労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  兵庫県労委令和3年(不)第2号
宍粟市不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  宍粟市(市) 
命令年月日  令和5年2月9日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会計年度任用職員として任用した組合員Aに対する正式採用を不可とする等の通告(「本件通告」)に関し、組合の申入れにより開催された2回の団体交渉における市の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 兵庫県労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、主文においてその旨を確認した。 
命令主文   X組合から令和3年5月27日付け及び同年11月18日付けで申入れのあった団体交渉における宍粟市の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当することを確認する。 
判断の要旨   使用者には、誠実に団体交渉に当たる義務があり、したがって、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、上記のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるものと解すべきである。

1 本件通告に係る説明について

(1)本件通告に係る理由の説明について

 組合は、組合員Aを正式採用しなかった理由の説明が尽くされていないと主張するので、市が、通告書に記載された勤務実績不良及び職務適格性欠如と判断した事実関係について、説明したかを検討する。

ア 勤務実績不良に係る事実関係について、市は、市教育委員会事務局教育部こども未来課副課長B3らが宍粟市立Cこども園(以下「こども園」)を訪問した際に組合員Aの仕事ぶりを確認した内容及び同僚職員からも聞き取りを行った内容を述べて、これらの事実がAの勤務実績が不良であると判断した理由であると説明した。
 これに対し、組合は、令和3年6月25日の第1回団体交渉では、B3らがAの様子を見て改善のアドバイスをしなかったことについて抗議する姿勢を示していたが、同年12月8日の第2回団体交渉においては、Aに対し研修やトレーニングがなかったのかを尋ねたものの、勤務実績不良に係る市の説明に一定の理解を示し、それ以上、組合が追及することはなかった。
 以上のやり取りからすると、勤務実績不良に係る具体的事実について、市は、組合の理解が得られるよう具体的に説明を行ったことが認められる。

イ 職務適格性欠如に係る事実関係について、市は、職務適格性が欠如している理由として、同僚職員らがAに業務の方法を教えたが理解してもらえないとの報告があることや、Aが同僚職員との連携や打合せにおいて、協調性を欠くと認められる場面があり、改善に取り組む姿勢も見受けられなかったことを説明するなど具体的な支障事例を挙げて、一応の説明を行っていることから、不誠実な対応があったとはいえない。

(2)園長B1が出席しなかったことについて

 市においては、本件通告に当たり、一次評価に加えて二次評価を実施する手続が採用されているところ、市は、二次評価を実施するに当たり、副課長B3らがAと面談し、Aの仕事ぶりを確認しており、一次評価及び二次評価を通した一連の評価は、二次評価者(教育委員会)が責任をもって行ったとみることができる。
 したがって、第1回団体交渉及び第2回団体交渉(以下「本件団体交渉」)において、本件通告におけるAの評価について、一次評価の内容も含め、二次評価者及びその上司である市教育委員会事務局教育部長B2が出席して組合に説明を行っている以上、一次評価者である園長B1が出席して説明しなかったことが、不誠実な対応であるとはいえない。

2 ハラスメント該当性について

 二次評価が適正になされたか否かとは別に、一次評価の内容自体が上記交渉事項となっている本件団体交渉においては、市は、組合が(Aに対する)ハラスメントであると主張する事実に基づいてAの評価が歪められた可能性について、それを否定する場合には、具体的な根拠を挙げて誠実に説明する必要があるといえる。
 そこで、市が、園長B1の発言〔注1〕及び調理員Dの発言〔注2〕について、誠実に説明したか検討する。

〔注1〕組合は、Aが調理員Dの発言について相談した際に、園長B1から「それやったら仕事を辞めますか。」、「人数は足りているので、ほかの仕事を探しますか。」等の発言があった旨主張。

〔注2〕組合は、勤務中にめまいを起こしたAに、調理員Dから「めまいがするような人はここで働いてもらっては困ります。」、「早く帰ってください。」との発言があった旨主張。

(1)ハラスメント該当性に係る説明

ア 園長B1の発言について、市は、第1回団体交渉においては、B1は、Aに対するハラスメントを行う趣旨で発言したものではない旨説明し、第2回団体交渉においては、B1が、Aの体調を考えて仕事を辞めることも選択肢の一つとして考えてはどうかと発言したものである等説明したところ、組合は、その回答内容に一定の理解を示した。そうすると、市は、B1の発言の趣旨について、一定の説明を行ったと認められる。

