労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  宮崎県労委令和3年(不)第1号
宮崎くみあいチキンフーズ不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年6月28日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、組合が行った団体交渉申入れに対し、場所や時間を一方的に指定して、開催を引き延ばしたこと、及び新型コロナウイルス感染拡大の影響を理由に対面による団体交渉を行わなかったこと、②会社が、組合の結成直後に組合役員に事情聴取を行い、組合員名簿等の提出を求めたこと、③交渉事項について、団体交渉後に進展がなかったこと、④労働時間等について組合に協議せずに、就業規則の改正等を行ったこと、⑤組合員A2との雇用契約を延長しなかったこと、⑥パワーハラスメントに関する組合執行委員長A1への会社の一連の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 宮崎県労働委員会は、①の一部について労働組合法第7条第2号、④について同条第2号及び第3号、⑥について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し(ただし、当該①の一部については救済の利益は消滅したものと判断)、会社に対し、(i)「労働時間、休日、時間外労働」を交渉事項とする団体交渉への誠実応諾、組合と協議することなく就業規則を改正するなど、団体交渉を無意味なものとする方法で、労働組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅱ)事情聴取を行わないまま、組合に対して当該個人のパワーハラスメント行為に関する未確定な事実を通知したり、団体交渉の申入れと当該問題に対する回答照会を引換条件として提示したりする方法で、労働組合の運営に支配介入してはならないことを命じるとともに、②、③及び⑤については申立期間を徒過しているとして却下し、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、労働時間、休日、時間外労働を交渉事項とする団体交渉に誠実に応じなければならず、又、会社と組合と協議することなく就業規則を改正するなど、団体交渉を無意味なものとする方法で、労働組合の運営に支配介入してはならない。
2 会社は、パワーハラスメントの行為者であると疑いを持った組合執行委員長である個人に事情聴取を行わないまま、組合に対して当該個人のパワーハラスメント行為に関する未確定な事実を通知したり、組合からの団体交渉の申入れとパワーハラスメント問題に対する回答照会を引き換え条件として提示したりする方法で、組合の運営に支配介入してはならない。
3 組合の申立てのうち、次の事項に関する救済申立てを却下する。
(1)会社が、組合結成直後に、組合役員に対して個別に別室に呼び出し、個別面談を行い、組合に関して事情聴取したこと。
(2)会社が、組合結成時の議事録、組合規約、役員体制、組合員名簿、活動方針、予算、組合員数及び労働委員会作成の適合証明書の提出を求めたこと。
(3)「C孵化場における新機械導入による労働環境及び人員体制問題について」の団体交渉申入れに対する会社の対応。
(4)組合の組合員が65歳を超えて雇用契約の延長を申し出たところ、会社が雇用契約を延長しなかったこと。
4 その余の申立ては棄却する。 
判断の要旨  1 組合が行った団体交渉申入れに対する会社の対応について(争点1)

(1)申立ては、行為の日から1年を経過した事件に係るものと認められるか

ア 救済申立て〔注令和3年6月1日〕の1年前に行われている令和元年12月23日から令和2年4月16日までの組合による団体交渉申入れにおける交渉事項は、①C施設の人員体制の計画、②労働時間、休日(派生する交渉事項として時間外労働の時間管理や労使協定の締結を含む。)、③A2の雇用延長についてであるところ、このうち、上記①については令和2年3月30日の団体交渉で会社から説明がなされた後、組合からは交渉事項として挙げられておらず、同団体交渉をもって会社の行為は終了している。
 また、上記③についても、令和2年4月16日付けの団体交渉申入れで交渉事項とされているものの、これに対して会社が同月21日付け回答をしたのを最後に、組合は交渉事項として挙げておらず、会社の同回答をもって会社の行為は終了している。

イ これに対し、上記②については、令和2年3月30日付けの団体交渉後も、同年9月25日付けまでの3回の団体交渉申入れにおいて交渉事項として挙げられ、会社は、同年10月19日までの間、かかる申入れに対して都度回答をしていることから、会社の行為は同日まで継続していたといえる。したがって、会社の行為は「継続する行為」であると評価でき、本件審査の対象とすることが相当である。

