労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡県労委令和3年(不)第10号
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年6月24日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①時間外・休日労働協定に係る組合との事務折衝及び団体交渉において、同協定を締結した申立外E組合の組合員氏名の開示を拒み、団体交渉の決裂を宣言したこと、②同協定とその届出の有効性について組合が調査を行っていたところ、警察に通報し、また、警告する文書を出したこと、③団体交渉において、フェイスブック上の組合委員長の管理に係るアカウントにおける投稿について、営業妨害と主張するなどしたこと、④組合がその後申し入れた団体交渉について、会社に在籍する組合員が出席しなければ応じられないと回答したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 福岡県労働委員会は、③について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書の交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、下記内容の文書(A4版)を組合に交付しなければならない。
令和 年 月 日
 X組合
  執行委員長 A1殿
Y会社         
代表取締役 B1
 当社代表取締役が、令和2年12月2日の団体交渉において、フェイスブック上のA1組合執行委員長の管理に係る2つのアカウントにおける投稿について、営業妨害と述べて、同席した当社に在籍する組合員2名に対し組合活動の是非について見解を求めたことは、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条3号に該当する不当労働行為と認定されました。
 今後このようなことを行わないよう留意します。

2 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件協定に係る3年1月28日の事務折衝、同年3月10日の事務折衝及び同年4月14日の団交における会社の対応について(労組法7条2号所定の不当労働行為の成否)

 本件協定(平成30年12月27日に会社と申立外E組合が締結した時間外・休日労働に関する協定。以下同じ。)に係る組合との令和3年1月28日(以下「令和」の年号は略)の事務折衝等における会社の対応が、労組法7条2号所定の不当労働行為に該当するかについて、以下、検討する。

(1)3度にわたる協議における会社の交渉態度について

ア 組合は、本件協定の締結当事者であるE組合が過半数組合ではないとの疑念を抱き、締結要件を満たしているか確認する方法として、会社に対し、同労組の組合員の氏名の開示等を求めている。36協定が、組合員の当時の労働条件、権利等に影響を及ぼすことは明らかであり、その締結要件を満たしているかなど有効性について確認を求めること自体は義務的団交事項に当たるといえる。

イ 組合の要求を受け、①会社は、3度にわたる協議において、E組合から提出された名簿により、本件協定締結時のE組合の組合員の氏名については会社が把握しており、それによれば同組合の組合員は労働者の過半数となっている旨、また、②組合が開示を求めているE組合の組合員の氏名については、組合員本人から同意が得られていないため回答できない旨説明するなど、本件協定について、組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明するなどし、また、組合の要求に応じなかったとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をしているといえ、誠実に団交に当たったものと評価できる。

(2)団交の打切りについて

 本件協定に係る協議については、E組合の組合員の氏名を開示せよとの組合の要求に対し、会社はE組合の組合員本人の同意が得られないため開示できない旨の説明を行っており、これ以上交渉を重ねても進展する見込みはない段階に至っていたものと認められる。

(3)よって、本件協定に係る3年1月28日の事務折衝、同年3月10日の事務折衝及び同年4月14日の団交における会社の対応は、誠実団交義務違反とはいえず、労組法7条2号には該当しない。

2 本件協定について、組合が調査を行っていたところ、会社が警察に通報したこと、また、代理人弁護士を通じて警告する文書を出したことについて(労組法7条3号所定の不当労働行為の成否)

(1)会社が警察に通報したことについて

 委員長A1は、本件協定の有効性に疑問を抱き、そのことを明らかにするため、E組合の執行委員長Mの自宅へ行き、同人の帰宅を待っていた。この訪問について、A1はMに訪問する日時を事前に連絡するなどしておらず、突然のことであったことなどから、Mが不在の中、その家族が自宅の前にいるのはA1であると推測し、このような状況に少なからず不安感や恐怖心を抱き、会社に相談したものと推察される。
 これらの状況を踏まえると、会社が警察に通報したことは、従業員及びその家族の安全に配慮して行ったものであり、当時の労使関係の実情等を勘案しても、組合の弱体化を図る行為や組合活動に対する干渉・介入に当たるものとは認められない。

(2)代理人弁護士を通じて警告する文書を出したことについて

ア 組合は、本件協定の有効性に疑問を抱き、会社の従業員に対し、本件協定の締結当時、E組合に加入していたのかどうかを問いかけるため、3年2月2日及び同月3日、会社の主要な取引先であるK会社工場の門前の公道に立ち、本件事業所の従業員らの氏名を記載した横断幕を掲げた。

イ 本件警告の内容は、これら行為が主要な取引先に対する会社の信用を毀損するおそれがあり、また、横断幕に氏名を記載された従業員に対する嫌がらせである等の会社側の認識を指摘した上で、組合に対して、今後も相当性のない街宣行為をする場合は法的手続をとる旨警告する文書を代理人弁護士名で送付したものであった。
 上記の組合の活動の態様に鑑みれば、会社が警告文書を出したことについては相応に理解できるところであり、また、文書には在籍組合員への処分等を示唆するような威嚇的内容も含まれていないことから、当時の労使関係の実情等を勘案しても、組合の弱体化を図る行為や組合活動に対する干渉・介入に当たるものとは認められない。

