労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  秋田県労委令和3年(不)第1号
有限会社ホテルテトラ不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年10月24日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①第2回及び第3回団体交渉の開催期日を先送りしたこと、②第1回及び第2回団体交渉において、組合が事前に送付した要求書等の内容を真摯に検討し、誠実に対応しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 秋田県労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、誠意をもって団体交渉に応じなければならないこと、文書の交付及び掲示を命じた。 
命令主文  1 会社は、誠意をもって組合との団体交渉に応じなければならない。
2 会社は、本命令書写しの交付の日から7日以内に、日本産業規格A列4番(A4判)の大きさの白紙に下記の文書を記載し押印の上、組合に交付しなければならない。
3 会社は、本命令書写しの交付の日から7日以内に、日本産業規格A列3番(A3判)の大きさの白紙に下記の文書を記載し押印の上、本社事務所の正面玄関の見やすい場所に10日間掲示を継続しなければならない。
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B
 当社が、令和3年7月20日及び同年10月15日の団体交渉の開催に向けて組合に対してとった対応、並びに同年4月13日及び同年7月20日の団体交渉において組合に対してとった態度は、秋田県労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為と認定されました。
 よって、今後、当社はこのような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  1 第2回及び第3回団体交渉の開催に向けて会社が組合に対してとった対応は、不誠実といえるか(争点1)

(1)労働組合法第7条第2号が禁止する内容には、使用者が交渉の実施を拒否するにとどまらす、誠実に交渉しないことも含まれており、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たる誠実交渉義務があるものと解されている。
 そのような解釈からすれば、団体交渉の日時や場所等を決める団体交渉の準備段階においても、使用者は相手方に対して誠実に対応する義務を負っているものと考えられる。
 こうした認識に立って、以下、争点1について判断する。

(2)まず、第2回団体交渉の期日について、令和3年5月中の開催を求めた組合の要望に対し、会社は同年4月27日までに回答するとしながら期限までに連絡せず、翌28日、組合からの問い合わせを受けてようやく、2か月ほど先の6月24日という期日を提示した。会社はまた、同年5月7日と5月27日付けで組合から送付された団体交渉の早期開催を要請する文書に対し迅速な回答を怠った上、交渉期日直前の6月23日になって、社長の入院を理由に団体交渉をキャンセルしたほか、代替期日についても回答期限までに提示せず、結果として、第2回団体交渉は組合の要望から3か月以上も先になってしまった。
 次に、第3回団体交渉の期日についても、組合は1か月以内の開催を要望し、社長が対応できない場合には代理人を立てて、速やかに交渉に応じることを要請したが、会社は、社長の出席にこだわり、社長の通院や入院の日程を優先して団体交渉の日程を調整する態度を変えなかったため、結局、第2回団体交渉から更に3か月近く経過した10月15日となってしまった。

(3)以上のとおり、団体交渉の準備段階といえる日程調整の過程において、会社は、組合からの連絡や照会に対して回答期限を守らなかったり、迅速な回答を怠ったり、団体交渉の期日を直前で変更し先送りするなど、組合への配慮を著しく欠く対応により団体交渉の進捗を滞らせ、結果として組合の会社に対する不信感を増大させたのであり、会社による一連の対応は、不誠実なものであったといえる。

(4)これに対して会社は、①社長の入院等により団体交渉期日を変更せざるを得なかったこと、②会社の労務に係る決定権をもつ社長以外の者では団体交渉において十分に説明できないこと、③ウェブ会議システムを利用する等の開催方式の代替案を含め、複数の団体交渉の期日を示したものの、組合が秋田市内で対面による団体交渉に固執したこと等を理由としてあげ、会社の対応は不誠実なものではない旨反論している。
 しかしながら、①については、会社は、社長の病名を明らかにしないまでも、団体交渉に対応できないような症状があるのか、通院治療の必要性やその頻度、などの事情について、組合に対し事前に十分な説明を行った様子はなく、社長の入院等により団体交渉の期日を変更することが真にやむを得なかったのかどうか判断できない。
 ②については、社長は、組合からの質問に即答できなかったり、十分な説明ができなかったりする場面が多くみられ、本社に戻って確認し、後で連絡する旨の回答を繰り返していることから、社長自身が、会社の実務を必ずしも十分に把握できていたとはいえず、現在の会社の代表取締役が、当時常務取締役として在任していたことも考え合わせると、社長以外の者が代理として出席できなかったとは考えられない。
 ③については、組合が秋田市内での対面交渉に固執したというよりも、会社が組合への真摯な対応を疎かにし、信頼関係を損なった状況で、組合がウェブ会議システムを利用可能な環境にあるかどうかの確認もせずに、一方的にウェブ会議等の代替案を提案したために、組合が応諾しないという結果になったというべきであり、組合の対応が不当であったとはいえない。

