄稿した記事に関してコメントが真実であることを示す証拠の提出を指示したこと(争点4(2))

 ニュースサイトや雑誌における記事に含まれる表現について、会社の名誉を貶めるものであるととらえ、これが社員の言動に由来するとすればこれに対して何らかの処分が必要と考えることは会社とすれば自然であると思われる。また、記事等の真実性について根拠を会社が求めるのは不当な処分を避ける上でも必要であった。
 これらのことから、会社の行為は不当労働行為とは評価できない。

(2)ストライキ当日の令和元年7月11日、本社前の情宣で「幹部社員を殺してやりたい」と発言していた社員がいると発言したことに関して当該発言をした社員を明らかにするよう指示し、応じない場合は懲戒処分を含む必要な措置を検討するとしたこと(争点4(3))

 少なくとも会社の調査へのA1の協力義務が直ちに認められるとは言い難く、職務との関連性、必要性、合理性について会社が疎明しない以上、A1が回答しなかったとしてもやむを得ない。しかし、安全配慮義務の観点から発言者を特定し、名指しされた社員の安全確保に係る何らかの対策を講じることは、企業としての必要な配慮であると思われる。
 これらから、会社の指示は不当労働行為意思に基づくものとは認められず、支配介入とまでは言えない。

(3)令和元年7月8日及び17日に、ビラをレターケースへ配布したことに関して業務指示書を発出し、就業規則違反で処分の可能性があるので懲戒を含めて検討中であることを通知するとともに今後同様の行為をしないよう指示したこと(争点4(4))

 会社と組合には企業施設の利用に関する合意もなく、就業時間中の組合活動について会社の許諾もなかったのであるから、事業場内での組合活動に制約が課せられるとしても一定の合理性があり、支配介入には該当しない。

(4)元旦ストの近い時期に弁明の機会を与えるとして本社人事部に呼び出したこと(争点4(5))

 A1には就業規則違反に該当する可能性があり、会社としては、懲戒処分に係る適正な手続のため、同人に弁明の機会を与える必要性があったことなどから、支配介入とは認められない。

6 救済利益及び救済方法について

 令和元年7月5日に団交当日になって延期を通知したことは不当労働行為に該当するが、令和4年5月以降、組合と会社の間では継続的に団体交渉が行われている。
 しかしながら、これによって組合の救済利益が全くなくなったとまでは認められず、本件においては、今後、会社が同様の行為を行わないよう求めるために、主文第1項の確認は必要と考えるが、これをもって足り、謝罪やポストノーティスまでは不要である。
 また、令和2年4月8日のA1に対する第2回処分については主文第2項のとおり命じる。その一方で令和元年6月12日の第1回処分については棄却するが、A1は平成31年3月から4月にかけて、暴力的な言動を繰り返していた。もとより、このような言動はいかなる場合でも労働組合の活動であることを理由に正当化されるものではなく、組合執行委員長として責任ある行動をとることを強く要望する。 
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