労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第1号・同(不)第28号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年9月12日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合からの団体交渉申入れに応じなかったこと、②その後行われた団体交渉において不誠実な対応をしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である(以下、①に係る申立てを3-1号事件、②に係る申立てを3-28号事件という)。
 大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。
 
命令主文  1 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B
 当社が、貴組合から令和2年12月10日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
2 組合のその余の申立てを棄却する。
 
判断の要旨  1 2.12.10団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか(争点1)

(1)会社は、令和2年12月10日付け団交申入れ(以下「2.12.10団交申入れ」)に応じなかった理由として4点を挙げるので、これらの当否についてみる。

ア 理由①について
(協議事項「出向契約書〔注〕の内容確認について」については、当該契約の内容を開示する必要はないし、組合員A2は地位確認請求・未払賃金請求訴訟事件の証拠として当該契約の内容を確認しており、さらに「内容確認」との抽象的な要求は義務的団交事項に該当しない)

〔注〕会社の従業員である組合員A2を親会社に出向派遣するに当たり、令和元年12月27日に会社と親会社との間で締結された契約。

 出向派遣契約書の内容を開示する必要があるか否かや既にA2が所持しているので必要がない旨の会社の主張は、一旦、団交に応じた上でその団交において、同契約書を提出しない理由として主張すべき内容であり、団交に応じる必要がないことの根拠とはならない。
 また、「内容確認」との抽象的な要求は義務的団交事項に該当しない旨の主張については、組合は、令和2年12月10日付け回答書により、最終的に、A2に対する未払残業代を会社に要求する趣旨であることを説明しているといえ、したがって、この要求事項は義務的団交事項に当たるといえ、理由①は団交拒否の正当な理由とはいえない。

イ 理由②について
(協議事項「C工場人員削減による労働負担問題」については、会社及び親会社の経営上の専権事項であり労使間の運営に関する事項ではない上、要求事項が抽象的で内容が不明瞭であることから義務的団交事項に該当しない)

 出向派遣契約の期間中も組合員A2と会社との間に雇用契約関係が存在する状況においては、「C工場人員削減による労働負担問題」がC工場に出向している会社の従業員A2の労働条件に関する事項であることは、明らかである。これが義務的団交事項であることはいうまでもなく、理由②は団交拒否の正当な理由とはいえない。

ウ 理由③について
(協議事項「コロナ禍による休業時の出勤体制の不公平問題」については、会社及び親会社の裁量権の範疇の問題である上、他の従業員の職責の違いを踏まえて、どこがどう不公平であるのかが具体化されなければ、団交の場で何を交渉すべきなのか不明である)

 出勤体制について会社の裁量権があるとしても、同時にそれが労働者の労働条件に関する事項であることが否定されるものではなく、出向派遣契約の期間中もA2と会社との間に雇用契約関係が存在する状況において、当該協議事項がC工場に出向している会社の従業員である組合員A2の労働条件に関する事項であることは、明らかである。これが義務的団交事項であることはいうまでもなく、理由③は団交拒否の正当な理由とはいえない。

エ 理由④について
(2.12.10団交申入れの「内容確認」、「労働負担問題」、「不公平問題」及び「関連する事項」という要求の内容が不明瞭で団交応諾の判断ができず、会社がこれに応じるべき義務がない)

 要求事項の内容に不明確な部分があったとしても、その点については、事前に組合に確認すればよいのであり、組合の要求内容が会社にとって不明瞭であることを理由に、会社の団交応諾義務が免ぜられるものではない。しかも、組合は、会社が令和2年11月26日付け回答書で組合に対して行った具体的な問題提起の要求に対して、相当程度応じているというべきであって、この点からも、会社に団交を拒否すべき理由はないと言わねばならない。

オ 以上のとおりであるから、会社が2.12.10団交申入れに応じなかったことに正当な理由はない。

(2)会社は、団交において組合員A2の「労働負担」及び出勤状況について実質的に議論しており、3-1号事件の申立てによって救済されるべき団交拒否の事実はない旨も主張している。
 確かに、3-1号事件の申立てから約1か月後の令和3年2月1日に、組合と会社が、2.12.10団交申入れについて団交を行ったことが認められる。しかしながら、会社は、令和2年12月14日付け回答書によって明確に団交拒否の意思表示をしており、同事件の申立て以降に2.12.10団交申入れに係る団交が開催されたことにより、会社の不当労働行為性が当然に消滅したとはいえず、当該行為に関して、組合が謝罪文の交付等を請求していることについてまで被救済利益が消滅したものとまではいえないのだから、救済されるべき団交拒否の事実がないとの会社の主張は採用できない。

