労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  広島県労委令和3年(不)第2号
竹原市不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  竹原市(市) 
命令年月日  令和4年5月27日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①条例の施行により組合の組合員の給与が減額されたこと、②それに至る市の組合への対応(a資料の提示や説明を行っていないこと、b組合らと作成した確認書に沿った対応をしていないこと、c団体交渉の時間を十分確保しなかったこと、d妥結権限を持たない者を団体交渉に出席させたこと)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 広島県労働委員会は、②(aからcまで)について労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、市に対し、文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 竹原市は、本命令書受領の日から2週間以内に下記内容の文書をX組合に手交しなければならない。
 年 月 日
 X組合
  議長 A殿
竹原市    
市長 B
 令和2年4月1日から令和4年3月31日までの貴組合員らの給与減額について、当該減額までに至る当市の貴組合への対応が、広島県労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号の不当労働行為であると認められました。
 今後は、このような行為を繰り返さないようにします。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)

2 組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 却下に関する主張について

(1)請求する救済の内容の「誠実な団体交渉の実施」について

 労働委員会規則第33条第1項第6号が、労働委員会が不当労働行為救済申立てを却下することができる事由として挙げる「法令上実現することが不可能」な場合とは、請求する救済の内容が現行法体制の下では労働委員会の権限をもってしては使用者に強制することができないと解されるものを指し、また、「事実上実現することが不可能」な場合とは、例えば被申立人が死亡又は事実上消滅しており救済を命じることが不可能な場合などを指すと解されている。
 これを本件についてみるに、請求する救済の内容の「市との誠実な団体交渉の実施」は、現行法体制の下で労働委員会が使用者に強制することができない請求に当たらない。
 また、「市と組合らとの間で団体交渉を行う余地はない」とする市の主張については、仮に本件給与減額そのものに関する団体交渉を行う余地はないとしても、組合と市が本件給与減額分の回復措置として「本件給与減額がなければ組合員が得られたであろう給与額と既に支払われた給与額との差額相当額の支払」を求めて団体交渉を行うことは可能であり、その意味においては、組合と市との間で団体交渉を行う余地がないとまではいえない。
 加えて、「請求する救済の内容」については、労働委員会の広い裁量により決せられるべきであり、また、労働委員会の審査は、申立人が不当労働行為であると主張している事実(申立事実)を対象として行われるものであって、「請求する救済の内容」の当否の判断を直接の目的として行われるものではない。
 すなわち、労働委員会は、「請求する救済の内容」にとらわれることなく救済時の労使事情に応じて別途適切な救済を命じることが許容されている。
 したがって、組合と市との団体交渉の実施については、法令上又は事実上実現することが不可能な場合とまではいえず、また、救済利益が存在しない場合ともいえない。

(2)請求する救済の内容の「給与の差額相当額の支払」について

 労働委員会規則第33条第2項第5号は、労働委員会が申立てを却下することができる事由として「申立人の主張する事実が不当労働行為に該当しないことが明らかなとき」を掲げているところ、この「明らかなとき」とは、申立事実が労働組合の行為と全く関係ないなどその主張自体が不当労働行為の成立要件に該当しないときなど、申立ての内容から直ちに不当労働行為に該当しないことが明らかであると判断できる場合を指すと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、申立ての内容から直ちに不当労働行為に該当しないことが明らかな場合に当たるとはいえない。
 また、「請求する救済の内容」の「給与の差額相当額の支払」は、たとえ市議会による議決を経る必要があるとしても、市が主張するように法令上又は事実上実現することが不可能であるとまではいえない。加えて、当委員会は「請求する救済の内容」とは別の救済を命じることが可能である。
 したがって、市の主張は採用できない。

2 労働組合法第27条第2項の申立期間について

 市は、本件給与減額に係る市の組合への対応のうち令和2年1月20日までの行為は、行為の日から本件の申立時までに1年を経過し、かつ、その後の本件給与減額に至るまでの行為と「継続する行為」であるとは認められないなどと主張する。
 本件についてみるに、本件給与減額に関する団体交渉が終了した日は令和2年3月26日であることが認められる。①同日までに行われた令和元年度における市と組合による団体交渉やこれに関連するやり取りは近接する時期に行われていることから「継続する行為」といえ、また、②同日は本件の申立てがなされた令和3年1月29日より1年以内である。よって、これらの団体交渉とは申立期間内の行為ということができる。

3 本件給与減額は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たるか(争点1)

 本件給与減額条例は市の一般職の職員について一律に適用されるものであり、本件給与減額は組合の組合員のみを対象として行われたものとまではいえない。また、本件給与減額が市の不当労働行為意思によるものと認めるに足る疎明はなく、組合員であること又は組合の正当な行為の故をもって行われたものとはいえない。よって、本件給与減額は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に当たらない。

