労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  奈良県労委令和2年(不)第2号・同3年(不)第4号
新晃不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年12月22日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、組合員のみにバキューム車の一人乗車を命じたこと、②組合員にのみ時間外労働の打診をしなかったこと、③他の組合員には支給した一時金の上乗せ分を組合員A2にのみ支給しなかったこと、④春闘要求事項及び一時金に関する団体交渉における会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 奈良県労働委員会は、④について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書手交を命じるとともに、③の一部について申立期間を徒過したものとして却下し、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、本命令書受領後速やかに下記内容の文書を申立人に手交しなければならない。
令和 年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y会社         
代表取締役 B1
 令和2年春闘要求事項及び同年夏季一時金に関する令和2年6月8日の団体交渉における当社の貴組合への対応が、奈良県労働委員会において、労働組合法第7条第2号の不当労働行為であると認められました。今後はこのような行為を繰り返さないようにします。

2 令和3年(不)第4号事件における、令和2年6月9日以前の一時金の上乗せ分支給に係る申立ては、これを却下する。

3 その余の申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 会社が組合員のみにバキューム車の一人乗車を命じたことが事実であり、そのことが組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるか(争点1)

 非組合員もバキューム車の一人乗車を行っていることが認められ、必ずしも組合員のみが命じられていたわけではない。しかしながら、会社の取締役であるB2を除くと、組合員A2及び職場分会の執行委員長A3について一人乗車が多いという事実が認められることから、この点について会社が組合所属の有無により差別的取扱いを行ったためであるか否かを以下検討する。
 会社は一定の基準をもって一人乗車を依頼しており、その基準には一応の合理性が認められること、また、Cについては、非組合員となった令和2年になってから増加しており、一人乗車を依頼する作業員についての会社の説明は不自然ではない。また、会社が組合所属の有無により差別的取扱いを行ったと認めるに足りる証拠はない。
 なお、組合は、令和2年6月9日、社長が、一人乗車を拒む組合員に対し「指示に従わなければ業務を外し、賃金も減額する。」と怒鳴りつけて脅し、組合員のみに一人乗車を強制したと主張するが、このことを事実として認めるに足りる十分な裏付けが存在しないものといわざるを得ない。また、実際に、過去において現場業務から外し、賃金を減額するといったことが行われた事実も認められない。
 以上のとおりであって、会社が組合所属の有無により差別的取扱いを行ったと認めるに足りる証拠はなく、この点について会社の不当労働行為を認めることはできない。

2 会社が特定の従業員に時間外労働に従事させ、組合員には打診しなかったことが事実であり、そのことが組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるか(争点2)

(1)本件についてみると、所定時間外労働は恒常的には行われていなかったと認めることができ、さらに、賃金規程には、所定外法定内労働時間に対する賃金支払いに係る定めはなく、会社は当該労働についてはそれに対応する賃金を支払ってこなかったなどの事情があり、一概に所定時間外労働を割り振られなかったことが不利益取扱いとは言い難い。しかし、労働者が仮に法定時間内であっても所定時間外労働を行った場合に、それに対応する賃金が支払われるのは通常の取扱いであり、その限りでは所定時間外労働が割り振られないことは、不利益取扱いであるとも考えられる。そこで、本件でも、所定時間外労働が割り当てられないことは一応不利益取扱いであることを前提として判断する。

(2)会社では、非組合員だけでなく、組合員も所定時間外労働を行っていることが認められるが、非組合員であるE及びDの所定時間外労働が多いという事実が認められることから、この点について会社が組合所属の有無により差別的取扱いを行ったためであるか否かを以下検討する。
 会社の事業内容からすると、現場に出向かなければならないという業務の性質上、顧客の個々の事情に合わせた急な対応が必要になる状況が考えられる。そういった現場対応が発生した場合、組合員はおおむね終業時刻前には作業を終え着替えを済ませており、作業ができる状態で残っている作業員に対して所定時間外労働の打診をしていたという会社の説明は不自然ではない。また、会社が組合所属の有無により差別的取扱いを行ったと認めるに足りる証拠はない。
 以上のとおり、会社が組合所属の有無により差別的取扱いを行ったと認めるに足りる証拠はなく、この点について会社の不当労働行為を認めることはできない。

3 組合員A2のみに一時金の上乗せ分が支給されていないことが事実であり、そのことが組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるか(争点3)

