労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第20号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年11月18日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、組合員2名について、①雇用契約更新を協議事項とする団体交渉が継続中であるにもかかわらず、組合の頭越しに同組合員らに雇止め通知書を送付したこと、②団体交渉において雇止めの合理的な理由を説明しなかったこと、③雇止めにしたことがそれぞれ不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人が令和3年2月9日付けで支部代表A1及び組合員A2に雇止め通知書を送付したことは、組合に対する支配介入に当たるか(争点1)

(1)組合は、令和3年1月6日付けで支部代表A1及び組合員A2らを雇止めせず継続して雇用することを要求事項として団体交渉を申し入れた(以下「本件団交申入れ」)。同月20日に行われた団交(以下「3.1.20団交」)において、法人は、同年2月末までに結論を出すことを前提に教育研究業績書の提出を求め、A1及びA2がこれに応じて教育研究業績書等を法人に提出し、その後、令和3年2月10日団交(以下「3.2.10団交」)が行われているのであるから、法人が同月9日付けでA1及びA2に雇止め通知書を交付した時点では、これを議題とする団交が継続中であったものとみるのが相当である。

(2)しかしながら、組合と法人との間で、組合員の雇止めに関し、事前に協議することについて何らかの合意が成立していた事実は認められないのであるから、雇止め通知書の交付に先立って組合に協議を求める法的な義務が法人にあったとまではいえない。

(3)また、法人が雇止め通知書をA1及びA2に交付した翌日に行われた3.2.10団交及び平成3年2月24日団交(以下「3.2.24団交」)において、法人は雇止めの理由、手続及び回避のための方策について組合の質問に回答している事実が認められ、さらに、組合の質問に対して、雇止めの適否及び要否を判断するためにこの団交を開催しているところであり保留中である旨述べたことが認められる。

また、最終的には組合の要求は受け入れられていないものの、3.2.10団交及び3.2.24団交において雇止め通知について交渉が行われたことが認められる。そして、これら交渉における法人の態度が不誠実といえないことは後記判断のとおりである。
 そうすると、平成3年2月9日に雇止め通知書をA1及びA2に交付した法人の対応は、組合との交渉を回避したものとはいえない。

(5)以上のことからすると、法人が同年2月9日にA1及びA2に雇止め通知書を送付したことは、法人が雇止め通知書を〔ママ〕組合員らの組合及び組合活動への信頼を失墜させるものとも、組合活動をないがしろにするものともいえないから、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

2 本件団交申入れに係る3.2.10団交及び3.2.24団交における法人の対応は、不誠実団交に当たるか(争点2)

(1)組合は、これら団交のうち3.2.10団交及び3.2.24団交における法人の対応が不誠実団交に当たる旨主張し、不誠実に当たる点として、①担当科目の適合性の判断を依頼した外部専門家の存在について明らかにしなかったこと、②雇止め理由の正当性について十分な説明がなかったこと、③雇止めを回避するための代替案を提示しなかったことの3点を挙げるので、検討する。

(2)担当科目の適合性の判断を依頼した外部専門家の存在について明らかにしなかったとの主張について

 法人は、依頼した外部専門家について、その個人名までは明らかにしていないものの、その所持する学位及び資格並びに携わっている科目について説明するとともに、個人名を明らかにできない理由についても、相手方に迷惑がかかる事態を避けるためであることを説明している。

(3)雇止め理由の正当性について十分な説明がなかったとの主張について

ア A1の雇止め理由に係る説明について、法人は、①3.2.10団交において、組合からの質問に対して、十分とまでは言い切れないものの、根拠を示しながら回答をし、②3.2.24団交においても、組合の求めに応じて、A1の雇止めの理由の正当性について、改めて、まとめの回答をしているものということができ、意図的に回答を回避したものとはいえない。

イ A2の雇止め理由に係る説明について、法人は、3.2.10団交において、組合からの質問に対し、逐ー、根拠を示しながら回答をし、3.2.24団交においても、組合の求めに応じて、A2の雇止めの理由の正当性について、改めて、まとめの回答をし、質問に対しても、一定の回答をしているということができる。

ウ 学位及び研究業績に係るやり取りについて、法人は、A1及びA2の雇止め理由として自らが主張する学位及び研究業績がないことについて、組合からの質問に対して、逐一、根拠を示しながら回答をしているものということができる。

