労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第12号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年3月25日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①組合が申し入れた非常勤講師の雇用問題を議題とする団体交渉における法人の対応、②法人が組合員1名の雇用を継続しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合が令和元年6月17日付け及び同年10月25日付けで申し入れた非常勤講師の定年問題を議題とする団交における法人の対応は、不誠実団交及び組合に対する支配介入に当たるか(争点1)

(1)検討の引き伸ばし及び時機を失した回答との組合主張について
 組合が平成30年8月23日付け団交申入れによってA組合員を含めた組合員の定年問題について団交を申し入れてから、法人が令和2年1月18日労務課長メールでA組合員の次年度の再雇用はできないと回答にするに至るまでの経緯からすると、組合が、Aの令和2年度の雇用継続について法人が検討していると認識したとしても無理からぬところである。また、法人の回答の時期が、非常勤講師の雇用継続要求に対する回答の時期として適切であったのかどうかについては、疑問の残るところである。
 しかしながら、法人は、令和元年6月17日付け団交申入れ後、定年問題について検討する旨の回答を団交において繰り返し、政府の方針を見据えて定年延長について検討するとして、検討結果を組合に提示する時期については言及していないことが認められる。一方、組合側も、検討結果の回答期限を明示するよう法人に求めてはいなかったとみられる。
 そして、法人が、第1回団交において任用制限年齢を廃止する考えは現在のところはない旨回答し、第2回団交でも同様の回答をしていることも考え合わせると、直ちに定年延長をすることは考えていないという姿勢を示していたということができる。
 さらに、組合がA組合員の雇用継続について具体的な提案を行ったのは、第2回団交での、就業規程第6条第2項による、又は就業規程とは別に労働契約を結ぶ方法による雇用継続の提案が初めてである。新たな提案については、労務課長と組合顧問との間で電子メールでのやり取りが行われ、その中で労務課長が受入れは難しいと伝え、その後の令和2年1月8日の事務折衝で、法人が応じられない旨回答しているのであって、法人が回答を意図的に引き伸ばしたとまでみることはできない。

(2)団交権限を有しないか回答能力を有しない者の団交出席との組合主張について
 法人は、非常勤講師の採用に当たって年齢制限を設けることは雇用対策法に違反するとの組合の指摘に対しては論拠を示して自らの見解を述べるなどしているのであって、法人の団交での主張内容が組合の見解と異なるものであったとしても、そのことをもって直ちに、団交権限又は回答能力を有しない者が法人の団交担当者になっているとまではいえない。

(3)回答のすり替え及び虚偽回答との組合主張について
ア 組合は、法人が、A組合員の定年後の再雇用を組合が求めたのに対して、定年で退職するから再雇用しないと回答のすり替えを行った旨主張する。
 しかしながら、法人は、令和2年1月8日事務折衝において、就業規程第6条第2項を定年退職した者を必ず非常勤講師として採用することを定めた規定であると組合が主張していると理解した上で、同項について、組合の立場とは異なる自らの立場を前提にこれに反論したものとみるべきであって、回答のすり替えを行ったとの組合主張は、採用できない。

イ 組合は、就業規程第6条第2項に定めがないにもかかわらず、法人が「学部・学校等の運営上特に必要と認めたときには再雇用することがあると定めており」と説明したことが、事実に反し、虚偽回答である旨主張する。
 しかしながら、同項の「定年退職した者が非常勤講師として採用されるときは、その都度決めるが、概ね2年以内とする」との規定についての自らの考え方を示した法人の説明内容が不合理であるとはいえず、法人のこの対応が虚偽回答したものであるとはいえない。

ウ 次に、初めての事例で前例などあるはずがないにもかかわらず、前例がないことを理由とした法人の対応が虚偽回答をしたものであるとの組合の主張についてみる。
 法人において、無期転換者で定年となり再雇用を要求した非常勤講師はA組合員が最初であったのであるから、法人の回答に不正確な部分があったことは、否定できない。しかしながら、このやり取りは電子メールでのやり取りにすぎず、その後に団交が予定されたわけでもないのであるから、そもそも、法人の上記対応が不誠実団体交渉に当たるとの組合の主張は採用できない。
 なお、令和2年2月8日労務課長メールの回答内容をみても、A組合員を再雇用しない理由として、語学教育については65歳以下の非常勤講師候補が十分に存在しており再雇用の必要がないことが記載されていたことが認められるのであって、法人は、前例がないことだけをAを再雇用しない理由として挙げているわけではないから、法人の上記回答が、虚偽回答に当たるとまではいえない。

