労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第12号
大阪府ほか2者不当労働行為審査事件 
申立人  X 
被申立人  大阪府(府)・Y2法人(法人)・Y3公共職業安定所(安定所)
(合わせて「府ら3者」) 
命令年月日  令和4年6月13日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、大阪府、法人及び公共職業安定所が、日雇労働者で組織される組合が申し入れた団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 各被申立人は、労働組合法上の使用者に当たるか

(1)労働組合法第7条にいう使用者について

 組合員と府との間に直接の雇用関係がないことについて、当事者間に争いはない。
 しかし、労働組合法第7条にいう「使用者」については、労働契約上の雇用主以外の事業者であっても、労働者の基本的な労働条件について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、当該事業主は同条の使用者に当たるものと解するのが相当であり、その成否は、具体的な事実に即して総合的に判断されるべきである。
 ところで、組合が府ら三者に団交申入れを行った書面であると主張する令和2年9月24日弁明書〔注1〕には15項目の要求が記載されているところ、これらの要求のうち、組合員の労働条件に多少なりとも関連する可能性があるとみられる事項は、「厨房、ロッカー、浴室等の施設を1万人の求職者を見込む規模で設置すること」及び「全日雇労働者への『白手帳』への印紙の貼付」の2点であることが認められ、それ以外の項目は労働条件に関する事項であるとはいえない。そうすると、組合が主張するように同弁明書によって団交が申し入れられたとした場合、その議題となる要求事項は、「福利厚生施設の設置及び社会保険(健康保険もしくは雇用保険)の印紙の交付」であったとみるのが相当である。
 そこで、争点1―1、争点1―2及び争点1―3について、それぞれ「福利厚生施設の設置及び社会保険印紙の交付」という組合員の労働条件について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるかという観点から、以下検討する。

〔注1〕府が提起したA委員長らを債務者とするC施設〔注2〕の敷地の明渡しに係る仮処分申立事件に関し、Aが裁判所に提出した書面
〔注2〕昭和45年に府、市及び国が設置した日雇労働者向けの施設

(2)府は、組合の組合員の労働組合法上の使用者に当たるか(争点1-1)

 組合は、府が、①娯楽室、水のみ場、シャワー室、トイレ、洗面所、洗濯室、食堂、理髪店等の福利厚生施設を用意し、②健康保険料を法人を通じて負担し、③府、法人及び大阪市(以下「市」)が高齢者特別清掃事業(以下「特掃事業」)〔注3〕で雇い入れる労働者の賃金等の条件を決める、という使用者が行うべき労働条件に関わる行為をC施設の一員として行ってきたことから、団交の相手となる使用者に該当する旨主張する。
 しかしながら、①について、府らは、これら施設を行政機関の立場で公共施設として設置したものとみるのが相当であって、集団的労使関係における使用者の立場で設置したものとみることはできないこと、②について、府が保険料を負担していたと認めるに足る事実の疎明はないこと、③について、特掃事業の委託契約の業務仕様書に特掃事業に従事する作業員(以下「特掃作業員」)の賃金の記載はないことなどからすると、上記①から③の主張事実をもって、府が団交の相手となる使用者に該当するとの組合の主張は採用できないのであって、府が、「福利厚生施設の設置及び社会保険印紙の交付」という組合員の労働条件について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとはいえず、府に係る組合の申立ては棄却する。

〔注3〕府及び市が共同で、高齢日雇労働者の自立生活の支援等を図るために行っている就労対策事業。府が申立外D特定非営利活動法人(以下「D法人」)に公共施設の清掃等を委託する形で実施され、作業員の資格は、法人に登録された地域の55歳以上の労働者で、輪番制でD法人に紹介された者とされている。

(3)法人は、組合の組合員の労働組合法上の使用者に当たるか(争点1-2)

 組合は、法人について、府、法人及び市が特掃事業で雇い入れる労働者の賃金等の条件を決める、という使用者が行うべき労働条件に関わる行為をC施設の一員として行なってきたことから、府と同様に使用者性がある旨主張する。しかし、特掃作業員の雇用における法人の役割は、特掃作業員から同意書の提出を受けて紹介整理票の申込みを受け付け、府及び市が行った資格調査に基づき、特掃作業員に対してあらかじめ割り振った番号順に輪番制で照会票を交付することであったことが認められる。
 このことからすると、特掃事業において、法人は〔無料職業紹介事業として〕特掃作業員を雇用主となるD法人に紹介しているにすぎないのであるから、組合員の何らかの労働条件に直接影響を及ぼすものとはいえない。
 そして、法人が、「福利厚生施設の設置及び社会保険印紙の交付」という労働条件について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとはいえず、組合員らの労働組合法上の使用者であるとはいえないから、法人に係る組合の申立ては、棄却する。

(4)職安は、組合の組合員の労働組合法上の使用者に当たるか(争点1-3)

 そもそも職安は国の行政機関であり、独立した法人格の主体ではないため、その点においても職安の被申立人適格には疑問があるが、ここでは論じない。
 職安が、「福利厚生施設の設置及び社会保険印紙の交付」という労働条件について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとはいえず、組合員らの労働組合法上の使用者であるとはいえないから、職安に係る組合の申立ては、棄却する。

2 令和2年9月24日付けで組合代表者が裁判所に提出した書面により、組合が府ら三者に団交申入れを行ったといえるか。いえるとすれば、これに対して府ら三者が団交に応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否に当たるか(争点2)

 府ら三者が組合の組合員等の労働組合法上の使用者に当たらないことは上記判断のとおりであり、その余を判断するまでもないが、この点についても判断を示しておく。
 まず、組合が令和2年9月24日付け弁明書を裁判所に提出した時点において、府が、組合の存在を認識していたとはいえない。
 また、同弁明書は、そもそも、A委員長個人が事件当事者として裁判所に提出したものであることが明らかであるし、また、15項目の要求事項とともに「団交に応じよ」との記載があるものの、その記載箇所は全体で46ページあるうちの32ページ目から34ページ目にかけてである上、明確に団交を申し入れる文言ではないのであるから、その形式および内容のいずれからみても、これを労働組合として団交を申し入れた文書であるとみることはできない。
 また、法人及び職安については、そもそも、これらに対して直接書面又は口頭で団交申入れをした事実自体が認められない。
 これらのことから、当該書面により、組合が府ら三者に団交申入れを行ったとはいえない。 
掲載文献   

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