エ 雇止めを回避するための代替案を提示しなかったとの主張について、法人は、具体的な代替案の提示はないものの、雇止めの回避に関連する組合からの質問に対して、具体的な根拠を示して一定の回答をしているということができる。

オ 以上のとおり、本件団交申入れに係る3.2.10団交及び3.2.24団交における法人の対応は、不誠実団交に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

3 法人が支部代表A1を令和3年3月31日付けで雇止めとしたことは、組合活動を理由とする不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか(争点3)

(1)支部代表A1の雇止め理由について

 法人がA1に交付した雇止め通知書には、雇止めの理由として、①担当科目と研究業績の不一致、②専任教員としての不貢献、
③短大運営に対する非協力的態度、の3点が記載されていたことが認められる。そこで、法人がこれらを雇止め理由としたことに不合理な点がないかについてみる。

(2)担当科目と研究業績の不一致について

ア 教員選考基準、及び平成21年以前に文部科学省のホームページに登録された短期大学設置基準からすると、法人が、短大の専任講師であるA1の科目担当の適否を検討するに当たって、修士若しくは博士の学位又は研究業績を有することを基準とすることは、不合理とはいえない。

イ A1の科目適合性の検討はカリキュラムの見直しの一環としてなされたものとみられるのであるから、科目を担当する教員としての適否について、従前の経緯にとらわれることなく改めて検討することが、不合理とはいえない。
 法人は、A1及びA2の雇止めを決定した時点では、これら2名についてしか教員としての適否の判断を行っていないが、契約更新時期に鑑みて面談の順序を優先したとみることができ、不合理な点はない。

ウ 実技科目担当教員や学長B1が担当科目の学位を有していなかったことは推認されるが、①法人は実技は違う旨述べたことが認められ、また、②B1は研究業績を2つ以上有していると推認され、担当科目について学位と研究業績のいずれも有しないA1及びA2とは事情が異なることなどから、これら事例をもって、修士若しくは博士の学位又は研究業績に係る基準が組合員だけに設けられたものであるとまでいうことはできない。

エ したがって、A1について、修士若しくは博士の学位又は研究業績に該当するものがなく、担当科目と研究業績が一致していないとした法人の判断は、不合理ではない。

(3)専任講師としての不貢献について

 2.9.9団交において、法人が、「大学人としての教員の使命は、高校等での模擬授業を含め教員として募集活動に関わることである旨の話をしたが、最終的にA1ら2名には、現状の業務内容で頑張ってもらうとの結論であり、それ以上求めない」旨の発言をしたことが認められる。しかしながら、当該発言をもって、法人が、A1に対して学生募集業務を担当することへの期待を断念したとはいえない。
 これらから、法人が、A1が特任教員時代以上に短大の運営に貢献していないと判断したことは、不合理ではない。

(4)短大運営に対する非協力的態度について

ア A1の雇止め通知書には、雇止め理由として、「教授会その他、三役の発言の場において不適切発言や不規則発言が目立ち、本学の経営方針にも非協力的な態度に終始している。」との記載があることが認められ、このほか、A1の具体的行為の記載はない。

イ 認定によれば、少なくとも、③令和2年8月25日、A1が、教授会の開催前に論文盗用疑惑に係る告発状を短大に提出し、教授会終了後、教授会の会場において、上記告発状の内容に係る資料を配付したことは、教授会で正式に却下された論文盗用疑惑の議案に係る資料を、教授会終了後とはいえ、その場で出席者に配付したものであるし、④同年10月8日、A1によるハラスメントの件についての事情聴取の場で、A1が事情聴取の担当者を変更するよう述べたことは、自らが対象となったハラスメントに係る調査への協力を拒否したものであり、⑤令和2年10月、学長B1が、上記告発状に係る調査の一環である旨述べて、資料の提出を依頼したのに対し、A1が、資料は提出しない旨述べたこと、及び⑥令和3年1月10日、A1が、論文盗用疑惑の調査委員会委員長である別大学准教授に対してファクシミリを送信したことは、自ら告発した論文盗用疑惑に係る法人内部の調査の公正な実施を妨げるものであって、法人が、これら行為を短大運営に対する非協力的な態度と判断したことは、不合理とまではいえない。

