概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和3年(不)第60号
フコク資材不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y1会社・Y2会社・Y2会社破産管財人 |
命令年月日 |
令和4年12月6日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、Y1会社が①雇用確保に係る団体交渉を拒否した状態で、組合員A2を解雇したこと、②同社Nターミナルの運転手全員を解雇後、A2及びY2会社(Y1会社から資材在庫管理等を受託)に雇用されていた組合員A3に対して雇用確保のための措置を講じなかったこと、及び③組合から両社への解雇撤回や雇用確保等を議題とする5回の団体交渉申入れ(「本件団体交渉申入れ」)に応じなかったこと、並びにY2会社が④雇用確保に係る団体交渉を拒否した状態で、A3を解雇したこと、⑤運転手全員を解雇後、A3に対して雇用確保のための措置を講じなかったこと、及び⑥本件団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、としてY1会社、Y2会社及びY2会社破産管財人を被申立人とする救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、Y2会社に関し、⑥の一部について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、同社に対し、文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 Y2会社は、本命令書受領の日から1週間以内に下記内容の文書を、組合に交付しなければならない。
記 年 月 日
X組合
執行委員長 A1殿
Y2会社
代表取締役 B2
当社が、令和3年7月21日及び8月18日付けで貴組合が申し入れた団体交渉に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為と認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
2 Y2会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 Y2会社に対するその余の申立て並びにY1会社及びY2会社破産管財人に対する申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 Y1会社が、雇用確保に係る団体交渉を拒否した状態で、A2を解雇したことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)
Y1会社は、団体交渉を拒否した状態ではあったが、民事再生手続に基づく事業廃止に伴い、Nターミナルで勤務していた同社所属の運転手5名全員を組合員であるか否かにかかわらず解雇したのであるから、同社がA2を解雇したことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いにも組合運営に対する支配介入にも当たらない。
2 Y1会社がNターミナルの運転手全員を解雇後、A3、A2両組合員に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)
(1)A2について
Y1会社が、組合員であるA2の雇用確保について、他の従業員と異なる取扱いをしたということはできないことなどから、同社が同人に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いにも組合運営に対する支配介入にも当たらない。
(2)A3について
ア Y1会社による雇用確保
Y1会社が、同社の非組合員である従業員に対して雇用確保のための措置を講じたとの疎明はない。また、Y2会社に解雇された非組合員の運転手3名が、Y1会社の下請会社に雇用され、F支店と同じ所在地で就労していることを組合が確認したことが認められるが、Y1会社が、Y2会社所属の非組合員のいずれの運転手に対しても雇用確保のための措置を講じたとの疎明はない。
したがって、Y1会社は、同社の従業員、Y2会社の従業員のいずれに対しても、雇用確保のための措置を講じたとは認められない。
イ 法人の同一性
組合は、①Y1会社のB2常務がY2会社の代表取締役を兼務していること、②F支店とY2会社の本社とが同一の所在地であること、③両社が組合の団体交渉申入れや抗議申入れに対して常に連名で回答書面を出していたこと、④Y1会社の管理職及びB2社長がNターミナルにおいて両社の従業員を区別することなく業務指示や労務管理を行っていたこと等を理由に、両社は実質的に同一企業であると主張する。
そして、組合は、それを前提に、Y1会社が別法人であるY2会社の従業員であるA3の雇用確保についてY2会社と連帯して責任を負うべきと主張するようである。
