労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第39号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年8月26日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、大阪府労働委員会が先行事件に関して発出した救済命令に基づく施設長配置等を議題とする団体交渉に、責任ある立場の者を出席させないなど、誠実に対応しないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、労働組合法第7条第2項に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(i)組合との間の介護施設事務長会議へのC施設の管理者の出席についてを議題とする団体交渉に係る誠実応諾、(ⅱ)文書手交を命じた。 
命令主文  1 法人は、組合との間の、介護施設事務長会議へのC施設の管理者の出席についてを議題とする団体交渉に、誠実に応じなければならない。
2 法人は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A様
Y法人      
理事長 B
 介護施設事務長会議へのC施設の管理者の出席についてを議題とする団体交渉における当法人の対応は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨   令和元年9月27日、同年11月19日、同年12月25日、同2年1月27日、同年3月6日、同年6月26日及び同年7月30日に開催された団交(以下「本件団交」)における法人の対応は、不誠実団交に当たるか(争点)について、以下判断する。

1 先行事件〔大阪府労働委員会平成29年(不)第30号・30年(不)第5号〕に係る令和元年9月17日付け命令(以下「先行事件命令」)は、法人に対し、①C施設への施設長の配置、②介護事業部の代表者を構成員とする会議のC施設の管理者の出席、③病院勤務の介護職の資格手当、④平成29年度冬の一時金の査定、の各議題の団交に、法人の人事・労務施策に関する十分な知識や情報を持ち、実質的な交渉権を有する者を出席させ、必要に応じて資料を提示するなどして、誠実に団交に応じること等を命じるものであったところ、7回にわたる本件団交は、先行事件命令を受けて開催されたものといえる。
 そうすると、法人は、本件団交のうち、本件先行事件命令と関連しているものについては、同命令の趣旨を踏まえた対応をすべきであるといえる。
 そして、組合は、①C施設への施設長の配置、②会議への出席に関して、(ⅰ)総務会議へのC施設の科長の出席、(ⅱ)事務長会議へのC施設の科長の出席、(ⅲ)事務長会議の議事録の交付、③平成29年度冬の一時金、④病院勤務の介護職の資格手当、の各議題についての法人の対応及び本件団交に理事が出席しないことが不誠実団交に当たる旨主張する。
 そこで、まず、それぞれの議題について、(ⅰ)本件先行事件命令と関連しているか否か、(ⅱ)(ⅰ)を踏まえて、本件団交において法人はどのような対応をすべきか、(ⅲ)(ⅱ)に照らして、本件団交における法人の対応がどうであったか、について検討し、その後、本件団交に理事が出席しないことが不誠実団交に当たるかについて検討する。

2 各議題における法人の対応について

(1)C施設への施設長の配置

 本件先行事件命令との関連は明らかであるところ、命令書の主文及び争点に対する判断に記載されている内容からその趣旨をみるに、同命令は、C施設への施設長配置について、配置理由や職務内容等を明らかにするよう求めているといえる。
 これらを踏まえ、本件団交等における法人の対応についてみるに、法人は、令和2年1月27日団交等において、これらについて一定説明しているといえ、また、組合からの質問に対しても、自らの主張の根拠について回答しているのであるから、法人の対応が、不誠実団交に当たるとはいえない。

(2)会議への出席について

ア 総務会議へのC施設の科長の出席

 法人は、総務会議は、命令主文で誠実に団交すべき対象として挙げられている「介護事業部の代表者を構成員とする会議」ではない旨主張するところ、命令書の判断中の記載などからすると、総務会議へのC施設の科長の出席問題が先行事件命令と関連性がないとはいえない。
 そして、先行事件命令の趣旨からすると、本件団交において、法人は、総務会議の目的等を明らかにして、総務会議への出席問題について誠意をもって協議すべきといえるところ、法人は、総務会議の目的及びその構成員を明らかにした上で、出席させない理由について一定の説明をしているのであるから、法人の対応が、不誠実団交に当たるとはいえない。

イ 事務長会議へのC施設の科長の出席

 これが本件先行事件命令の対象であることについて法人は争っていない。
 同命令の趣旨からすると、本件団交において、法人は、事務長会議の目的等を明らかにして、出席問題について誠意をもって協議すべきといえるところ、事務長会議についての法人の説明は不十分であったといわざるを得ず、法人は、C施設の科長を出席させない理由を十分説明しないまま出席を拒んでいるのであるから、本件団交における法人の対応は、不誠実団交に当たるといわざるを得ない。

