労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第26号・同(不)第36号
不当労働行為審査事件 
申立人  個人X 
被申立人  B1事務所 こと 個人Y 
命令年月日  令和4年5月6日 
命令区分  却下及び棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①B1事務所ことYが、Xに対し、夏期寸志を3,000円と設定し、令和元年の夏期寸志を支払わなかったこと、②担当業務の割当をなくし、自宅待機とした日又は時間帯があったこと、③休業手当を支払わなかったこと、④事務所に置かれていた私物の本を持ち帰りたい旨のXの求めにYの従業員が応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①、及び②の一部について行為の日から1年を経過した後の申立てであるとして却下するとともに、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 Yが、Xに対し、平成30年3月22日に交付した労働条件通知書兼雇用契約書において夏期寸志を3,000円としたこと、令和元年に夏期寸志を支払わなかったこと、平成30年9月11日にXの担当業務にあった2件の顧問先の税理士事務補助業務をXの担当ではないとしてXの担当業務の割当てをなくしたこと及び同年10月から令和元年7月1日以前にXを自宅待機とした日又は時間帯があったことに係る申立ては、いずれも却下する。
2 その他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Yが、Xに対し、30.3.22雇用契約書において、夏期寸志を3,000円とし、令和元年に夏期寸志を支払わなかったことに係る申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間を徒過していないといえるか。徒過していないとした場合、それぞれの行為は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか。(争点1)

(1) 30.3.22雇用契約書(大阪地裁での和解成立に伴うYの復職に際し平成30年3月22日にXから手交された労働条件通知書兼雇用契約書)における寸志の性格は定かではないところ、Xが主張するとおり、同契約書に基づいて毎年の寸志が支払われており、同契約書を手交した時点において差別があったとすると、同契約書における決定とこれに基づく毎年の寸志の支払は1個の不当労働行為と解されるものの、同契約書に基づきXに最後に寸志が支払われたのは同年12月10日であり、申立期間を1年以上経過していることは明らかである。
 また、令和元年の夏期寸志は支払われていないものの、仮に支払われたとしても、その支払日は同年7月10日とみるのが相当であるところ(後記(2))、寸志に関する2(不)36号事件の申立ては同2年8月18日であるので、申立期間を1年以上経過していることは明らかである。
 以上のことから、同契約書において夏期寸志を3,000円としたことについては、継続した行為とみることはできず、その余を判断するまでもなく、申立期間を徒過しているといえる。

(2)次に、令和元年に夏期寸志を支払わなかったことについて、事務所の賃金規程に寸志の支給日等に係る記載はないものの、正社員には夏期賞与が、Xを含むパートタイム従業員には夏期寸志が、毎年7月10日に支給されていることなどから、夏期賞与及び寸志の支給日については、毎年7月10日という労使慣行が成立していたとみるのが相当である。
 これらのことから、Yが、Xに対し、30.3.22雇用契約書において、夏期寸志を3,000円とし、令和元年に夏期寸志を支払わなかったことに係る申立ては、行為の日から1年を経過した後の申立てであるから、労働組合法第27条第2項及び労働委員会規則第33条第1項第3号の規定により、その余を判断するまでもなく却下する。

2 Yが、平成30年9月11日にXの担当業務であった2件の顧問先の税理士事務補助業務をXの担当ではないとし、Xの担当業務の割当てをなくしたこと、平成30年10月から令和元年8月19日の間に、Xを自宅待機とした日又は時間帯があったことに係る申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間を徒過していないといえるか。徒過していないとした場合、それぞれの行為は、組合員であるが故の不利益取扱い及び不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるか。(争点2)

(1)Xの担当業務の割当てをなくしたことに係る2(不)26事件は、令和2年7月2日に申し立てられたところ、Yが、Xが担当していた顧問先2件をXの担当ではないとし、Xの担当業務の割当てがなくなったのは平成30年9月11日であったことが認められ、Xが主張するYの行為の日から1年以上経過していることは明らかである。
 この点、Xは、全ての業務が取り上げられたのは、平成30年9月11日から令和元年8月19日まで継続していた出来事であるなどと主張するところ、同31年2月9日以降、Xは、自宅待機、有給休暇の取得や欠勤により、退職日まで税理士事務所には出勤していない。そもそも担当業務を割り当てる、割り当てないという行為は、出勤していることが前提であるので、Xに業務が割り当てられていない状態が継続していたのは、Xが最後に出勤した同31年2月8日までとみるのが相当である。
 そうすると、Xの担当業務の割当てをなくしたことに係る申立ては、令和2年7月2日に申し立てられたことから、当該行為が終了した日すなわち平成31年2月8日から1年を経過していたといえるから、労働組合法第27条第2項及び労働委員会規則第33条第1項第3号の規定により、その余を判断するまでもなく却下する。

