労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第22号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年1月28日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、組合がオンライン方式による団体交渉を申し入れたところ、法人が、対面方式で行う旨回答し、オンライン方式による団体交渉を拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨   令和3年4月20日付け団交申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるかについて、以下判断する。

1 まず、その経緯についてみるに、本件申立てに至るまで団交が開催されていなかったのは、団交の開催場所及び方式について、組合と法人との間で文書の送受信が行われたのみで具体的な協議が行われず、その結果、合意に至らなかったことによるものといえる。
 そもそも法人は、組合の令和3年4月20日付け団体交渉申入れ(以下「4.20団交申入れ」)に対し、対面方式ではあるものの、団交の具体的な日時・場所を提案し、回答しているのであるから、法人は、形式的には団交に応じているとみることができる。
 しかし、このように一見したところでは使用者が団交を拒否してはいない場合においても、使用者が、交渉の実施を困難にするような日時、場所、方式を設定し、理由なくこれに固執するなど、その態度が事実上交渉拒否とみなし得るに至っている場合には、団交拒否に当たるというべきである。そのため、以下、法人の対応が事実上団交を拒否とみなしうる程度に不合理なものであったといえるかについて、具体的な状況についてみる。

2 組合と法人との間で問題となっていたのは、団交開催場所と方式であるので、それぞれについて検討する。

(1)まず、団交の開催場所についてみる。
 組合は、法人側の一方的な都合により県境をまたぐ長距離移動等の一方的なリスクを組合が負うことを問題としており、組合の所在地である大阪市内で団交を行うことは認めている旨主張する。〔注 法人の所在地は神戸市〕
 ところで、団交開催場所は、本来労使双方の合意によって決められるべきものであるが、団交開催場所に係る協議が労使間で整わない場合には、組合員の就業場所等、当該組合員と使用者の労使関係が現に展開している場所が基本となる。
 そこで、組合と法人との間で基本となる団交開催場所がどこであるかについて検討するに、認定によれば、①組合と法人は、本件申立てに至るまで、全部で9回、いずれも大学内の会議室において、対面にて団交を行っていたこと、②4.20団交申入れの団交議題は、令和3年度の組合員2名の大学での授業の方式に関するものであったこと、が認められる。これらのことからすると、当該組合員と法人の労使関係が現に展開している場所は大学であるといえ、組合と法人との間で基本となる団交開催場所は、法人所在地である大学内またはその周辺と解するのが相当である。そうだとすれば、法人が組合に対し、団交開催場所として大学内を提案したことは、基本となる団交開催場所での団交を希望しただけであり、組合の主張するように、法人側の一方的な都合によるものであるとはいえず、この法人の対応をもって、事実上団体交渉拒否に当たるような提案とみることはできない。

(2)次に、団交の方式についてみる。
 組合は、大阪府及び兵庫県には、令和3年4月から本件申立てに至るまで、新型コロナウイルス感染症対策に伴う緊急事態措置等として、「不要不急の都道府県間移動、特に緊急事態措置地域との往来」を控える等の要請がなされている状況に鑑み、感染リスクを排除し、安全に団交を開催する手段としてオンライン方式による団交申入れを行ったのであり、組合の提案する方式での団交は合理的なものである旨主張する。
 確かに、この時期、大阪府等から対面での接触を避けるよう要請がなされており、組合の要求するオンライン方式での団交開催は、このような趣旨に沿ったものであり、合理的な提案であったとはいえる。しかしながら、団交拒否の不当労働行為の成否を判断するためには、組合の提案が合理的であったか否かだけではなく、法人の提案が、団交拒否と見なしうるほどに不合理なものであるか否かが問題となるものである。
 そのような観点からすれば、そもそも団交は労使双方が相対峙して行うのが原則であり、テレワークやオンライン方式での会議が感染症拡大防止の観点から有益な手段の一つであったとしても、4.20団交申し入れの時点において、オンライン方式での団交が当然であった、ないしは、オンライン方式のみが団交において取り得る唯一の手段であったとまではいえない。また、法人が、オンライン方式での団体交渉に合意しない理由として主張する、オンライン方式では細やかな人の動作や感情等がとらえにくい、無断で録画されたり、画面外に人がいたりすることを防止できないなどの事項が、不合理な理由であるとみることもできない。
 加えて、法人が対面での団交を希望する旨を回答した令和3年4月23日及び同月30日時点で、同年5月11日に緊急事態宣言が解除される予定であったことを考え合わせると、当時法人が感染症対策を行った上で、対面方式での団交開催を提案したことには一定の理由があるといえ、団交を拒否するがための不合理的な不合理な提案であったとみることはできない。

(3)なお、本件申立て以降の令和3年7月19日、法人はオンライン方式での団交開催に応じていることが認められ、このことからも法人が団交を拒否するために対面方式に固執していたとみるのは困難である。

4 以上のとおり、法人が、当事者間の基本となる団交開催場所である大学内での対面による団交開催を希望したことをもって、事実上団交拒否とみなしうるような不合理な態度であるとまではいえないため、組合の4.20団交申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団交拒否とはいえず、本件申立ては棄却する。 
掲載文献   

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