労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成31年(不)第15号
エイコー不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年5月10日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合員Aが唎酒師の資格を取得した後、同人に資格手当を支払わなかったこと、②就業規則改定により、Aに職務手当及び皆勤手当を支払わなかったこと、③29年冬季一時金等に係る団体交渉に誠実に対応しなかったこと、④Aを解雇したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Aの資格取得後、会社が同人に資格手当を支払わなかったことについて

 会社は、Aの賃金を他の従業員と同様に取り扱っており、会社が同人に資格手当を支給しなかったのは、同人も組合も、会社が平成30年3月21日に改定した就業規則(以下「30年版就業規則」)において資格手当を削除する前に、同人の資格取得を会社に伝えていなかったためであり、就業規則に係る会社の組合に対する虚偽の説明等により、同人に資格手当が支給されなかったなどとする組合の主張は、いずれも認めることはできない。
 したがって、会社がAに資格手当を支払わなかったことが、組合員であるがゆえの不利益取扱いや組合の運営に対する支配介入に当たるということはできない。

2 30年版就業規則改定により、Aに職務手当及び皆勤手当を支払わなかったこと並びに資格手当を規定しなかったことについて

(1)職務手当及び皆勤手当について

 平成29年11月11日に会社と組合が和解協定書を締結した経緯からすると、当時廃止され従業員には支給していなかった職務手当及び皆勤手当について、30年版就業規則が整備されるまでの間、組合員であるAのみに支給することを取り決めていたということができる。
 そうすると、30年版就業規則が整備された段階で、会社が、上記手当を他の従業員と同様にAにも支給しなくなったことは、当初の組合との取り決めに従ったものであり、このことに特段不自然な点はないし、組合員であるAのみに職務手当及び皆勤手当を支給していた取扱いをやめ、他の従業員と同じ取扱いとしたものであるから、組合を差別したものとはいえない。

(2)資格手当について

 会社は、団体交渉において、資格手当を規則に規定しなかった理由について、改定時に資格手当の該当者がいなかったからであると説明しており、この説明を疑うべき事情は特に認められず、Aについても資格手当の該当者とは認識していなかったのであるから、会社が、規則において、該当者のいない資格手当を規定しなかったことは、理解できるところである。

(3)以上のとおり、会社が、30年版就業規則改定により、Aに職務手当及び皆勤手当を支払わなかったこと並びに資格手当を規定しなかったことは、同人が組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入には当たらない。

3 本件団体交渉について

 平成30年2月15日から31年2月5日までの間の6回の団体交渉について、
①30年版規則については、会社は自らの見解を説明し、組合の要求に応じられない理由も説明しており、組合の理解を得るべく一定の努力をしていたといえること、
②平成29年冬季一時金については、会社は根拠を資料に示しながら組合の理解を得ようと努力したものと評価することができること、
③平成30年賃上げについては、会社は賃上げをしない理由を必要な資料を提示しながら説明しており、組合に自らの見解について理解を得ようと一定の努力をしていると評価することができることなど、
④平成30年夏季一時金については、会社は一定の査定基準に基づきAを評価した結果、前年より成長が見られなかったため、前年と同額相当とした理由を文書で説明しており、組合は、これを受けて会社と交渉することなく本件申立てに至っているなどの経緯、
⑤平成31年冬季一時金については、31年2月5日に団体交渉は行われているものの、組合は、Aの査定内容を文書で提出してほしいと要求したのみで、実質的に労使間で交渉が行われたわけではなく、会社は2月13日に支給額を決めた理由を記載した回答書を提出したが、組合はこれを受けて団体交渉をすることなく本件申立てに至っているなどの経緯、
からすると、①から⑤までのいずれの議題についても、会社の対応が不誠実であったということはできない。
 また、会社の対応は、組合の組織運営に対する支配介入にも当たらない。

4 本件解雇について

(1)本件解雇の理由について

 Aが部長Bの発言で休職したのは2度目であり、会社としては適正な業務指示や叱責と認識しているところ、Aが復職しても、同人が経理担当である以上、部長Bと業務を共にすることは避けられず、会社が、Aの復職の可能性がないと判断したことには相応の事情があったと推測することができる。
 また、会社が本件解雇の理由に挙げるAの勤務成績が良くないことについては、会社は団体交渉を通じて資料を提示しながら再三説明しており、会社がAの勤務態度を従前から問題視していたことがうかがえる。また、Aは電話に出ないことを自認する発言をしており、こうした態度やAに成長が見られないことについて会社はAの入社以来長きにわたって問題にしていたとがうかがえる。さらに 7月18日の団体交渉以降、会社は毎日業務指示書をAに交付しているが、そこに記載がなければトラブルに発展するなど、会社では日常の業務遂行においてさえ看過できないほどに支障が生じていたことが推認される。

(2)不当労働行為意思について

 組合は、会社がAのみに63年版就業規則を適用し、同人を組合員であることを理由に差別してきたと主張するが、会社は、当時Aには他の従業員と同様に28年版就業規則案を適用していながら、法的に有効であるのは63年版就業規則であったとせざるを得なかった事情から、同就業規則に規定されている職務手当及び皆勤手当をAのみに上乗せして支給していたのであるから、会社がAを差別して不利益に扱ったとはいえず、組合の主張は採用することができない。
 これらのことから、Aが組合員であることを嫌悪して会社が本件解雇を行ったとする組合の主張や、組合の弱体化を企図して会社が本件解雇を行ったとする組合の主張は、いずれも採用することができないし、このほかに、会社が本件解雇を行った理由が組合員への嫌悪や組合弱体化の意図にあったと認めるに足りる事実も見当たらない。

(3)本件解雇には、会社にとってはAとの雇用関係を継続し難い事情があったことが認められ、かつ、同人が組合員であることや組合弱体化の意図をもって会社が本件解雇を行ったと推認するに足りる事実が特に認められないことを併せ考えると、本件解雇は、Aが組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとはいえないし、組合の運営に対する支配介入に当たるともいえない。 
掲載文献   

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