労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  奈良県労委令和3年(不)第1号・同(不)第2号
奈良市・奈良市教育委員会不当労働行為審査事件 
申立人  個人X 
被申立人  奈良市(市) 
命令年月日  令和4年8月26日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、市が、臨時職員である用務員として任用されていたC及びDを令和2年4月以降再度任用しなかったことが不当労働行為に当たる、として個人Xから救済申立てがなされた事案である。
 なお、Xは申立外E組合の組合員であり、また、C及びDは任用されなくなるまで同組合の組合員であったが、その後は、組合員資格が認められていない。
 奈良県労働委員会は、Xは申立人適格を有するとした上で、申立てを棄却した。
 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 申立人は、申立人適格を有するか。(争点1)

(1)不当労働行為救済制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した労働組合法第7条の規定の実効性を担保するために設けられたものである。この趣旨に照らせば、使用者が同条第3号の不当労働行為を行ったことを理由として救済申立てをすることについては、当該労働組合のほか、その組合員も申立人適格を有すると解されている。

(2)市は、次のように主張する。

①不当労働行為救済申立制度は、労働組合又は組合員たる労働者のうち不当労働行為によって自己の権利利益を侵害され、又は侵害されるおそれのある者について申立てが認められるものであって、不当労働行為の当事者ではなく、その他当該不当労働行為について特別の利害関係を有しないXが単に組合員であるということだけを理由に申立てを行うことは認められない。

②本件でXが不当労働行為として主張する市の行為は、市が、C及びDを令和2年3月末の任期満了後、同年4月再度任用しなかったことである。当該行為の当事者はC及びDであり、Xはこれについて直接的な利害関係を有せず、Xが当事者となることはない。また、その他当該行為によって、Xの権利利益が侵害されることとなるという特別の事情もない。
 よって、Xは本件申立てについての申立人適格を有しない。

(3)しかしながら、個々の組合員は労働者の団結権を有し、使用者の支配介入行為によって権利利益を侵害されるおそれのある者と解すべきであり、また、本件申立ては直接の利害関係を有するA1及びA2の意思に反するものではなく、同人らもそれを望んでいるという事情もあり、組合員である申立人は申立人適格を有すると解するのが相当である。

(4)そこで、本件についてみると、申立人Xは申立外E組合の組合員であり、したがって、Xは労働組合法第7第3号について、不当労働行為の救済を求める申立人適格を有する。

(5)本件では、労働組合法第7条第3号のほか、同条第1号についても申立てがなされているため、1号についても申立人適格を有するかについて、以下検討する。
 一般的に、1号の申立人適格が認められるのは、不利益取扱いを受けた労働者個人のほか、不利益取扱いを受けた労働者が所属する労働組合やその上部団体であると解されているところ、本件においてA1及びA2が申立てを行わず、Xが本件申立てを行った経緯としては、組合がA1及びA2の任用終了後の組合員資格を認めず、さらに、当初は組合が不当労働行為救済申立てを行っていたが、A1及びA2が組合執行部と対立し、E組合が不当労働行為救済申立てを取り下げようとしたことから、組合員資格を持つXがA1及びA2の意向を受けて、除斥期間が経過する直前に申し立てたということである。

(6)上記のような事情があるにもかかわらず、直接不利益取扱いを受けた労働者個人にしか申立人適格が認められないことを理由として、除斥期間の終期が迫った時期に申立人の申立人適格を否定すると、組合執行部の方針とは異なる方針の組合員の不利益取扱いについては、事実上救済申立ての機会が失われることとなり妥当でない。よって、以上のことから、本件の具体的事情の下においては、本件申立てのうち労働組合法第7条第1号についても、Xに不当労働行為の救済を求める申立人適格を認めるのが妥当と解する。

2 市が、A1及びA2の任用を令和2年3月末で終了したことは、組合員であること又は正当な組合活動を行ったことの故をもって行われた不利益取扱いにあたるとともに、組合に対する支配介入にあたるか。(争点2)

(1)不当労働行為の成否の判断に先立ち、公務員の任用を取り巻く現行の法体系について検討するに、公務員の任用は、私法上の労働契約関係ではなく、公法上の行政行為であると解されている。
 このような現行の公務員の任用をめぐる法体系の下において、仮にA1及びA2を再任用しなかったことが不当労働行為であると認められたとしても、民間労働者の雇止め法理を類推適用すべきとはいえず、行政行為である公務員の任用を市に対して労働委員会が命ずる余地はないと言わざるを得ない。
 しかしながら、公務員であっても不当労働行為意思に基づき「不利益取扱い」ないし「支配介入」が行われたと認められる場合には不当労働行為が成立し、その他の適切な救済命令を発することができるというべきであるため、不当労働行為の成否の判断にあたり、不当労働行為意思の有無について以下判断する。

