労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成2年(不)77号
雄仁会不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年10月18日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、組合からの団体交渉申入れに対し、組合大会決議の不存在確認等を求める民事訴訟が係属中であり組合執行委員長の交渉権限等の有無に疑義があるなどとして、団体交渉開催を留保する旨を回答し、その後団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(i)誠実団体交渉応諾、(ⅱ)組合が団体交渉を申し入れたときは、組合執行委員長の交渉権限あるいは協約締結権限の有無に疑義があることを理由に拒否してはならないことを命じた。 
命令主文  1 法人は、令和2年8月6日付け及び11月5日付けで組合が申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 法人は、組合が団体交渉を申し入れたときは、組合執行委員長の交渉権限あるいは協約締結権限の有無に疑義があることを理由に拒否してはならない。 
判断の要旨  1 却下に係る主張について

(1)組合の法適合性に係る主張について

ア 法人は、組合からの組合員A2の解雇撤回等を求める令和2年8月6日付及び11月5日付書面による団体交渉申入れ(以下「本件団交申入れⅠ」、「本件団交申入れⅡ」)に対し、同年8月13日付及び11月10日付書面にて、組合執行委員長の交渉権限あるいは協約締結権限の有無に疑義があるなどとして団体交渉開催を留保する旨の回答(以下「本件回答Ⅰ」、「本件回答Ⅱ」)を行った。
 法人は、この時点において、組合の役員の多数が労働者ではなく、その主要な地位を労働者が占めていない、組合の構成員の大部分が労働者でない可能性が高いことなどから、組合が労働組合法上の主体性の要件を満たしていない旨を主張する。
 しかしながら、①労働組合の専従者の立場にあることをもって直ちに労働組合法第3条に定める労働者でないということはできないこと、②役員の中でも組合活動に主導的役割を果たす執行委員長及び書記長は専従者が、副執行委員長は専従者又は会社員が占めていること、③法人が中古車買取販売業経営者、社会保険労務士事務所経営者、撮影所経営者であると主張する3名について、労働者ではないと認めるに足りる具体的事実の疎明はないこと、④組合の会計監査の職に就いていたA3と映像事務所経営者の労働者性に疑問の余地があったとしても、組合の規約上執行機関の構成員ではないことを考慮すると、労働組合法上の労働者でない者が実質的に組合の中心的地位を占め、その主体をなしているとは認められない。また、組合員全体についても、労働者でない者が組合員の多数を占めていると認めるに足りる具体的事実の疎明はない。
 以上のことは、本件の結審時においても同様である。
 したがって、組合について、労働者が質量ともに組合の構成員の主体になっていないということはできない。

イ 法人は、組合員A3及び組合員A2が労働組合法第2条ただし書第1号の利益代表者に当たるところ、組合がその参加を許していること、組合が公正な大会運営を行っておらず、委員長A1らにより恣意的な運用がされていることなどから、組合が労働組合法上の自主性の要件を満たしていない旨を主張する。
 しかしながら、A3については、法人と別の株式会社の代表者の地位にあり、過去に法人及び法人関連会社のM&Aを提案し、法人従業員の雇用関係等の立案に携わった事実があったとしても、本件において、法人との関係において利益代表者に当たるとはいえず、同人の参加により組合の自主性が損なわれると認めるに足りる具体的事実の疎明もない。
 A2については、平成18年9月頃に法人と雇用契約を締結して就労を開始したこと、法人から就業規則に基づき普通解雇されていること、法人がA2を形式的に理事として取り扱った時期はあったが、医療法所定の社員総会決議を経て理事に選任された事実はないことなどから、法人の理事であるとは認められず、このほかに利益代表者に当たると認めるに足りる具体的事実の疎明はないため、同人について使用者の利益代表者に該当するということはできない。
 その他組合が自主性の要件を満たしていないと認めるに足りる具体的事実の疎明はない。

ウ さらに、法人は、組合が労働組合法上の団体性の要件を満たしていない旨を主張するが、要件に欠けるところはない。

(2)委員長A1を代表者とする組合の救済申立権限に係る主張について

 法人は、組合の大会における役員選任に係る決議が違法無効又は不存在であるから、委員長A1を代表者とする組合は不当労働行為救済の申立権限を有さない旨を主張する。
 しかしながら、法人の主張は、組合と対立関係にあり、別件確認訴訟〔注 組合を被告とる組合大会決議の不存在確認等を求める訴訟〕を提起した一方当事者(であるC組合)の主張立証に依拠したものにすぎない。そして、(組合の組合員でもある)C組合組合員2名以外の組合の大多数の組合員がA1の代表者資格を否定していることをうかがわせる資料はなく、また、組合大会における重大な瑕疵があるため同決議が無効又は不存在であることを示す客観的疎明もない。仮に、組合大会で委員長A1を選出するに当たり、組合内部の規約等に反する何らかの手続違反があったとしても、それは単に内部規約等違反にすぎず、その解決は組合の自主性に委ねられるべきものであるから、このことが直ちにA1の代表者資格や組合の法適合性に影響を与えるものではない。