ウ 事務長会議の議事録の交付

 先行事件命令は、事務長会議の議事録の交付まで命じたものではなく、その交付は同命令と関連性があるとはいえない。
 もっとも、法人は、議事録を交付しない理由を説明する理由がなくなるわけではなく、組合の追及の程度に応じて、その理由を説明すべきであるといえるところ、法人は、交付しない理由を一定説明し、また、組合からの質問に対しても回答しているのであるから、事務長会議の議事録の交付についての本件団交での法人の対応が、不誠実団交に当たるとはいえない。

(3)平成29年度冬の一時金について

 本件先行事件命令との関連は明らかであるところ、平成29年度冬の一時金について、組合から交渉を打ち切ったといわざるを得ず、また、法人は、本件先行事件命令の趣旨に沿った対応を取る姿勢を見せているのであるから、同一時金についての本件団交での法人の対応が、不誠実団交に当たるとはいえない。

(4)病院勤務の介護職の資格手当について

ア 本件先行事件命令の主文において、病院勤務の介護職の資格手当について誠実に団交に応じるよう命じている一方、平成31年4月の病院勤務の介護職の資格手当の改正により、組合が要求していた格差是正がなされたことは組合も認めている。
 この点について、組合は、本件先行事件命令を法人は受け入れたのであるから、なぜ法人側交渉員が事実と違う説明をしていたのか、法人側交渉員も求めた改善をなぜ〔法人が〕拒否したのか、拒否した理事が組合に対して誠実に説明する必要がある旨主張する。しかしながら、本件先行事件命令は、組合の要求に応じられない場合は、団交において、その理由を十分に説明するよう命じたものであって、組合の要求に対し、法人内部において、団交に当たって、どのような検討や協議が行われ回答に至ったのかその経緯まで説明するよう命じたものではない。
 もっとも、病院勤務の介護職の資格手当は、組合員の労働条件に関するものであり、義務的団交事項に当たること、本件先行事件命令において、病院勤務の介護職の資格手当についての法人の対応が不誠実団交に当たると判断されたことに鑑みると、法人は、組合が資格手当の是正を要求していた当時、組合からの要求に応じられないとした理由や、資格手当を改正した経緯については説明すべきであるといえるところ、法人は、令和元年12月25日団交において、組合からの要求に応じられないとした理由や、資格手当を改正した経緯について一定説明したといえることから、法人の対応が、不誠実団交に当たるとはいえない。

3 さらに、本件団交に理事が出席しないことについて検討する。
 使用者が負う誠実交渉義務は、労働組合の要求に対して合意や譲歩を行う義務ではなく、譲歩ができない場合であっても、交渉事項に関する労働組合の要求に対応して、使用者の主張及びその論拠を示し、見解の対立の解消を目指す義務であると解される。上記義務によれば、交渉担当者が、労働組合の要求に対応して、使用者側の見解の根拠を具体的に示すなどする権限を有していれば足りるから、団交における使用者側の出席者は、必ずしも使用者の代表者である必要はなく、交渉担当者が実質的な交渉権限を有していれば、最終的な決定をし、労働協約を妥結する権限を有している必要まではないと解される。
 また、本件先行事件命令書の主文や救済方法に係る記載から、本件先行事件命令は、理事の出席を命じていないことは明らかである。
 そうすると、本件団交に理事が出席しないことのみをもって、不誠実団交に当たるとはいえない。
 また、事務長会議へのC施設の科長の出席を議題とする団交における法人の対応が不誠実団交に当たると判断されるところ(前記2の(2)のイ)、法人側交渉員は、事務長会議の目的や内容については説明しているといえ、法人が交渉員に対し、協議に必要な情報等を十分に与えていなかったとまではいえない。
 したがって、本件団交に理事が出席しなかったことをもって、不誠実団交に当たるとはいえない。

4 以上のとおりであるから、本件団交の各議題のうち、事務長会議へのC施設の科長の出席についての法人の対応は、不誠実団交に当たり、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 
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