(2)令和3年(不)第1号事件

ア A1を任用しなかったことに、合理的な理由があるといえるか。

 市役所C出張所の用務員を3名から2名に削減したことの合理性について、Xは、現在のC出張所では人員不足により安全管理上の問題があり、用務員の削減に合理性はないと主張する。
 しかしながら、C出張所に安全管理上の問題が生じている事実を認めるに足る証拠はなく、他方、しみんだより配布業務の民間委託によってC出張所の用務員の業務量が削減されたことで、最少の経費で最大の効果を挙げるために市がC出張所の用務員数を削減したことには合理性があるものと思料する。

イ A1を任用しなかったことは、組合員であることを理由とするものか。

 Xは、A1以外のC出張所の用務員は令和2年4月以降も引き続き会計年度任用職員として任用されている中、A1が任用されなかったのは組合員であることが理由であると主張する。
 しかしながら、A1が任用されなかった経緯は前記〔注 A1が令和2年3月に行われた会計年度任用職員の公募に応募しなかったこと等(命令書の第四の2の(7)、(8)及び(9)参照)〕のとおりであり、A1が組合活動を行っていたことは認められるものの、このことと、市が組合嫌悪感情を持っていたこととが結びつくものとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

ウ 以上のことから、しみんだより配布業務の民間委託により業務量が削減され、用務員数を削減する必要性があった市が、円滑に業務を継続させるために1年の間限定してA1を臨時的に用務員として任用していたが、業務の引継ぎが円滑に行われたことから、予定どおりA1任用を終了させたと認められ、Xの主張には理由がない。

(3)令和3年(不)第2号事件

ア A2を任用しなかったことに、合理的な理由があるといえるか。

 Xは、令和2年度の学校用務員の選考方法〔注「面接評価シート」の総合評価点数及び「能力実証調査票」の総合評価点数の合計が上位の者から15名を合格とする選考方法〕には合理性がない旨主張するが、選考方法については使用者に広い裁量権があると解され、本件選考方法が不合理であると判断するに足りるような事情は認められない。
 次に、当該選考方法に基づいたA2への評価の合理性について検討するに、能力実証調査票においてB1校長及びB2教頭がA2につけた点数は、いずれも合格の基準点を満たさない低い点数であった。
 Xは、低評価の根拠となるような事実はなく、合理性がない旨主張するが、評価の根拠とされた主なA2の行動は前記〔注 遅刻・早退、給食室の設備修繕に係る対応〕のとおりであり、B1校長やB2教頭が、これらのA2の行動をもとに、前記のとおり、Ⅰ能力考課において合計評価点数20点という次年度の任用について不適となる評価(適評価は合計評価点数24点以上)がなされ、Ⅱ所見において30点という次年度の任用について不適となる評価(適評価は評価点36点以上)がなされ、結局、任用の基準を満たさないと評価したことには不自然な点は見受けられない。

イ A2を任用しなかったことは、組合員であることを理由とするものか。

 Xは、市長がA2の組合活動を嫌悪して、A2に当該選考において不当に低い評価をつけさせ、任用しなかったと主張する。
 A2が団体交渉において市長と発言のやり取りをしたことや、その他の組合活動を行っていたことは認められるが、市長の発言内容〔注「全く話を聞かないのであればこの場から出て行くよう示唆する趣旨」の発言、「あなたの意見を一人だけ言わないでください。組織全体の意思決定として私は聞いているんです。」との発言等(命令書の第4の7の(2)及び(3)参照)〕から組合嫌悪の感情を看取することはできない。
 また、XはA2が組合員としてB1校長に意見したことを、B1校長及びB2教頭が嫌悪して当該選考において低い評価をつけたと主張する。しかし、A2がB1校長に対してA2個人の意見として発言したことは認められるが〔注校長が朝礼で、誤って小学校のホームページに児童の答案用紙を誤掲載した教員に説明を求めた際の、「個人責任にされたら怖くて働けなくなる」旨の発言(命令書の第4の7の(4)参照)〕、当該発言が組合活動の一環として行われたものとしてB1校長やB2教頭が認識していたかどうかなどは明らかではなく、上記の他にB1校長やB2教頭がA2の組合活動を嫌悪して上記選考において低い評価をつけたと認めるに足りる証拠はない。

ウ 以上のことから、A2に低い評価点数をつけ、再度任用しなかったことに不自然な点は見受けられず、組合嫌悪の感情に基づいて行われたと認めることはできないため、Xの主張には理由がない。

(4)不当労働行為の成否
 以上のとおり、A1及びA2の任用終了について、不当労働行為意思を認めることはできず、不当労働行為は成立しない。

3 本件申立ての被申立人について

 労働組合法第27条に規定される使用者は、法律上独立した権利義務の帰属主体であることを要する。令和3年(不)第2号事件は被申立人を市教委として申し立てられたが、市教委は市の執行機関の一部であり、独立した権利義務を有する主体は市であるというべきであるため、当委員会としては、審査の経過を踏まえ、本件申立ての被申立人は市であると判断した。 
掲載文献   

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