4 本件給与減額までに至る市の組合への対応は、労働組合法第7条第2号及び同条第3号の不当労働行為に当たるか(争点2)

(1)管理運営事項について

ア 市は、平成31年2月15日に組合と合意した①労使合意がなければ給与を減額する条例案を市議会に上程しないこと(以下「2月15日合意」)、同年3月25日に合意した②定員管理計画・機構改革について組合らと十分な協議の時間を持ち合意の上で行うこと、③平成31年4月以降、総務企画部長として定員管理計画・機構改革に関する協議に責任をもって対応すること、④部長制の廃止を含めた人員削減及び賃金制度の見直しを組合らと協議すること(以下「3月25日合意」)については、いずれも管理運営事項に当たり、したがって、これら合意は、労働条件に関する事項と認められる余地はなく、法的拘束力を有しない道義条項でしかないと主張する。

イ 地方公営企業等の労働関係に関する法律第7条ただし書において「地方公営企業等の管理及び運営に関する事項は、団体交渉の対象とすることができない」と規定されているが、一方で、管理運営事項の処理の結果、職員の労働条件に影響を及ぼす場合があり得るところ、この影響を受ける労働条件については団体交渉の対象になると解される。
 これを本件についてみるに、本件特例条例の一部を改正する条例案が議会に上程されるか否かは、職員にとって給与の減額という重大な不利益をもたらすものであり労働条件に影響するといえる。
 また、財政健全化計画(以下「本件計画」)における人件費の見直しの具体的な取組として給与減額及び定員削減が掲げられており、本件計画期間中、前半は給与減額を、後半は定員削減を行うこととされていたことが認められるところ、定員削減が予定どおり行われなければ、それに応じて給与の減額が当初の計画より長きにわたって行われることがあり得るなど、定員削減と給与減額は密接な関係にあるといえる。確かに定員管理計画や部長制の廃止そのものは管理運営事項であるが、部長職も含めた定員削減の実施の有無によっては労働条件に影響を及ぼす場合もあるといえる。
 以上のことから、2月15日合意及び3月25日合意は、団体交渉の対象事項というべきである。

(2)団体交渉に関する市の対応について

ア 組合は、市に対して、本件給与減額が市の主張どおり必要なものなのか否かを確認するために、「本件計画策定時の推計方法を変えないで災害査定の数値及び平成30年度決算を反映させた資料」や令和元年度の給与減額の提案時よりも財政状況が悪化していることが分かる資料等の提示を求めたが、市はこれに応じなかったと主張する。
 組合に対する適切な資料の提示及び説明の有無について、市は、①本件計画の計画書、②積算根拠となる資料、③平成30年度決算資料及び令和2年度予算資料を提示するなどしたと主張するが、これら資料からは基金残高の額等が分かるのみで、組合の求めていた資料に当たるとは認め難く、したがって、市が組合ら適切な資料提示や説明を行ったとはいい難い。

イ 合意事項への対応について、市は、平成31年3月25日の団体交渉において、3月25日合意をしたことが認められる。上記合意事項のうち労働条件に影響するものは団体交渉の対象事項となり十分な協議を行わなければならないところ、市は組合と合意したこれらの協議を行っておらず、このような市の対応は不十分といわざるを得ない。

ウ 令和2年3月25日の団体交渉における部長の対応について、部長は、休憩時間中に執行委員長を別室に呼んで妥協案を提示し、組合らはこの妥協案を受け入れることを決定したが、その日のうちに、自身が提示した妥協案を撤回した事実が認められる。

エ 団体交渉の時間の確保について、本件給与減額を議題とした団体交渉が行われたのは、令和2年3月17日など3回に過ぎなかったことなどから、市が組合らとの団体交渉の時間を十分に確保したとはいい難い。

オ 前記のとおり、本件給与減額までに至る市の組合への対応は、不誠実なものであったといわざるを得ず、労働組合法第7条第2号の不誠実団交に当たる。

(3)支配介入の成否について

 市の団体交渉に関する対応が不誠実であると認められることから、市は組合を軽視していたとも認めることができる。したがって、本件給与減額までに至る市の組合への対応は、労働組合法第7条第3号の支配介入に当たる。

5 救済利益について

 (市は、審査において正常な集団的労使関係秩序が回復されたなどとして、本件について救済の必要性がないと主張するところ)救済の必要性については、命令の発出までに①団体交渉事項が解決され、かつ、②今後申立時と同様な団体交渉の対応が行われるおそれがない場合は、救済利益が失われたといえる。
 これを本件についてみるに、組合は依然として(前記4の(2)のアの)「本件計画策定時の推計方法を変えないで災害査定の数値及び平成30年度決算を反映させた資料」の提示を市に求めているにもかかわらず、市が組合の要求する資料を提示したとはいえない。また、単に本件の審査における対応や姿勢のみで直ちに申立時と同様な団体交渉の対応が行われるおそれがなくなったとまではいえない。 
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