労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)69号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年1月13日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、組合員に対する業務委託契約(ワクチンの接種業務)の解除通知を協議事項とする団体交渉後、再度の団体交渉の申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、団体交渉応諾及び文書交付を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和3年11月30日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。
2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
会社          
代表取締役 B1 
 会社が、貴組合から令和3年11月30日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。当社は、今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨   本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるかについて、以下判断する。

1 労働組合法上の労働者性について

(1)令和3年7月7日付けで会社とA2が締結した契約書(以下「本件契約書」)の表題が「業務委託契約書」であり、その第1条に会社が組合員A2に神戸市での新型コロナウイルスワクチンの接種業務(以下「本件業務」)を委託する旨の記載があることが認められるが、雇用契約以外の契約形態によって労務供給を行う者であっても、労働組合法上は、労働者として取り扱われ、同法上の保護を受けることがある。
 この点、会社は、A2が労働組合法上の労働者に当たるか否かについては主張も立証もしていないが、労働基準法上の労働者に当たらない旨主張するので、念のため、A2が会社との関係で労働組合法上の労働者に当たるかについて、労働組合法上の労働者性の基本的判断要素である①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性に即して検討する。

(2)事業組織への組入れについて

 ①会社は、神戸市から本件業務の依頼を受け、本件業務に従事する医師を会社サイトで日時及び場所を特定して募集し、これに応募した医師の勤務を確定した上で、集団接種会場に出務させ、本件業務に従事させていたこと、②組合員A2は、本件業務の勤務確定後、会社に医師免許証を提出したことが認められることから、A2は、本件業務の実施に不可欠な医師免許保有者として、会社の事業組織に組み入れられていたということができる。

(3)契約内容の一方的・定型的決定について

 ①会社が組合員A2に委託した業務は本件契約書に明記され、その内容は会社が指定する場所における新型コロナウイルスワクチンの接種及びその予診等の作業であること、②業務開始時間及び終了時間は会社が通知すること、③報酬額は、会社があらかじめ、「時給」として、月曜日から土曜日については17,500円、日曜日及び祝日については20,000円と定め、通知していたことが認められる。また、会社は、これらの業務内容、時間・場所の指定及び報酬額について、サイトで応募してきた不特定多数の医師に対して、同一の条件を提示していたものと推認される。
 これらのことからすると、本件契約は、会社が、不特定多数の医師との間で、その内容を一方的・定型的に決定していたものというべきである。

(4)報酬の労務対価性について

ア ①本件業務に係る報酬は時給として支払われていたこと、②交通費が支給されていたことから、組合員A2は、特段の経費を負担することなく本件業務に従事し、これに対する報酬は、勤務した時間に応じて算出されていたということができる。

イ 加えて、本件契約について、①本件業務の内容及び遂行の仕方は、本件契約書において具体的かつ詳細に定められ、また、自治体又は会場ごとの仕様書による指示がなされる場合がある旨定められていること、②会社は、A2に対し、勤務の場所を指示することができる旨定められていること、③会社は、A2に対し、勤務の日時及び場所を電子メールにより具体的に指示していたことが認められることから、A2は、勤務すべき日時及び場所に関する会社の指示に従い、会社の指揮監督の下、本件業務に従事していたということができる。

ウ 以上から、A2は、会社による時間的場所的拘束及び指揮監督の下で本件業務に従事し、仕事の完成又は質若しくは量にかかわらず、労務を提供した時間の対価としての報酬を得ていたものというべきである。

(5)また、会社は、組合が令和3年8月10日付け団体交渉申入書によって申し入れた8.25団交(以下「8.25団交」)について、組合員A2の労働組合法上の労働者性については特段の疑義を呈することなく応じたことが認められる。このことに、組合が同年11月30日付け団体交渉申入書(以下「本件団交申入書」)を提出して行った団体交渉申し入れ(以下「本件団交申入れ」)に特段の対応をしていない会社の態度を併せ考えると、本件団交申入れの時点において、会社に、A2の労働組合法上の労働者性を争う意思があったとみることはできない。

(6)以上のことを考え合わせると、組合員A2は、労働組合法上の労働者に当たるとみるのが相当である。

2 義務的団交事項について

 次に、本件団交申入れの協議事項が義務的団交事項に当たるかについてみる。
 本件団交申入書に、協議事項として「1、貴社の回答書の内容、当組合の反論書について」及び「2、上記に関連する事項」が記載されていたことが認められるところ、本件団交申入書に記載された令和3年9月30日付け会社回答書及び同年11月10日付け組合反論書の記載内容についてみるに、本件団交申入れの実質的な協議事項は、本件契約の解除の撤回及び解決金の支払であると解するのが相当である。
 これらのことからすると、本件団交申入れの協議事項は、組合員A2の労働条件に関するものといえ、義務的団交事項に当たる。

3 団交拒否の正当理由について

 会社は、本件団交申入れに応じなかった正当理由として、①8.25団交及びその後のやり取りにおいて、組合が雇用契約であると考える根拠を示さなかったことによって、議論の余地がなくなったこと、②8.25団交において、組合が威圧的な言動や解決金の要求に終始したため、話合いができなかったこと、を挙げるので、この点についてみる。

(1)まず、前記①の理由についてみる。

 一般に、団交において労使が協議を尽くした結果、議論が平行線をたどり、交渉が決裂して、再度交渉したとしても進展が見込めない状態に至った場合には、使用者が団交申入れを拒否しても、正当な理由のない団交拒否には当たらない。
 この点、8.25団交におけるやり取りについては、本件団交申入れの協議事項について、議論の余地がなくなっていたと認めるに足りる事実の疎明はなく、むしろ、その後も団交申入れの協議事項に関連するやり取りがなされていたことからすれば、8.25団交が終了した時点において、本件団交申入れの協議事項について、交渉が決裂して、再度交渉したとしても進展が見込めない状態に至っていたとはいえない。
 また、会社は、8.25団交後のやり取りにおいて議論の余地がなくなったとも主張するが、そもそも、団交外でやり取りをしたことが、その後の団交申入れに応じない正当な理由となるものではない。
 したがって、前記①の理由が団交に応じない正当な理由であるとはいえない。

(2)次に、前記②の理由についてみると、8.25団交において組合が威圧的な言動や解決金の要求に終始したことについて、会社の側からの立証はなく、団交における組合の態度が交渉を進める上で支障となったと認めるに足る事実の疎明はないのであるから、同理由が団交に応じない正当な理由であるとはいえない。

4 不当労働行為の成否について

 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 

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