(2)次に、平成30年10月から令和元年8月19日の間に、Xを自宅待機とした日又は時間帯があったことについては、申立てがなされたのは同2年7月2日であるところ、同年7月1日以前にこれらの日又は時間帯があったことについては、Xが主張する行為の日から1年以上経過した後に行われたことは明らかである。
 この点、Xは、Yが、平成30年9月から31年2月まで、毎日の連続ではないが、毎月連続して頻繁にXの就労を拒否しており、また、同年2月8日の出勤を最後にYがXの出勤の受入れを拒否したことは、令和元年8月19日の退職日まで続いているので、Yが、Xが出勤しても帰るように命令し、就労を拒否した事実は一連のこととして退職の日まで続いており、「継続する行為にあってはその終了した日から1年以内」という期間に収まっているなどと主張する。
 しかし、確かに平成30年10月16日から令和元年7月1日までの間、Xは、Yにより自宅待機命令を受け、出勤していない日等があることは認められるものの、同期間において、Xによる有給休暇の取得や欠勤によって出勤していない日もあり、Yによる自宅待機命令はそれぞれ1回ごとの完結した行為であったといえる。これらのことから、7月1日までの自宅待機命令についての申立ては、最後の行為の日から1年以上を経過しているとみるほかなく、労働組合法第27条第2項及び労働委員会規則第33条第1項第3号の規定により、その余を判断するまでもなく却下する。

(3)令和元年7月2日から同年8月19日までの期間について、少なくとも同年7月4日以降退職の日までXはYの指示により出勤していないといえ、同月3日の翌日以降休むようにとのYの発言をもって、YがXに対し、事実上自宅待機命令を出したとみざるを得ない。
 そこで、Yが、Xを令和元年7月3日の午後から退職日まで自宅待機としたことが、組合員であるが故の不利益取扱い及び不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いといえるかについてみる。
 この間の経過についてみるに、確かに、Yが加入するC組合は、30(不)44号事件及び30(不)63号事件の申立てを行ってはいるものの、令和元年7月3日頃において、YとC組合は殊更に対立関係にあったとみることはできない。さらに、同時期において、C 組合におけるYに対する組合活動が活発であったと認めるに足る事実の疎明もない。
 また、令和元年7月3日及び25日の当委員会における調査期日を経て、同年8月19日に両事件を取り下げる旨、XがYを退職する旨等が記載された1.8.19合意書が締結され、C組合及びXとYとの間で和解が成立していることから、同年7月3日以降は、和解に向けての調整期間であったといえ、XとYの関係性を鑑みると、和解の成立に向け、無用の争いを避けるためにYがXに自宅待機を命じたことは無理からぬことであり、当該Yの行為が不合理であったとはいえない。
 これらのことから、YがXに対し、令和元年7月3日の午後から同年8月19日の退職日までの間、自宅待機としたことについては、Xが組合員であるが故の不利益取扱い及び不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとはいえず、この点に係る申立人の主張は採用できない。
 以上のとおりであるから、令和元年7月2日から8月19日までの間にYがXに対し、自宅待機とした日又は時間帯があったことに係る申立ては棄却する。

3 Yが、Xに対し、令和元年7月4日から8月19日までの休業手当を支払わなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるか。(争点3)

(1)令和元年7月4日から8月19日までは、Yの命令による自宅待機期間であるとみるのが相当であるところ、当該期間において、Yに労働基準法第26条による休業手当の支払義務が生じる可能性がないとはいえない。

(2)次に、Yが当該期間の休業手当を支払わなかったことが、組合員であるが故の不利益取扱い又は不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるかについてみる。
 Xは、(「C組合ってなんや。けんか腰で来るんか。」等の)Yの発言を挙げ、Yが組合嫌悪の意思を持っていた旨を縷々主張するが、仮にそのような発言があったとしても、前記2(3)の判断のとおり、令和元年7月3日頃において、YとC組合は殊更に対立関係にあったとみることはできず、同時期において、C組合における組合活動が活発であったと認めるに足る事実の疎明はない。また、同日以降は、和解に向けての調整期間であったといえる。
 また、(和解までのやり取りにおいて)当該期間の賃金の支払いについては認識の違いがあったとはいえ、Yは、少なくともC組合との間での和解協議に前向きであったといえる。
 そうすると、当該自宅待機期間にYがXに対し休業手当等を支払わなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱い又は不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとみることはできない。
 以上のとおりであるから、Yが、当該自宅待機期間の休業手当等を支払わなかったことの是非はともかく、そのことが組合員であるが故の不利益取扱い又は不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとはいえないことから、この点に係る申立ては棄却する。

4 令和元年7月25日、Yの室長、次長及び従業員B2が、税理士事務所に置かれていた本件書籍を持ち帰りたい旨のXの求めに応じなかったことは、Yによる、組合員であるが故の不利益取扱い及び不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるか。(争点4)

 従業員B2は、XがYに連絡を取って欲しい旨述べた後、「先生の命令やからもう帰ってくれ」と述べたことは認められるものの、この間、B2がYに連絡をとり、指示を仰いだと認めるに足る事実の疎明はない。また、Yは個人事業主であるところ、次長及び室長が、Yと同等の労務管理についての方針決定に関与する権限を有していたと認めるに足る事実の疎明もない。したがって、この点に係るXの主張は採用できない。
 なお、仮に、Xの本件書籍を持ち帰りたい旨の求めに対応した室長、次長及びB2の行為が、Yの指示によるものであったとしても、前記2(3)の判断のとおり、YとC組合は殊更に対立関係にあったとみることはできず、C組合における組合活動が活発であったと認めるに足る事実の疎明もないこと、さらには、Yは、和解協議に向けて前向きであったといえ、この点からも、Xが組合員であること及び不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とした不当労働行為であるとするXの主張は採用できない。
 以上のとおりであるから、令和元年7月25日、Yの室長、次長及びB2が、税理士事務所に置かれていた本件書籍を持ち帰りたい旨のXの求めに応じなかったことは、Yによる、組合員であるが故の不利益取扱い及び不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとはいえず、この点に係る申立ては棄却する。 
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