労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第47号
不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合・X2組合 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和4年11月18日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、Y1会社及びY2会社が、①X1組合及びX2組合が、大阪府労働委員会が発出した命令及び欠員補充について団体交渉を申し入れたところ、回答しなかったこと、②X2組合が、欠員補充及び春闘要求について団体交渉を申し入れたところ、回答しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、Y2会社に関し、①のうち欠員補充に係るものについて労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、同社に対し文書交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 Y2会社は、X1組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
X1組合
 執行委員長 A1様
Y2会社      
代表取締役 B
 当社が、貴組合からの令和2年8月24日付けの団体交渉申入れのうち、欠員補充に関する団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
2 Y2会社は、X2組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
X2組合
 執行委員長 A2様
Y2会社      
代表取締役 B
 当社が、貴組合からの令和2年8月24日付けの団体交渉申入れのうち、欠員補充に関する団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

3 申立人らのその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨   X1組合及びX2組合(以下「組合ら」)の2.8.24団交申入れに対するY1会社及びY2会社(以下「会社ら」)の対応、及びX2組合の3.4.13団交申入れに対する会社らの対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるかについて、以下判断する。

1 組合らが会社らに対し令和2年8月24日に団交申入れを、X2組合が会社らに対し3年4月13日に団交申入れを行ったことに対し、会社らが回答をせず、団交が開催されていないことについて、当事者間に争いはない(以下それぞれの団交を「2.8.24団交申入れ」、「3.4.13団交申入れ」と、これら申入れに係る文書を「2.8.24団交申入書」、「3.4.13団交申入書」と、これら申入れを併せて「本件団交申入れ」という)。

2 本件団交申入れの団交事項は、申入書の記載から、①先行事件命令〔注平成30年(不)第41号事件に係る令和2年7月29日付け大阪府労働委員会命令。以下同じ〕の履行、②欠員補充、③令和3年度春闘要求の3点といえる。そこで、会社らが、本件団交申入れに係る団交に応じなかったことに正当な理由があるかについて、以下、団交事項ごとに検討する。

(1)先行事件命令の履行に向けた団交申入れについて

 2.8.24団交申入書による先行事件命令の履行に向けた団交申入れは、組合らが先行事件において救済を求めた団交申入れとは別の新たな団交申入れを、改めて、組合らが行ったものとみることはできず、むしろ、先行事件命令の履行を求めるものにすぎないといえる。
 このことに、先行事件命令が団交応諾を命じたものではなく、誓約文の交付を命じたものにとどまることを併せ考慮すれば、2.8.24団交申入れによって、新たな団交の必要性が生じたり、組合らに先行事件とは別の被救済利益が存したりするものとまで解することは困難であり、当該団交拒否に対して、先行事件命令とは別に会社らに不当労働行為を認定し、救済を命じる必要性があるとまで認めることはできない。したがって、会社らがかかる団交に応じなかったことをもって、不当労働行為に該当するとまではいえない。

(2)欠員補充に関する団交申入れについて

 本件団交申入れの時点において、会社らには組合らの組合員は存在していないところ、そのような場合、特段の事情がない限り、使用者には団交に応ずべき義務はなく、使用者が団交申入れを拒否しても、正当な理由のない団交拒否には当たらない。そこで、会社らが団交に応ずべき特段の事情があるかについて、以下、会社ごとに検討する。

ア Y1会社について

(ア)組合らは、会社らは実質的に同一の会社であり、両社が労働組合法上の使用者となり、組合らに対して人的補充と雇用の責任を負っており、2.8.24団交申入書及び3.4.13団交申入書により欠員補充の履行を求めて団交の申入れを行ったもので、Y1会社には団交に応諾する義務がある旨主張する。

a まず、かつてY1会社とY2会社の本社の所在地や代表取締役が同一であったことのみをもって法人として形骸化しているとか、実質的に同一の会社であるとはいえない。

b 組合らは、Y1会社は、人員補充要求が継続審議事項であることを認め、平成21年3月19日確認書(以下「21.3.19確認書」)を締結した旨主張するが、同確認書をもって、Y1会社が人員補充を約したとまではいえない。また、同確認書の締結が本件団交申入れより10年以上前であることを勘案すると、Y1会社が、本件団交申入れに応じて、同確認書に基づく人員補充要求について団交すべきといえるかについては、同確認書締結から本件団交申入れまでの経緯をみる必要がある。

c 組合らは、21.3.19確認書の締結後の団交によって、X2組合とY2会社は平成21年10月1日協定書(以下「21.10.1協定書」)を締結した旨、会社ら自身がこれまでの団交で、各自を区別することなく、同一の会社として対応にあたってきた旨、したがって、Y1会社も協定の当事者である旨などを主張する。しかし、同協定書は、X2組合らとY2会社との間で締結されたものであり、Y1会社についての記載はないのであるから、Y1会社が、21.10.1協定書の当事者であったということはできない。

d これらのことから、21.3.19確認書や21.10.1協定書をもって、Y1会社がX2組合に対し、人員補充を約したとはいえず、さらに、21.3.19確認書の締結後の経緯をみても、Y1会社が人員補充についての団交に応ずべき特段の事情があったとはいえない。

(イ)組合らは、先行事件命令書では、Y1会社に対して「使用者性」が認められた旨、会社らには、欠員補充されるX2組合の組合員の雇用を守る責任がある旨主張する。しかし、先行事件命令書では、X1組合がY2会社に労働者供給している日々雇用組合員について、Y2会社が独立した法人であるとした上で、Y1会社が労働組合法上の使用者に当たる旨記載しているが、欠員補充について使用者に当たるとは記載しておらず、Y1会社が、欠員補充される組合員の使用者として認められたとはいえない。