(2)組合からの団体交渉申入れに対する会社の対応に、団体交渉拒否(不誠実な団体交渉を含む。以下同じ)の事実が認められるか

ア 令和2年3月30日(第1回団体交渉)より前の会社の対応について

(ア)組合の令和2年2月14日付け団交申入れから、会社の同年3月27日付け回答までの団体交渉実施に向けた予備折衝では、交渉事項〔注 令和元年12月23日付け「要求書および団体交渉申入書」記載の「今後、C施設の職場環境がどう変化するのか、また人員態勢をどう計画しているのか説明すること」〕の義務的団体交渉事項該当性が争われている。
 そこで検討するに、令和2年2月14日付け団交申入れ以降、「労働時間、休日」が団体交渉事項として追加されていることから会社は団体交渉に応じる義務があり、正当な理由のない団体交渉拒否は、労働組合法第7条第2号に違反することになる。

(イ)次に、会社が令和2年2月18日付け回答にて団体交渉の場所をホテルM、交渉時間を1時間とし、この条件を承諾しない場合には団体交渉に一切応じないなどと回答したことについて検討する。
 使用者が団体交渉を拒否したかどうかは、具体的事情に照らし、使用者が労働組合等との合意達成の可能性を模索したかどうかで判断すべきであるところ、令和2年2月14日以降の対応を見るに、会社は組合に対して、会社が指定する団体交渉の日時・場所・会場費用について承諾されない場合には団体交渉の要求には一切応ずることはないと一方的に通告している。
 かかる会社の対応は、団体交渉を実施するか否かを上記通告にて最終的に決定づけようとするものであり、労使双方の折衝の過程におけるやり取りに留まるものとはいえず、団体交渉拒否に該当する。

イ 令和2年3月30日(第1回団体交渉)より後の会社の対応について

 会社は、組合からの団体交渉申入れに対し、同年4月21日付けなど3回の回答にて、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に、組合が提示する日時において対面による団体交渉を実施することはできない旨回答している。
 団体交渉が、労使双方が同席、相対峙して自己の意思を円滑かつ迅速に相手に直接伝達することによって、協議、交渉を行うことが原則であることからすると、会社が対面による団体交渉に応じられないと回答した行為は、正当な理由がない限り、団体交渉拒否に該当する。

(3)会社が団体交渉の場所及び時間を指定した行為、並びに対面による団体交渉に応じなかつたことに、正当な理由が認められるか。

ア 会社が団体交渉の場所及び時間を一方的に指定した行為について

(ア)団体交渉の開催場所については、本来労使双方の合意によって定められるべきであるが、合意の整わない場合において使用者が一方的に就労場所以外の場所を指定したとしても、そのことに合理的な理由があり、かつ、当該指定場所で団体交渉をすることが労働者に格別の不利益をもたらさない時には、使用者がその場所以外での団体交渉に応じないとすることをもって不当労働行為に当たると解すべきではない。
 これを本件についてみると、会社は開催場所としてMホテルを指定した理由として宮崎市の中心街にあり交通の便に優れているからと主張するが、①組合が要求した会社のC施設内の会議室を開催場所とすべきではない理由には言及しておらず、また、②組合が、費用負担が大きいことを理由として、宮崎市内にある宮崎市中央公民館を代替案として提案しているが、会社はこれらの開催場所を不適当とする理由を示すことなくMホテルでの開催に固執しており、合理性は認め難い。

(イ)また、開催時間を1時間に制限することについて、交渉進展の如何にかかわらず常に一定の時間で打ち切ろうとすることには無理があり、合理的な延長を必要とする場合もある。

(ウ)これらに加え、会社の対応が、交渉事項が義務的団体交渉事項であるにもかかわらず任意的団体交渉事項であるとの認識の下で行われていること、会社が指定する団体交渉の日時・場所・会場費用について組合が承諾しなければ団体交渉に応じないとの回答をしていることも考慮すると、会社の対応に合理性は認められず、団体交渉の場所や時間の指定に正当な理由は認められない。
 よって、予備折衝におけるかかる会社の行為は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

