労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  群馬県労委令和3年(不)第1号
株式会社辰巳不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年5月19日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が組合員A2を解雇したこと、②2回の団体交渉における会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 群馬県労働委員会は、②の一部について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
 X組合
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B
 当社が貴組合から令和2年7月26日付けで申入れのあった団体交渉において、当社側の出席者の一部について代理人資格や会社からの権限の有無を明らかにしなかったこと及びその出席者が、C会社がA2の無断欠勤を問題にしている等の虚偽の発言をしたことは、群馬県労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。
 今後このような行為を繰り返さないようにします。
2 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会宛て文書で報告しなければならない。
3 組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、A2を解雇したことは、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(会社によるA2の解雇は、同号に規定する、組合員であることの故をもって労働者を解雇したといえるか)(争点1)

(1)本件解雇は不当労働行為意思に基づくものか

ア 本件普通解雇に理由(合理性・相当性)があるか

(ア)就業規則の該当性

 組合員A2は、他の従業員に比して(配達する新聞の)不着件数は多かったといえること、令和2年8月11日に無断欠勤したことが認められる等の状況下で、他の従業員に対する負担が増したことや顧客の信用を失い契約への影響があったことは予想することができる。
 しかし、①同年5月30日には許容範囲内の配達時間で配達ができていることが認められ、就業規則の「向上の見込みがない」とまでは断定することはできず、②会社は、労働条件について折り合いがつけば継続雇用を想定していたことがうかがわれることから、A2が就業規則に規定された「就業に適さないと認められる」状況にあったかはすこぶる疑問であり、③さらに、無断欠勤に対する制裁は就業規則上、譴責処分に止められており、これを重大な解雇事由とすることには疑問があることから、本件解雇の就業規則該当性には疑義があるといわざるを得ない。

(イ)解雇の相当性(社会通念上の相当性)

 無断欠勤は、新聞配達の特性上、会社に与える影響は小さくはないといえるが、就業規則上の懲戒事由では「けん責」の対象に過ぎない。会社は、無断欠勤そのものよりも、無断欠勤前後の態度に対し、感情的な反発を抱き、解雇の判断に至ったと推認できるところ、一度の無断欠勤を重大な解雇理由と見なすことには疑問があり、たとえ、この感情的な反発を考慮しても、本件解雇は、バランスを失しているといえる。
 また、不着、遅配及び無断欠勤は、配達業務に重大な支障を及ぼす恐れがあることは否定できないが、これらを理由に解雇するには、事前に、改善が見られなければ解雇もあり得ることを警告するなど解雇を避けるための解決方法を模索すべきであったと解されるところ、会社は、このような配慮をすることなく、団体交渉の過程において、突如解雇を通知しており、本件解雇には手続上の瑕疵があることを否定できない。
 したがって、本件解雇は相当性を欠くものというべきである。

(ウ)A2の雇用の更新拒絶について

 会社は、普通解雇が認められなくても、更新拒絶と同様の評価ができる旨主張している。しかし、会社の更新拒絶との主張は、いわゆる雇止めと思われるが、会社がその意思表示をしたとの主張はなく、また、そもそも、雇止めは有期雇用契約の期間満了時の問題であるが本件では雇用期間に関する主張もなされていない。

イ 会社の組合に対する嫌悪感について

 組合は、A2の組合加入から解雇を通知されるまでの間、①会社の賃下げ予告に対するストライキ、②A2の労働条件に対する団体行動、③ビラまきや組合勧誘の組合活動を行っており、このような一連の組合活動が展開されたことは、会社側に組合及び組合員に対する警戒感が生じたであろうことは容易に推測することができる。
 しかしながら、①会社は、組合活動に対する妨害や、これを批判する言動はしておらず、かえって、A2の労働条件の見直しについて団体交渉において協議したり、就業規則の策定等についてそれなりに前向きに対応しており、組合嫌悪を示す対応は認められない。
 また、会社がA2に提示した労働条件は、他の従業員に比して格別不利な労働条件であるとは認められず、会社が意図的にA2の労働契約の締結を避けるための労働条件を提示したものとは認めらない。
 さらに、会社は、提示する労働条件に組合及びA2が同意するならば、継続雇用を考えていたことが認められ、本件解雇通告は、会社が労働条件交渉を有利に進めるための材料として持ち出されたのであって、会社の経営上の判断に基づくものであると評価できるので、反組合的感情によるものであるとまではいえない。

(2)以上のことから、会社によるA2の解雇は、組合員であること等を理由としたものとはいえず、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当しない。

2 第3回団体交渉及び第4回団体交渉における会社の対応が、労組法第7条第2号の団体交渉拒否(誠実交渉義務の不履行)に該当するか。(争点2)

(1)第2回団体交渉までに、両当事者における合意はあったか

 両当事者間において、A2の労働条件に関して、時給制をベースにすること等の方向で交渉はされたが、会社はA2の主張する新聞配達に要する時間について疑問を呈しており、時給制のもとでは勤務時間が給料の額に大きく影響することから、時給制をベースにA2の給料を算定することについて、明確な合意が成立していたとは評価し難い。

(2)第3回団体交渉は、会社側からの出席者や交渉内容から、(団交拒否と評価し得る)不誠実な団体交渉といえるか

 会社がB2にどのような権限を与えたかを明確に示さずに実質的に代理させて交渉に当たらせたこと及び予め要求書に記載された要求事項に回答できる者を出席させなかったことは、合意達成の可能性を模索する義務に反している。
 さらに、B2が、C会社本社がA2の無断欠勤を問題にしている等の組合の適切な判断を誤らせるおそれのある虚偽の主張を繰り返したことは、誠実な交渉態度であったとは評価し難い。
 したがって、会社の対応は、不誠実であったといえる。

(3)第3回団体交渉における交渉と会社の対応の問題性は、第4回団体交渉においても継続しているか

 第4回団体交渉においては、会社の代表であるB1が出席しており、B2が出席していたとしてもB2の権限は明確であるから、会社側の出席者に特段の問題はない。また、第3回団体交渉におけるB2の虚偽の発言が組合の判断に影響を与えていたと評価すべき事実は存在しない。よって、第3回団体交渉が不誠実なものであっても、第4回団体交渉に問題性が継続しているとまではいえない。

(4)以上のことから、第3回団体交渉における会社の対応は、労組法第7条第2号の団体交渉拒否に該当するが、第4回団体交渉における対応は、同号の団体交渉拒否に該当しない。

3 救済内容

 第3回団体交渉における会社の対応が不当労働行為に該当することは上記判断のとおりであるが、A2の労働条件と雇用契約の締結について、第3回団体交渉より前の交渉を前提とする団体交渉を命ずる理由は認められず、また、その後の団体交渉における会社の対応には特段問題は認められないことから、団体交渉応諾を命じる必要はなく、主文をもって足りると考える。 
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