労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  徳島県労委令和3年(不)第2号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y団体(団体) 
命令年月日  令和4年5月11日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①法人格を有しない団体が、組合員A1及びA2に対し、無期労働契約への転換申込みを行ったにもかかわらず、継続雇用を認めなかったこと、②両名に係る時間外労働の割増賃金を支払わなかったこと、③5回にわたる団体交渉における団体の対応、④組合からの次回団体交渉の申入れに応じなかったこと、⑤団体が給与計算等を委託しているC1会社のC2取締役がA2の入院先を訪れ行った行為、⑥団体の構成員らがA1及びA2の勤務態度に係る噂話を流布したこと、⑦団体を解散したこと、⑧本件審査中、両名に対し予備的に解雇の意思表示を行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 徳島県労働委員会は、③及び④について、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、団体に対し、(ⅰ)雇用継続要求への対案についての速やかな検討、(ⅱ)検討した対案に係る団体交渉応諾、(ⅲ)右団体交渉における、対案の検討結果を具体的に説明しての誠実な交渉等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 団体は、速やかに、雇用継続要求への対案について検討しなければならない。
2 団体は、対案検討後、組合との間で日程を調整し、検討した対案に係る団体交渉に応じなければならない。
3 団体は、前項の団体交渉において、対案の検討結果を具体的に説明をして、誠実に交渉しなければならない。
4 団体は、前各項を履行したときは、速やかに、当委員会に文書で報告しなければならない。
5 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合員A1及びA2の無期雇用を認めなかったことは労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に該当するか。(争点1)

(1)団体は、令和3年2月4日の役員会において、同年4月1日付けでチケット事業(以下「事業」)〔注〕を廃止すること、同年3月31日付けで組合員A1及びA2(以下「両名」)との雇用契約を終了すること等を決議した。一方、組合員A1は、同年2月5日に組合に加入し、同月8日団体に通告し、これに続き、組合員A2も組合に加入し、同月18日団体に通告した。
 同役員会の時点では、両名は未だ組合に加入していなかった(それ以前から両名が組合加入を予定し、これを団体が察知していたといった事情もうかがえない)。それゆえ、事業の廃止の決定が、組合を嫌悪し、その活動に打撃を与える等の目的をもってなされたものとは認められない。

〔注〕会員であるタクシー事業者にチケットを販売し、それを有するタクシーのみが駅前タクシー乗場に入場できるものとすることで、乗場の円滑な運営をするもの。

(2)続いて両名は、同年3月3日に団体に対し、無期転換申込書により無期転換を申し入れ、同年4月1日を始期とする無期労働契約を成立させた。これに対し団体は、同年3月5日に両名に対し、通知書を送付し、事業の廃止に伴い指導員の雇用を同年3月31日をもって終了する、同年4月1日からの無期労働契約に転換しての就労は事実上不可能である旨伝えた。
 これについて、事業は団体の唯一の収益事業であり、団体は、無期雇用を認めないことは事業廃止の当然の帰結であると判断していた。団体が組合を嫌悪するなどし、殊更事業の廃止をもって無期雇用を認めない理由として掲げたものであるとはいえず、他に不当労働行為意思をうかがわせる事情は存在しない。
 以上の次第であるから、両名の無期雇用を認めなかったことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に該当するものとはいえない。

2 両名に対し、時間外労働の割増賃金を支払わなかったことは労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか。(争点2)

 会社が主張する変形労働時間制成立の有無は別として、(組合が主張する1勤務日につき1時間分の時間外労働の)割増賃金は、両名が組合に加入する以前も支払われておらず、両名が組合に加入後も変わりはない。その未払が不当労働行為意思によるものとは認められないこと等から、両名に対し、割増賃金を支払わなかったことは労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当しない。

3 第1回から第3回までの団体交渉における団体の対応は、労働組合法第7条第2号の不誠実な団体交渉に該当するか。(争点3)

(1)組合側が解雇撤回を要求する一方、団体側は両名の解雇撤回はできないことなどを主張しており、双方の主張には隔たりがあった。ただ、そのような中にあっても団体としては、経営状況の悪化から両名の解雇撤回をできないという以上は、自らの収入源となるチケット売上げの回復が見込めないこと及び会費の増額が困難であること等、経営状況の悪化の実情や将来的な見通しについて、組合に対し資料を示した上で、具体的に説明し、説得に努める必要がある。
 そこで、計5回の団体交渉における団体の対応を見ると、団体は、組合の求めに応じ、平成25年度から令和元年度までの決算報告書などを開示し、団体の収支状況の変遷を示している。ただ、将来のチケット売上げ見込みや会費の増額の可能性については、口頭で自らの考えを述べるにとどまっていた。
 しかし、将来のチケット売上げ見込みについては、合理的な根拠に基づく検討結果を示し、また会費の増額については、(団体の)会員全員の意見を聴取するなどした上で、団体としての方針を具体的に説明すべきであったといえるが、その点、団体交渉での対応は不十分であったといわざるを得ない。

(2)また、単に形だけでなく自主的に団体交渉に応じたというためには、説明義務を果たすことに加え、受け入れられるか否かは別としても、対案を十分に検討すべきであったといえる。しかるに団体は、両名が組合に加入し団体交渉を開始する以前の令和3年2月4日の役員会において、1人当たり10万円の金銭的条件を決定していたものの、その以後には、組合の要求に即した対案を検討しておらず、当該条件も実際に団体交渉の場で提示することはなかった。
 さらに、実際には同年3月29日の第4回団体交渉の頃には、団体は解散も視野に入れていたとみられるにもかかわらず、団体交渉で会長Bは、「団体をすぐには解散できない。ピタッとやめるわけにはいかん。」などと発言した。これについて、解散は解雇撤回を求める組合にとって重大な問題であるのであるから、答弁できないならそのように答えるべきであり、使用者として責任をもって誠実に対応すべきであったといえる。
 そして、第5回団体交渉で団体は、組合の交渉継続の求めを拒否して、突然文書を読み上げ交渉打切りを宣言しているが、第4回までは打切りの気配は見られなかったことから、唐突な感じを否めない。かように一方的に団体交渉を終わらせたことは、今後も団体交渉が続くと期待していた組合の予想を裏切って、当初から交渉回数を決めていると受け取られかねないものであり、誠意ある対応であったとはいい難い。

