労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第24号
Uber Japan不当労働行為審査事件 
申立人  X組合 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和4年10月4日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   Y2会社は、専用アプリ上で、飲食店、飲食物の注文者、配達パートナーの三者を結び付ける事業を運営しており、同社と契約した配達パートナーは、当該アプリを通じて、配送の依頼を受け付け、履行すること等が可能となる。また、Y1会社は、Y2会社の委託を受けて、配達パートナーの登録手続や教育、サポート等の業務に関わっている。
 本件は、①Y1会社が、配達パートナーが結成した組合からの事故の際の配達パートナーに対する補償等についての令和元年10月8日付団交申入れに応じなかったこと、及び②Y2会社が、同組合からの事故の補償や報酬引下げ等についての同年11月25日付団交申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、いずれも労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、Y1会社及びY2会社に対し、それぞれ(i)誠実団体交渉応諾、(ⅱ)文書の交付及び掲示等を命じた。 
命令主文  1 Y1会社は、組合が令和元年10月8日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。

2 Y2会社は、組合が令和元年11月25日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。

3 Y1会社は、本命令書受領の日から1週間以内に下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、Y1会社の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。

年 月 日
X1組合
執行委員長 A殿
Y1会社       
代表取締役 A1
 当社が、貴組合から令和元年10月8日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されま
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

4 Y2会社は、本命令書受領の日から1週間以内に下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、Y2会社の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
年 月日
X組合
執行委員長 A殿
Y2会社             
代表者業務執行社員 B2
 当社が、貴組合から令和元年11月25日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されま今後このような行為を繰り返さないよう留意します。

5 Y1会社は、第1項及び第3項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

6 Y2会社は、第2項及び第4項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 配達パートナーが労組法上の労働者に当たるか否かについて

(1)労働者性の判断枠組みについて

ア UBイーツ事業(以下「本件事業」)は、Y2会社を運営主体とし、親会社であるC会社のほか、Y1会社、D会社、E会社が関わっており(本命令書において、主体が明確に区分できないときは、これらの会社を総称して便宜上「UB」と呼ぶ)、飲食店と、飲食物を注文する注文者と、配達パートナーとをアプリ上で結び付け、飲食店が提供する飲食物を注文者に届けるサービスである。
 配達パートナーは、簡便な手続により登録された不特定多数の個人であり、UBから、配達の手順を具体的かつ詳細に記載した配達パートナーガイドの交付を受け、基本的にこれに従って業務を遂行している。
 本件では、このようなプラットフォーム〔個人同士をインターネット上で結びつけるシステム〕を利用して業務を遂行する配達パートナーの労働者性が争点となっている。

イ 会社ら(Y1会社及びY2会社(商号変更前のY02会社を含む。)をいう。以下同じ。)は、本件事業は、飲食店と注文者と配達パートナーとをつなぐマッチングサービスであり、その利用者である配達パートナーは、Y2会社の「顧客」であって、その労働力を会社らが利用しているわけではないとして、労組法上の労働者性の判断基準が適用される余地はない旨主張する。
 本件事業においては、契約上、UBは、配送サービスやデリバリー等のサービスを提供するものではなく、利用者(注文者、飲食店及び配達パートナー)にプラットフォームを提供するものであり、飲食物の販売については、注文者と飲食店との間で直接取引が行われ、配送が伴う場合は、飲食店と配達パートナーとの間で直接的な取引関係が生じるとされており、配達パートナーがD会社及びY2会社に対して労務を提供する関係とはなっていない。
 しかし、労組法が適用される「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(同法第3条)に当たるか否かについては、契約の名称等の形式のみにとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要がある。

ウ 飲食店と配達パートナーとのマッチングが成立すると、契約上、配達業務については、両者の間の直接的な取引関係となるところ、実際には、UBは、配達パートナーガイドに一定の禁止行為を定め、これに反した場合はアカウント停止措置を行うことを示唆ないし警告し、時には実際にアカウント停止措置を行い、トラブル発生時にはY1会社が運営するサポートセンターがその対応に当たるなどしている。
 こうした事実からすれば、配達パートナーが、本件事業の不可欠の業務である配達業務を円滑かつ安定的に遂行できるよう、UBが様々な形で関与しているとみることができる。配送料についても、契約上は、飲食店が配達パートナーに支払う形となっているものの、実際は、Y2会社が代理権限に基づいて注文者から受領し、自らが得るサービス手数料を差し引いて配達パートナーに支払っている。