ウ 以上から、法人が①担当科目と研究業績の不一致、②専任教員としての不貢献、③短大運営に対する非協力的態度、の3点をA1の雇止め理由としたことは、不合理ではない。

(5)非組合員との取扱いの均衡について、法人は、令和2年度で雇用契約が終了する専任教員3名のうち、組合に加入していないFに対してのみ、専任教員らに履歴書及び教育研究業績書の提出を依頼する前に面談を行って、令和3年度の雇用契約の更新を決定したものとみることができる。しかし、保健教員は絶対数が少ないため早期に面談が必要であるとの法人の主張が不合理とはいえず、したがって、科目適合性を判断するための研究業績に係る面談について、法人が組合員に対してのみ殊更に、異なる取扱いをしたとはいえない。

(6)当時の労使関係について、組合と法人の間には、組合加入通知からA1の雇止め通知に至るまでの間、留学生募集業務の中止をめぐって一定の緊張関係にあったことは認められるが、これは労働条件や労使関係に関する事項というよりは、むしろ短大の運営方針に関する事項というべきである。
 このことに、法人が組合との団交を拒否することなく8回にわたって行ったことを併せ考えると、雇止めが決定された当時、組合と法人の間に労使関係における対立があったとまではいえない。

(7)A1の雇止め通知の時期についてみると、3.2.10団交が予定された日の前日に雇止め通知書をA1及ひA2に交付した法人の対応が組合との交渉を回避したものとはいえない(前記1(3))。

(8)以上から、法人がA1を同年3月31日付けで雇止めとしたことは、不当労働行為意思をもってなされたものとはいえず、組合活動を理由とする不利益取扱いに当たるとはいえない。

4 法人が組合員A2を令和3年3月31日付けで雇止めとしたことは、組合活動を理由とする不利益取扱いに当たるか。(争点4)

(1)A2の雇止め理由について

ア 法人がA2に交付した雇止め通知書には、雇止めの理由として、①担当科目と研究業績の不一致、②職務遂行上の日本語能力の不足、の2点が記載されていたことが認められる。そこで、法人がこれらを雇止め理由としたことに不合理な点がないかについてみる。

イ 担当科目と研究業績の不一致について

 法人が、短大の専任講師であるA2の担当科目の科目適合性を検討するに当たって、修士若しくは博士の学位又は研究業績を有することを基準とすることは、短期大学設置基準に準じたものといえ、不合理とはいえない。そして、A2が修士又は博士の学位を有していないことは当事者間に争いはない。
 また、A2の研究業績が法人の選考基準の「学術論文2篇以上の業績を有する者」との基準を満たさないと判断したことが、不合理とまではいえない。
 以上から、法人が、A2について、担当科目について研究業績と科目適合性がないと判断したことは、不合理とはいえない。

ウ 職務遂行上の日本語能力の不足について

 法人が専任教員であるA2に対して教授会での議論に参加できる水準の日本語能力を求めること自体は、不合理とはいえない。したがって、法人が、A2について、職務遂行上の日本語能力が不足していると判断したことは、不合理とはいえない。

エ 以上から、法人が、①担当科目と研究業績の不一致、②職務遂行上の日本語能力の不足の2点をA2の雇止め理由としたことは、不合理であるとはいえない。

(2)非組合員との取扱いの均衡について、研究業績に係る面談について、法人が組合員に対してのみ殊更に異なる取扱いをしたとはいえない。

(3)当時の労使関係について、雇止めが決定された当時、組合と法人の間に留学生募集業務の中止をめぐって一定の緊張関係にあったことが認められるものの、労使関係における対立があったとまではいえない。

(4)雇止め通知の時期について、3.2.10団交が予定された日の前日に雇止め通知書をA1及びA2に交付した法人の対応が組合との交渉を回避したものとはいえない。

(5)以上から、法人がA2を令和3年3月31日付けで雇止めとしたことは、不当労働行為意思をもってなされたものとはいえず、したがって、組合活動を理由とする不利益取扱いに当たるとはいえないから、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

5 結論

 よって、①法人が令和3年2月9日付けで支部代表A1及び組合員A2に雇止め通知書を送付したこと、②本件団交申入れに係る3.2.10団交及び3.2.24団交における法人の対応、③法人がA1を同年3月31日付けで雇止めとしたこと、④法人がA2を同日付けで雇止めとしたことは、いずれも不当労働行為には当たらない。 

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