確かに、上記①及び②の事実は認められ、上記③についても、組合の団体交渉等の申入れに対して、ほとんど連名で回答書面等が提出されていたことが認められるから、組合が両社は実質的に同一企業であったと主張することも理解できなくはない。しかし、上記④について、Y1会社の管理職及びB2社長が両社の従業員を区別することなく業務指示や労務管理を行っていたとの疎明はない。
そして、そもそも両社は別法人であるところ、Y2会社に実体がないことを示す具体的事実の疎明はないから、両社が実質的に同ーであるとの組合の主張には無理があるといわざるを得ない。
そうすると、Y1会社が、別法人であるY2会社の従業員であるA3の雇用確保について、雇用主であるY2会社と連帯して責任を負うべきとする組合の主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。
ウ したがって、Y1会社がA3に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いにも組合運営に対する支配介入にも当たらない。
3 組合の本件団体交渉申入れに対し、Y1会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点3)
(1)Y1会社は、組合の7月21日付団体交渉申入れに対し、同月26日付けの回答において、時間が取れない状態となっているなどとして、8月6日以降の日程で調整を依頼しているが、この頃、Y1会社は、7月20日の民事再生手続開始申立てから間もない時で、債権者対応や8月4日の民事再生手続開始決定に向けての裁判所対応等多忙を極める時期であったことからすると、やむを得なかったといえる。また、8月2日、社長B1は、組合に対し、会話の詳細は定かではないが、電話で組合の団体交渉申入れについての状況を説明している。
(2)Y1会社が、A2に解雇を通知した8月11日よりも後の同月20日に組合に対して書面で回答したことは、必ずしも速やかな対応であったとはいえないが、同社は、組合が改めて複数の候補日を提示すれば対応すると回答するとともに、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からリモートでの団体交渉開催を希望するなど、団体交渉開催に応じる姿勢を示していた。
これに対し、組合は、直ちに団体交渉に応じるよう繰り返し要求するのみで、8月6日以降の候補日を提示することなく、同月20日のY1会社の回答から間もない同月23日に本件を申し立てた。
(3)そうすると、団体交渉が開催されなかった原因をY1会社のみに負わせるのは酷であるといわざるを得ず、同社がA2の雇用確保等を議題とする本件団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。
4 Y2会社が、雇用確保に係る団体交渉を拒否した状態で、A3を解雇したことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点4)
Y2会社は、主要取引先であるY1会社の民事再生手続開始申立てに伴い自社の事業が立ち行かなくなるとして、7月27日、従業員に同月31日付けでの解雇を通知した。その後、従業員に対し、未払賃金立替払制度の申請を労働基準監督署に行うよう要請し、申立て後には破産手続開始が決定された。このように、Y2会社の事業が廃止された状況下では、同社が、全従業員を解雇したことは不自然とはいえない。
また、Y2会社は、A3を含む運転手8名全員を解雇したが、そのうち7名は非組合員であったことから、A3の解雇は組合員を狙い撃ちにしたものとはいえない。
これらのことから、Y2会社は、団体交渉を拒否した状態ではあったが、事業廃止に伴い、A3を含む運転手8名全員を組合員であるか否かにかかわらず解雇したのであるから、同社が同人を解雇したことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いにも組合運営に対する支配介入にも当たらない。
5 Y2会社が運転手全員を解雇後、A3に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点5)
Y2会社が同社所属であった非組合員の運転手のいずれに対しても雇用確保のための措置を講じたとの疎明はないことからすると、Y2会社が、解雇した従業員の雇用確保について、A3と他の非組合員の運転手とで異なる取扱いをしたということはできず、このほか、同社が不当労働行為意思をもってA3に雇用あっせん等を行わなかったと認めるに足りる事情も特にうかがわれない。
したがって、Y2会社が、A3に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いにも組合運営に対する支配介入にも当たらない。