(1)令和元年夏季及び同年冬季一時金に係る申立てについて

 労働組合法第27条第2項は、申立人が行為を知った日から1年を経過した事件に係るものについてではなく、申立てが行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から1年を経過した事件に係るものであるときは、労働委員会はこれを受けることができない旨を定めている。
 そこで、本件申立てにおける一時金の支払時期をみると、令和元年夏季一時金は同年7月に支給され、同年冬季一時金は同年12月に支給されており、同年度の一時金の上乗せ分の支給に係る申立ては、支給日から1年以上を経過した令和3年6月10日になされたものであるから、申立期間を徒過したものといわざるを得ない。
 よって、本件申立てのうち、令和2年6月9日以前の一時金に係る申立ては、申立期間を徒過したものとして、労働委員会規則第33条第1項第3号の規定により、却下する。

(2)令和2年夏季及び同年冬季一時金に係る申立てについて

ア 会社は、非組合員には一時金について上乗せ分を支給していないのであるから、当該不支給が直ちに組合員であることを理由とする不利益に当たるとはいえない。しかしながら、組合員に対する上乗せ分の支給について、令和2年に支払われた一時金の実績をみると、他の組合員に支給された同年夏季一時金の上乗せ分及び同年冬季一時金の上乗せ分の計7万5千円が、組合員A2には支給されていないことが認められる。このことは、A2がC組合の初代執行委員長として活動していたことを理由として差別的取扱いをしたと解されなくもないことから、A2に対する一時金の上乗せ分の不支給が、会社の不当労働行為意思によるものか否かを以下に検討する。

イ 過去の支給実績について、平成30年冬季一時金では、上乗せ分として7千円がA2に支給された事実が確認できる。このことからすると、会社は、組合との交渉の経緯等によっては上乗せ分の支給を容認することもあったのであり、その不支給に一貫して強く固執していたと断言することはできない。
 また、会社はこのような取扱いをする根拠として、A2の基本給について10万円の大幅な昇給をする代わりに今後は一時金の上乗せ分は要らないという口約束があったことを挙げるのに対して、組合はその存在を否定する。しかし、少なくとも、令和元年夏季一時金から令和2年夏季一時金までについては、A2を除く組合員全員に上乗せ分を付加した金額が支給されたが、A2は令和元年11月19日を除きこれらの一時金交渉に出席しており、自分に支払われた一時金の金額に上乗せ分が付加されていないとの認識があったものと認められるところ、そのことについて当時異議を述べた事実はない。
 さらに、組合は、A2への上乗せ分不支給が、組合解散の約束不履行に対する報復である旨を主張するが、会社との間で組合の解散を約束したという事実については証拠がなく、他に当該不支給が同組合員の組合活動を理由とする差別的取扱いであると認めるに足りる証拠もない。

ウ 以上のとおり、A2に一時金の上乗せ分が支給されなかったことが、会社の不当労働行為意思によるものと認めるに足りる証拠はなく、この点について会社の不当労働行為を認めることはできない。

4 一連の団体交渉における会社の言動や態度は、不誠実な団体交渉に当たるか(争点4)

 労働組合法第7条第2号は、使用者は自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があると解すべきである。
 会社は、組合からの申入れに対し、団体交渉に応じているが、令和2年6月8日の団体交渉において、会社は経営状況について正当な理由なく十分な説明をしなかったことが認められ、組合からのより詳細な資料提示の要求には応じず、その理由を説明することもなかった。
 また、そもそも、社長は同日の団体交渉に出席した組合本部役員に対し、資料提示を拒み、発言することを制止するといった言動を行っているが、当該言動は、組合が団体交渉の当事者になること自体を否定するものと言わざるを得ない。会社は、組合が団体交渉の当事者であるという説明がなかったと主張するが、組合加入当初から、団体交渉は組合又は組合と職場分会の連名で申し入れており、会社は交渉当事者を認識し得たはずである。仮に認識できなかったとしても、質問するなど確認する手立てはあったと解される。
 よって、令和2年6月8日の団体交渉における会社の態度や言動は、不誠実な団体交渉に当たる。

第6 救済の方法

 以上のとおり、令和2年6月8日の団体交渉における会社の対応は不誠実であり、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
 組合は、同月25日付けの申入書に対し誠実に団体交渉に応じることについて救済を求めているが、会社は、申立後、継続して団体交渉に応じ、労使協定を締結するなどの一定の進展がみられることから、改めて誠実に団体交渉に応じることを命じるまでもない。また、組合は、謝罪文の掲示について救済を求めているが、会社は、同月8日の団体交渉において不適切な発言があったことを認め反省の意を示しているなど、諸般の事情を勘案すると、謝罪文を掲示することを命じるまでもない。
 しかし、今後、会社と組合が協調し、良好な労使関係の形成を目指していく必要があることから、会社に同種の行為を繰り返させないため、主文のとおりの文書の手交を命じるのが相当である。 
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