イ 会社が、令和2年4月16日以降、対面による団体交渉に応じていないことについて

(ア)団体交渉は対面によることが原則であるが、労使双方の合意、または直接話し合う方式をとることが困難であるなどの特段の事情がある場合は、書面で回答することに正当な理由があるというべきである。

(イ)本件では、組合からの令和2年4月16日付けなど3回の申入れに対し、会社は同年4月21日付けなど3回の回答において、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に組合が求める日時ないし期間に対面による団体交渉を行うことはできない旨回答しているところ、かかる回答をすること自体は、当時、未曾有の感染症拡大により人の集合の回避を求められていたことからすると一定の合理性がある。
 そして、組合もかかる理由による対面による団体交渉の延期等に対して異議を述べず、むしろコロナ禍により団体交渉の実施が困難であると会社が判断する場合には文書で回答するよう求めていることなどからすると、組合も対面による団体交渉を行わないことについては少なくとも黙示的に承諾していたものといえる。
 よって、令和2年 4月以降の団体交渉申入れに対し、会社が対面による団体交渉に応じていないことについては、正当な理由が認められる。

(4)以上より、令和2年3月30日(第1回団体交渉)より前において、会社が一方的に団体交渉の日時や会場、交渉時間を通告して、組合が承諾しない場合に団体交渉の要求には一切応じないと回答した対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
 しかしながら、①第1回団体交渉において協議が行われ、その中で質疑応答は最後まで行われ、交渉事項は一通り協議されていること、②その後の団体交渉申入れに対し、会社が対面による団体交渉に応じていないことについては正当な理由が認められ、会社は場所や時間を制限する対応は取っておらず、第1回団体交渉前と同様の行為による団体交渉の拒否は認められないことなどから、救済の利益は消滅したものと判断する。

2 会社が、組合結成直後に組合役員に対して事情聴取を行ったことや組合員名簿等の提出を求めたことについて(争点2)

 会社による組合役員に対する事情聴取や組合員名簿等の提出要求は令和元年12月23日、同月25日及び2年 1月7日付けで行われているが、これに対して組合が同年1月7日及び同月11日付け書面にて支配介入に該当すると抗議し、また組合員名簿等の提出を拒否したところ、その後は会社から同様の行為は行われていない。
 この点、組合は、これら行為は、A2の雇用打切りやA1に対するパワハラを理由とした攻撃を含め、組合の壊滅や弱体化の意図の下、組合結成直後から継続して行われ、現在も継続する行為であると主張するが、組合役員への事情聴取や組合員名簿等の提出要求はそれだけで完結した個別の行為であり、雇用打切りやハラスメント対応とは行為態様を異にする上、時間的近接性も認められないことから、継続性は認められない。
 よって、労働組合法第27条第2項の申立期間を徒過しているから、不適法として却下を免れない。

3 「C施設における新機械導入による労働環境、人員体制問題」について、令和2年3月30日の団体交渉後、具体的実施に向けて労使協議が進展しなかつたことについて(争点3)

(1)当該交渉事項についての会社の行為は、遅くとも令和2年3月30日のの団体交渉で説明がなされたことをもって終了していると評価できる。

(2)組合は、令和2年4月16日付けなど3回の申入れでも「労働時間、休日、時間外労働」に係る申入れをしていると主張するが、「C施設における新機械導入による労働環境、人員体制問題」との同一性は認められないことなどから、同年3月30日の団体交渉より後は、会社の行為に連続性を認めることはできない。

(3)したがって、「C施設における新機械導入による労働環境及び人員体制問題」についての会社の対応等に係る申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間を徒過しているから、不適法として却下を免れない。

4 会社が「労働時間、休日、時間外労働」について、組合と交渉せずに就業規則の改正や朝礼で説明を行ったことについて(争点4)

