労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和2年(不)第21号 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年11月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が組合員Aの離職等に係る労働問題について団体交渉を申し入れたところ、会社が、①団体交渉に応じなかったこと、②組合が団体交渉に係る議題に係る文書回答を求めたにもかかわらず、回答をしなかったこと、③離職後の賃金相当額をAに一方的に支払うなど直接交渉を行ったこと、が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、③について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合が組合員の雇用に関する交渉を求めているにもかかわらず、組合への連絡や組合との交渉を一切することなく、当該組合員に対し、一方的に賃金相当額を支給するなどして組合の運営に対する支配介入を行ってはならないこと、(ⅱ)文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が組合員の雇用に関する交渉を求めているにもかかわらず、組
 合への連絡や組合との交渉を一切することなく、当該組合員に対し、一方的に
 賃金相当額を支給するなどして組合の運営に対する支配介入を行ってはならな
 い。
2 会社は、本命令書受領後、速やかに下記の文書を組合に交付しなければな
 らない。
  当社が、貴組合が交渉を求めていたにもかかわらず、貴組合のA2組合員に
 対し、貴組合への連絡や貴組合との交渉をすることなく賃金相当額を支給した
 ことは、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると神奈川県労
 働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
  
令和 年 月 日
 X組合
  執行委員長 A1 殿
Y会社           
代表取締役 B ㊞
3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合の令和2年8月13日付け団体交渉申入れに対する会社の対応は、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為に当たるか否か(争点1)

(1)団体交渉申入れに対する会社の対応

 会社は、2.9.2文書において、組合が指定した日に団体交渉に応じられない理由を「コロナウイルスの影響」と伝えており、組合が2.8.13団交申入書により団体交渉を申し入れた時点では、愛知県が新型コロナウイルスの感染状況を踏まえて首都圏への移動自粛を要請していたことからすれば、会社は団体交渉の時期変更を申し出ていると解され、直ちに団体交渉に応じられないことについて一定の理由はある。
 また、組合は、会社の2.9.2文書を受けた後、団体交渉の開催時期についての問合せ、新型コロナウィルスの感染症対策をした上での団体交渉の開催、オンラインでの団体交渉の提案等、団体交渉開催に向けた連絡を会社にした事実は認められない。
 さらに、会社は、団体交渉の開催については改めて連絡する旨を伝えており、実際に本件申立て後に団体交渉を申し入れていることから、団体交渉に応じる姿勢を示している。
 以上によれば、会社が正当な理由なく団体交渉を拒否していたとはいえない。

(2)団体交渉議題への文書回答に係る会社の対応

 組合は、会社に対し、2.8.13団交申入書で、同申入書に対する文書回答を求めている。
 確かに、団体交渉前に文書回答することで、事実関係等が明らかになり、団体交渉の円滑な進行に資する可能性はあるが、組合と会社との間で事前の文書回答に関する取り決めがあった事実は認められないことから、会社が組合の要求どおりに文書回答すべき義務を負う根拠はない。
 以上によれば、会社の対応は不誠実だったとはいえず、労組法第7条第2項に該当する不当労働行為に当たらない。

2 会社が、A組合員に対し、令和元年12月から2年4月までの賃金相当額を支払ったことは、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為に当たるか否か(争点2)

 会社は、Aに対して、令和2年8月26日に、同人離職後の元年12月から2年4月までの賃金相当額を支払っている。この支払について、会社は、同組合員が退職について正しく理解していない可能性があるのであれば、契約期間満了日である2年4月21日までの賃金相当額を支払っておくことが望ましいと考えたためである旨、主張するが、①Aが離職してから8か月以上経過した後に会社が支払った契機について、C事業所のB総務経理課次長が曖昧な回答に終始していること、②団交申入書が会社に到達してから9日後という近接した時期に支払われていることからすれば、会社は組合からの団体交渉申入れを契機に賃金相当額を支払ったことが推認される。
 雇用契約期間満了前に離職した労働者に対し、残りの契約期間の賃金相当額を支払うこと自体は、一般的に労働者にとって不利益なものとはいえない。しかし、組合はAの離職という雇用に関する問題等を議題とする団体交渉を申し入れていたのであるから、残りの契約期間の賃金支払はまさに団体交渉で組合と協議すべきものであったといえる。
 また、会社は団交申入書を受け取った後、Aに対し賃金相当額を支払うまで、組合に対して何ら連絡をしたり回答をしたりしておらず、また、事後に伝えたり説明した事実は認められない。こうした会社の対応から、会社には、Aの雇用問題を解決するに当たり、組合の関与を忌避する意図があったことが推認される。
 さらに、会社が過去に、契約期間満了前に離職した従業員に対し、残りの契約期間の賃金相当額を支払っていた事実は認められない。
 以上によれば、会社が、組合に対して何ら説明をすることなく一方的にAの残りの契約期間の賃金相当額を支払ったことは、Aの離職問題が組合の関与の下に解決を図るべき問題であることを否定し、同人への一方的な金銭支払により離職問題を解決しようとしたものにほかならない。
 したがって、会社が、Aに対し、令和元年12月から令和2年4月までの賃金相当額を支払ったことは、組合を無視ないし軽視した行為であり、労組法第7条第3号の支配介入に当たる。 
掲載文献   

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