(3)以上のことからすると、組合が頑として解雇撤回を譲らなかったという事情を考慮しても、団体が誠実な対応を通じて合意達成の可能性を未だ十分に模索していたとはいえず、その限りで労働組合法第7条第2号の不誠実な団体交渉といわざるを得ない。

4 令和3年4月26日の第5回団体交渉において、組合からの次回団体交渉の申入れに団体が応じなかったことは労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否に該当するか。(争点4)

(1)本件では、組合は解雇撤回に固執しており、他方で団体は、解雇撤回を含め時間外労働割増賃金の支払など、組合の要求に応じる意思がなかったとみられ、このことからすると、交渉が行き詰まりに達していたかのような状況が見受けられないでもない。
 しかしながら、上記3で示したとおり、計5回の団体交渉において、協議会は対案を十分に検討しておらず、両名の組合加入前に用意した10万円を渡すとの案も提示することはなかった。
 しかも、団体の解散は、解雇の諸条件に関するその後の交渉の余地に影響を及ぼすことであるから、団体として、まずは第4回団体交渉後の役員会において解散の決議がなされた経過について説明した上で、組合の意見を聞き、これを踏まえて更に交渉を継続する姿勢が求められたといえる。しかるに、団体交渉を継続しつつ解散の時期を見計らうなどの配慮をしなかったことは、誠意を欠くものといわざるを得ない。
 以上の事情を総合的に勘案すると、本件団体交渉が、行き詰まりに達していたとまでは認められず、組合からの第6回団体交渉の申入れに団体が応じなかったことは、労働組合法第7条第2号の正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

(2)ただ、団体が解散の決議を経て精算手続中であることに加えて、解雇撤回についてのこれまでの団体交渉の経緯からすると、現時点で両名の復職が実現する可能性は失われているといわざるを得ない。
 したがって、当委員会としては、これまでの交渉事項について、交渉再開を命じるのではなく、団体が、両名に対する金銭的補償、生計維持や再就職の支援など、対案について検討した上で、その結果を組合に説明し、かつ、それについて交渉することに限り、団体交渉を再開すべきであると判断する。

5 C1会社の取締役C2が組合員A2の入院先を訪れ行った行為は労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するか。(争点5)

 組合は、C1会社の取締役C2が、脳梗塞で入院して間もないA2を訪問したのは、組合の弱体化を狙った支配介入である旨を主張する。
 確かに、かかる訪問は配慮を欠いていたといえる。しかしながら、団体から経理業務等を受託していたC1会社で勤務する同取締役が、A2の雇用問題を決定する権限を有していたとは考えられず、また、当該問題を通じて組合に介入する意図まで有していたかは疑問がある。
 これらのことから、同取締役の上記訪問は、組合の弱体化を図るものとはいえず、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当すると認めることはできない。

6 会員であるタクシー事業者の社長らが、両名の勤務態度を比較し事実に基づかない噂話を流布したとするならば、労働組合法第7条第2号の支配介入に該当するか。(争点6)

 組合が主張する団体の会員事業者社長らによる噂話の流布等については、いずれも伝聞であり、その事実を認めるには疑問が残る。
 また仮に、噂話の流布が認められるとしても、その内容は、両名を組合から脱退させるため自社の従業員に何らかの措置を命じたり、両名に威嚇的効果を与えたりするものではなく、組合の組織、運営に影響を及ぼすおそれのあるものとはいえない。
 これらのことから、上記噂話の流布は労働組合法第7条第3号の支配介入に該当しない。

7 団体を解散したことは労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に該当するか。(争点7)

 令和3年3月29日の第4回団体交渉における会長Bの回答にもかかわらず、同年4月6日にあっせんが不調となって間もなく、同月22日の役員会で解散を決議したことなどを併せ考えると、組合との協議の難航ひいては組合の存在が、団体の解散の時期を幾分早める動機となった可能性は否定できない。
 ただ一方では、団体が債務超過になっていたことは証拠上明らかであり、また、両名が組合に加入する前の同年2月4日に開催された役員会では、会長Bが、「団体を縮小し、存続することとしたい。」と述べているものの、一方では、両名の雇止めと、事業の廃止を決定していることから、早晩、団体は解散の一途を辿っていたともいえる。解散はチケット販売収入の急減や会費収入の減少により、経営状況が悪化したことが原因であるとの団体の主張は、その経営判断として一定の合理性を有するものであり、また、専ら労働組合を嫌悪し、その活動に打撃を与える目的をもってなされたものであるなどの特段の事情も認められない。
 これらのことから、協議会を解散したことは労働組合法第7条第1号の不利益取扱い、及び同条第3号の支配介入に該当しない。

8 両名に対し、準備書面1をもって解雇の意思表示を行ったことは、労働組合法第7条第4号の報復的不利益取扱いに該当するか。(争点8)

 準備書面による解雇の意思表示は、本件審査手続上組合の主張に対する攻撃防御方法として、予備的になしたものと解され、かような同手続上の行為が労働組合法第7条第4号の報復的不利益取扱いに該当するものではない。 
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