労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委令和3年(不)第2号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年8月19日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社のD車庫の主任B2が、組合員2名に対して組合からの脱退を勧奨したこと、②組合が会社に対し、B2の言動に係る事実関係の確認を求めて団体交渉を申し入れたところ、会社がこれに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛知県労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号、②について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)組合の組合員に対し、組合活動を行うことで不利益が生じることを示唆するなどして、組合からの脱退勧奨を行ってはならないこと、(ⅱ)組合が申し入れた、事実関係の説明等を含む、B2の脱退勧奨行為についての団体交渉に誠実に応じなければならないこと、(ⅲ)文書交付を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合の組合員に対し、組合活動を行うことで不利益が生じることを示唆するなどして、組合からの脱退勧奨を行ってはならない。
2 会社は、組合が令和3年1月7日に申し入れた、事実関係の説明等を含む、会社のD車庫の主任であるB2の脱退勧奨行為についての団体交渉に、誠実に応じなければならない。
3 会社は、組合に対し、下記内容の文書を本命令書交付の日から7日以内に交付しなければならない。
 当社が、貴組合のC分会の組合員に対し、組合活動を行うことで不利益が生じることを示唆して、貴組合からの脱退勧奨を行ったことは、労働組合法第7条第3号に、貴組合からの令和3年1月7日の団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に、それぞれ該当する不当労働行為であると愛知県労働委員会によって認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
    
 年 月 日
 X組合
  運営委員長 A1 様
Y会社         
代表取締役 B1 
判断の要旨  1 主任B2は、組合員A2に対して、令和2年12月29日及び同月30日に組合からの脱退勧奨を行い、組合員A3に対して、令和3年1月6日に組合からの脱退勧奨を行ったか。主任B2のこれらの一連の行為は、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するか。

(1)令和2年12月29日及び同月30日、D車庫の主任B2は、組合員A2に対し、組合活動を行うことで不利益が生じることを示唆しつつ、D車庫の従業員において組合を一斉に脱退しようとする動きがあることを伝えて、A2も同時に組合を脱退するよう促している。また、令和3年1月6日、B2は、組合員A3に対し、組合活動を行うことで不利益が生じることを示唆しつつ、組合を脱退するよう促している。
 これら一連の行為(以下「本件脱退勧奨」)が、組合からの脱退勧奨であることは明らかである。

(2)本件脱退勧奨が会社に帰責されるか否かが問題となるところ、使用者との間で具体的な意思の連絡がなかったとしても、脱退勧奨等の支配介入が、労組法第2条第1号所定の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者が使用者の意を体して行ったものである場合には、相手との個人的な関係からの言動であることが明らかであるなどの特段の事情のない限り、当該支配介入をもって使用者の不当労働行為と評価することができると解するのが相当である。
 以下、かかる基準に照らし、本件脱退勧奨が会社に帰責されるか否かを検討する。

(3)まず、主任B2の職制上の地位について検討する。
 B2は、D車庫における最上位の役職者であり、本件脱退勧奨があった令和2年12月末から令和3年1月初めまでの間頃においては、D車庫における唯一の役職者であった。
 B2は、D車庫の他の従業員と同様にごみ回収作業を主たる業務としているものの、主任として会社本部の業務統括部長から直接指示を受ける立場にあり、D車庫における、ごみ回収コースの従業員への割当て、従業員の履歴書の管理、公休日の調整、従業員の有給休暇申請の取りまとめ等、人事管理又は労務管理に関係する事項も含まれる、広範な業務を担っており、本部からの伝達事項の周知及び本部に対するD車庫の状況報告も担っている。会社において、人事権等の経営に関する権限は本部に集約されているとしても、主任B2は、会社がかかる権限をD車庫の従業員に対して行使する上で、不可欠の役割を担っていると考えられる。
 こうしたB2の会社における役職、役割及び影響力を踏まえて考えると、B2は、労組法第2条第1号所定の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者とみるのが相当である。

(4)次に、主任B2が会社の意を体して本件脱退勧奨を行ったといえるかについて検討する。

(ア)組合の分会が結成されたのは令和2年5月8日であるが、同月のうちに会社はB3を入社させて労務を中心に担当する総務担当部長に任命し、これ以降、B3を含む会社の上層部は、ミーティングにおいて団交に関係する勉強や状況把握等を行っていた。また、ミーティングには主任B2も2回に1回程度は出席していたことが認められる。こうした事情を踏まえると、会社は、組合の分会結成以降、組織的に組合への対応に取り組んでいたとみることができる。

(イ)組合と会社とは、令和2年7月7日の第1回団交から同年12月17日の第5回団交までにおいて協議を重ねていたものの、会社の業務効率化、D車庫の増員、未払賃金等の問題について、合意に至らない状況が続いていた。特に未払賃金の問題については、第3回団交で組合が、可能であれば話合いで解決したいとしつつも、解決が難しい場合には関係官庁への申告等を検討する旨述べたことを踏まえると、組合が強硬な姿勢で会社との協議に臨んでいたことがうかがわれる。また、組合は、令和2年11月6日に提示された会社側36協定案について、第5回団交において、D車庫の増員がない限り新たな36協定の締結には応じられない旨主張し、会社の回答内容によっては争議行為を実施する旨示唆するなどしていた。
 これらのことから、本件脱退勧奨があった令和2年12月末から令和3年1月初めまでの間頃において、組合と会社とは、未払賃金や36協定締結に係る問題をめぐって深刻な対立関係にあったといえる。

