労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第51号・同3年(不)第18号
不当労働行為審査事件 
申立人  組合 
被申立人  会社 
命令年月日  令和4年8月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、組合と協議することなく、正規従業員を雇い入れ、出向社員を受け入れたこと、②組合書記次長A2に対する代表取締役の発言、③組合の執行委員長A1に対する出勤停止処分、④組合と協議を行うことなく、従業員らに対し労働条件変更通知書を配布したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①及び④について労働組合法第7条第3号、②の一部及び③について同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)A1に対する出勤停止処分がなかったものとしての扱い、及びバックペイ、(ⅱ)組合との間で、従業員らに配布した労働条件変更通知書による賃金変更の効果に関する会計上の数値を経営状況とともに明らかにし、この賃金変更の必要性について、撤回も含めて、協議しなければならないこと、(ⅲ)文書手交び掲示を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合の組合員A1に対する令和2年11月30日付け出勤停止処分がなかったものとして扱い、同人が就労していれば得られたであろう賃金相当額を支払わなければならない。
2 会社は組合との間で、令和3年3月11日に従業員らに配布した労働条件変更通知書による賃金変更の効果に関する会計上の数値を経営状況とともに明らかにし、この賃金変更の必要性について、撤回も含めて、協議しなければならない。
3 会社は組合に対し、下記の文書を速やかに手交するとともに、縦2メートル×横1メートル大の白色板に下記の文書と同文を明瞭に記載して、会社の正面玄関付近の従業員の見やすい場所に2週間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y会社          
代表取締役 B1
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)令和2年8月6日から同年11月24日までに、正規従業員2名、出向社員10名を、雇い入れ又は受け入れたこと(3号該当)。
(2)令和2年10月30日の代表取締役B1の貴組合員A2氏に対する発言(1 号及び3号該当)。
(3)令和2年11月30日付けの貴組合員A1氏に対する出勤停止処分(1号及び3号該当)。
(4)令和3年3月11日、貴組合と協議を行うことなく、従業員らに労働条件変更通知書を配布したこと(3号該当)。
4 組合のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社は、令和2年8月6日から同年11月24日までに、正規従業員2名、出向社員10名を、組合と協議することなく雇い入れ又は受け入れたといえるか。いえるとすれば、それは、支配介入に当たるか。(争点1)

(1)会社は当該期間に正規従業員計2名を雇用し、他企業から出向社員計10名を受け入れたことが認められ、繰り返し人員補充を行っているところ、これに関して、会社が組合と事前に協議したと認めるに足る疎明はない。

(2)組合と会社との間の協定書等についてみると、①先行事件協定書〔注 先行事件(大阪府労委令和元年(不)第17号・同(不)第22号)に係る令和元年12月26日付け和解協定書〕には、平成31年3月25日付け確認書(以下「31.2.25確認書」)及び平成31年3月25日付け確認書(以下「31.3.25確認書」)の確認事項を遵守する旨の条項が含まれていたこと、②31.2.25確認書には、経営状況を開示し労使協議を行うことなどとともに、会社と組合が人員補充について協議する旨の条項が含まれていたこと、③31.3.25確認書には、会社は、業務委託契約・労働者派遣並びにパート・アルバイト契約を結ぶ場合、組合と事前に協議する旨の条項が含まれていたこと、が認められる。そうすると、会社が正規従業員を雇い入れ、出向社員を受け入れる際にも事前協議が必要であるとまではいえないにしても、経営状況について労使が共通認識を持った上で、人員補充について協議を行うことが定められていると判断される。

(3)そこで、団交での会社の対応についてみると、令和2年10月9日団交(以下「10.9団交」)において、組合が人員補充を問題にしているところ、会社が指摘に真摯に対応しようとしていたとは到底解せない。また、組合が提出した同月26日組合抗議文には、会社が行った行為として、組合と協議することなく、社長B1の一存で人員の採用行為をし続けていることが挙げられているところ、同月30日の社長発言(以下「10.30社長発言」)において、B1は、会社側の見解を明らかにするどころか、こういった指摘や抗議を行う組合を非難する態度を取っているというのが相当である。
 これらからすると、会社は、人員補充の必要性等を明らかにして組合と協議を行うという姿勢を欠いたまま、繰り返し人員補充を行ったというべきであり、かかる対応は先行事件協定書等に反したものと判断される。

(4)また、会社は当該期間に雇用された正規従業員2名と受け入れられた出向社員10名をいずれも業務課に配属したことが認められる。令和2年5月15日現在と同年12月1日現在の会社の人員数を比較すると、会社が、この時期、業務課について、急激に増員したことは明らかであるが、この間、業務課の業務が増大したとする疎明はないことなどから、この業務課の急激な増員は、著しく不自然というべきである。

(5)組合活動への影響についてみると、従業員42名中27名が組合員であったところ、従業員50名中23名となったことが認められ、この間に、組合員の割合は過半数を割ったといえる。
 また、少なくとも平成31年2月に会社が賃金額の変更等を申し入れた頃以降、組合と会社は対立基調にあり、組合がスト通告を行うなどしているが、「それなら休まんかい。ストライキでもせんかい」などの令和2年10月9日社長発言(以下「10.9社長発言」)から、社長B1が組合のストやストによる業務への影響を意識していたことは明らかで、人員補充により会社と対立する組合の影響力を削ぐことを企図していたと推認できる。