(3)団体交渉を実施する法的利益に係る主張について

 法人は、本件回答Ⅰ時点において、解雇撤回以外の要求事項は既に妥結不可能な状態に至っていたこと、解雇撤回要求は組合員A2の意思により放棄されたというべき状況にあったことから、組合が法人と団体交渉を実施する法的利益、すなわち団体交渉に係る救済の必要性は既に失われている旨を主張する。
 しかしながら、不当労働行為に係る救済の必要性の有無については、不当労働行為とその救済の内容の審査において判断されるものであるから、法人主張の上記の点が本件申立てについて申立要件を具備していない不適法なものである根拠となるということはできない。

(4)以上のことから、本件申立てが却下されるべきであるとの法人の主張は、いずれも採用することができない。

2 法人が本件団体交渉申入れに応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否かについて

(1)本件法人回答が団体交渉拒否に当たるかについて

 法人は、団体交渉を拒否したのではなく、留保したにすぎないと主張する。
 本件において、法人は、①令和2年7月20日の事務折衝直後に、組合がこれまでの傍若無人な振る舞いを反省・謝罪し、法適合性や執行委員長の代表権限の法的有効性について納得のいく説明をするなど、誠意ある対応を行わない限り以後の団体交渉に応ずる必要はないと判断したこと、②同年7月29日付「ご通知」により第3回団体交渉の日程調整を留保する旨を回答するとともに同年8月4日付「ご通知」により別件確認訴訟で組合が敗訴した場合に係る不安を完全に払拭できる程度の合理的説明の書面回答を再度求めたこと、③本件団交申入れⅠによる団体交渉の開催要求に対し、本件回答Ⅰにより、別件確認訴訟が係属中であって、裁判所の判断により委員長A1の団体交渉権限及び労働協約締結権限の有無の疑義がなくなるまで団体交渉は留保せざるを得ないなどと回答したこと、④本件団交申入れⅡによる再度の団体交渉の開催要求に対し、本件回答Ⅱにより、回答が本件回答Ⅰと重複するため繰り返さないし、今後もこれ以上の回答をする予定がないなどと回答したこと、更には、⑤別件確認訴訟は提起されたばかりであって、本件回答Ⅰ時点ではいまだ第1回口頭弁論期日も開かれておらず、その結論が確定するまでには相当の日数を要することが容易に見込まれる状況にあったことが認められる。
 このような法人の対応及び当時の状況を全体としてみれば、法人は、7月20日の組合との事務折衝終了直後に、別件確認訴訟の結論が確定するまでには相当の期間を要するとの認識の下、組合のこれまでの基本姿勢に変化がない限り、組合との団体交渉には応じないとの基本方針を決定し、この基本方針に基づきその後の組合からの組合員A2の解雇等に関する団体交渉の申入れに一貫して応じないと対応してきたものであり、このような法人の対応は、団体交渉を拒否したものといわざるを得ない。

(2)団体交渉拒否に正当な理由が存するかについて

ア 適法な団体交渉申入れの有無について

 法人は、組合の大会における役員選任に係る決議が違法無効又は不存在であり、委員長A1が適法な組合の代表権限を有さないため、適法な団体交渉の申入れが存在しない旨を主張するが、A1を選任した組合大会決議が無効又は不存在であると認めることはできない。

イ 団体交渉が行き詰まっていたか否かについて
 法人は、①本件回答Ⅰ時点で、解雇撤回以外の要求事項が妥結不可能な状態に至っていた旨、②組合員A2の退職を前提とする包括的解決の模索も(令和2年7月20日に)事務折衝がなされ妥結不可能という結論に至っていた旨、③同人は本件民間企業の監査役に就任しており解雇撤回要求はその意思により放棄された状況にあった旨、④これらにより団体交渉を実施する実益がない状態に至っていた旨などを主張する。
 しかしながら、そもそも組合と法人との間で、この新たな要求事項に関する団体交渉は何ら実施されていない。
 従前の協議事項についても、本件団交申入れⅠの時点において、労使双方が主張、説明を出し尽くし、客観的にみてこれ以上交渉を重ねても進展する見込みがない段階に至っていたと認めるに足りる具体的事実の疎明はない。また、事務折衝の段階において、労使双方が主張を出し尽くして行き詰まった状態に至っていたとは到底評価することができない。
 加えて、法人は、A2が本件民間企業の監査役に就任しており解雇撤回要求を放棄している旨を主張するが、当該監査役就任後に労働審判を申し立てたことなどから、法人指摘の事情によりA2が解雇を争う意思を放棄したということはできない。
 以上のことから、団体交渉を実施する実益がない状態に至っていたなどはいえない。

ウ A2の労働者性について

 法人は、組合員A2が法人の理事であり、また、法人関連会社の副社長であったから労働者ではないので、組合がA2のために団体交渉を申し込んだ意思表示は、心裡留保等に当たり、無効であると主張する。しかし、A2が法人の理事であるとは認められず、このほかに同人の労働者性を否定するに足りる具体的事実の疎明はない。