(3)よって、会社が警察に通報したこと、また、代理人弁護士を通じて警告する文書を出したことは、労組法7条3号には該当しない。

3 2年12月2日の団交において、フェイスブック上の委員長A1の管理に係る2つのアカウントにおける投稿について、会社が営業妨害と主張したことについて(労組法7条3号所定の不当労働行為の成否)

(1)労組法7条3号にいう支配介入の不当労働行為に該当するか否かは、その行為自体の内容、程度及び時期のみではなく、問題となる行為が発生する前後の労使関係の実情、使用者、行為者、組合、労働者の認識等を総合して判断すべきものである。

(2)行為前後の労使関係の実情

ア 2年7月18日、取締役B2が組合員A2を呼び出して個別に面談を行っている。
 これについては、組合結成直後という時期に、個別面談という方法がとられていることに加え、解雇の可能性という重大な不利益を示唆しながら、組合に加入していること自体を問題視し、併せて、企業内組合への加入を提案するという発言内容に鑑みれば、管理職としての許容の範囲を超え、組合から在籍組合員が離脱することを企図して行われたものと評価せざるを得ない。

イ また、同月28日、会社は、C組合とC組合D支部〔注〕を被申請者として、適正な団交相手を明らかにすること等団交ルールの確立を求めてあっせん申請をしており、当時の労使関係は混乱した状況下にあり、少なくとも、労使間の信頼関係は築けていなかったことが認められる。その後、あっせんについては成立したものの、会社と組合ないし組合の構成員との間では、2件の訴訟が係属中であり、法的紛争が続いている状況であった。

〔注〕平成2年2月、A1らはC組合に脱退を申請したが、同年7月、自分たちはD支部には所属したままであり、むしろ自分たちが同支部を継承しているとして、名称を「C組合D支部」から「X組合」に改称する手続をとっている。

(2)行為の時期、内容、程度

 2年12月2日の団交において会社が営業妨害と主張したフェイスブックの投稿内容に鑑みれば、運送業を営む会社が営業に支障があると考え、団交において、当該フェイスブックの投稿が営業妨害であると主張すること自体が、直ちに支配介入であると評価されるものではない。
 しかし、本件における会社の行為をみると、団交の場に委員長A1が出席しているにもかかわらず、社長B1が、フェイスブックの投稿内容を示して、あえて一組合員であるA2及びA3に対し、組合の活動が営業妨害であるとして、その是非について見解を尋ねるという態様になっており、行為前後の労使関係の実情等を考慮すれば、相当性に問題があったといえる。労使間に対立がみられる時期に、会社の代表者である社長が、団交の場において、組合員個人に対して組合活動の是非について見解を尋ねることは、同組合員に必要以上の畏怖の念を抱かせ、ひいては威嚇的効果を与えるおそれがあり、一般的にみて公正性を欠くものとの非難を免れない。
 これらの経緯や諸事情を考慮すれば、同日の団交における社長B1の言動がA2及びA3に与えた影響力は大きかったものと評価でき、B1の発言は組合員に対し威嚇的効果を与え、組合弱体化につながるおそれがあるものといえる。

(3)使用者の認識等

 支配介入の成立に当たっては、必ずしも直接に組合弱体化ないし具体的反組合的行為に向けられた積極的意図であることを要せず、その行為が客観的に組合弱体化ないし反組合的な結果を生じ、又は生じるおそれがあることの認識、認容があれば足りると解すべきである。
 上記の(2)のアの取締役B2による発言の後も、労使関係は引き続き対立する状況下にある中、団交の場で、社長という立場の者から、組合員個人に対し組合の活動の是非について意見を求めれば、同組合員に対して威嚇的効果を与え、組合が弱体化するおそれがあることは容易に推察できるのであって、会社にはそのことについての認識、認容があったものと認められる。

(4)以上のとおり、2年12月2日の団交における社長B1の発言等は、同組合員に威嚇的効果を与え、組合の弱体化を図る行為に当たり、労組法7条3号の支配介入に該当する不当労働行為である。

4 組合が3年6月21日付けで申し入れた団交について、在籍組合員が出席しなければ応じられないと会社が回答したことについて(労組法7条2号所定の不当労働行為の成否)

 会社は、団交ルールの確立を求めて、当委員会にあっせんを申請し、2年11月16日、組合と会社は、組合は団交に在籍組合員を少なくとも1名出席させ、会社はこれを拒まない旨のあっせん案を受諾した。
 組合は、在籍組合員が団交に参加できなくなったのは、同年12月2日の団交で、A1のアカウントにおける投稿について営業妨害と主張する等の会社の行為によって同席した組合員が不快感と嫌悪感と苦痛と恐怖感を覚えさせられたためであるにもかかわらず、在籍組合員が参加しないと団交に応じないという会社の行為は、正当な理由がなく団交を拒否するものである旨主張する。
 しかし、組合が3年6月21日付けで申し入れた団交について、形式的には、会社は在籍組合員が出席しないことを理由として団交ではなく事務折衝という方法を選択しているが、実質的には団交が行われたものと評価できることから、組合の主張は採用できず、会社の対応は労組法7条2号に該当しない。 
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