(6)以上のとおりであるから、会社が正規従業員2名、出向社員10名を雇い入れ又は受け入れたことは、先行事件協定書等を無視ないしは軽視し、また、組合の組織率の低下を招き、これらのことにより組合を弱体化させるものと判断され、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

2 令和2年10月9日及び同月30日の社長B1の書記次長A2に対する発言は、不利益取扱い及び支配介入に該当するか(争点2)

(1)10.9社長発言について

ア 10.9団交におけるやり取りから、10.9社長発言(1の(5)参照)の発端は、翌週月曜日の勤務について常務B2から問われた社長B1が、従業員を早出させて早く退社させるよう指示したことである。
 書記次長A2〔注 会社の総務部長〕はこれに対し、就業規則で決まっている勤務時間を変更するとなれば、組合との協議が必要である旨述べたというべきところ、社長B1は、「就業規則を変えようとするのは、その時、その時、決めるんやないか。」と言い、A2が、「言うても僕も組合員ですから、その組合の立場」と言いかけたところ、B1は、「組合も何も、お前は部長やろ。」、「役職あるねんから、役職で話せえ。」、「お前、どっちや。社員か社員でないんか、どっちや。」などと言ったことなどが認められる。

イ 社長発言は、労働条件の変更等に関して組合と協議する姿勢を欠いていることを窺わせ、また、言葉遣い等において行き過ぎた点はあるものの、書記次長A2とのやり取りとしては、一貫として、従業員の勤務時間の変更について、組合との協議が必要であって応じ難いというA2に対し、社長B1が、自分の指示に部下として即座に従うよう強く求めたというべきもので、A2が組合員であること自体を非難したとまではみることができず、したがって、不利益取扱い及び支配介入に当たるということはできない。

(2)10.30社長発言について

ア 10.30社長発言に至る経緯については、社長室内で、総務部課長や執行委員長A1を含む従業員数名と社長B1との間で、業務資料の作成についてのやり取りがあり、社長B1は、「おいこら、A1。これから労働基準局、行ってこい。」等と発言した後、書記次長A2に対し、「A2、みんなまとめて労基へ行ってこい。」、「文句あるんやろ、お前。文書が来とるやないか。労働組合の。」等と発言したことなどが認められる。
 また、その後のやり取りについては、社長B1が10.26組合抗議文〔令和2年10月26日付けの組合から会社への抗議文〕には書記次長A2から聞いた意見も入っている旨述べたのに対し、A2は、「私も、組合員ですからね。」と返答したところ、社長B1は「それで来るなら、部長、辞めろ。」「組合員ですからっていつもかかってくる。労働者側に入れ。経営者側に来るな。」等と発言したことが認められる。また、B1は、①会社側に立って話すよう言っても、組合員であることを理由に逃げる旨述べ、「部長職、返上してもらわなあかん。」と発言したこと、②数多くの業務違反をしており、このままで済ますことはできず、書記次長A2と部下2名に辞令を正式に出す旨述べ、「はよ、労働組合に行けや。」、「お前ら労働者側の意見、ぶつけてこいや。」等と発言したことが認められる。

イ これらのことから、B1はA2個人に対し、本来、組合に対して反論すべき10.26組合抗議文を一方的に持ち出して、同人が組合員であることを非難し、報復的な降格をほのめかしたというのが相当であって、かかる行為は、A2を精神的に圧迫し、組合活動を阻害する支配介入に当たると判断され、また、A2に対し、組合活動に関連して精神的な不利益を与えるものというのが相当である。したがって、10.30社長発言は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。

3 会社が、令和2年11月30日付けで、執行委員長A1に対する出勤停止処分をしたことは、不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点3)

(1)本件処分に係る懲戒処分通知書には、処分理由として「調査面談においての度重なる遅参と回答が、勤務に誠意が認められず、懲戒処分に値するため。」と記載されていたことが認められる。また、会社は、弁護士による聴取における執行委員長A1の態度を理由に本件処分を行ったというのが相当である。

(2)そこで、当該弁護士による聴取についてみると、A1に当該弁護士の聴取を命じた会社の業務命令書から、会社は、抽象的に可能性が発覚したとするのみで、A1のどのような行為を問題としているのかも明示しないまま、厳正に対応する必要があるとして、聴取を受けさせたというのが相当である。

(3)当該弁護士は会社に対し、令和2年10月30日付け報告書を提出したが、そこには、本件調査は、①会社に雇用されようとする者に対して就業を躊躇させるような行為への関与の有無、②会社の社内情報が第三者に漏洩した件に関する関与の有無について、実施したが、調査に際して、A1の度重なる遅参と真相解明に対する非協力的な態度により、本来の目的を十分に達成できなかった旨などが記載されていたことが認められるので、以下、これらの点について検討する。