エ 権利濫用又は信義則違反の主張について

(ア)法人は、別件確認訴訟で(C組合から)訴訟告知を受けており、委員長A1の組合代表権限について合理的な疑義が生じたにもかかわらず、組合が十分な説明を行わず疑義を払拭する努力を怠っている旨、組合顧問弁護士名義の書面の内容に信用性がない旨などを主張する。
 しかしながら、組合は、法人から説明を求められた後、法人の求めに応じてその理解を得るべく、さほど日を置かず法律専門家の協力を得て相応の対応を行っている。
 加えて、法人が、本件回答Ⅰにおいて、裁判所の判断がなされるまでは団体交渉に応じない意向を明らかにしていることも併せ考慮すると、組合顧問弁護士名義の書面に職印の押印がなく、当該弁護士の見解を記したものであった(当該書面の性格上、作成者個人の見解が記載されたものであることに何ら問題はない。)との法人指摘の事情が法人の団体交渉拒否を正当化し得るものと認めることができないことは明らかである。

(イ)法人主張の組合の活動については、次のとおりである。

a 法人は、組合が法人診療所に突撃訪問を繰り返して、従業員を混乱させ、患者の病状を悪化させた旨を主張する。
 しかしながら、組合は、組合員A2の組合加入から本件回答Ⅰまでの間において、計3回法人施設に赴き、それぞれ抗議あるいは団体交渉申入れに係る書面を読み上げるなどしているところ、その態様において、本件労使間の団体交渉実施を困難にする程度に至っていたものと認めるに足りる具体的事実の疎明はない。

b また、法人は、組合が多数の第三者に向けて怪文書を多数回にわたって送付した旨、情宣活動において不特定多数人に対し、横断幕を目に触れさせたり、ビラを配布したり、大音量の演説を行った旨を主張する。
 しかしながら、①これらの事由は本件法人回答に団体交渉拒否の理由として挙げられていないこと、②組合は第2回団体交渉までに法人施設前における情宣活動を4回実施し、法人関係者への組合要請文書送付も既に実施していたこと、③情宣活動において配布したビラ及び組合要請文書の記載内容はA2が法人に就職してから組合加入に至るまでの経緯や組合の主張等であること、④街宣車に掲示した横断幕の記載内容が「パワハラの挙げ句の不当解雇を撤回しろ!」等であることが認められるところ、法人が挙げる組合の行為が団体交渉の実施を困難にする程度に至っていたものと認めるに足りる具体的事実の疎明はない。

c さらに、法人は、組合が、第1回団体交渉において「いい加減にしろよ、お前」などと、第2回団体交渉において「でたらめなこと言うなよ。」などと、法人側出席者を罵倒した旨を主張する。
 しかしながら、これらの事由は本件法人回答に団体交渉拒否の理由として挙げられていないことに加え、これらの発言が団体交渉という交渉担当者間の駆け引きの場における発言であること、いずれの発言の後も団体交渉が継続されていることを考慮すると、言葉遣いとして不穏当な面があることは否めないものの、その後の団体交渉の実施を困難にする程度のものであったということはできない。

d 以上要するに、法人主張の組合の活動(法人施設を訪問しての要請行動、法人診療所前での情宣活動、多数の第三者への文書送付等)のうち、第2回団体交渉前までのものは、これらの言動があっても団体交渉が行われたのであり、第2回団体交渉後に事務折衝が実施されているから、団体交渉の正常な進行が阻害され実益のある団体交渉を開催することが見込めない程度にまで至っていたと認めることはできない。また、その後の組合の活動についても、そのような程度にまで至っていたと認めることはできない。ちなみに、その後の組合の活動は、法人がA2を解雇したが、この解雇についての団体交渉に応じないことに起因するものであり、他方、法人は、7月20日の組合との事務折衝直後に原則として組合との団体交渉には応じないとの基本方針を決定し、この基本方針に基づき組合の団体交渉申入れに対応してきたものである。

オ 以上のことから、法人の主張する事情は、いずれも団体交渉開催の具体的な支障になるものであったということはできず、法人が団体交渉に応じなかったことに正当な理由があったとは認められない。

(3)支配介入について

 ①法人が問題視する組合の自主性や民主性に関する事項は組合の内部運営に係る事柄であり、これらに関する問題が労働組合内で生じた場合、その解決は労働組合の自主性に委ねられるべきものであること、②法人の主張する事情は、いずれも団体交渉開催の具体的な支障になるものであったということはできないことに鑑みると、法人が、組合に対し、委員長A1の交渉権限及び労働協約締結権限の有無の疑義がなくなるまで団体交渉は留保せざるを得ないなどとして団体交渉を拒否したことは、組合の自主的な組織運営や活動に介入し、組合の代表者資格を否定することにより組合を弱体化させる行為であるといわざるを得ない。

(4)以上のとおり、法人が、本件団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否に該当するとともに、組合の組織運営に対する支配介入にも該当する。 

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