エ このように、UBは、配達パートナーに対し、プラットフォームの提供にとどまらず、配達業務の遂行に様々な形で関与している実態があり、配達パートナーは、そのような関与の下に配達業務を行っていることからすると、純然たる「顧客」(プラットフォームの利用者)にすぎないとみることは困難であり、配達パートナーが、本件事業全体の中で、事業を運営するUBに労務を供給していると評価できる可能性のあることが強く推認される。
 そうすると、シェアリングエコノミー上のプラットフォームを提供する事業であっても、その実態において、利用者がシェア事業者に労務を供給していると評価できる場合もあり得るのであるから、前記イの会社らの主張は採用することができない。
 したがって、上記の点を踏まえつつ、本件における配達パートナーが労組法上の労働者に当たるか否かについては、労組法の趣旨及び性格に照らし、会社らと配達パートナーとの間の関係において、労務供給関係と評価できる実態があるかという点も含めて検討し、(2)事業組織への組入れ、(3)契約内容の一方的・定型的決定、(4)報酬の労務対価性、(5)業務の依頼に応ずべき関係、(6)広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、(7)顕著な事業者性等の諸事情があるか否かを総合的に考慮して判断すべきである。

(2)事業組織への組入れ

 本件事業において、配達パートナーが飲食物を注文者に配達する割合は注文全体の99パーセントを占めており、事業を成立させ収益を上げるためには、多くの配達パートナーを確保する必要があったことは容易に推測できる。
 会社らは、評価制度やアカウント停止措置等により、配達パートナーの行動を統制し、配達業務の円滑かつ安定的な遂行を維持しているとみられる。このほか、一部の配達パートナーについて、〔ロゴ入りの配達用バッグの提供等、訪問時に「UBイーツ」と名乗って挨拶することの推奨など〕第三者に対し自己の組織の一部として取り扱ったり、〔期間内に配達件数の目標を達成すると支払われる報酬などの〕インセンティブを設けて事実上専属的に従事する配達パートナーを一定数確保したりもしている。

以上のことからすると、本件事業は、配達パートナーの労務提供なしには機能せず、配達パートナーは、会社らの事業の遂行に不可欠な労働力として確保され、事業組織に組み入れられていたというべきである。

(3)契約内容の一方的・定型的決定

 ①配達パートナーが、D会社及びY1会社と締結しているUBサービス契約書は、会社らが用意した定型的な様式のもので、プラットフォームの仕組みや運営ルールは、UBが一方的、定型的に定めており、②支払われる配送料についても、個別に交渉できるようなアプリの仕様にはなっていないことなどから、契約内容の決定及び変更のいずれにおいても、対等な関係性は認められず、会社らが一方的・定型的に決定しているといえる。

(4)報酬の労務対価性

 契約上は、配達パートナーは、配送料を飲食店に請求すると規定されているが、金銭の流れをみると、Y1会社が、飲食店に代わって注文者から受領し、配達パートナーに支払っており、その金額についても決定していることなどから、実態としては、Y2会社が配達パートナーに対し配送料を支払っているとみるのが相当である。
 また、①配送料は基本料金にインセンティブを加えたものであり、②基本料金は件数や配達距離により計算され、③「インセンティブ」は、期間内に配達件数の目標を達成すると支払われる「クエスト」など3種類の追加報酬からなり、④いずれも、配達パートナーが自ら行う労務の提供に対する対価としての性格を有するものといえる。

(5)業務の依頼に応ずべき関係

 配達パートナーは、アプリをオンラインとするか否か、どの時間帯や場所で配達業務を行うかは自由であり、配達リクエストを拒否しても、具体的な不利益を受ける旨の定めは特になく、業務の依頼に応ずべき関係にあったとまではいうことができないが、〔①組合員である配達パートナーが、配達リクエストを拒否すればその送付件数が減るなどの不利益を受ける可能性があるとの認識を持っていたことは否定できず、②飲食店で配達先を知らされた段階では、リクエストの拒否が困難な状況にあったこと、③インセンティブとしての前記クエストの存在など〕場合によっては、配達パートナーの認識として、配達リクエストを拒否しづらい状況に置かれるような事情もあったことがうかがわれる。

(6)広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束

 配達パートナーは、業務を行う時間帯及び場所について会社らからの拘束を受けているということはできないものの、〔①業務手順などに係る配達パートナーガイドの詳細な記載、②トラブル発生時におけるサポートセンターの対応、③評価制度やアカウント停止措置の存在、④業務における裁量の余地の少なさ、⑤位置情報のGPS把握からすれば〕広い意味で会社らの指揮監督下に置かれて、配達業務を遂行しているとみることができる。

(7)顕著な事業者性

 配達パートナーは、バイクや自転車等の配達手段を自ら保有しているものの、〔①業務における裁量の余地は極めて少ないこと、②飲食店や注文者との不必要な接触の禁止、③他人のアカウントの使用等の禁止などにより〕独自に固有の顧客を獲得することはできず、他人労働力を利用することはできず、自己の才覚で利得する機会はほとんどないし、〔④配送事業における損益はY2会社が負担しており〕配送事業のリスクを負っているともいえないことから、配達パートナーが顕著な事業者性を有しているということはできない。

