労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  兵庫県労委令和2年(不)第12号
不当労働行為審査事件 
申立人  組合 
被申立人  会社 
命令年月日  令和4年9月6日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合の組合員2名に対して、令和元年年末一時金及び令和2年夏季一時金(以下「本件一時金」)を、非組合員の運転手に比べて低額となる2万円支給としたこと、②これら一時金を議題として実施した団体交渉において、一時金の支給基準を明らかにしなかったこと、決算書の提示を拒否したこと及び妥結することなく一時金を支給したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 兵庫県労働委員会は、②について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、組合が申し入れた一時金に係る団体交渉において、会社の業績が分かる損益計算書等の書類を示し、また一時金の支給基準及び査定根拠を具体的に説明するなどして誠実に応じなければならないことを命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が令和2年6月5日及び同年8月3日に申し入れた本件一時金に係る団体交渉において、会社の業績が分かる損益計算書等の書類を示し、また一時金の支給基準及び査定根拠を具体的に説明するなどして誠実に応じなければならない。
2 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件一時金について、組合員A1・A2両名を非組合員に比べて低額となる2万円支給としたことは、組合員に対する不利益取扱い及び組合に対する支配介入に該当するか。(争点1)

(1)本件一時金支給に関する不利益性の有無に関しては、組合組合員と非組合員との間の一時金支給額そのものの比較のみならず、①会社のいう支給基準の存否、②基準額を決定する一次的考慮要素〔売上高、ETC利用料金〕が恣意的でないか、③基準額を増減する二次的考慮要素〔出勤日数、総労働時間、事故の有無、勤務態度〕の合理性を順次検討する必要がある。

(2)まず、〔売上高とETC利用料金の〕相関表そのものの提示や、一時金の計算過程等を明らかにすることがなかったとしても、かかる事実のみをもって支給基準の存在を否定することはできず、支給基準に関する会社の主張は一応の具体性を有していることなどからすれば、会社が主張するとおりの支給基準が存在すると認めるのが相当である。

(3)そして、組合員A1らへの支給額と非組合員への支給額に明らかに差が生じたのは、①A1らが、その意思により出勤日数を減少させた結果、非組合員と比較して売上高が低額となったことに加え、②令和元年頃以降の会社からのETC利用の抑制に関する業務指示に従わなかった結果、非組合員と比較して1日当たり1,000円程度高いETC利用料金を会社に負担させ、③出勤日数、総労働時間、勤務態度の面で会社に対する貢献度が高いと認められる事情もなければ、事故を起こして会社に損害を与えたという事情もなかったためにすぎない。
 支給額そのものを見れば、A1らへの支給額は、非組合員への支給額に比較し、明らかに低額であるといえるが、会社における一時金は任意的恩恵的給付の面があって、支給額の算定にあたっては会社に裁量が認められるところ、会社には一応の支給基準が存在し、その項目が恣意的な業務指示の結果導かれたものであるとの事情は認められず、支給基準の相関表により導かれた一時金の基準額を増減する二次的考慮要素にも不合理なものはない。
 よって、本件一時金支給に関し、不利益性は認められない。

(4)反組合的意図の有無についても念のため検討するに、①組合員と同じ条件であるのに一時金の面で優遇されている非組合員がいるという事実は認められないこと、②会社は、貢献度が低ければ、非組合員であっても、一時金を低額としていることも推認されることなどから、会社が、本件一時金支給において、組合員の一時金を非組合員と比べ低額としたことが反組合的意図に基づくものであるとは認められない。
 したがって、これらは、組合の組合員であるが故をもってなされた不利益取扱いであるとはいえず、労組法第7条第1号に該当しない。
 また、組合の存在を嫌悪し、その弱体化を企図して行われたものとも認められないので、労組法第7条第3号にも該当しない。

2 本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に該当するか。(争点2)

(1)団体交渉の制度が設けられた趣旨及び目的に照らせば、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求及び主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示したりするなどの誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があり、使用者がこのような誠実交渉義務に違反した場合にも、労組法第7条第2号が禁止する団体交渉の拒否に当たるものと解すべきである。
 そこで、本件一時金を議題として令和2年7月8日及び同年9月10日に実施した団体交渉(以下「本件団体交渉」)における会社の対応について検討する。

(2)支給基準の提示及び説明
 本件団体交渉の経緯に鑑みれば、会社は、組合に対し、本件一時金の算定に用いた相関表や計算過程が、記録・保存されていたならばその記録に基づき具体的に説明すべきであり、仮に、会社がそれらを記録・保存していなかったならば、可能な限りその内容を具体的に説明すべきであったというべきである。
 会社の対応は組合との合意形成を図ろうとする姿勢を欠き、円滑な交渉の進展を損なう不誠実なものと評価せざるを得ない。

(3)決算書の提示
 会社は、会社業績を勘案して、相関表の階級ごとの基準額を決定しており、業績によっては一時金を支給しないこともありえたことからすると、会社の業績は一時金の支給原資に影響していると認められ、会社の業績が分かる資料を何ら示そうとしなかった会社の対応に理由があったとはいえない。
 会社は、業績が分かる損益計算書等の書類を示して説明を行う義務があったが果たしておらず、不誠実な対応であったというべきである。

(4)本件一時金の支給
 未だ交渉途中であって合意に達する余地があるにもかかわらず、合意に向けた努力を放棄して、一方的に支給をした場合には、組合を無視ないし軽視した、団体交渉の拒否ということになるところ、会社は、交渉妥結に向けた努力を十分に果たしていたとはいい難い。 さらに、会社は、支給後でも協議を継続する意思があったと主張するが、例年、一時金については妥結する前に支給し、その後の妥結もしていないという事実を繰り返していることから、会社の行為は、既成事実を先行させることにより、合意形成を実質的に制約し、形骸化するものといわざるを得ず、妥結前の支給を正当化する理由にはならない。
 よって、本件一時金の交渉が継続しているにもかかわらず、会社が一方的に一時金を支給したことは、組合との団体交渉を軽視したものといわざるを得ず、不誠実な対応であったと判断する。

(5)不当労働行為の成否
 以上のとおり、本件団体交渉における会社の対応は、団体交渉に真摯に対応し組合の理解を求めるものとはいえず、不誠実なものであり、労組法第7条第2号に該当する。 
掲載文献   

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