ア メッセージ・トークアプリの件については、会社は、執行委員長A1のL氏及びM氏に対する私的な送信内容が、就業を躊躇させるとして会社にとって都合が悪いというのみで、弁護士による聴取を受けさせたというべきである。かかる会社の聴取の実施自体が、基本的人権に対する理解に乏しい相当程度問題のあるものというべきで、これに対して、覚えていない等の回答を繰り返したからといってA1に何らかの問題があるとは到底いえない。

イ 社内情報の第三者への漏洩に関しては、会社は、組合員A3が録音していたデータが外部に漏洩し、これに執行委員長A1が関与していたならば、懲戒事由に当たり得るとしていたというのが相当である。しかし、当該データは、社長B1がA3に対し、あいさつについて指導しているもので、「あほ」、「ばかもん」、「給与欲しいから来とるんやろ。いややったら、やめろ」といった発言も録音されていたことからすると、会社の事業の運営に関する秘密には当たらず、むしろ、パワハラの証拠となり得るものというべきであって、こういったデータが社外に持ち出され、これに関与した可能性があるからといって、会社が従業員に対して聴取を行うこと自体に問題があるというべきである。

ウ 遅参とされる点については、会社や当該弁護士が、3回目の聴取までに、A1に対し、到着時刻に問題があるので改めるよう求めたとする疎明はないことなどから、聴取におけるA1の態度に、懲戒処分に相当するような問題があったとはいえない。

(4)また、本件処分に至る会社の手続は、公正・中立な立場から、当該従業員の行為を明らかにし、透明性・客観性を担保して、その行為が懲戒に当たり得るかを検討したものとは程遠い。事情聴取の当初の事由とは別の理由により本件処分が行われたことからみても、A1に対して懲戒処分を行う前提で懲戒事由となり得る行為の裏付けを後付けで探していたとの疑念を生じさせるものである。

(5)ー方、少なくとも平成31年2月に会社が賃金額の変更等を申し入れた頃以降、組合と会社は対立基調にある中で、組合の代表者に対し、弁護士による聴取を繰り返し命じたり懲戒処分を課せば、執行委員長A1のみならず他の組合員も動揺・委縮し、組合活動が阻害されるというのが相当である。

(6)以上のとおりであるから、会社が、執行委員長A1に対する出勤停止処分をしたことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとともに、もって組合を弱体化させるものと判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。

4 令和3年3月11日、会社は組合との協議を行うことなく、従業員らに労働条件変更通知書を配布したといえるか。いえるとすれば、それは、支配介入に当たるか。(争点4)

(1)会社は、労働条件変更通知書の配布自体は、組合との協議を経たものではないが、令和2年10月末頃から、組合に対し、賃金削減や各手当削減の意向を伝えていた旨主張する。
 しかしながら、経緯をみるに、本件労働条件変更通知書の交付時までの間に、会社は組合に対し、せいぜい給与規定の改正を検討している旨述べたにとどまり、改定案の詳細を明らかにして、これに基づき協議を行っていたということはできない。

(2)組合と会社との間の協定書や31.2.25確認書等(注 上記1の(2)参照)から、経営状況について労使が共通認識を持ち、賃金等について事前協議を行うことを定めていたことは明らかで、会社が組合との協議を経ずに本件労働条件変更通知書を配布したことは、先行事件協定書等に違反するというべきである。

(3)本件の賃金の減額の程度は、本件審査手続で提出された各組合員の本件労働条件変更通知書によると、基本給は一律1割減額され、8種類の手当のうち皆勤手当以外について不支給とされ、合計額は概ね16%から30%程度減額になることが認められ、かなり大幅なものというべきである。さらに、従前から組合は協議を経ずに給与改定を行うべきではないと明言していたことを考慮すると、組合との協議を経ず本件労働条件変更通知書を配布した会社の行為は、一層悪質である。

(4)また、(会社が説明会の欠席者用に作成した)令和3年3月17日付け文書には、①経営状況、監督官庁からの改善措置命令、働き方改革への対応等の観点から、就業規則、給与規定及び退職金規程の変更が不可避である、②基本給についてもカットしなければ会社の立て直しができない旨の記載があることは認められるが、組合は、これに関し、経営上の理由があることは事前協議をしないことを正当化しないとした上で、そもそも、経営上の理由から賃金カットをする必要性は全くなかった旨主張する。
 そこで、会社の経営状況についてみると、令和2年度には約1億4,000万円の黒字であることなどが認められる。一方、会社が組合に対し、本件労働条件変更通知書による賃金変更がどの程度、経営状況に影響するかを会計上の数値を示すなどして説明したと認めるに足る疎明はない。
 これらのことから、会社は、経営状況や監督官庁からの改善措置命令等を抽象的に挙げるのみで、令和3年5月の段階で、大幅な賃金削減が必要であるとする客観的な根拠を本件労働条件変更通知書の配布後においても明らかにしていないというべきである。

(5)以上のとおりであるから、会社は、組合との協議を行うことなく、従業員らに本件労働条件変更通知書を配布し、これにより、大幅な賃金削減を決定事項として従業員らに通知したものというのが相当であり、かかる会社の行為は、先行事件協定書等を無視ないしは軽視し、組合を弱体化させるものと判断され、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 
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