イ 調理員Dの発言について、市が説明するDの発言は、第1回団体交渉では発言の趣旨を否定していたと伝え、第2回団体交渉では発言そのものを否定していたと伝えるなど矛盾したもので、市はこうした矛盾した内容をそのまま組合に伝えているにすぎず、組合の納得を得るよう誠実に説明する姿勢を欠いているといわざるを得ない。

(2)第1回団体交渉が決裂した原因

 第1回団体交渉の終盤において、市が、調理員Dの発言がハラスメントに該当するかについては、もう一度調査すると述べたのに対し、組合は、解雇撤回の意思があるのかどうかを聞いていると述べ、市が、ハラスメントの事実の確認と身分回復の問題とは別である旨の回答をしたところ、組合は、一方的に交渉決裂を宣言して、第1回団体交渉が終了したことが認められる。
 市が合意達成の可能性を明確に否定した場合であればともかく、組合は、第1回団体交渉だけで交渉決裂と決めつけてしまったのであるところ、市は、組合の質問に対して説明をしていることからすると、市が合意達成の可能性を明確に否定して団体交渉に臨んだものとみることはできない。

(3)ハラスメント該当性の再調査について

ア 第2回団体交渉において、市は、園長B1の発言がハラスメントに該当するかについては、もう一度確認する旨述べた。
 その後、市は、令和4年1月20日付け回答により、調査対象外と回答し、調査できない理由として、「宍粟市職員のハラスメントの防止等に関する要綱」(以下「本件要綱」)は、市職員の利益の保護、能力の発揮及び良好な職場環境の形成を目的として、ハラスメントの防止等に関し、必要な事項を定めているものであるので、既に任用期間を終了しているAからの調査申出は、受け付けることができないことを回答した。
 しかしながら、市の上記回答は、第2回団体交渉における、もう一度確認するとの合意を撤回するものであって、それ自体が誠実な交渉態度といえないと評価しうるものである。
 また、本件要綱の解釈として、申出資格を市職員としての身分の有無と結びつけ、Aのような元職員からの申出を調査の対象外とすることは、本件要綱の趣旨に照らし疑問がある。
 このように、市が、一旦ハラスメントに係る調査に同意をしておきながら、調査を拒否する根拠とはならない本件要綱を持ち出して、調査ができない旨の説明をすることは、本件通告の撤回等を求めてなされてきた団体交渉の経緯に鑑みても、誠実な交渉態度ということはできない。

イ 調理員Dの発言の再調査について、第2回団体交渉において、組合が調理員Dの発言がハラスメントに該当するかについて再調査を求めたのに対し、部長B2は、弁護士とも相談して返事する旨述べたが、市は、令和4年1月20日付け回答において、Dの発言がハラスメントに該当するかについての再調査に関しては、何ら言及せず、また、そのほかに回答したことの疎明もない。
 市は、本件団体交渉において、Dの発言についての説明を十分できなかったのであるから、再調査の要求には真摯に対応し、追加的な説明をすべきであったところ、市のこのような対応は不誠実なものといえる。

3 総括

 以上のとおり、本件団体交渉における市の本件通告に係る理由の説明及び園長B1が本件団体交渉に出席しなかったことは、不誠実な対応とはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しないが、市が、第2回団体交渉においてB1の発言のハラスメント該当性の再調査に同意したにもかかわらず、本件要綱を理由に調査ができない旨の説明をしたこと、及び調理員Dの発言について、本件団体交渉において十分な説明を行わず、第2回団体交渉におけるハラスメント該当性の再調査要求にも何ら回答せず追加的な説明をしなかったことは不誠実な対応であって、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

4 救済の方法

(1)組合は、本件の救済内容として誠実な団体交渉を行わなければならない旨の命令を発することを求めているが、第1回団体交渉を自ら打ち切り、当委員会が団体交渉を申し入れるよう促すまで第2回団体交渉の申入れをしていない。その他、本件の調査期日における組合の姿勢等一切の事情を考慮すると、組合は市の不当労働行為に関する判断を求めているものの、もはやこれ以上の団体交渉による解決を望んでいるものとは認められない。
 また、組合は、第2回団体交渉申入れにおいて、一次評価が事実に基づいた評価をしていない場合は本件通告の撤回を要求しているが、本件通告に当たり、一次評価に加えて、二次評価を実施する手続が採用されており、本件通告の事実関係についても一応の説明がされたと認められる。
 以上のことから、救済の方法として、本件団体交渉申入れに係る誠実な団体交渉の実施を命ずるまでの必要はないと思料する。

(2)そこで、当委員会は、市の不当労働行為の責任を明確にして将来の正常な集団的労使関係秩序の確保を期すため、主文のとおり、市の対応が不当労働行為であることを確認する旨の命令を発することとする。 
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