2 第1回及び第2回団体交渉において、会社が組合に対してとった態度は、不誠実といえるか(争点2)

(1)労働組合法第7条第2号の誠実交渉義務には、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示したりする義務とともに、論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務も含まれていると解されている。
 こうした認識に立って、以下、争点2について判断する。

(2)まず、第1回団体交渉において、組合が組合員A2の賃金の減額等について理由の説明と根拠資料の提示を求めたところ、会社はその場で説明できず、本社に戻って確認し、後で連絡する旨回答したが、連絡があったのは、交渉から 2週間以上経過した4月30日であった。しかも、根拠資料等は全く示されないなど、合理的な説明といえるものではなかった。
 会社がA2に対して行った懲戒処分や転勤命令の理由について、組合が事実関係の確認を求めるとともに、疑義を申し立てたことに対し、会社は、根拠となるルールや考え方について、組合を納得させられるような説明ができないなど、交渉において相手側の理解を得ようと努力する姿勢はほとんど見受けられなかった。
 次に、第2回団体交渉においても、第1回団体交渉時に会社が回答できなかった事項について、組合が再度、説明を求めたものの、会社は確認してきておらず、後で確認する旨の発言を繰り返したほか、提示した根拠資料も簡易なもので、合理的な説明がなされたとは認められない。
 第1回及び第2回団体交渉を通じて組合が提出を要求した資料は、就業規則やタイムカードの写し、A2の賃金の算出根拠等、既存のものがほとんどで、容易に準備できるものであるにも拘わらず、会社は組合に対して、速やかに提示することを怠り、提出した資料についても組合を納得させられるような説明はほとんどしていない。

(3)以上のとおり、第1回及び第2回団体交渉において、会社は、組合に対し十分な配慮をもって真摯に対応したものとはいい難く、その態度は不誠実なものであったといえる。
 会社は、第1回団体交渉時に、組合の威嚇的な態度のため、恐怖を感じ十分に答えられなかった旨主張しているが、当委員会において交渉時の音声資料等を検証した限り、「用意していた想定問答を失念」するほどの恐怖を感じさせるような発言は認められなかった。仮に、一時的に想定問答を失念することがあったとしても、メモ程度のものでも手元に置いておけば、組合の質問等に対し円滑に答えることが可能であったはずであるし、そうした準備を怠ったことは、やはり誠実交渉義務を果たしてなかったといわざるを得ない。ましてや、全体で約2時間に及ぶ交渉を行い、相互に様々なやり取りがある中で、周到に用意されたはずの想定問答の記憶が一片も呼び起こされなかったという主張は説得力に乏しい。

3 不当労働行為の成否

 本件当事者双方は、令和2年申立事件において、「互いに相手の立場を尊重した誠実な団体交渉を行う」とした和解協定を締結している。こうした経緯を踏まえれば、会社は、団体交渉期日を決めるにあたっても、また、団体交渉においても、より誠実に対応するべきであった。
 しかし、本件団体交渉の開催に向けて会社が組合に対してとった対応は、開催日程等の連絡について回答期限を守らなかったり、開催日時の直前にキャンセルするなどしたものであり、結果的に団体交渉の開催が大幅に遅れる状態となった。
 さらに第1回及び第2回団体交渉において、会社が組合に対してとった態度は、十分な根拠や資料を提示して組合が納得するような説明をしたものとはいえない。
 以上のとおり、団体交渉に関して会社が組合に対してとった対応及び態度は不誠実なものであり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
 なお、組合は、会社が作成した文書の手交を求めているが、現時点では秋田県内に会社の営業所が存在していない等の事情を考慮し、文書の交付をもって足りるものとする。 

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