6 組合の本件団体交渉申入れに対し、Y2会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて(争点6)
(1)7月21日付団体交渉申入れに対する対応
ア 団体交渉に関する従前の対応
5月6日及び6月15日の団体交渉において、組合が両社を宛名とした団体交渉申入書をY1会社のみに送付し、これに対して社長B1及びB2〔注Y2会社社長を兼務〕が出席する組合と両社との団体交渉が行われていた。
イ 団体交渉申入れの認識
Y2会社は、(Y1会社)社長B1から7月21日付団体交渉申入書を受領したこと及びY1会社が書面で回答した旨を聞いたが、7月28日付、7月30日付及び8月11日付団体交渉申入書は受領しておらず、8月18日付団体交渉申入書は受領して弁護士と相談した上で回答書を送付したから、組合からの団体交渉申入れに応じなかったことは正当な理由があると主張する。
しかし、Y2会社が、7月21日に組合から団体交渉申入れがあったこと及びY1会社がこれに回答したことを認識していたことは自らが主張するとおりであって、そうだとすればこれに応じるべきであったということができ、特に上記アの事情も考慮すると、Y2会社が7月21日付団体交渉申入書を直接受領していないことやY1会社が回答したと聞いていたことをもって、団体交渉に応じない正当な理由があったと認めることはできない。
ウ 「A3分会長解雇の件」の送付
Y2会社は、7月29日に、組合に対して「A3分会長解雇の件」を送付したが、その内容は、A3の解雇に関する釈明及びおわびをしたにすぎず、7月21日付団体交渉申入れに関する返答をしたものとは認められない。
したがって、Y2会社が、組合に対して「A3分会長解雇の件」を送付したことをもって、団体交渉に応じない正当な理由があったと認めることはできない。
(2)8月18日付団体交渉申入れに対する対応
Y2会社は、8月18日付団体交渉申入れに対し、8月25日に「回答書」を送付したが、その内容は、B2社長がY1会社の取締役を退任しており回答する立場にないことを述べるにとどまり、8月18日付団体交渉申入書で自社の従業員であるA3の雇用確保に関する事項について団体交渉を申し入れられたことに何ら回答していない。
したがって、Y2会社が、組合に対して「回答書」を送付したことをもって、団体交渉に応じない正当な理由があったと認めることはできない。
(3)破産手続への対応
本件団体交渉申入れ前後のY2会社の状況をみると、Y1会社が民事再生手続開始を申し立てたことに伴い、同社を主要取引先とするY2会社の経営状態も危機的となり、同社の破産処理を進める中で全ての従業員を解雇したことが認められ、同社が破産手続の対応で多忙を極めたことや、A3の解雇を撤回することが想定し難い状況であったことが推認できる。
しかし、このような事情があったとしても、Y2会社の組合員の雇用確保等を求める7月21日付団体交渉申入れ及び8月18日付団体交渉申入れに対して全く対応しなかったことに正当な理由があったということはできない。
(4)7月28日付団体交渉申入書、7月30日付団体交渉申入書及び8月11日付団体交渉申入書
Y1会社は、7月26日付けの回答書において、民事再生手続に関連した団体交渉については同社宛て単独での提出を求めたが、組合は、この回答書を受領した後も、7月28日付団体交渉申入書など3通の申入書を両社を宛名としつつY1会社のみに対して送付した。そして、Y2会社が、それら3通の各申入書を受領した事実や、Y1会社からこれらを受領した旨を伝えられた事実は認められない。
このように、民事再生手続開始申立てに伴って従前と異なる対応をY1会社から求められたにもかかわらず、組合は、従前どおり、それら3通の各申入書について、Y2会社には送付せず、同社がY1会社から受領した旨を聞いた事実も認められない以上、Y2会社がそれらに対応しなかったこともやむを得ないといわざるを得ない。
したがって、Y2会社が、7月28日付、7月30日付及び8月11日付各団体交渉申入れに対して回答しなかったことには正当な理由が認められる。
(5)結論
したがって、Y2会社が、組合の本件団体交渉申入れのうち、 7月21日付及び8月18日付各団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
7 救済の方法について
(1)救済命令の内容について
Y2会社においては、非組合員を含めた全従業員が解雇され、破産手続も開始されている状況を考慮すると、本件の救済としては、主文第1項のとおり文書交付を命ずるのが相当である。
(2)救済命令の名宛人について
Y2会社が破産手続の開始前に組合の団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為を構成するのであるから、上記(1)の救済内容は、Y2会社破産管財人ではなく、同社に対して命ずるのが相当である。 |
掲載文献 |
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