(ウ)以上のとおりであるから、欠員補充に係る団交について、Y1会社が応ずべき特段の事情があったとはいえず、Y1会社がかかる団交に応じなかったことをもって、正当な理由のない団交拒否に当たるとまではいえない。

イ Y2会社について

(ア)組合らは、「欠員・人員補充」要求が継続審議事項であるうえ、Y2会社は21.10.1協定書を締結し、欠員・人員補充を実行することを確認していることから、Y2会社に欠員(人員)補充されるX2組合組合員の雇用責任があることは明らかである旨、また、Y2会社は令和2年9月20日を以って事業を停止した等主張するが、組合排除目的の偽装的な事業停止といわざるを得ない旨主張する。

(イ)21.10.1協定書が締結されたのは、本件団交申入れから10年以上前であるところ、この間に、Y2会社と組合らとの間で、同協定書に基づき、人員欠員補充問題について継続的に団交が行われていたとの疎明はなく、21.10. 1協定書の締結以降、「欠員・人員補充」要求についての協議が継続的に行われていたとまではいえない。
 しかしながら、21.10.1協定書の第2項には、Y2会社は、人員欠員補充の問題について進捗状況を都度報告する旨記載があることが認められ、Y2会社は、少なくとも、人員欠員補充問題の進捗状況をX2組合に報告すべきであったといえるところ、Y2会社がX2組合又はD組合に対し、令和2年9月20日を以って事業停止したことや、これに伴う人員欠員補充の状況について報告等を行ったとの疎明はなく、また、X2組合とY2会社との間で、人員欠員補充についての団交が平行線に至っていたとの疎明もない。
 かかる状況において、X2組合及びその上部団体であるX1組合から欠員補充についての団交申入れがなされたのであるから、Y2会社は、人員欠員補充を履行できる状況にあるか否かはともかく、少なくとも、組合らからの団交に応じて、人員欠員補充の状況等について何らかの説明をするべきであったといえるのであり、団交に応ずべき特段の事情があったといえる。

(ウ)ところで、欠員補充に関する団交申入れは2.8.24団交申入れと3.4.13団交申入れであるところ、3.4.13団交申入書には、要求事項として、「2009年3月19日付『確認書』に基づく、継続審議事項である欠員補充について」と記載されていることが認められる。しかし、同確認書は、X2組合とY1会社との間で締結されたもので、Y2会社についての記載はないのであるから、Y2会社が同確認書の当事者であるとはいえない。そうすると、欠員補充に関する本件団交申入れのうち、3.4.13団交申入れについては、Y2会社が団交に応ずべき立場にあるとはいえない。

(エ)以上のとおりであるから、Y2会社は、欠員補充に関する2.8.24団交申入れに応ずべき特段の事情があるといえるところ、これに対し何ら返答もせず、団交に応じていないのであるから、かかるY2会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるといわざるを得ない。

(3)令和3年度春闘要求に関する団交申入れについて

 3.4.13団交申入書には、令和3年度春闘要求として、賃上げ、一時金及び福利厚生資金が挙げられている。これらの議題は、その性質上、会社らに組合員が存在することが前提となるといえるところ、本件団交申入れ時点において、会社らには、組合らの組合員は存在しておらず、特段の事情がない限り、使用者には団交に応ずべき義務はなく、団交申入れを拒否しても、正当な理由のない団交拒否には当たらない。
 この点について、組合らは、会社らにおいて、欠員補充により雇用されなければならない組合員がいる旨主張するので、会社らが、近い将来において欠員補充により組合らの組合員を雇用する現実的かつ具体的な可能性が存したとの特段の事情があるかについて以下、会社ごとに検討する。

ア Y1会社について

 組合らは、Y1会社は、「欠員・人員補充」の要求を履行する義務を負っている旨主張するが、Y1会社がX2組合に対し、人員補充を約したとはいえない。
 なお、組合らは、先行事件命令書を根拠に団交申入れに応諾する義務がある旨主張するが、先行事件命令書において、Y1会社が欠員補充される組合員の使用者として認められたとはいえず、また、先行事件命令は、誓約文の交付を命じるものであったことからすると、先行事件命令書をもって、Y1会社に団交応諾義務があるとはいえない。
 以上のことからすると、Y1会社が、近い将来において欠員補充により組合らの組合員を雇用する現実的かつ具体的な可能性が存したとはいえず、そうすると、Y1会社が、令和3年度春闘要求に関する団交に応ずべき特段の事情があったとはいえない。
 したがって、当該団交申入れにY1会社が応じなかったことをもって、正当な理由のない団交拒否に当たるとはいえない。

イ Y2会社について

 組合らは、Y2会社は21.10.1協定書を締結し、欠員・人員補充を実行することを確認していることから、Y2会社に欠員(人員)補充されるX2組合組合員の雇用責任があることは明らかである旨主張する。
 ①X2組合らとY2会社との間で、21.10.1協定書が締結されていること、②同協定書第1項に、Y2会社は、人員欠員補充について、環境が整い次第実行することとし、平成21年12月末日を目途とするとの記載があること、③同協定書第2項に、Y2会社は、上記の問題について進捗状況を都度報告するとの記載があることが認められる。
 しかし、3.4.13団交申入れ時点において、Y2会社が欠員補充によりX2組合の組合員を雇用する現実的かつ具体的な可能性があったとまではいえず、Y2会社が令和3年度春闘要求に関する団交に応ずべき特段の事情があったとはいえない。
 これらのことから、令和3年度春闘要求に関する団交申入れにY2会社が応じなかったことをもって、正当な理由のない団交拒否に当たるとはいえない。

3 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対するY1会社の対応は、正当な理由のない団交拒否には当たらない。
 一方、Y2会社が、2.8.24団交申入れのうち欠員補充に関する団交に応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 

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