(8)以上のとおり、本件事業の下で、配達パートナーは、(2)会社らの事業の遂行に不可欠な労働力として確保され、事業組織に組み入れられており、(3)会社らが契約内容を一方的・定型的に決定しているということができ、(4)配達パートナーの得る報酬である配送料は、労務の提供に対する対価としての性格を有しているといえる。
 一方で、(5)配達パートナーは、アプリを稼働するか否か、どの時間帯に、どの場所で配達業務を行うかについて自由を有しており、会社らの業務の依頼に応ずべき関係にあったとまではいえない。しかし、場合によっては、配達リクエストを拒否しづらい状況に置かれる事情があったことが認められる。また、(6)一定の時間的場所的拘束を受けているとはいえないものの、広い意味で会社らの指揮監督下に置かれて、配達業務を遂行しているということができる。そして、(7)配達パートナーが顕著な事業者性を有していると認めることはできない。
 これらの事情を総合的に勘案すれば、本件における配達パートナーは、会社らとの関係において労組法上の労働者に当たると解するのが相当である。
 なお、会社らは、組合が組合員の氏名、属性及び組合規約を明らかにしなければ、労働者性を判断できないし、属性不明の者が組織する労働組合と団体交渉を行うことはできない旨主張するが、組合は労組法第5条第1項の規定に基づき当委員会に組合規約を提出しており、また、全組合員の氏名及び属性を明らかにしなくても、既に検討したとおり労働者性を判断できないわけではない。
 そして、2名以上の労働者が労働組合を結成して団体交渉を申し入れている以上、客観的根拠もない憶測で団体交渉を拒否することはできず、会社らの主張は採用することができない。

2 Y1会社は、配達パートナーである組合員との関係で労組法上の使用者に当たるか否か

(1)Y1会社は、Y2会社から業務委託を受け、配達パートナーへのサポート業務を行っているところ、組合は、Y1会社は組合が申し入れた団体交渉事項について、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあり、労組法上の責任を負う「使用者」に当たると主張する。

(2)組合が、Y1会社に申し入れた団体交渉事項は、①事故の際の配達パートナーに対する補償、②報酬計算の根拠となる距離計算の誤り、③アカウント停止措置の基準等、④報酬、⑤アプリ、⑥Y1会社と配達パートナーの協同による配達サービスの品質向上、⑦紹介料についてであり、配達パートナーがY2会社との関係において労組法上の労働者に当たることからすれば、いずれも配達パートナーの労働条件その他その経済的地位に関するものであるといえる。

(3)Y1会社と配達パートナーとの間には直接の契約関係は存在しないが、Y1会社は、本件申立時において、Y2会社から受託して、広報・法務・契約業務、配達パートナーの登録手続、教育、アカウント停止措置の運用、パートナーセンター及びサポートセンターの運営等を所管しており、上記の団体交渉事項のほとんどを取り扱っている。また、上記サポートセンターが、配送料の計算の誤り、アカウント停止措置、アプリに関する問合せにも対応しており、配達パートナーにとって、登録や契約の手続から、運用の説明・サポート、各種問合せまで、本件事業について実質的に対応しているのは、Y1会社であるといえる。

(4)さらに、UBサービス契約、配達パートナーガイドなどの記載からすると、本件事業については、事業に携わる関連会社各社の役割分担が明確に区別されているとはいえず、実質的には、関連各社が事実上一体となって展開し、運営していたとみるのが相当である。

(5)これらのことから、本件事業について、登録や契約の手続から、運用の説明・サポート、各種問合せまで、実質的に配達パートナーへの対応を行っているY1会社は、配達パートナーの労働条件等に関する上記(2)の団体交渉事項について、配達パートナーとの契約の当事者であるY2会社と共に、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとみるのが相当であり、団体交渉に応ずるべき使用者の地位にあるというべきである。

3 令和元年10月8日付団交申入れに対しY1会社が応じなかったこと、及び同年11月25日付団交申入れに対しY2会社が応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か

(1)Y1会社は、配達パートナーの労働条件等について、団体交渉に応ずるべき使用者の地位にあるところ、同社は、これに関するものを団体交渉事項とする組合の令和元年10月8日付団交申入れに対し、回答をせず、団体交渉に応じていないのであるから、このようなY1会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

(2)本件事業における配達パートナーが労組法上の労働者に当たるところ、Y2会社は、日本における本件事業の運営主体であり、配達パートナーとのUBサービス契約の当事者でもあることから、Y2会社は、配達パートナーの労働条件等について、組合との団体交渉に応ずべき地位にある。
 ところが、Y2会社は、配達パートナーの労働条件等に関するものを団体交渉事項とする組合の令和元年11月25日付団交申入れに対し、これを拒否する旨回答し、団体交渉に応じていないのであるから、このようなY2会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

第5 法律上の根拠
 以上の次第であるから、Y1会社が令和元年10月8日付団交申入れに応じなかつたこと、及びY02会社(本件結審時ではY2会社)が同年11月25日付団交申入れに応じなかつたことは、労組法第7条第2号に該当する。 

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