(3)また、会社は、3-1号事件の申立てについて、組合員A2が会社に対して未払残業代についての債権を有していることが前提となっており、A2が裁判所の期日において、会社との間で、当該和解条項に定めるもののほか何らの債権債務がないことを相互に確認する旨の記載のある和解を行ったことから、組合の救済申立てを通じて権利利益の回復を図る意図がないことを表明したものであり、この事実により救済の利益を欠く旨主張する。
 しかしながら、そもそも、A2に対する未払残業代の問題と3-1号事件の争点である組合に対する団交拒否という不当労働行為の問題とは別の問題であり、A2と会社とが民事上の権利関係の確定について和解をしたことにより、団交応諾について組合が救済を受ける利益は消滅しているとはいえない。

(4)以上のとおりであるから、2.12.10団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たると言わざるを得ず、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

2 3.3.31団交における会社の対応は、不誠実団交に当たるか(争点2)

(1)組合は、未払残業代支払要求に対して会社が事実に反した理由でゼロ回答をしたことが、団交に誠実に対応する義務を果たしていない旨主張するので、この点についてみる。

ア 令和3年3月31日団交(以下「3.3.31団交」)における会社の対応についてみると、認定によれば、同団交は、組合員A2の未払残業代について、時間外勤務が事前申請制であるかどうかをめぐって労使の主張が対立して双方が譲らぬまま、会社が、事前申請制であるとの自らの主張を前提に組合の主張する未払残業代を支払うべき特段の事情があるかどうか確認をした上で、支払うかどうかを回答することで終了したものということができる。
 次に、会社は、3.3.31団交終了後、組合に対し令和3年4月19日付け回答書(以下「3.4.19回答書」)を提出し、現場長及び工場長に事実関係を確認したとして、C工場で時間外勤務の指示が行われていなかった旨回答したことが認められる。

イ これらから、3.4.19回答書には組合員A2の未払残業代を支払うかどうかについては明記がないものの、会社は、時間外勤務が事前申請制であるとの自らの主張を前提に、3.3.31団交での約束に従い、未払残業代を支払うべき特段の事情があるかどうかについて、事実確認をした上で回答しているのであるから、そのことを理由にA2の未払残業代を支払わないことを実質的に回答したものと解するのが相当である。
 そうすると、会社は、3.4.19回答書において、3.3.31団交において約束していた回答をしたものということができる。

ウ この点、組合は、未払残業代支払要求に対して事実に反した理由でゼロ回答をしたことが誠実団交義務を果たすものではないと主張する。
 しかしながら、前記ア及びイの経過の中で、会社が殊更に虚偽説明を行った事実は認められない。このことに誠実交渉義務が使用者に譲歩や合意までを強制するものではないことを併せ考えると、会社が未払残業代を支払う旨回答しなかったからといって、団交での対応として不誠実であるとはいえない。

(3)なお、組合は、会社の3.3.31団交に係る不誠実な対応として、①組合員A2の始業前及び終業後の勤務実態について、出勤データがありながら、そのことをごまかすために、親会社では「申請残業」との発言をしたこと、②団交に出席した弁護士が、現場の実態が分からないにもかかわらず、2.12.22会話〔注令和2年12月22日の組合員A2と親会社部長B〔当時〕のC工場における時間外労働に係る話合い〕についてごまかす発言に終始したこと、③判例を無視する無責任な対応をしたこと、④社長Bが、C工場の管理職であった当時、現場長が始業前の朝礼及び午後1時前の昼礼を行っていたのを承認していたにもかかわらず、ごまかした嘘の答えをしたこと、⑤現場実態を知らない弁護士が、会社の〔朝礼に係る〕認識論について〔の発言〕及び朝礼実態と関係のない発言をしたこと、の5点を挙げる。
 これらを検討するに、①については、団交での会社の基本的立場を表明したものと、②については、会話の録音反訳についての自らの解釈を述べたものと、③については具体的に特定せぬまま例示された判例の内容について、一般論として自らの意見を述べたものと、④については、朝礼の5分前の出社が業務命令によるものかどうかは別途判断が必要であるという、会社の立場を説明したものと、それぞれみるのが相当である。また、⑤については、組合の質問に回答するためのものであり、その中で、会社としての認識を述べることは不自然なことではない。これらのことから、組合が挙げる①から⑤の会社の対応をもって、団交における会社の対応が不誠実団交に当たるということはできない。

(4)以上のとおり、3.3.31団交における会社の対応は不誠実団交に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。 

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