(ウ)主任B2は、令和2年12月29日及び同月30日の組合員A2に対する脱退勧奨並びに令和3年1月6日の組合員A3に対する脱退勧奨の中で、組合と会社とが対立していた事項に関係する内容を述べており、B2が組合と会社との対立関係を認識した上で、本件脱退勧奨に及んだことは明らかである。
 さらにB2の発言について検討するに、B2が会社の意向に沿って述べたものとみることができる。
 そして、会社は、組合から令和3年1月4日に提出された「抗議文」(以下「1.4抗議文」)及び同月7日に提出された「抗議及び要求書」(以下「1.7要求書」)で抗議された後も、B2に対し、注意等、脱退勧奨を止めるような具体的な対応を行わず、本件申立て後の同年3月頃にB2に対して事情聴取をするまで、本件脱退勧奨について事実関係の調査すら行っていなかったなどの事情を総合的に勘案すると、B2は、会社の意を体して本件脱退勧奨を行ったといえる。

(3)これらのことから、本件脱退勧奨は会社に帰責され、したがって、主任B2が、組合員A2及びA3に対して行った一連の脱退勧奨行為は、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

2 会社が、組合からの令和3年1月7日の団交申入れに応じなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点2)

(1)組合は、会社に対し、まず1.4抗議文において、主任B2が複数の組合員に「脱退勧奨や不利益取り扱いをちらつかせる脅迫行為」を行ったことについて抗議するとともに、D車庫の責任者の変更、B2に対する厳重処分、B2による組合及び組合員に対する真摯な謝罪並びにB2が団交に出席した上で事実関係を説明することを要求した後、1.7要求書において、再びB2の行為について抗議するとともに、1.4抗議文で要求した事項の速やかな履行及び不当労働行為を行わないことの誓約を要求した上で、「貴社事業所内で起こった不当労働行為問題について早急に団体交渉を開催し、B2氏から具体的事実経過を説明する」ことを申し入れた。
 これらの経緯からすると、組合が会社に団交を申し入れた事項は、B2による事実関係の説明等を含む、B2の脱退勧奨行為についての事項(以下「本件申入れ事項」という。)であったと解される。
 これに対し、同月8日、会社は、団交応諾義務がないことを理由に本件申入れ事項に係る団交申入れを拒んだ。

(2)労組法第7条第2号は正当な理由のない団交拒否を禁止しているところ、本件申入れ事項が、使用者が団交を行うことを労組法によって義務付けられている事項(以下「義務的団交事項」)に該当するか否かが問題となる。

(3)組合は、主任B2が単に組合から脱退するよう勧奨しただけでなく、会社から不利益な待遇を受ける可能性があることを示唆しながら脱退勧奨を行ったことを問題視して団交を申し入れていたのであるから、本件申入れ事項は、団交を申し入れた労働者の団体の構成員である労働者の労働条件その他の待遇に関する事項に該当する。
 また、B2の脱退勧奨行為は、組合員を脱退させて組合を弱体化しようとするものであり、組合の内部運営に干渉するものであって、団体的労使関係に影響を及ぼす行為として評価できるものであるから、本件申入れ事項は、団体的労使関係の運営に関する事項にも該当する。
 そして、B2の脱退勧奨行為について、会社は組合との間で、団交の場で事実関係を確認したり、当該行為に関連する協議を行ったりできるのであるから、本件申入れ事項は、使用者に処分可能なものに該当する。

(4)会社は、労組法が不当労働行為の審査を労働委員会に委ねていることを理由に、不当労働行為問題は団交の枠外に置かれるものであり、会社が使用者の立場で処分・支配可能なものでない旨主張する。
 しかし、不当労働行為に該当するか否かの公権的判断は労働委員会又は裁判所の専権事項であるとしても、その公権的判断を求めて労働委員会に救済を求める前に、労使間で紛争となっている問題について事実関係の確認や協議を行い、仮に使用者に不当労働行為に該当する行為があれば是正するなどして、労使自治による自主的な解決を図ることが望ましい。このことは、労使関係に関する労使自治の促進のため、憲法第28条及び労組法が団体交渉権を保障した趣旨にも合致する。したがって、会社の主張は採用できない。
 そのほか、本件申入れ事項について、会社にとって処分可能でないというべき特段の事情は認められない。

(5)また、主任B2の脱退勧奨行為が個人的な言動ではなく会社に帰責するものであることは、上記1(3)で判断したとおりである。

(6)以上のことから、本件申入れ事項は義務的団交事項に該当し、会社が団交を拒否したことについて正当な理由は認められない。
 したがって、会社が、組合からの令和3年1月7日の団交申入れに応じなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約484KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。