(4)合意を目指さない団交姿勢との組合主張について
 確かに、法人は、第2回団交において組合が行った労働協約締結によるA組合員の雇用継続という提案について、令和2年1月8日事務折衝では、応じられない旨回答するだけでその理由を述べてはいない。しかし、その後の1月18日労務課長メールにおいて、組合の提案に応じられないと判断した理由について一定の説明を行っているのであって、こうした法人の対応が検討結果を示すことなく自らの主張に固執するものとまではいえない。

(5)以上のことからすると、法人の対応は不誠実団交に当たるとはいえず、また、組合員の組合への信頼を減少させるものとして組合に対する支配介入に当たるともいえないから、労働組合法第7条第2号及び第3号のいずれの不当労働行為にも該当せず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

2 法人が、令和2年度にA組合員の雇用を継続しなかったことは、組合活動をしたことを理由とする不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるか(争点2)

(1)法人がA組合員を令和2年度に雇用継続しないことを決定した時期について
 法人がA組合員の雇用を継続しないことを最終的に決定したのは、令和2年1月中旬頃であったとみることができる。
 しかしながら、法人は遅くとも令和元年6月頃までには、Aの雇用を継続しない方針を内部で共有していたものとみることができ、そうすると、法人は令和元年6月17日付け団交申入れの時点において、Aの雇用を継続しない方針を既に検討していたものとみることができる。

(2)法人が令和2年度にA組合員の雇用を継続しなかった理由について
 就業規程第6条第2項について、法人の説明内容が不合理であるとはいえないことは前記1(3)イ判断のとおりであるから、定年退職者全員を非常勤講師として再雇用することを規定するものではないとの法人の主張が不合理とはいえない。
 そして、令和元年時点の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」は70歳までの就業確保の努力義務を定めていなかったのであるから、定年退職後の再雇用等による雇用継続を例外的措置とすることも不合理とはいえない。
 また、担当授業を代替できる教員は多数存在しており例外的に定年退職後の再雇用を行う事情は存在しなかったとの理由が、不合理であるとはいえない。

(3)令和2年度のA組合員の雇用に係るやり取りについて
 経済学部が令和元年12月16日メールで同年度のスケジュールが確定したとして同年度の担当授業を通知し、A組合員もこれに了解の意思表示をしていることなどから、組合及びAがこれを単なる打診ではなく決定事項の通知と理解し、同年度の雇用継続がなされると期待するのは無理からぬところである。
 なお、この点につき、組合は、A組合員が受諾したことをもって、法人との間に労働契約が成立しており、法人はこの労働契約を反故にしてまでAを雇止め解雇して再雇用しなかった旨主張するが、Aと経済学部とのやり取りからは、労働契約が成立したかどうかは明らかではないのであって、この点に係る組合の主張は採用できない。

(4)組合及びA組合員と法人との間の労使関係について
 令和元年6月17日付け団交申入れまでの状況についてみるに、この間、組合と法人との間に、団交により問題解決を図る通常の労使関係以上に特段緊張した関係があったとは認められない。そして、A組合員は、支部の中心的な役割を果たしていたことは認められるものの、団交において活発な発言を行っていたと認めるに足る事実の疎明もなく、法人がAの組合活動を嫌悪していたとみることもできない。
 次に、同団交申入れ後の状況についてみるに、①非常勤講師の任用制限年齢及び定年年齢の引上げ並びに組合員の令和2年度の雇用継続をめぐって、組合と法人との間に見解の対立があり、法人が組合の要求に応じなかったこと、②A組合員が、第1回団交及び第2回団交に参加していたこと、は認められる。
 しかしながら、法人が、同団交申入れの時点で既にA組合員の雇用を継続しない方針を検討していたとみられることは、前記(1)判断のとおりであるから、法人が、同団交申入れ以降の労使の見解の対立やAの団交での言動を理由に、Aの雇用を継続しないことを決定したものとみることはできない。
 これらのことからすると、法人がA組合員を令和2年度に雇用継続しないことを決定したのは、Aの組合活動を理由としたものであったとはいえない。

(5)以上のとおり、法人が、令和2年度に組合員Aの雇用を継続しなかったことは、その理由が不合理であるとはいえないことに加え、法人がAを令和2年度に雇用継続しないことを決定したのがAの組合活動を理由としたものであったとはいえないのであるから、組合活動をしたことを理由とする不利益取扱いであるとまではいえず、労働組合法第7条第1号の不当労働行為には該当しない。
 また、組合活動を熱心に行う組合員を法人から排除することで組合を弱体化させるものとして組合に対する支配介入であるともいえないから、同条第3号の不当労働行為にも該当しない。 
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