(1)団体交渉拒否について

 会社は、令和2年4月16日以降の労働条件等を交渉事項とする団体交渉申入れに対して、「現在検討中」、「会社における検討が令和2年8月末ころまでかかる見込みであり、その後の団体交渉であれば応諾できる」などと回答し、同年8月末以降にかかる協議事項について団体交渉を行うかのような姿勢を示すなどしていた。しかし、その後、会社は、組合との議論を経ることなく〔C施設の労働時間を週44時間とする〕就業規則の改正を行った。
 このような会社の行為は、現行の就労実態の見直しや就業規則の改正の要否等について議論、交渉する機会を失わせるものであり、ひいては団体交渉の実効性を失わせるものである。
 この点について、会社は、組合は労働者の過半数で組織する労働組合ではないから、労働基準法上、就業規則の改正にあたり会社が組合から意見を聴取することは必要とはされていない(同法第90条)と主張するが、労使間における団体交渉拒否の成否とは別個の問題であり、会社が団体交渉に応じる必要がないわけではない。
 したがって、会社の行為は、団体交渉拒否に当たり、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

(2)支配介入について

 会社が就業規則を改正した行為は、現行の就労実態を就業規則どおり労働時間週40時間に変更するという組合の要求を実現不可能なものとし、団体交渉を無意味ならしめるものであり、労働条件の交渉を行うという労働組合の機能を阻害したものと認められる。
 また、会社は、組合が前記団体交渉事項の交渉を継続して求めてきたことを了知しており、就業規則改正により、組合が労働条件の決定に関与する機能を阻害することになると認識していたと認められる。
 したがって、会社の行為は支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

5 会社が組合の組合員との雇用契約を延長しなかつたこと及び組合執行委員長に対して行ったハラスメント対応について(争点5)

(1)雇用契約を延長しなかつたことに係る申立ては、行為の日から1年を経過した事件に係るものと認められるか否か

 令和2年4月21日付けの(執行委員長A1の)雇用を延長しない旨の回答を最後に、会社の行為は終了している。したがって、雇用契約を延長しなかつたことに係る申立ては労働組合法第27条第2項の申立期間を徒過しており、不適法として却下を免れない。

(2)ハラスメントに関する組合執行委員長であるA1に対する一連の対応は、組合活動に対する妨害と認められるか否か。

ア 被害者とされるD本人の申告に加え、複数の従業員からの報告やアンケート結果が会社において確認されていたこと、A1によるパワハラ行為に言及された診断書が提出されていることに鑑みると、会社がA1をパワハラ行為者であると判断したこと自体には一応の合理性が認められる。

イ 会社のパワハラ問題に対する対応について

(ア)会社は、組合にA1のパワハラ行為を報告したり、今後パワハラ行為を行わないよう通知したり、またA1に対して調査を行う旨予告した行為は、パワハラ防止法及びパワハラ指針に基づいて行った適法な措置であると主張する。

(イ)しかし、会社は令和2年2月上旬にはパワハラを行った主体がA1及びA2であったと判断しながら、A1に対する事実確認のための面談について言及したのは、それから約1年経過した令和3年3月22日付け回答であり、事業主のパワハラ対応としては遅きに過ぎる。
 会社は、疑いを持ったのであれば、パワハラ指針に従って、速やかにA1個人に対し事情聴取の通知を行えば足りるにもかかわらず、組合に対してパワハラ行為に関する未確定な事実を通知し、しかもその中でA1個人の事情聴取を予告しており、会社の行為は合理性を欠く。
 のみならず、会社は、令和2年12月29日付け回答書において、組合からの団体交渉事項の申入れとパワハラ問題に対する〔組合への〕回答照会を引換条件として提示しており、真摯にパワハラ問題について調査を行う姿勢であったとは認められない。
 むしろ、これらの会社の対応からすれば、〔団体交渉事項があればお示しください、との会社からの照会に対する〕組合による団体交渉事項の回答を封じる目的で、組合との交渉の中で、殊更、A1のパワハラ行為について言及したことがうかがわれる。

(ウ)以上のとおり、会社の行為は、組合における組合活動の抑制ないし組合の弱体化を主たる動機として、組合及びその執行委員長であるA1に対してなされた行為と認められ、組合に対する支配介入として、労働組合法第7条3号の不当労働行為に該当する。 
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